【R18】ポンコツ第二王子のやりなおし奮闘記

Cleyera

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本編

06 大好きぺろぺろされて、決意するおれ

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 兄にたっぷりと背中を撫でてもらって、おれはしっかり満足した。

 自分がもこもこの毛玉になっていることを確認する。
 兄と一緒に風呂に入るから、臭くもないし、汚くもない。

 気を取り直して。

 誕生日会は無事に終わった。
 おれが気絶している間に、兄が国王にひどい目にあわされなくてよかった。

 呼び出しはあったらしいが、倒れたおれの側にいたい、と兄が先んじて手紙を書いたらしい。

 あの国王に、何を書いたんだろう。
 今日のこの日を、手ぐすね引いて待っていたはずの国王が、そう簡単に兄の願いを優先するものか?

 兄を強姦する気で、るんるんで待ってた(と思う)国王が、大人しく待つって。
 なんか、怖いんだけど。

 納得はしてないけど、これで、とりあえず一つ目の悪夢は回避した。
 でもこれで、国王が諦めたとは思えない。

 十歳の誕生日の当日という特別感がなくなっただけで、今夜にでも仕切り直しを求められる可能性はあるのだ。

 むしろこれから先が本番だ。

 周囲には敵しかいない。
 国王。
 王妃。
 護衛。
 使用人。
 みんな、敵だ。

 おれが、兄を守ってみせる。
 誰にも体を差し出す必要がないように、おれが守るんだ。

「スノシティ」
「あいっ」

 兄が名前を呼んでくれるので、ほとんど反射で返事をした。
 おれに名前があることを知っているのは兄だけ、というかおれに名前をつけたのは兄だし。

 処刑された時は〝スノシティ〟が、過去に兄が飼っていたペットとかの名前だったら最悪だ、と思ってた。

 今では、おれの宝物だ。
 兄がおれにくれた、おれが人からもらった、初めての贈り物だ。

 振り向いたおれの両ほほに、兄の細い手が添えられた。

「大好きだよ、スノシティ」
「あいっ!」

 おれも兄が大好きだ。
 守ってみせるから!と意気込んだその時。

 ぺろり、と兄がおれの鼻先をなめた。

「……っっみゅあっ!?」
「ふ、くふふっ」

 おれが変な声をあげる姿を見た兄が、嬉しそうに微笑む。

「これは、大好き、同士がすることだよ」
「みゅ、ふみゅうっ」

 ぺろ、ぺろり、と敏感な鼻先をなめられて、兄の香りを、体温を、直に感じてしまう。

 兄が何を考えて、おれの鼻先をなめたのかなんて知らない
 相手が敵なら、弱点に大人しく触らせたりしない。

 でも、この時は動けなかった。

 二歳の体では、この胸の奥にある喜びを処理しきれなくて。
 兄に大好きと言われて、触れてもらえることが嬉しくて。



   ◆



 おれは、いざという時にだめなタイプらしい。

 処刑された時も、今回の誕生日会も。
 おれが何かしようとすると、最後に大失敗をする。

 でも今回は、おれの失敗を兄本人が挽回してくれた。

 すごくへこむ。
 でも、結果的に兄の心身を守れた。

 兄の誕生日から十日が経つけれど、国王からの呼び出しはない。
 沈黙を守る国王が不気味だ。

 不安を抱えたままのおれは、ずっと兄にくっついて過ごしている。
 いつか、うっとうしいって放り出されないか心配になるくらい、兄にくっついてる。

 兄にくっついて過ごす日々の恩恵を、万全に受けながら、神経をはりつめ続けるのはとても大変だ。

 兄を狙っている、うさんくさい護衛が当番の時は、いつでも体当たりできるように構えておく。
 噛みつきとひっかきは、危ないからだめだって。

 まだ、牙が生えてきてないからな。
 かみついたら、おれが痛くなるからだめだって。

 ひっかきも、爪を痛めるからだめなんだって。
 そんなにやわじゃない、と思う。
 二歳の爪って、やわらかいのかな。

 後宮にいた時は、兄が頼んでくれなければ食事にもありつけなかったが、今は一緒に過ごすことで、兄が自分の食事を分けてくれる。

 とても美味しい。
 おやつも食事も、食べたことがないものばかり。

 なんで兄の食事の中に、おれが食える離乳食が用意されているのか、この時は考えもしなかった。

 そして、使用人が後宮に持ってきていた、食事という名のものが、捨てる前の残飯や生ゴミだったのだと、おれは知った。

 第一王子である兄に、誰かの食べ残しや野菜の皮や種を食べさせようとする者はいない。
 もし国王に伝わってしまったら、職を失うどころではないだろう。


 栄養が足りているからなのか、兄が風呂上がりに全身を揉んで、ブラッシングしてくれるからなのか、おれの毛艶は過去最高に良好だ。

 処刑された時は、いつでもどこかにはげやぼろぼろの場所があって、虫に刺されたみたいに全身がかゆくてたいへんだった。
 あれは、食事の量も質も足りてなかったから、なのか。

 まだらの入ったねずみ色だと思っていたおれの被毛は、青みがかった白銀色だった。

 一応、この国の王族の血を引いている……からなのか?
 王妃も継承権持ちの王族で、白銀の髪してるもんな。

 今のおれは、兄の足元でちょろちょろする白銀の毛玉。
 光の加減でちょっと青く見えるくらいだ。
 攻撃力も危険性も、無さそうに見える方が良い。

 まだ使えないけれど、牙も爪も、いざというときに取っておくべきだ。
 見た目については、このまま兄にくっついていたら、今以上にもこもこになりそうな予感がある。


 お風呂に入らない日でも、兄はおれをブラッシングして、全身を揉みほぐしてくれる。
 気持ちよくて変な声が出ると、兄が笑うので恥ずかしいけれど、止まらない。

「ん、っん、あにぃえっ、みゅう~っ」
「ここが気持ちいい?」
「うん、しょこ、きもちー」

 二歳児だからではなく、兄の手ででろでろになってしまい、うまく話せない。
 最近は、もういいやと開き直ることにした。

「きれいになったよ」

 全身をブラッシングしてもらって、すっきり。
 もみもみしてもらって、全身ポカポカでほっこり。
 きっと今のおれは、どこからどう見ても、良くできたぬいぐるみだろう。

 そういえば、と兄の寝室の中を見回す。

 処刑された時は、ほとんど兄の部屋に入ったことがなかった。
 それでも部屋中に、たくさんぬいぐるみが並んでいたのに気が付いていた。

 白いぬいぐるみを集めるのが趣味なのかと思ってたんだけどな。
 今は、ひとつもない。

 あれかな、おれがぬいぐるみに嫉妬するとか思ってる?
 これでも中身は十六歳だから、兄がぬいぐるみを持っていても、すねたりしない、つもりだ。

 だっこ最優先はおれじゃないと泣くけど。

「もう、ねようね」

 長椅子から降りて、兄と手をつないで寝台へ向かう。
 おれが過剰に兄から離れたがらないせいで、ほんのわずかの距離でも、兄が手をつないでくれるようになったのだ。

 おれの鉤爪で、兄のやわらかい肌を傷つけないように、使用人の女に、いやいやだけれど、爪の先を丸く削ってもらっている。
 二歳児の爪はやわらかいって言われたけど、爪は爪だろ。
 こればっかりはヤスリを使うから、大人でないと難しかった。

 毛布をめくりあげた兄が、ぽんぽん、と布団を叩いておれを呼ぶ。

「あいっ」

 いつになったら、おれは「はい」って言えるようになるんだろうな、と思いながら布団に潜り込み、兄の腹にしがみついた。

 初めて抱きついた日に、細いなと思った兄だが、やはり平均よりも痩せていたようで、おれと一緒に食事を取るようになってから、食べる量が増えて助かる、と使用人が言っているのを聞いた。
 それが良いのか悪いのか。

 なにがどう助かるのか。
 兄一人が少し多めに食べることで、何かが変わる。

 それなら、以前と全く違う動きをしているおれは、どうなんだ。

 以前と違う行動をおれがとることで、運命が変わるなら。
 変えてみせる。

 もしも、食欲が旺盛になった兄が、肉をたっぷりたくわえて巨漢になったとしても、守りたい気持ちは変わらない……はずだ。

 おれよりでかくなったら、どうしようとは思う。
 今回は、兄を抱えて逃げるつもりで、食事をもりもり食べてるのに、兄の方が大きくなったら困るな。

 そんなことを考えながら、兄の心臓の鼓動をもっと聞きたいと、耳を押し付ける。
 すべすべの寝衣の下の細い骨と、華奢な肉体。
 一番大切な、優しい心。

 全部、守りたいんだ。

 
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