【R18】ポンコツ第二王子のやりなおし奮闘記

Cleyera

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本編

05 頑張りすぎたおれ

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 ぎゅっと抱きついたまま、動かなくなったおれの顔を、兄がそっとのぞきこんでくる。
 耳元で、おれにしか聞こえないような小さな声で、ささやいてくれる。

「スノシティ、行きたくない?」
「……いく」

 悩んだ。
 おれが公の場に姿を見せたら、何が起こるか想像もできなくて。

 でも、誕生日会の後には悪夢が訪れる。
 一度でも離れたら。
 兄から引き離されたら。

 誰にも隠すことなく、薄汚い欲望を兄に向ける国王が、一人になった兄を逃すとは思えない。
 ……離れるもんか。
 ぬいぐるみのふりをしてでも、兄から離れない。



 決意はしたものの、誕生日会の会場である庭園の入り口で、護衛に止められた。

「殿下、この先はお一人でお向かいください」
「ぼくは弟といっしょにいるきょかを、へいかから特別にいただいている。
 お前はへいかの命令をくつがえせるほどえらいのか?」

 兄の声は冷たい。
 いい加減なことを言えば、どうなるだろうかと思わせるほどに。

「っ、いいえ、そのようなつもりでは、失礼を申し上げました」

 護衛が、誰にそう言えと言われていたのか知らないが、国王から直接の命令ではなかったらしい。

 推測になるが、国王は今夜の予定で浮かれてしまい、兄がおれを誕生日会に同伴する可能性など考えもしなかったのだろう。

 未来を変えたい。
 でも、おれが王子だと知られないほうが良い。
 それはきっと、王妃の立場を悪くする。

 兄を巻き添えにするつもりで、暗殺者を向けるだろう。
 王妃にとって、一番大切なのは自分が王妃の座に座っていることだ。

 王妃にとっての兄は、薬で思い通りに動かせる、見目の良い情事の相手でしかない。
 自分が産んだ息子なのに。
 おれの場合は、見つけ次第、蹴飛ばさないといけない毛玉だろう。

 王妃なら、兄がおれと一緒に死んで、国王が悲しんでも気にしないだろう。
 傷心の国王に「また、王子を産んでさしあげますわ」とでも言って、寝所に連れ込もうとする未来が見えそうだ。

「あにぃえ」

 どうしよう。
 兄と離れるわけにはいかない。
 一緒に行きたいけれど、おれを王子だと口外しないでほしいって、二歳児が交渉するのはおかしいよな。

「こわいのかい、部屋にもどりたい?」
「やー、へややー部屋は嫌だっ」

 ぎゅうっと兄にしがみつく。
 おれがぬいぐるみくらい軽くなれれば良いのに。

 体の大きさは小さくても、おれは生き物だから重たい。
 九歳の兄が、ずっとぬいぐるみのように抱えていられる重さではない。

 どうしよう。
 どうしたら良い。

 悩みすぎて、目の前が涙でゆれる。
 二歳児、すぐ泣きすぎ。
 感情の振り幅が大きくて、制御できない。

「殿下」

 背後から声をかけられた。
 知らない……護衛?
 護衛とも使用人各種とも服が違う。

「こちらをどうぞ」

 声をかけてきた男は、兄に何かを手渡した。

「ご一緒に庭園に入られるのであれば、耐えていただくしかございません」

 男はおれを見る。
 不思議と嫌な感じはしなかった。
 おれを見る目には、嫌悪感も愛玩動物への興味も見られない。

「がまんできる?」

 兄の声に視線を戻せば、その手に長い紐と赤いリボンがあった。
 ……なるほど。
 愛玩動物のフリをしろって事か。

 でもおれは獣人であって動物じゃない。
 獣人を知っていればすぐにばれると思うんだけど、それは良いのか?

「まがんしゅる!」

 あれ、まだ我慢って言えねえのか。
 ……まがん?
 あれ?

「リボンを首にまくよ」

 兄はおれが苦しくないように、気をつけて赤いリボンを結んでくれた。
 おれの両脇の下から背中へ通すようにして紐を結んで、その先に輪を作り、兄が自分の手首に通す。
 首に紐をつけられなくてよかった。

「くふっ、かわいい」
おえかっこいいおれは格好いいんだよ!」

 兄が変な音を立てて笑った。
 今、絶対に、ぬいぐるみみたいだって思ったんだろ。

 おれは十六歳だ、かわいいって言うな!
 かなり本気で抗議したけれど、ぽんぽんと頭をなでられた。

 おれはひもを手首に通している兄の、後ろについていくように、とことこと歩いた。
 二足歩行で本当に大丈夫か?
 兄が望むなら、四つ足で歩くよ?

 数歩歩くごとに、おれがついてきているか振り返って確認しながら、兄はふにゃふにゃと笑顔のまま歩いている。
 なんでごきげんなんだよ。

 兄に手を引いてもらわない、しがみついていないのが久しぶりな気がして、なんか寒い。
 人の体温って、あったかかったんだな。



「きゃああっ、殿下が来られたわよぉっ」



 突然のきんきん声で耳が痛い。
 二歳の体が弱いのか、耳がきーん、ってなった。
 大勢が同時に何か言ったようだが、うまく聞き取れない。
 一人ずつ話せよ。

 兄と一緒に踏み込んだ庭園は、ありえないほどの混沌だった。

 屋外なのに、めっちゃくっちゃ、くっせえ。
 まだ入り口から数歩の場所にいるのに、鼻が曲がりそうだ。

 見回してみると、香水臭いガキと香水臭い大人しかいないようだ。
 と思った直後に気が付いた、こいつら本人も臭くないか?

 体が臭いのを香水でごまかしてんのか?
 そのうえ服がびらびらでふりふりで、身につけてるものがジャラジャラうるさい。

 これが普通なら、臭い獣人って言われてるおれの方がましだ。

 いろいろな食べ物の匂いと、風呂に入ってないとしか思えないくっさい体臭と、そのうえに瓶ごとぶっかけたとしか思えない、いろいろな香水の臭いが混ざって……吐きそう。

 入ってすぐに具合が悪くなったおれだが、必死で我慢した。
 兄に我慢するって約束したからな。

 距離があっても必死だったのに、びらびらでふりふりでジャラジャラに近づいて。
 行きたくないけれど、兄が行くならついていかないと。

 ……もしかして、これは国王の策略か?
 おれが逃げ出すようにって、考えられたことなのか。

 うわ、あっちからも近づいてきた。
 くさい。
 臭い。
 くっさーいっ。

 あれ、なんだか目の前が暗くなってきた。

「あっ」

 兄がなにか言いかけた。
 その記憶を最後に、意識が途切れた。
 臭すぎて死ぬ。





 気が付いたら、翌日だった。
 なんでだよ!!!

 でも、なんか、うん、知らない間に兄の貞操を守れたようだ。
 怪我の功名ってやつかもしれない。

 兄は、臭すぎてぶっ倒れたおれを、護衛が抱き上げて運ぶことを許さなかった。
 らしい。

 十歳なりたてほやほやの兄が、もこもこ毛玉の二歳児を抱き上げたまま、城の奥まで歩いて戻れるはずがない。

 誕生日会を中止にするわけにはいかず、おれとも離れたくない。
 そうなると、とれる手段は一つだけ。

 兄の誕生日会は強行された。
 ただ、おれが思っていたものと、だいぶ違う感じだったようだ。

 全開パカーで口の中が丸見え。
 舌がでろぉん、白目を剥いて気を失っているおれを、座ったひざの上に乗せたまま、兄はくっさい奴らの相手をしたらしい。

 ほんっとうに、なんでそうなった?

 兄のひざの上に乗っているから、おれが気になっていても、不用意なことは口にできない。
 他の場所に移動しようとも誘えない。

 スノシティのおかげで、すごく楽だったよ、と兄に微笑まれても、なんか嬉しくない。
 おれが兄を守りたかったのに。
 なんか、これじゃない、ぜったい違う!!

 べー、と舌を出して寝台の上でむくれていたら、兄が優しくおれの背中を撫でてくれた。
 指を曲げて、毛をかきわけるようにすいてくれると、すっごく気持ちいいんだよ。
 体が勝手にぬるーんと伸びる。

「……むふーぅ」
「くふっ、ふふ、んふふっ」

 寝台の上に伸びたおれの背中を撫でながら、なぜか笑う兄。

 なんか、最近の兄は、おれの記憶の中の兄と違ってきた。
 前の兄は優しく微笑んではいても、声を上げて笑うことなんてなかった。

 今の兄は……変だ。
 くふくふって、どっから笑い声が出てるんだよ。

 兄を幸せな気持ちにできるのは、おれだけって所は誇りに思って良いよな。
 おれ以外に、背中に柔らかいもこもこの毛がはえてる奴は、この国には、たぶんいないもんな。






   ◆
王子なのでかぼちゃパンツ、に首リボンと迷子ひも追加
完成イメージがプルトイ……

迷子ひもは、スノシティを守ってくれる護衛がいないから、兄から離れないようにという心遣いです
犬の散歩のようになってしまうので、我慢できる?、です
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