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本編
18 愛を知ったおれ ※
しおりを挟む夜に寝る前の日課が増えた。
兄による、鼻先大好きぺろぺろと、おれの弱点にどこまで触れて平気なのか、を調べるのは継続している。
そこにさらに追加された形だ。
兄がおれの股間を揉んでくれて、知らない間に溜まってしまう子種を、全部出しきってから寝ることになった。
朝になって、パンツが汚れていると気がつくのは色々と困るから、事前に出しておくという考えには賛成だ。
体の中で作られるものを、おれが自分の意思で制御して作らないように止めることはできない。
分かりやすい対策がとれるなら、それを拒む気持ちはない。
でも、毎回、兄の手を借りないといけないのが困る。
鉤爪とかちかち肉球のおれの手ではできない。
かといって、他の誰かに触られるのも嫌だ。
兄の負担になるからと遠慮すれば、朝になって汚れたパンツの、ヌメヌメして冷たい気持ち悪さに目が覚める。
そのうえ全力疾走した直後のように、心臓が暴れまくっている。
兄を困らせてしまう、と不安な気持ちで。
見つからないように、兄が起きてくる前に自分でパンツを脱ごうとした結果、腹毛全体にヌメヌメが広がってしまい、目覚めた兄にお腹を洗ってもらうまでの流れを、何度か繰り返した。
一度、そのままでも良いや、と気持ち悪さを我慢していた時も、兄に見つかった。
そのまま風呂に連行された上で、出なくなるまで朝から揉まれた。
うん、仕事前の忙しい兄の手を煩わせるより、夜に出してもらったほうが良い。
朝でも夜でも、兄に助けてもらうことに変わりはないのだ。
そう吹っ切れて、結論が出た。
結論はでたんだけど。
「ふぐぅっっ」
「お利口だね、スノシティ」
かくかく、とおれの腰が前後に揺れる。
兄のたこができて硬くなった手のひらにちんこを押し付けて、子種を噴くのは、すごく気持ちいい。
こんなに気持ちいいなんて、知らなかった。
兄の側にいることを決めてから、良いことばかりだ。
処刑された時のおれは、ただの馬鹿だった気がしてしまう。
ただ、この気持ちよさを与えてくれる相手が、とろけるような笑顔の兄であることが問題だ。
なぜ、そんなに嬉しそうなんだ?
どうして、すごく幸せそうなんだ?
その疑問が頭をよぎっていくけれど、言葉に出せない。
出してはいけない気がする。
これは単純に、兄が弟のおれを心配してくれているから。
パンツが汚れるたびに、うまく自分で着替えられなくて困るおれを、助けてくれているだけ。
それで良いんだ。
おれには、それ以上は怖くて考えられない。
兄が。
王族として。
血縁者のおれに。
執着しているのかもしれない、なんて。
考えたくない。
考えたら、おれは、どうすれば良いのか分からなくなる。
ここにいて良いのか、分からなくなる。
だから。
もう少しだけ。
「ぅぐふっ、いぐっっっっ」
ぴゅくっと吹き出した半透明の子種が、兄の手のひらを伝うのを見ながら。
形の良い兄の親指が、おれのちんこの先端をくにくにと撫でるのを見ながら。
胸の奥にある暗さから目を逸らして、ただ、ひたすらに腰を振った。
◆
雪が降り積もった日、おれは十五歳になった。
おれが処刑された日まで、あと一年。
前の時はたしか、暴れまくって、ぼこぼこにされて。
足腰が立たなくなって、寒い牢屋の中で毒を食わされながら、ほとんど寝てすごした。
処刑された当日が誕生日だったと知っているのは、おれを処刑場まで引きずっていった護衛が「誕生日に斬首刑かよ、本当にカワイソーな王子様だな」と言っていたから。
暴れたのは、いつだったか。
どれだけ牢屋に入れられていたのか。
それが、思い出せない。
兄に、処刑された記憶があると知られたくなくて、文字に残しておかなかったことを悔やんだ。
二歳で兄の元に転がり込んでから、おれは後宮に一度も戻っていない。
あそこに戻れば、思い出せるだろうか。
苦しくてつらかった日々が、どんなものだったのかを。
でも、兄から離れるのが怖い。
兄を守れなくなるからじゃない。
おれが、兄から離れたくないのだ。
兄を守るつもりだった。
おれ自身の命なんて、兄を守れるならどうなっても良いと思っていたはずなのに。
いつの間に、おれはこんなに欲張りになったのだろう。
一緒にいたい。
これからもずっと。
兄の優しい微笑み。
きらきら光る青くて薄い色の瞳が、ゆっくりと柔らかくとろけていくのを見たい。
嬉しそうに揺れる瞳が、腰を振るおれを見ながら、熱をはらんでいくところを見ていたい。
おれに触れてくれる指先。
剣胼胝で何箇所も盛り上がって硬くなっているのに、とても美しい。
傷つけないようにと、丁寧におれのちんこを撫でてくれて、擦ってくれて、吐き出した子種を受け止めてくれる。
すらりと伸びやかな美しい手足。
剣術を何年も学び、おれと一緒に組み打ちの体術まで訓練した肉体は、絞り込まれた筋肉でできている。
なめまわしたい。
兄のなめらかですべすべの肌を、嗅いで、嗅いで、ひたすら嗅いで、おれの中を兄の匂いでいっぱいにしたい。
おれのように被毛がない姿は、この国でも群を抜いて美しい。
城内で見かけたことがある護衛や使用人、文官の中に兄ほど美しい者はいない。
毎晩の風呂のたびに、完璧でどこもかしこもなにもかも美しい兄の姿に見惚れてしまう。
兄はなんと、ちんこまで美しい。
おれのとは形が違うけれど、そそりたって腹にくっついて、血管が浮いていて、かぐわしい。
見た目だけでも非の打ち所がない兄だけど、中身も素晴らしい人だ。
存在しない王子のおれに優しい。
弟だと思ってくれる。
獣人なのに。
なにもできなかったおれに、何もかもを教えてくれて、分け与えてくれた。
一度きりではなく、ずっとおれのことを救ってくれた。
仕事熱心で、戦う訓練も欠かさず、おれのことを毎日世話してくれる。
眠る時だって、おれを一人にしない。
周囲の者へ優しく声を掛ける姿は、絵本の聖人様のようだ。
今の兄をあざけるように呼ぶものはいない。
兄は見た目も中身も完全無欠で、誰にも劣らない、世界一の王子だ。
この世に、兄以上に完璧な人はいない。
だからおれは決めた。
ずっと考えていた。
怖くて逃げ出したい気持ちを胸の奥に隠したままではいけないと。
おれは、自分で兄を守ると決めた。
それならこの先も、自分で決めないと。
本来なら、おれは処刑の時に死んでいる。
今ここにいるおれは、なぜか処刑されたおれのことを覚えている。
つまり、死人だ。
だからこの先、処刑の日を生き延びて、十六歳より歳を経ることができるなら。
おれは兄に全てを差しだそう。
もちろん、兄が望んでくれるなら。
おれから兄には、言わない。
望まれたいと思っていると同時に、おれなんか望んでもらえるのか。
そう相反する気持ちが湧き上がる。
兄に良い国王になってほしい。
いつも優しく微笑んでいて、美氷の王子と呼ばれていない兄は、他人に寛容で寛大な、素晴らしい王になるだろう。
そして、兄に相応しい素晴らしい王妃を迎える。
……国王と王妃の足元に、這いつくばる獣の存在を許してもらえるだろうか。
もちろん邪魔しない。
今度こそ後宮から出ないようにする。
ただ、時々で良いから兄が笑っている姿を遠くから見たいんだ。
燃え尽きてしまったはずの、おれの命を兄が欲しがるなら。
喜んで差しだそう。
そう決めると、信じられないくらい体が軽くなった。
悩みが無駄な肉となってまとわりついていたように、ふわり、と心まで軽くなった。
おれは兄を愛している。
これが、どんな〝愛〟なのか、おれは知らない。
名前をつけてしまいたくない。
応援ありがとうございます!
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