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番外編

39 国王、王妃との決着をつける僕 前

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激おこ兄に注意





   ◆


 その日、王妃から、とても許容できない内容の手紙が届けられた。

 僕の可愛いスノシティを、長年の仮想敵である獣人の共和国〝ネプリジャテリ〟への親善大使として、単身で送ることが決まった、と。
 しかもこれは、国王陛下も認めた〝スー王子〟へ与えられた公務、だそうだ。

 ついに色狂いだけでなく、気まで狂ったようだ。

 国王と王妃なんていう肩書きを持っている、害虫。
 あの色情魔ども。
 本物の虫のように、ぷちりと踏み潰してやれたら、どれだけ良いだろう。

 自分たちがそうさせたのだから、スノシティの出生手続きがされていないことを、知っているだろうに。

 生まれてもいない王子が、親善大使になれるはずがない。
 おおかた、ネプリジャテリへ向かう途中で賊に襲われて行方不明、とでもするつもりなのだろう。

 愚弄グロウするにも程がある。
 こんなお粗末な策に、僕が騙されるとでも?
 許せない。

 王妃は、僕を周囲を囲む種馬の一人にしたい。
 スノシティを失って嘆く僕を慰めるとでも言って、籠絡ロウラクするつもりか?

 国王は、愛らしいスノシティを手に入れたい。
 行方不明という名目でどこかに閉じ込めて、飼い殺しにするつもりだろう。

 これまでの妨害が、二人にはことさら響いたようだ。
 僕が妨害の主犯だと、ようやく気が付いたのかもしれないな。

 今の僕の目を誤魔化してスノシティを手に入れられる、と国王が本気で考えているのだとしたら、この国の未来は真っ暗だ。

 王子にすぎない僕が、周囲の者を動かせないと知っていて、こんな馬鹿なことを言い出すとは。
 そう、僕に影響力がない、と信じているからこそだ。

 ようやくだ。

 ずっと耐えてきた。
 慎重に根回しをしてきた。
 ここまでの僕の苦労が、やっと報われる。

 まずは、国王の我欲に満ちた在り方を憂いていた宰相に繋がりを作り。
 縁故だけで採用された無能を切り捨て。
 燻っていた有能な者を登用して。
 自分の鍛錬も怠らず。
 知識を求め続け。

 ひたすらに足元を固めてきた。

 絶好の機会だ。
 待望の獲物が、二匹同時に罠に飛び込んできた。
 国王と王妃を玉座から引きずり落とす。

 これほどのタイミング、今後は望めないだろう。



 今、僕の可愛いスノシティは十五歳。
 十六歳の誕生日までに、決着をつけようと準備をしてきたのが、少し早くなっただけだ。

 一度目の人生の最後。
 あの子の首が、滑り落ちた刃に切り飛ばされた光景が、瞼の裏に焼きついている。

 今でも、スノシティに触れていないと、僕は眠れない。
 豊かなこしのある白銀の毛並みに触れて、温かい腹毛に顔を埋もれさせながら乳首を甘噛みして、スノシティのちょっと変わった嬌声を聞いて。

 そうしないと、不安で怖くて、今のこの日々が消えてしまいそうな気がして。

 スノシティ。
 あの子がどうして、前と全く違う態度を取るのか……見て見ぬふりをしてきた。

 この、二度目の人生は。
 間違いなく、スノシティの力で引き起こされている。

 おそらく〝時間〟に関する特異能力。
 詳細が不明な、王族の血筋に発現する特異能力。

 出生が認められていないことで、調べられていないのは救いだった。

 スノシティは自分の能力に気がついていないようだから、僕から口にすることはないだろう。
 怖がらせる必要なんかない。

 国王と王妃は、今が二度目だと気がついていない。
 これこそが、時間操作系能力の特徴だ。

 スノシティ自身は、記憶はあるようだけれど……僕に甘えてくる理由が分からない。

 不甲斐なくて力なくて、何もできなかった一度目。
 スノシティがそれを覚えているのなら、僕に甘えたりしないで、自分だけがさっさと逃げ出すことを選ぶだろう。
 その方が絶対に楽だ。

 でも、スノシティは僕の側に来てくれた。
 手放せない。
 二度と、傷つく姿を見たくない。



 前の反省を生かして、この十三年の間はずっと動き続けた。
 そうしてようやく見つけたものは、王国史禁書庫の奥に隠されていた。

 三百年ほど昔、時を戻して歴史を変えた王がいる。

 その能力の使用を証明して、王を全面的に支持した王族と国を建て直した。
 支持した王族の能力は、記憶を保持する力。

 まるでスノシティと僕だ。

 時に関する能力を持つ王族は、その一人しか記録がない。
 国が荒れ、揺れている時に現れる能力ではないか、と当時の識者が推察していたが、僕もそう思う。

 この国は王家の血が失われれば、大地ごと枯れ果てて不毛の地となる。
 契約は、生きている。
 伝承が本当だと確信するだけの過去の事象が、禁書庫には保管されていた。

 けれども僕がこの先、愛しいスノシティ以外に触れることはない。
 決してない。

 残念ながら、スノシティに子供を産ませてあげることはできない。
 精霊の力を得ることで、肉体を一時的に改変する魔術具はあるけれど、王家の血がそれを拒むだろう。

 国王と王妃を踏み潰してしまいたくても、殺すわけにはいかない。
 王妃愛用の興奮剤を使って、二人を幽閉した先で別々に子作りを頑張ってもらうこととしよう。

 国王も王妃も。
 すでに二人とも、肉体から得られる快楽に溺れて狂っている。

 騒いだり逃げようとするなら、手足を切り落とし、目をつぶして、舌先を切り落とし、鼓膜を破れば良い。

 必要なのは子の素を作り育む生殖器と、正常に働く内臓器だけだ。
 数年のうちに、父母の違う弟か妹を二人以上、作ってもらわなくては困る。

 情報統制と根回しをどれだけしても、やりすぎということはないだろう。
 宰相と、ようやく味方につけた王家の影に「国の危機だ」と告げれば、喜んで動くはずだ。

 僕が、国が滅んでも構わないと考えていることを、彼らは理解している。

 国王と王妃に従っていれば、近いうちに国が滅びる。
 自然に弟や妹が生まれる可能性は低い。

 この国の滅亡を防ぐには、僕とスノシティを選ぶしかない。

 現国王と王妃を残して、新たな子供の出生に僅かな希望をかけるより、僕を王にして、国王と王妃を子作りに専念させる方が効率が良い。


 前の人生で、国王は僕を自分の愛玩物で性奴隷として扱った。
 従順で愛らしいものを、ただ一方的になぶるのが好きな、下衆野郎に相応しく。

 だが今の僕は、国王の目の前を飛ぶ虫。
 可愛らしいスノシティにくっつくおじゃま虫だ。

 スノシティの愛らしさに気がついてしまったことが、運の尽きだ。
 大人しくしていれば、苦しまないように終わらせてやったのに。

 執着しているくせに、スノシティの本当の名前も知らず。
 出生証明書を作成させようともしない。

 飼い殺す魂胆が丸見えだ。
 気が向いた時に犯すためだけに、閉じ込めるつもりだろう。

 国王は薬を大量に使って五感をつぶしてしまえば、女相手でもなんとかなるだろう。

 王妃は……途切れないように男を与えておくのはもちろん。
 子供ができやすいように、徹底的に日常を管理する必要がある。
 余計な薬も、不規則で堕落しきった生活も取り上げなくては。

 それにしてもお粗末な手紙だ。

 これまで王妃が国のマツリゴトに関わることは無かった。
 関われなかった。
 それを曲げてまでクチバシを挟んできたのは、時間がないと気がついたからか?

 良いだろう。
 それなら、徹底的に擦り潰してひき肉にしてやる。





 僕が生まれる前。
 国を上げての華燭の典が行われた日。

 国王は王妃の元を訪れなかった。
 王妃は護衛の騎士四人を、寝床へと連れこんだ。

 この瞬間、王妃が政治に口を出す権利は、宰相主導で凍結された。

 国王以外の男を、自由に寝所へ連れ込むことを許す。
 その交換条件として、連れ込んだ男がどこの誰なのかが全て記録された。

 権力を望むものは落とされて、仕事として割り切れるものは残された。
 王妃にとって、大切なのは男の股間のものだけ。
 誰が相手でも同じだ。

 そして記録されていたのに、男の数が多すぎて、スノシティの父親の件が把握されていなかった。

 王妃にとって、常に途切れることなく男を寝所に連れ込むことは、どんな意味があったのか。
 知る必要もない。

 僕の一番はスノシティだ。
 他はどうでも良い。
 スノシティが僕を良い王子で、良い国王になる、と信じてくれているから、それに添って動くだけだ。

 さあ、王妃と国王の駆除を始めよう。

 
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