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本編

24 欲望に負けるおれ ※

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 おれはぼんやりしたまま、顔がにやけるのを感じた。

「あにうえー」

 体を起こして、出入り口の前に立つ兄に四つ足で近寄る。
 伸びかけのちんこが揺れて足に当たるたびに、びくっとなってしまうので、ゆっくりとのそのそ歩いていこう。

「……スノシティ?」
「んーなあに、あにうえ?」
「なにか変なものを食べたとか、誰かに飲まされた?」
「んーん」

 首をぷるぷる振ってから、兄の服のすそをそっとかじる。
 おれの方に来て、と引っ張る。

「あにうえ、おれ、ちんこへんなの、もみもみして?」
「……変?」
「うん、むずむずする」

 このおかしなむずむずは、きっと兄に触れてもらえば解消できる。
 なぜなのか、そう確信があった。

 クッションまで戻って仰向けになると、期待で先ほどよりも長さを増したちんこが空へと伸び上がる。
 むずむずがつらい。

「あにうえ、たすけてくれる?」

 前にも、こんな風にむずむずした時に、兄が助けてくれた。
 そんな記憶がある。
 なんでそんなことになったのか、うまく思い出せない。

 クッションに尻を擦りつけると、少しだけ気持ちいい。
 でも兄の手には敵わない。

「わかったよ」

 飾りのたくさんついた上着を脱いで、ついたての位置を直した兄が、おれの元へ来てくれた。

「どこがむずむずしているか、言える?」
「ぜんぶ」
「全部?」
「うん、ぜんぶー」

 兄がこれまで触れてくれて、気持ちよくなってしまう場所、全部。
 触れて欲しい。
 腰を揺らすと、支えのないちんこがふらふらと揺れた。

 まだ触れてもらっていないのに、汁がぷくりと先端に水玉を作っている。
 乳首周辺の皮膚の色よりも赤黒くて、腹の中にしまわれていたからか、妙に艶めいている。

 見慣れているはずなのに、生々しい肉の質感を兄がじっと見つめているのを感じた。





 おれは、今この時にこそ知っておくべき、獣人としての常識を知らなかった。

 知らないことは罪だと、兄の教師が言っていた。
 寝てしまってその先を聞いていないから、本当の意味は知らない。

 知らないこと。
 知らないことを知らないこと。
 知らないことを知りながら、知ろうとしないこと。
 どれなのか。
 なにが罪なのか。

 おれが名前を持たない存在しない王子だから、城から出られない。
 自分のことを知る必要を、まったく感じていない。
 この理由の他にも、獣人に詳しい人がいないから知識を得ることはできなかった。

 いいや、知ろうとしなかった。
 兄に頼めば、獣人の国から書籍を取り寄せたり、人をつかわせることだってできたはずだ。
 おれがその気になれば、知る手段はあった。

 なにも知らないのに学ぼうとしなかったのは、おれ自身の選択だ。

 おれは愚か者だ。
 自分が人ではないことを、重要だと考えていない。
 これからも考えないだろう。

 種族によるとしても、獣人に、発情期があることを知らなかった。
 発情期がなにかも知らなかった。

 おれの外見の由来である父方の種族は、男女共に唯一の相手を作らない。
 発情すれば何人でも抱いて、何人にでも抱かれる。

 そのはずなのに、おれが求めるのはこれまでもこれからも兄だけだ。
 確信がある。
 おれもこの国の王族の血を引きついでいて、しっかりと血縁である兄に執着している。

 その事実を知ったのは、何年も先のこと。
 逃げ出すことも、逃げ出したいとも、思えない生活になってからだった。





 親指と人差し指で輪を作るようにした兄の手が、おれのどろどろになったちんこの表面を優しく上下する。

「ひぐっ、ううう、うぎゅうっ」

 兄の手によって与えられる快感。
 絶妙な動きで、目の前がぱしぱしと光る。
 ちんこから子種がびゅるっと噴き上げて、どろどろと腹へ垂れていく。

 ちんこで得る快感に慣れているはずなのに、体がおかしい。

 ぐちゅぐちゅと音を立てながら、兄の手がいつまでたっても萎えないおれのちんこを撫でてくれる。
 玉を揺らして揉んでくれる。
 乳首もこねてくすぐって撫でてくれて、赤くはれて敏感になってしまった。

 どれだけ、こうして兄に揉んでもらっているんだろう。

 かなり疲れた。
 でも、まだ足りない。
 どうしよう、困った、もう温室の外は真っ暗だ。

「いぐっ、いっ、あ、あにうえぇ」

 今、兄がいなくなってしまったら、おれは狂ってしまいそうな焦燥を感じている。
 なにがどうなっているのか。
 この止められない欲はどこからくるのか。

「スノシティ、苦しいのかい」
「ふうっ、うううう゛っ、うん、う゛んっ」

 腰と一緒に頭も振る。
 苦しいんじゃない。
 つらい。
 満たされないこの欲求が、解消できなくて。

 頭はぼんやりと熱を持ち、目の前が止まらない涙で歪んでいる。
 助けて。
 なんで治らないんだよう。

 えぐ、えぐとしゃくり上げながら、鼻水と涙とよだれでぐしゃぐしゃになっているはずの顔を、手のひらでこすった。

「あにぃえ、もっとぉ」

 初めての凶暴なまでの欲求に、これ以上ないほどに叩きのめされて、おれは腰をふるだけの肉に成り下がっている。

 兄が触れてくれているのに、満たされない。
 そんなこと、あるわけないのに。
 兄が側にいるのに。

「……スノシティ、きりがないよ」
「ひぐっやら、やだああ、やめないでぇっ」

 体をねじって兄にすがりつこうとしたけれど、ちんこを握られているせいで体を起こせなかった。

「一つ、試してみたいことがあるんだ、お利口にできるかい?」
「うん、おりこうしゅる、するからっ」

 やめないで。
 手放さないで。

 おれの痛切な願いを聞き届けてくれた兄は、やはり世界で一番優しくて美しい、自慢の兄だ。



 以前から屋根の下に用意されていた大きな箱を抱えて、兄が戻ってくる。
 温室内に兄の姿があるのに、不安で涙が止まらない。

 兄が離れていく。
 おれに触れてくれない。

 頭ではそんなことないと理解しているのに、心が悲鳴をあげる。

 兄が良い。
 兄でないといやだ。
 兄だけだ。

 おれは、狂ってる。
 狂人だ。
 いったいいつから間違えたんだ。
 兄を守りたかったはずなのに。
 守りたかっただけなのに。

「おまたせ」

 箱を開けて、中から取り出したものは、兄の指ほどの太さの棒だった。
 つるりとした艶があって、少し曲がっている。

 他にもいろいろ入っているようだけれど、見えないように蓋を閉められた。

「良いかい、痛かったり嫌だと思ったら、すぐに言うんだよ」
「うんっ」

 転がってうつ伏せになる前に、クッションの上に凹凸のあるマットを兄が敷いてくれた。

「スノシティ、お尻をあげて」

 うつ伏せになるなら、マットの凸凹にちんこを擦りつけたい。
 そう考えたことを見抜かれたのだろう。

 相変わらず、びん、と伸びたままのおれのちんこに、兄が筒のようなものをはめてくれた。

「ふぁああっ♡」
「痛くなさそうだね」

 なにこれ、気持ちいい。
 中に凹凸があって、ねっとりとした触感のものが入っていて、兄が筒を動かしてくれると初めての感覚を覚えた。

 へこへこ動きそうになるおれの尻を、兄の手が止める。

「こっちにはこれだよ」

 尻尾が持ち上げられたかと思えば、尻の穴になにかが押し当てられる。

 欲望でゆだった頭の中に、一瞬なにかがよぎった。
 でも、兄がおれに触れてくれることより大事なことなんてない。
 思い出す必要なんかない。

 滑らかなものが尻の穴の周りに塗られたと思えば、ちゅぷ、と音を立てて細いものが体の中に入ってきた。

「ひゅみゃっ!?」
「くふっ、ちょっとスノシティ、その声はどこから出ているんだい?」

 びっくりして変な声を出したおれに、兄がふきだす。
 尻に入ったなにかがぷるぷるするのは、それを兄が手に持っているからだろう。

「まずは中をきれいにするよ」
「ん、うー、うん」

 中って、まさか尻の中?
 なんで?

 頭をよぎった光景を、思い出しておくべきだった。
 おれが処刑された時に、兄が護衛や使用人の男に股を開いていた姿を。
 男であるおれの尻をきれいにする、という言葉の意味を。

 
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