【R18】付き合って二百年、初めての中イき

Cleyera

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 私は攻撃魔法が得意ではない。
 使いこなせないというべきか。

 弓や魔法弓と同じように空間の見当識がおかしく、発動位置と範囲が自己認識とずれる。
 つまり、近くにいる他人を攻撃魔法に巻き込む。

 見当識の異常が生まれつきで改善不可能と判明した際、里で魔法を教えてくれていた爺様に、初歩の攻撃魔法以上は教えられないと言われた。
 他人を犠牲にしてでも自分だけが助からないといけない状況用に、広範囲殲滅系統の魔法だけはしっかりと覚えさせられたが。

 それ以降は苦手意識を持ってしまい、練習もしていない。
 威力制御も、発動範囲指定もゆるゆるがばがば。

 防御結界を幾重にもかけた自分を起点に、周辺をまとめて吹っ飛ばして逃げる。
 それが、私が使える唯一の攻撃魔法の使い方だ。

 使いたくない。
 でも、イラッとさせるなら使っちゃうぞ、このやろう。


 苛立ちを隠さないまま遮蔽結界に足を向けた私は、思わず足を止めた。

「えるふのおかたー」
「……コボルト?」

 遮蔽結界を外側から、てしてし叩いて、かりかり引っ掻いていたのは、妖精族の一種、コボルトたちだった。

 天幕を囲うように配置している魔法道具の中に妖精除け、はない。
 なるほど、忌避感を感じていないから来れてしまうのか。

 ふんわりした毛に覆われた長い鼻先をひくひくと動かして、コボルトはぴょこんと飛び上がった。

「はじめまして、えるふのおかた」
「初めまして」

 エルフの里にいた頃、母が近隣に住むコボルトやゴブリンに燻製肉を卸していたので、多少は知っている。
 コボルトは、森に住む妖精ではなかったはずだ。

「もりにごようですか?」

 問いかけてくる口調から敵意や警戒は伺えない。

 コボルトの中には邪妖精と呼ばれる種もいるけれど、それはエルフも同じ。
 目の前にいる者たちは、袖なしの上着を着た二足歩行の獣のような姿をしていた。
 手足も獣に近く、武器や工具などを提げている様子はない。

 姿を見る限り山付きではなく、家付きの種だと思う。
 そしてここは森だ。
 鬱蒼と繁った、昼も暗い森だ。
 彼らの居住しやすい環境とは思えない。

「森に用があって来た、君たちはここに住んでいるのか?」
「さとはあっち、ここはさんぽみち」

 先頭にいたコボルトがあっち、と指差したのは、滅んだベルストーナの街の方向だった。

「散歩道か」

 街は滅んでも建物は残る。
 廃墟になっていても、何者かの存在を感じたのは、コボルトたちが暮らしているかららしい。

 なんらかの理由で街が燃えて、人種族が撤退した廃墟に住み着いたのかもしれない。
 少なくとも目の前のコボルトたちから、殺伐とした雰囲気は感じないので、穏やかに暮らしているのだろうと予測はできる。

「私たちが森にいると迷惑か?」
「ううん、なにしにきたのかなーってみにきた」

 結界越しの会話であっても、全く気にする様子もない。
 森に結界があると気がついて覗きに来ただけ、というように。

「二百年前に森に残した私物があるか、見に来た」

 探す手間が省けるか。
 そう思いながら言ってみると、コボルトたちはわふわふと会話をして、ぴっ!、と一匹が手を上げた。

「それしってるー!」
「案内を頼んでも良いだろうか、報酬はこれで」

 ブレーには悪いけれど、加工したばかりの肉を収納から取り出すと、コボルトたちが「わふうっ!!」と興奮して尻尾を振った。

「少し待っていてくれ、連れに書き置きをしたい」
「はーい」

 まるで旧知の仲であるように、コボルトたちは返事をした。
 これまでに多く知っているわけではないが、コボルトたちは幼いようでありながら、行動に嘘がない。
 人種族の裏表に疲れていた心が、すっきり爽やかに洗い流されていくようだ。



 眠っているブレーに書き置きをして、肉を少しもらう事も書いておいた。
 遮蔽結界は残して、コボルトたちと森の中に踏み入る。

「あのねーきのとこにね、あるよ」
「教えてくれてありがとう」
「どういたしましてっ」

 二足歩行の獣のような姿をしているコボルトたちは、狭い獣道をご機嫌な様子で進んでいく。
 文字通り散歩だ。

 私は森で生まれ育ったエルフなので、狭い獣道に困ったりはしない。

「とうちゃーく」
「どうもありがとう、これは約束の報酬だ」
「おにく!」

 加工したのはブレーだけれど、私も一欠片味見をさせてもらったので、美味しい事は保証する。

 わちゃわちゃと集まって、肉を抱えたコボルトたちは、「さんぽのつづきだー」とあっという間にいなくなった。
 彼らにとって、これは本当にただの道案内だったのだろう。
 これくらいの付き合い方が楽で良い。

「さて、と」

 見上げた先には、巨大な枯れ木の洞だった崩れた塊だ。
 コボルトが私の私物があると断言した理由は、近くまで来れば分かった。

 木の洞の周辺だけ、木が若い。
 魔法が残っていた期間、周辺の植物の生長が阻害されていたのだろう。

 幸運な出会いに感謝を。

 崩れた木屑や枯れ葉、腐葉土状になった塊を魔法で掘り起こしながら、なにか使える物が残っているといいなーと発掘するのはなかなか楽しかった。



   ◆



「おかえり」
「ただいま」

 ぐつぐつと鍋を煮立てていたブレーが、私の姿を認めて顔を緩めた。

「コボルトか、わしも会ってみたかったな」
「鉱山に住む種がいるのは知ってる」
「あいつら、いたずらはするが可愛いからのう」

 やはり妖精族ということか。
 いたずら、とはなにをするのか。

「肉をコボルトたちにあげてしまったから、新しく狩ってきた」

 まるまるとした鳥を三羽。
 なにかの群れには近付いていない。

「羽が欲しいから、生かしたまま持ってきた」

 昏睡と鎮静をかけてあるのでぐったりしているけれど、ブレーに捌く所を見せたくないので、離れて解体するつもりだ。

「……いや、わしも手伝わせてくれ」
「いいけど」

 覚悟を決めたような顔をするブレーに、無理しなくて良いよと告げた。


 血抜き、茹でて羽をむしって、その他諸々。
 無事に肉の形になった鳥を、顔色の悪いブレーが塩漬け、脂漬け、燻製にした。

 部位によって適した調理法があるのは知っていたけれど、鮮やかな手並みに感心するばかりだ。

「いつもありがとな」
「こちらこそ、いつもありがとう」

 私は好きではなくても必要な事はできる。
 これまではブレーが甘やかしてくれていたから、やらずに済んでいただけ。

「そういえば、荷物は残っとったか?」

 鳥を保存食に加工する初経験で疲れたのか、寝台の上で横になったブレーが聞いてきた。

「調薬の道具は回収できた」

 木の洞の中で、上から崩れて潰されていたせいで、服や木を材料にしていたものは原型をとどめていなかった。

 けれど、ベルストーナで手に入れた調薬用の乳鉢や薬研の本体、石材を使っていた幾つかは割れずに残っていた。
 磨けば再使用できそうなので回収してきた。

「わしは、エレンが薬を作れる事を知らんかった」
「言ってないからな」

 知らせていないのに知っていたら、怖いぞ。
 種族名で呼ばれるのは反応に困るが、突然見知らぬ他人に名前を呼ばれるのも、なかなかに怖い経験だった。

 ホーヴェスタッドで人種族に名前を呼びかけられるたびに、ぞっとしていた。

「里を出る前に、幾つかの例外を除いて人種族にエルフの薬を使わせない、と誓約している」

 わざと言わなかった、とブレーに告げると、なるほどのう、と頷いていた。

 知られていなければ、薬をよこせと言われる事もないだろう、とそもそも薬師である事を明かしていない。

 ベルストーナで売ったのは、薬とも言えないようなものだ。
 油にわずかな薬草粉末を練り込んだ血止め膏薬は、街でも売っていた。
 存在を確認してから作ったので間違いないはずだ。

「なるほどのう……」

 なんだか落ち込んでいる様子だけれど、隠していた訳でもない。
 ホーヴェスタッドでは酒造りと解体、植物採集しかしていなかったから、私がなにを得意とするエルフなのか見極める事はできなかっただろう。

 
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