【R18】Fall into the sky

Cleyera

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1 騎竜騎士見習い

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木です、お初 or お久しぶりです(´∀`*)
毎度のごとく人外で、需要不明な人外受けなので、ご注意くださいませ~
人化はできても、人×人外ですよ~(っ’ヮ’c)










   *


 騎竜騎士になりたい。
 ヒデランテ竜王国に男として生まれ育ったなら、誰でも一度は憧れる夢だ。

 竜を駆って風のように駆け、魔物を、魔獣を、魔族を、守るべき平穏を破る全てを蹴散らす。

 竜駆るホマレに憧れぬ男などいない。
 竜駆る誉を望まぬ男などいない。

 ここは、そう言われる国だ。
 ずっとそれを誇りに思ってきた。

 空を飛び駆ける竜の話は伝説や物語にしか残っていなくて、現代における騎竜が、飛べない地竜を指す言葉だとしても。

 それでも、人は空に憧れる。
 強き者に、空駆ける者になりたいと乞い願う。

 ……俺も、そうだった。





 べちゃりと背中に地面がへばりつく感触と同時に、服が冷たく濡れていく。
 不快感を言葉に出すことを耐え、歯を食いしばった。

「おいおい、きったねぇなぁ」
「なにいってんだ、落ちこぼれさんにはお似合いじゃねえか」
「……」

 げらげらと下品に笑う少年たち。
 鍛えている途中の肉体に相応しくない、下劣な精神の醜悪さに反吐が出る。

 顔が怒りで歪みそうになるが、耐える。
 嘆きも文句も言葉にはしない。

 内心を見せてたまるものか。
 哀れまれるのも嘲りを受けるのも、ごめんだ。

 彼らが言い返されるとさらに興奮する性質を持っているというのは、数日の間に思い知らされている。

 ほんの数日前までは、同僚で身命を共にする仲間だったのに。
 気の良い奴らだと思っていたのに。
 年下の彼らを、弟のように感じていたのに。

 何年も一緒に苦労してきた者を相手に、ここまで分かりやすく態度を変えられるなら、騎士より俳優が向いてるだろと思ってしまう。

「無視すんなよ、お前、ナニサマのつもりだっ」
「竜に選ばれない落ちこぼれさんよう?」
「……」

 下手に言葉を返せば、殴る蹴るの暴行が始まる。
 暴行の言い訳に正当性を持たせたくて煽ってくるのだと、知ってる。

 下手に口答えして態度に出せば、数の暴力で口裏を合わせて、自暴自棄になった俺に襲われたと言うのだろう。

 こいつらは騎竜騎士見習い失格だと思う俺は、潔癖すぎるのか?
 騎士として誇りを持つべきじゃないのか。

 誇り高い騎士であろうとすべきなのに、結局人は人だ。
 子供も大人も関係ない。
 物語の騎竜騎士のように高潔で清廉潔白な存在など、いないのだ。


 騎竜騎士は、竜に選ばれて初めてなれるもの。
 竜が、背に乗せる騎士を選ぶのであって、騎士は竜を選べない。

 どれだけ努力をしても。
 どれだけ憧れていても。
 どれだけ望んでも。
 竜に選ばれなければ、騎竜騎士にはなれない。

 俺は先日、騎士見習い上限の二十歳になった。
 正確な誕生日の分からない俺は、孤児院前に捨てられていた日を誕生日として騎士団に伝えた。

 騎竜騎士見習いが所属する部隊にいられるのは、今月いっぱい。
 つまり、今日を入れてあと五日。

 来月からは騎馬や徒歩任務が主な一般騎士か、後方支援部隊、もしくは職員だ。

 これまでの勤務態度から、ぎりぎりまで待ってもらえることにはなった。
 異動先も決められていない。
 温情なのだ、とあからさまに嫌な顔をされながら。

 迷惑をかけているのは分かっている。
 よりどりみどりだ。
 騎竜騎士以外なら。

 でも俺には、騎竜騎士になる夢しかない。
 これまで、それを支えにして生きてきたのに。

 みっともなくても最後まで足掻こうと、地竜の竜舎に日参しているけれど、どの竜も俺を見ようともしない。
 近づくと牙を鳴らして、尾で地を打って威嚇される。

 どうして。
 こうなってしまったんだろう。

 滑り込みで騎士団に入った十二歳の頃は、竜舎の手伝いに行ってもおかしな反応はされなかった。

 餌を運べば食べてくれた。
 水を注げば飲んでくれた。
 鱗にブラシをかけて、拭かせてくれる竜だっていた。
 俺を選んでくれそうな竜もいなかったけれど。

 地竜は相性さえ良ければ、何人もの騎士を選ぶ。
 数人の騎士で共有されている竜は、決して珍しくない。
 ほとんどの竜がそうなのに、騎士団にいる十頭の中に俺を選んでくれる竜はいない。

 竜が乗り手を選ぶ基準は判明していないけれど、一人の騎士しか乗せない偏屈な竜でも、世話くらいはさせてくれるのに。

 入団から三年を乗り越えて、基礎体力や竜上槍の扱いなどの実力が認められれば〝竜の試し〟に参加できるようになる。

 十五歳になった俺は、初めての〝竜の試し〟に興奮して、前日は眠れなかった。

 試しの前日まで、俺は竜に触れられた。
 世話をさせてくれた。
 竜に見初められるための、見習いから本物の騎士になる試験から、全てがおかしくなった。

 〝竜の試し〟は、竜舎の外に引き出されて並んでいる竜に、呼びかけながら歩み寄るだけ。
 特別なことは、なにも必要ない。

 下手な小細工をすると、後で発覚して騒ぎになるから、みんな大人しく持ち物検査を受ける。

 制服の隠しに、地竜の好物の果物を入れて参加した者が、過去にいた。
 騎士を選んだはずの竜が、そいつを乗せるのを拒んだことで、あっさりと発覚したらしい。


 いつも通りの自分で、お前を乗せても良い、と判断した竜が反応してくれるのを待つ。

 騎士の中には、何頭もの竜に選ばれて、何頭もの竜に乗る者もいる。
 仕事内容で乗る竜を選ぶことができるなんて、贅沢でうらやましい。

 竜に選ばれるのは難しくない。
 難しいのは、竜を乗りこなすことだ。

 先輩の騎士たちは、みんな口を揃えてそう言った。
 だから俺もそう思っていた。
 何頭もの竜に、同時に乞われたらどうしよう、なんて。

 少しだけ、調子に乗ってた。

 俺は、期待していた。
 竜舎の手伝いに、率先して手を上げてきた。
 竜たちは俺を知っているはずだ、覚えているはずだ。

 複数でなくて良い。
 一頭で良いから、俺を受け入れてくれたら、一人前の騎竜騎士になれる。
 夢が叶う。

 期待と興奮で胸を高鳴らせながら、歩み寄ろうとした十五歳の俺に対して、並んでいた竜が一斉に吠えた。
 それは明らかな威嚇だった。

 まるで、こちらにくるな、と言うように。
 全ての竜が吠えた。

 それ以来、俺は竜に吠えられるようになった。
 試しの時だけじゃない。
 竜舎の中に入るだけで威嚇されるように、なってしまった。



 夢を諦められなかった俺は、どうして地竜が俺を威嚇するのか調べた。
 気がつかない内に竜を怒らせるようなこと、嫌われるようなことをしてしまったのかと。
 教官、副長、先輩騎士、周囲にいる全ての人に聞いて、文献を当たって、できることは全てやった。

 そして、前例がないことを知った。

 地竜は基本的に温厚だが、臆病でもある。
 地を駆けることに長けてはいるけれど、血みどろの戦場には向かない。
 だからこそ、街壁の外の平原地帯で魔物避けに運用されている。

 平和な今だからこそ、地竜に騎士が乗る。

 街に魔物や魔獣が近づかないように、地竜を平原で駆け回らせる。
 ここは地竜のなわばりだ、と大地に刻み込む。
 戦いを好まない性質でも竜種であることは間違いないため、それだけで人にとって有益でないものを遠ざけてくれる。

 騎竜騎士は騎乗での戦闘訓練はしても、命のやりとりはしない。
 その機会がないから。

 本当の戦場では、地竜は駆け回ってくれない。
 竜に乗り空駆けて戦うなんて、伝説上の夢物語だ。

 夢物語なのに、諦められない。
 我ながら格好悪い。
 狂気の沙汰だと分かっているのに。

 騎竜騎士になりたい。
 そのために、人生の全てを捧げてきたから。

 
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