14 / 16
5 独白に近い告白
しおりを挟む今から五年前、十五歳になった俺が初めて〝竜の試し〟をしたあの日に、リサンデは俺の居場所を知ったという。
俺が地竜相手に〝俺を求めてくれ〟と望んだことで、これまで詳細を感じられなかった番の存在を感知した。
その日に、俺とリサンデの間の絆が明確につながった。
世界のほにゃららをする竜同士には種族が異なったとしても親和性があって、炎毒竜の血統の系統がほにゃららで地竜がなんちゃららしい。
竜の生態を説明されたが、気持ち悪い所に聞いたことのない単語が満載で、全ては理解できなかった。
簡単にいうと、リサンデは、番が自分以外の竜を口説いている!、とめちゃくちゃ嫉妬したらしい。
なんでだ。
俺はリサンデの存在を知らなかったのに、理不尽だ。
あれ、この会話、前にもしたような?
……それだけ、根に持っているってことか?
気のせいだと思っておこう。
勢い勇んで、俺に会おうと住処を飛び立ったが、リサンデは炎毒竜。
燃えている毒の塊が動いているような存在だ。
人のような弱小生物は、近づくだけで死んでしまう。
これまで、炎も毒も抑え込もうとしたことがなかったので、できない。
竜王国へ向かう道中で、羽ばたけば鳥が落ち、水を飲めば魚が浮き、食べ物を求めれば動物が倒れて、大地が枯れていくのを散々見てしまって。
出会った瞬間に番が死んじゃう!?、と焦った。
リサンデは番に会うのを先延ばしにして、人の姿になる練習を始めた。
人を殺さない程度まで、垂れ流す毒を弱める練習もした。
練習でそれらができるようになるあたり、やっぱり伝説上の生き物だ。
時々、とんでもなく遠くから俺を見る以外は、時間を惜しんで練習をして、五年かけて、人に変化できるようになり、竜の姿でも人が死なない程度に毒を抑え込んだ。
この辺の苦労は、え、なに?、しっかりと掘り下げて聞いてこないで?
ええ、俺には知られたくなかった?
俺を見に来ていた辺りとか、詳しく聞きたいんだけど。
努力している姿は知られたくないの?、なるほど。
なんやかんやと五年が経って、ようやく人の姿を手に入れたリサンデ。
変化初心者に毛の生えたようなものなので、冷静さを失うと竜の姿に戻ってしまうが、竜の姿で体の大きさを変えるのは以前からできるので問題ない。
つまり、出会って番同士になれば、竜の姿で乗ってもらえる!
リサンデは長く生きた竜で、人が群れて生きるものだ、とよく知っていた。
俺の番としての立場を確保するために、堂々とヒデランテ竜王国の王城へ赴き「番が望む間はこの国を守ってやるから、野花ちゃんと私の邪魔をするな」と告げ、意気揚々と俺の元へ。
劣等種の地竜に求愛するなら、炎毒竜に靡かないはずがない、という謎の自信があったそうだが。
人の姿のリサンデに俺がつれなくしたので、こっそり泣いたらしい。
あっ、なんで泣いてるの。
当時を思い出しちゃった?
いやいや、人の姿でも魅力的に感じたよ、もちろん今もな。
思い出し泣きしなくても大丈夫だよ、俺はリサンデ以外を素敵だと思わないから。
あの時は、不法侵入者だと思い込んでいたから、好意を示したくなかっただけ、それだけ。
人の作法である、色仕掛けをすれば良かったのか?、って、それなに?
なるほど、城に行った時にそういうのがあって、色仕掛けを覚えちゃったのか。
……誰だろうな、許せん。
あーあー使わなくて良いから!
色仕掛けは作法じゃないからな。
そんなのなくてもリサンデは可愛いから。
あーそうそう、酔っ払っていたとはいえ、俺が招き入れたんだよな?
そもそも夜中に人の家に行かない、とかそっちが大事な気がするけど、まあ、俺に対しては気にしなくて良いから。
はい、続きな、そして、竜の姿で再会した。
天の差配なのか、俺はリサンデの毒が効かない人だと判明した。
なんで毒が効かないの?
たぶん番だから?
なるほど。
これからはずっと一緒にいられる♡と喜んだリサンデは、一旦城に飛んで行って、王様に「私の野花ちゃんの立場を良くしてね」と脅迫、いや、お願いした。
その後、最短で手続きを済ませて、試しの日に俺と番になりました。
めでたし、めでたし。
ここまでは良い。
番以外に興味のないリサンデは、忘れていたらしい。
自分に執着する存在のことを。
性交中は別として、普段は表情の振り幅が少ないリサンデが、一喜一憂しながら話してくれたこれまでの話は、なかなか波瀾万丈だった。
可哀想だけど、思い出し泣きする姿が可愛い。
目の前が回ってなければ、じっくり堪能してた。
「これまで、どうしてはなしてくれなかったんだ?」
『野花ちゃんは、殺すのを嫌がるから』
リサンデは、そこに生きているだけで、他者の命を脅かす存在で。
他の生物に害意を持たなくても、殺してしまう。
死んでしまうまで、気づかないことが多い。
だから、炎毒竜として生きてきたこれまでを話すだけで、俺に嫌われるのではないか、と考えたらしい。
そういえば、大地に降りて呼吸するだけで草原が枯れ果てて、枯れ草が燃え焦げていくのを見たな。
俺といられることが嬉しくて、毒の制御が甘くなっちゃう、って照れる姿が可愛くて忘れてた。
降りると草原が大惨事になるから、縄張りの匂いつけを飛びながらしてもらうと、話し合ったんだよな。
城での「殺してない」発言にも、きちんと理由があったのか。
くっそ、俺の竜が可愛い。
健気すぎない?
可愛いがすぎるだろ。
体が動けば乗りまくりたいのに、どうして添い寝だけなんだよ!
「きらったりしないから、これからはおしえてくれ」
『本当?』
目を閉じているからなのか、不安そうな声が胸に響く。
心が痛い。
リサンデがここまで俺を想ってくれていたなんて。
竜だから人の常識がわからない。
嫌われたくないから、話したいけど話すのを我慢しよう。
ってなにそれ、可愛い。
俺の全てを信用して信頼して、嫌われないって確証を持つには、三ヶ月だと短すぎるよな。
これって、俺がリサンデを甘やかし足りなかったってことか?
体が動くようになったら、めちゃくちゃ甘やかしてやる。
なにが良いかな。
俺のショッボイ手作り弁当をあーんして。
人の姿で膝枕もどうだろう。
俺の方が背が低いから、膝の上に乗せるのは無理か。
むしろ乗ってもらいたがりだから、俺がリサンデの膝に乗ったら喜ぶかな。
望むだけ乗って気持ち良くしてやろう、ってこれは俺の欲望だな。
「なにもしてないあいてをころしたりしなければ、きらいにならない」
『……なにかしてきたなら、殺して良い?』
「え」
思わず口籠もってしまったけれど、リサンデの声に含まれる期待はしっかりと感じ取れた。
今、すでに殺したい誰かがいる、ってことか?
なにしでかしたんだよ、そいつ。
世界が弱肉強食の法則で回っているのは知ってるが、俺が殺しの許可を出せるわけがない。
相手が誰であれ、人を殺す責任なんて俺の肩には重すぎる。
「ごめん、おれは、それがだれでもころされるところをみたくない」
『そうだね、野花ちゃんならそういうと思った』
逃げだ。
偽善だ。
生きるために命を奪うのが人以外の生き物にとっての生活なのに、俺はリサンデから糧を得る術を奪おうとしている。
0
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる