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番外編
42ー弟 王様になりたくないぼく
しおりを挟むぼくの名前はディジェテ。
精霊王の血を継ぐ伝承の残る国の第二王子で、とりあえず今のところ、第一王位継承者。
本当は第三王子だけれど、公式書類上では第二王子ということになっている。
今の王は僕の二十五歳上の兄。
兄の妻は、十八歳上の存在しないはずの兄。
しかも白い巨大な獣だ。
今年、ぼくは十六歳になり、成人の儀式を行う。
これまでは水面下に隠されていた、ぼくの本当の婚約者も発表される。
六歳下の、まったく血のつながっていない妹だ。
この妹の上に双子の妹がいるけれど、同腹であることを理由に会わせてもらった事がない。
ぼくの母親は前王妃。
でも、ぼくの父親は前の国王ではない。
妹の父親は前国王。
でも、妹の母親は前王妃ではない。
全く血が繋がっていない理由とか、前の国王と王妃がどんな人なのかとか、妹を婚約者にする理由などなど、この国の成り立ちとかいろいろ、機密を含むから誰にも相談できない。
ぼくの心のうちを話せそうな相手は、現在の国王である兄だけだ。
でも、ぼくは必要な時以外、国王の兄に近づかないことにしている。
国王の兄は、恐ろしい人だ。
この国で一番、信用してはいけない人だ。
あの、凍りついたような冷酷な瞳で見つめられて、どうして王妃の兄は平気なのだろう。
ぼくにとっての国王の兄は、ただただ恐ろしいだけの人で。
初恋の相手だと思い出すこともしたくないほど、怖い。
ぼくが国王の兄が恐ろしいと知ったのは、七歳の時。
兄たちとの初対面は三歳の時。
三歳までを過ごしたのは、王城から離れた離宮。
それまでのぼくの世界は狭くて、母親が前王妃だと聞かされてはいたけれど、周囲にいるのは乳母と護衛騎士と侍従だけだった。
初めて国王と王妃である兄たちへの顔合わせをした日。
ぼくは、二十五歳も上の国王の兄に恋をした。
乳母が連れていってくれる聖堂の精霊王さまにそっくりだったんだ。
白銀の長い髪には花飾りはついていなくて、代わりのように王冠。
精霊王さまのレリーフみたいに、ゆったりした衣も着ていなかったけれど。
とてもきれいで優しそうな人に見えて、嬉しくなった。
国王の兄も、ぼくのことを好きになってくれる。
そう信じた。
国王の兄は、優しかった。
ぼくは嬉しくて、浮かれて、会いに行くたびに兄に甘えた。
国王の兄は体格は男らしいのに、どこか性別を超えた美しさを持っていて、動きは優美で泰然としていた。
当時の僕の、一番大好き、だった。
逆に王妃の兄は、巨大な獣だった。
一目見ただけで怖いと思った。
青みがかった白銀の毛並みはきれいだったけれど、手の先の鋭い鉤爪や、口を開いた時に見える長い牙が、恐ろしげに見えた。
獣に似た頭では話す事ができないのか、ぼくに話しかけてもこなくて。
王妃の兄がどんな人なのか、ぼくは知らずにいた。
ぼくが次の国王になるための勉強をする関係で、国王の兄の元へ行く。
一度だって、王妃の獣に会う機会はなかった。
関わらなくて良いことに、ホッとしていた。
王妃が国王のそばにいないことを、何一つ疑問に持っていなかった。
勉強のために訪れているのに、思う存分国王の兄に甘えて、ぼくを好きになって、とアピールした。
ぼくの頭をなでてくれる大きな手が、すごく素敵で、ぼくが時期国王になった時には、国王の兄を王妃にしたいと思った。
それなのに。
本当に肝心な時は、国王の兄は王妃の兄を優先した。
お化けが出そうで怖いから、ぼくと一緒に寝てほしいという願いは、絶対に聞いてくれない。
邪魔してるんだ。
あの獣が。
獣が王妃だなんて。
話せもしないくせに。
そう思った。
あの獣に、ぼくの方が大事にされていることを見せつけてやろうと考えて、夜に寝所を抜け出して国王の寝室へ向かった。
事前に城内見取り図を求めた時に、どうしてその用途を聞かれなかったのか。
どうして廊下で目があった護衛に止められなかったのか、ぼくは考えるべきだったんだ。
「ぐあ゛あ゛あ゛っっ……ぎぃいいっ!」
痛々しい悲鳴が、兄の寝室から聞こえて、ぼくは怯えながら薄く開いていた扉の隙間から中を覗き込んだ。
王妃の兄が、国王の兄を痛めつけている。
そんな妄想をしながら。
「スノシティ、世界一愛しているよ」
「うんっおえも、おえもあにぃえあいしてうっ、んぎゅっぐふぅぅぅっっっ!」
自分の目が信じられなかった。
国王の兄が。
獣の兄を。
襲っている。
そうとしか見えなかった。
体格なら、王妃の兄が倍以上は重たく見えるのに、その腹の上にのしかかる国王の兄に甘えるように、長い舌を伸ばして吠えている。
人の言葉が、話せたんだ。
そう思うと同時に、手が動いていた。
普段の鈍重そうな姿からは、想像もできないほど匂い立つ淫蕩な獣の姿に、ぼくは自分の陰茎を無意識に押さえた。
じんわりとした快感に、ぼくは、よく分からなくなった。
国王の兄、獣の兄。
二人の間にぼくが入る隙間なんてないんじゃないかって。
「ぎいいぃあああっ!!」
一際大きな声が聞こえて、そして静かになる。
荒い呼吸音だけが、扉の隙間から外へ漏れ聞こえる。
再び覗き込んでみれば、国王の兄の背中に大きな傷跡があるのが見えた。
刃物で切られたような傷。
呆然としていたぼくは、気怠げに首を巡らせた国王の兄の視線が、いつの間にか扉へ向けられていて、ぼくを捉えていることに気が付いた。
汗まみれの背中、獣の兄へ全ての情熱を注ぎ込んだ後の兄の目が。
(お前じゃない、勘違いするな)
そう言っている、気がした。
そして、ぼくを見る国王の兄の目の奥が、溶けようもないほどに凍りついて冷え切っていることに、初めて気がついた。
初めて見た、口元に一欠片の笑みも浮かべていない国王の兄は、氷像の方が暖かくみえるほど、冷え冷えとして見えた。
なぜか、なんて分からなかった。
ぼくは自分が国王の兄にとって、取るに足らないどこにでもいる道具だ、と思い知らされた。
どうして寝室の扉が開いていたのか。
どうして護衛騎士が廊下にいないのか。
どうして、ぼくが一人でここまで入ってこられたのか。
なにもかも。
ぼくに王族の生き方を、国王の兄が見せようとしたからだ。
王になるのなら、間違えるなと警告されたのだ。
きちんと理解した。
ぼくが執着すべき相手は、国王の兄では駄目なのだと。
こうしてぼくは、七歳にして自慰の味と失恋の苦さを知った。
翌日には、妹が婚約者候補だと告げられた。
優しく微笑む国王の兄の目の奥が見られなくて、ぼくは目をそらした。
僕が九歳、妹が三歳になって初めて顔を合わせた時に、妹の顔が国王の兄にも王妃の兄にも似ていなくて、すごくほっとしたことを覚えている。
ぼくと、七歳下の弟のどちらか優秀な方が次の国王になるけれど、それが決まるのはもっと何年も経ってからになるだろう。
弟が立派に育ってくれると嬉しい。
あの日、王妃の兄にのしかかる国王の兄の姿を恐ろしいと思ってしまってから、ぼくは誰も愛せない気がしている。
婚約者の妹は可愛いと思うけれど、国王の兄が王妃の兄に向けるような、言葉にできないほどの重苦しい気持ちにはなれない。
国王の兄は、王妃の兄のことしか見ていない。
教育係が教えてくれたように、この国のために国王をしているのではない。
王妃の兄が獣だと糾弾されないために、国王を名乗っているだけだ。
なんて恐ろしいのか。
もしも王妃の兄が病気や怪我で亡くなってしまったら、国王の兄は全てを道連れに国を滅ぼしかねない。
それが分かるから、怖い。
王としての生き方ができそうにない僕は、弟が成人してしまえば、母である前王妃と同じように幽閉されそうな気がしている。
国王の兄は、獣の兄を王妃にするために、父親の前国王と母親の前王妃を幽閉させて、僕たち弟妹を産ませたのだと、知ってしまったから。
了
◆
お読みいただきありがとうございました
こちらでお話は終わりになります!
次話はネタバレ有りの登場人物紹介です
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