【R18】ポンコツ第二王子のやりなおし奮闘記

Cleyera

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本編

04 めちゃくちゃ必死なおれ

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 この日から、おれはいつも兄のそばにいることになった。
 四六時中、ずっとべったりとくっついている。

 兄のきらきらの笑顔を見た国王が、おれが兄といることを許可したのだ。

 器の大きい父親に見られたくて必死なんだろう。
 一見すると、息子に甘い父親のように見える全ての行動が、兄を強姦するための、信頼させるための布石かと思うと、はらわたが煮え繰り返る。

 だが今回に限っては、おれも国王の前でひざをついて、へへーっ、をした。
 自分の意思で。
 兄の側にいるために。

 今のおれは、簡単に言うと兄のペット扱いだ。
 国王の言葉一つで取り消されかねない。

 体は二歳でも中身は十六歳なりたて。

 虚しくならないわけがない。
 しかも処刑される前のおれは、世界中の何もかもを恨んでいた。

 そんなおれが、周囲に吠えずかみつかず、ぬいぐるみのように大人しくしているのは、ただ兄を守りたい、からだ。


 王城内の使用人たちは、意外にも兄にくっつくおれを、嫌悪する目で見てはこなかった。
 理由はわかりやすい。

 二歳の獣人であるおれは、黙って大人しくしていればかわいいのだ。
 赤ん坊が可愛いのと同じだ。

 兄について回る先で、何度か、数人の使用人の女どもに、焼き菓子を差しだされた。

 言葉にしにくい気持ち悪い表情を浮かべて、餌をやるから撫でさせろと言外に要求してきたのだ。
 動物を餌付けするように。

 おれはその度に、がたがた震えながら兄にしがみついた。
 十六歳のおれが感じている恐怖を、二歳のおれの体では隠しきれなかった。

 使用人の持ってくる食べ物は、毒。

 暴れて捕まり、処刑されるまでの間に、おれに差し入れられた水や食事には、いつも毒が入っていた。
 死なない程度の少量の毒が。

 餌を与えずに、処刑の時までに死んでは困る。
 けれど暴れられないように、弱るように毒を盛れと、誰かに命令されたらしい使用人どもが持ってきていたのだ。

 自分で食わなければ牢にいる護衛に棒で打たれて、無理矢理に口の中にねじ込まれる。
 食えば腹をくだし、血を吐き、熱を出す。
 使用人の持ってくるものは毒だ。

 兄はおれが王妃に蹴られることを知っていたのか、女を怖がっていると勘違いしたようだ。
 落ち込む使用人の女に優しく声をかけて「そのうちなれるから」と言っていた。

 そんな未来はありえない。

 こいつらは、おれがでかくなれば、すぐに害獣扱いをはじめるんだ。
 見た目が幼いだけで可愛がられる立場になれるなら、初めからうまく立ち回れるなら、処刑なんてされてない。


 兄といつも一緒にいると決めたおれは、勉強も、食べる時も、風呂に入る時も、寝る時も兄と一緒だ。
 国王に呼び出されても一緒に行く。

 用を足す時は離れたいけれど、人用の手洗いをうまく使えないので、兄がついてきてくれる。
 兄以外に、触れられるのは怖い。
 処刑された時のことを思い出してしまうから。

 兄には、鉤爪では難しい、まん丸パンツの上げ下ろしをしてもらっている。
 恥ずかしいけれど、兄の側にいる条件として「風呂に入って服を着ろ」と言われたので、仕方がない。

 温かいお湯は平気になったけど、パンツ一枚でもかなり動きにくい。

 勉強中は暴れない。
 食べる時は暴れない。
 風呂の中では暴れない。
 寝るときは注意されたことがない。

 何度か兄と引き離される危機を乗り越えたおれは、無理矢理引き離そうとする奴らに牙をむいて唸るより、兄に甘えてすがる方が効率が良いことを知った。
 ずる賢くなったのだ。

 兄が国王に偏愛されていることを知っている奴らは、いずれ犯される運命だと兄を見下しているようだが、命令するようなことはできない。

 立場として、兄は次期国王。
 公式では、この国のたった一人の王子だ。

 兄が声に出して「やめろ」と言えば、引き下がるしかない。
 人目のある場所では罵ることも、兄になにかを強要することもできない。

 十六歳が九歳にすがっている姿は情けない、と思う気持ちに耐えながら、おれは兄に抱きつく。

「あにぃえ、いっちょらの」

 兄を見上げて、必死に離れたくないと願えば、自然に涙が出てくるのだ。
 二歳の体は感情に素直で良い。

 はたから見れば、兄から離れたくないと瞳をうるうるさせている、もこもこ毛玉。
 内情は、おれは十六歳なのにぃと羞恥に悶えつつ、兄を守りたいから必死で耐えていた。



 そして、運命の日が来た。



 兄は誕生日会の主役らしく、朝から使用人の女たちに磨きあげられている。
 おれは同じ部屋の中で、邪魔だ、と追い出されないようにすみで丸くなっていた。

 銀糸の髪がさらさらと背中に流されて、ほほに少しだけ紅がさされた兄の姿に、使用人の女たちがほうっと息をついた。

「大変お美しゅうございますよ」
「そうか」

 次代の国王になるべく教育を受けている兄は、こういう場面で表情を変えないことを学んでいる。
 ……おれから見ると、九歳の男児が美しいって言われて喜ぶわけないだろってところだ。

 ちらり、とおれのほうに向けられた視線に、満面の笑みを向ける。
 兄にくっついて守ることを選んだおれは、感情を隠すのも、ひねくれた反応をするのもやめたのだ。

「かっこいい」

 珍しく思った通りの言葉が出てきた。
 よっしゃ、おれエラい、と思っていたら、いつの間にか近寄ってきた兄に頭を撫でられた。

 支度が終わったようなので、兄にいつものように抱きつこうとしたら、それを使用人の女に止められた。

「ご衣装に汚い毛がつきますよ、殿下」
「……それは、どういう意味?」

 美氷と呼ばれる片鱗、いいや、凍りついたような兄の声に、使用人の女たちが動きを止めた。

「ぼくのかわいい弟が、きたない、と言うの?
 それは、お前たちが仕事をしていないと、父様にほうこくしろという事?」

 幼い声なのに、口にしてる内容がなんか、怖い。
 あれ?
 おれの知ってる兄ってこんな言い方する人だったかな。

 事情を知らないおれには、何も言えない。
 おれに焼き菓子食わそうとする暇があるなら、仕事しろよと思っただけだ。

 使用人の女たちは頭を下げて、申し訳ございません、と口々に言う。
 けれど、その本心では兄を侮っているのが見え見えだ。

 くやしい。
 おれが強ければ、こいつら全員ぼっこぼこにしてやるのに。

「ほら」
「あにぃえ?」
「おいで」

 いつもよりも、どこか強張った笑みの兄が腕を広げる。
 昨日も一緒に風呂に入ったけれど、毛が抜けてきらきらな服がよごれちまうよ、と思っていると、兄が眉を下げてしまうのが見えた。

 何も考えずにぴょんと飛んで、兄の腰にしがみつく。
 兄を悲しませるくらいなら、服が汚れるのなんて構わないだろう。

 細い腕が背中をおさえてくれて、とたんに不安な気持ちが溶けて消えていった。

「いっしょだよ」
「いっちょ」
「そう、いっしょに行こうね」

 え、おれも兄の誕生日会に参加すんの!?

 それは無理だろ。
 おれの存在は隠されている。
 この国の王子は兄だけだ。

 おれは名前すら与えられず、王子としての存在を認められていないからこそ、たった一人で後宮に放り込まれた。
 兄にくっついていることは許されたけれど、それは王族の居住区画のみ。

 城の奥に閉じ込めておけば、使用人と護衛しかいないから、何かあった際にもみ消せる。
 だからおれの処刑も非公開で行われた。

 国民の誰もおれの存在を知らず、おれが処刑されたことすら知られず。
 十六歳になったばかりのおれは殺されて。
 兄は国王と王妃と自分を、殺した。
 ……なんでだ?

 おれが殺されたことを悲しんでくれて嬉しい。
 不謹慎だけど、おれを守ってくれた兄の優しさを感じる。

 でも、そこからどうして国王一家の無理心中に話が飛ぶんだろう。
 兄が国王と王妃を殺した理由はなんだ。
 自殺した理由は?

 これまで、兄を守ろうと思うばかりで、どうして兄がそうしたのか、を考えていなかったことに気がついた。

 二歳の体は、思った以上に睡眠時間や休憩時間が必要で、考え事をするのが苦手なおれは、兄と一緒の生活に慣れるだけで手一杯だったのだ。






   ◆
王子様なので、かぼちゃパンツ着用にしてみました
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