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番外編
40 国王、王妃との決着をつける僕 後
しおりを挟む国王に見切りをつけて、僕の元へ下った王家の影を護衛として連れ、王妃の私室へ向かう。
正面からの戦いなら護衛騎士の方が強い。
けれどこれから僕が王妃に行うのは、誘拐と監禁、幽閉だ。
見つからぬように情報を操作して行動するのは、王家の影の得意分野だ。
〝王家の影〟と呼ばれる者たちは、王に従っているわけではない。
それを知ったのは数年前だ。
彼らは王国を守るためにいる。
つまり、国の存続のために王家の血筋を守っている人々だ。
僕はスノシティしか抱かない。
だから、今の国王と王妃に子を作らせる、と言ったら、意外なほどにあっさりと鞍替えしてくれた。
万が一の場合、僕を監禁してでも子作りをさせる、その選択肢を残しておきたい意図が、透けて見えた。
スノシティの子供だと、獣人が産まれるだろうからね。
その考えが、見せられているからこそ、僕も遠慮なく彼らをこきつかえる。
このままでは、この国の王家の血筋は途絶える。
忠誠の在処を間違え、泥舟と共に沈むことを望む者はいない。
彼らの国への忠誠心は、研ぎ澄まされてどこまでも澄みきっている。
さらに、今の国王は求心力がないようだ。
国王として最も望まれる仕事。
戴冠以前も以後も、子孫を一人も残していないのだから、影に見捨てられるのは仕方ないだろう。
その点、王妃は二人の子供を産んでいる。
しかも二人とも、国王の子供ではない。
濃くなりすぎた王家の血を薄めることに、成功している。
だからこそ王家の影が、王妃の幽閉に賛成してくれたのだ。
効率よくもっと生ませよう、と。
スノシティを執務室へ残したのは賭けだ。
最大の効果が見込める罠。
本当は、囮にしたくなかった。
スノシティを確保しようと、国王が動く。
動くはずだ。
心配なのは、万が一にも、スノシティが国王を手にかけてしまうことだ。
誰よりも優しい子だ。
きっと、傷つく。
王妃の送り込んできた暗殺者を相手にしてしまった時のように。
扉を叩き、名乗るだけで簡単に開かれる鰐の顎門。
音もなく滑り込んでいった影たちに、室内から怒声が上がる。
それを聞き流しながら、目の前で扉を閉めた。
僕は関わらない。
スノシティは人よりも嗅覚が鋭いから、王妃に近付くだけで移り香に気がつくだろう。
室内の侍女たちは、事前に影と入れ替えられているという話だったが、思った以上に時間がかかった。
常に何種類もの薬を常用している王妃を、用意してきた薬で昏倒させられなかったのだ。
一度、使用している薬を把握して使用量を調整する必要がある、と話し合っている影たちを尻目に、早く終われと思いつつ待ち続ける。
最終的に、怒鳴り喚く王妃を締め落としたらしい。
猿轡でもはめて引きずっていくのかと思ったのに、随分と乱暴だな。
ぷちりと踏んでも構わないと考えている僕ほどではないにしても、影たちも今の国王と王妃には、かなり思うところがあるようだ。
哀れみなど感じない。
自分で招き寄せた結果だ。
そのまま溺れてしまえ。
苛立つ僕の前に、スノシティを守るために残った影の一人がやってきた。
「国王を捕らえました」
「!」
かかった。
そう思うと同時に、意識してかぶっていた優しい王子の仮面など吹き飛んだ。
「行くぞ」
「はっ」
護衛騎士の格好で、深く礼をする影の表情が引き攣っていたのは、僕が笑っていたからだろう。
執務室に急ぎ戻った僕の前に、床に引き倒された国王と、ぐったりと倒れているスノシティの姿が見えた。
「スーは、どうした」
駆け寄りたい気持ちを抑えるだけで、吐き気がした。
大丈夫だ、取り乱すな。
「はっ、昏睡の香を嗅いで頂きました」
「そうか」
形の良い、つやめく鼻先に寄せた手のひらに、確かな呼吸を感じて、胸を撫で下ろす。
スノシティは獣人だ。
人の使う薬で、そのまま同じ薬効を得られるわけではないから、薬の使用には細心の注意を払ってきている。
「どうなさいますか」
「簡単に出入りできない場所は?」
「地下罪科人待機牢であれば、鉄格子がはめられております」
「牢、か」
「この他に、弟君の力に耐えられる設備はないかと」
計画が突然前倒しになったことで、スノシティに説明する時間が足りなかった。
どうしても、スノシティを一時的に隔離する必要があるけれど、その場所が用意できていない。
王妃と国王を排除している間に、未知の第三者の介入がないとは限らない。
貴族用の貴賓牢は金属製とはいえ扉だから、スノシティの力なら蝶番ごと壊せてしまうだろう。
埋め込まれた金属製の格子がある牢屋くらいしか、選択肢がないことに、もっと早く気がついておくべきだった。
数時間だとしても、スノシティをそんな場所に入れたくない。
僕の表情を青い顔で見ていた影が、頭を下げた。
初めて姿を見せて「この国を滅びからお救いください」と言ってきた時と同じように
「殿下の命に従い、弟君への薬の使用量は最低限です。
数時間のうちには目覚められます、お急ぎくださいませ」
怪我でも病気でもスノシティに使用する薬物は、いつでも必要なだけにしろと言ってあるが、ここでも徹底されたようだ。
今は僕を敵にする気はない。
彼らのその判断に、今は耐えることにしよう。
これが最初で最後だ。
「……牢へ運べ」
「はっ」
護衛騎士の格好に偽装した影たちが、寝台などの大型家具を運ぶ専用台車にクッションを並べて置いたものを運んでくる。
初めから牢屋しか選択肢を用意してなかったのだろう。
僕もまだまだだな。
離れるのは今だけだ。
運ばれていくスノシティを見送りながら、ずっとうめいている国王を見下ろす。
「これを運べ」
「~~~~っっ」
睨んでくる目を見返しても、嫌悪感しかない。
前の人生では〝父様〟に逆らう気力などなかったというのに。
本当に大事なものができたから、強くなったのか。
それとも、本当に大事なもの以外、どうでも良いのか。
僕は狂っている。
とても心地よい。
王族として生まれ持った能力で、発狂はできないと思っていた。
でも違ったようだ。
僕は、狂うことができた。
スノシティのために。
なんと素晴らしいのだろう。
布を口にかませて、何人もの腕で引きずるように、国王を寝室まで運んだ。
意識はあっても体が動かせなくなるように、大量の薬を国王に投与させる。
顔のすぐ前で手を振り、効果が出ていることを確認してから、護衛を四人残して、残りの影たちには身を潜めてもらった。
一応、息子から父親への親孝行、という体だけでも取り繕わなくては。
まどろむように朦朧としている国王へ、表面上は優しく穏やかに話しかける。
話している最中に、宰相や衛兵たちが駆け込んでくるだろう。
宰相には計画を前倒しにしたことも、計画の詳細も話していないけれど。
ひどく聡い上に目端の利く、あの男のことだ。
全てを見通していることだろう。
「父様」
「……」
「度重なるご苦労でお体を傷めてしまったと伺いました」
「……」
「僕は未熟者ですが、心痛を和らげるお手伝いをさせて頂きたいと考えています。
父様には療養地で過ごして頂き、僕がこの国を支えましょう」
「……」
ああ、笑ってしまいそうだ。
なんだこの下らない茶番は。
涙を堪えるように、その実、笑みに歪む口元を袖で隠したその時。
訪の声がして、何人もが室内に入ってきた。
緊急時だからと、護衛に扮した影に扉を開ける許可は事前に出していた。
宰相以下要人たちの前で、同じように国王が病に倒れたことを告げ終えるのとほとんど同時に、先ほどスノシティの送迎についていった影が駆け込んできた。
「弟君がもう目覚めて、出てこられました、こちらに案内中です!」
数時間、経ってないぞ。
……必要最小限、が少なすぎたようだ。
しかし、なんだろうな。
この天を味方につけたかのような、思い通りにいく感じは。
この国が滅びることを、国の祖である精霊王が許さないのかもしれない。
王族として死ぬまで奴隷のように隷属して、君臨せよと言いたいのか。
いいだろう。
スノシティのために、やってやろうじゃないか。
可愛いスノシティを王妃にして、この世の春の繁栄を国民に味あわせてやろう。
喜べ、歌え、踊れ。
僕とスノシティのために。
了
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