2 / 156
再会の始まり
帰郷
しおりを挟む
「ここは…」
薄らと目を開けると、辺りは薄暗く、街灯がぽつんと一つ点いていた。
もうすぐ寿命なのか、パチパチと瞬いて点滅しながら辺りを照らしていた。
「街…灯…?」
少しずつ脳のピントが合ってきた。
どうやら僕はうつ伏せで倒れているらしい。ゆっくりと四肢に力を入れて立ち上がる。
痛っ、くは無い。
こんなものは。
頭がぼんやりするな……フラフラと歩き、近くにあったベンチに体を投げ出すようにして腰掛ける。
転移の魔法の酔い方と似ていた。
「帰れたのか…」
両の手の平を開き、眺め呟く。
最期の戦いで無くなったはずの左の薬指も右の小指も、ある。
折れていたはずの肋骨も曲がった脛も、何にもなってない。
服は埃まみれだが、召喚された当時の格好だ。
拳を握り締めながら感傷に浸る。
「ああ、やっとだ。やっと…」
安全な世界に帰ってきた。
異世界に召喚されてから五年。大陸の東の端、魔王へのとどめの瞬間…までは覚えている。
「絶対嘘だと思ってた…」
魔王を倒せば帰れる、なんて脅し文句しか縋れなかった僕は、半ば嘘だと思いつつも人族に乞われて魔王討伐に旅立った。
勇者だなんだと言われながらも帰る事しか頭になかった。
だけど、道中、生贄に選ばれた亜人族の姫や、魔族と人族との混血の少女、エルフの少女達や、悲恋に悲しむ姫、数々の悲しみを見捨てることは出来ず、救いの手を差し伸べ続けた結果、気づけば五年も経過していた。
遂に魔王と対峙し、心が折れそうになりながらも死力を尽くして戦った。
そして何より苦しい時に支えあい、心を通わせた召喚当時からのパーティメンバーである神託の姫巫女たちと共に最後の魔法を……
「違う…」
いや、違った。
最期の最期で裏切られた。
最期の瞬間、全員の魔法は僕に向いていた。
「そっか…」
そうだったのか。
まあ、魔王と対となる勇者なんて、魔王を倒せば要らないものなあ。
葬るなら同時に、一息で、確実に、か…
心が通っていただなんて、あの異世界と同じでただの幻想だったのだ。良いオチじゃないか。みんな達者でな。もう会う事もないから、エールくらいは。
なんて。
「どうでも良いか…」
何せ帰れたのだ。
確か…召喚された日は初めて幼馴染の前で暴行を受けた日だったっけ。スマホを開いて日付を見ながら思い出す。
「勝ち抜きゲーム、だったか」
いじめっ子たちの要求は一人一人とタイマンして一人でも勝ったら解放だったか。何ともまあ幼稚な遊びだ。
命を張ることばかりの異世界経験のせいか、酷くちゃちな茶番に感じる。
よくもまああんなことで死んだ方がマシだなんて考えたものだ。
その結果が異世界召喚とは。
でもそんな事で死にたいなんて普通思うだろうか?
召喚の際、人族の中でも傑出した才能と現世での諦め、この二つが必要だったと説明されていた。
あー、そうか。
幼馴染寝取られもあったか。義妹との確執も。そりゃ当時の僕じゃあ仕方ないか。
だんだん思い出してきた。
高校に入学してから三カ月。確かに心が折れそうだった。入学前に振られた幼馴染の前での暴行、だったっけか。情けなくって、情けなくって、それで心にトドメ、か…
とりあえずまあ、
「うちに帰ろう」
魔王戦のせいか、パーティメンバーの裏切りのせいか、転移疲れか、ついさっきあったであろう暴行のせいか。
何をするのも酷く億劫だ。あんなに帰りたかったのに。
「まてよ」
そういえば魔法はどうなったのか。魔法はレベルに依存しない。親和度、習熟度に依存していたはずだ。
洗浄の魔法と回復の魔法をかけてみる。
淡い青と緑の光に全身が包まれた。
「使えちゃうのか…」
使えるという事は異世界での体験が夢オチでは無くなった。
つまり、もともと魔法使いが居る世界ってことか?
向こうで僕が魔法の概念に触れたから使える?
いや待てよ、似て非なるパラレル地球とかいうオチは──
一応、検証がいるか。
いや、まあ、
「ま、いっか」
立ち上がり、薄暗い空を見上げ呟く。あっちと違って随分と微睡んだ夜空だった。月だって一つしかない。
そう、なんだっていいさ。どうせ、何度も捨てた命だ。ほんの数十分前までそれこそ死力を尽くして戦っていたのだ。
なんだったらフレンドリーファイヤまでくらって死んだんだ。
死ぬことに比べりゃなんとかなる。
鞄を手にし、歩き出す。
人生なんて死ぬまでのモラトリアムだと思えば、だいたい何だって出来るさ。
異世界を救うことに比べりゃ何だって出来る。
何はともあれ。
「帰ろう」
薄らと目を開けると、辺りは薄暗く、街灯がぽつんと一つ点いていた。
もうすぐ寿命なのか、パチパチと瞬いて点滅しながら辺りを照らしていた。
「街…灯…?」
少しずつ脳のピントが合ってきた。
どうやら僕はうつ伏せで倒れているらしい。ゆっくりと四肢に力を入れて立ち上がる。
痛っ、くは無い。
こんなものは。
頭がぼんやりするな……フラフラと歩き、近くにあったベンチに体を投げ出すようにして腰掛ける。
転移の魔法の酔い方と似ていた。
「帰れたのか…」
両の手の平を開き、眺め呟く。
最期の戦いで無くなったはずの左の薬指も右の小指も、ある。
折れていたはずの肋骨も曲がった脛も、何にもなってない。
服は埃まみれだが、召喚された当時の格好だ。
拳を握り締めながら感傷に浸る。
「ああ、やっとだ。やっと…」
安全な世界に帰ってきた。
異世界に召喚されてから五年。大陸の東の端、魔王へのとどめの瞬間…までは覚えている。
「絶対嘘だと思ってた…」
魔王を倒せば帰れる、なんて脅し文句しか縋れなかった僕は、半ば嘘だと思いつつも人族に乞われて魔王討伐に旅立った。
勇者だなんだと言われながらも帰る事しか頭になかった。
だけど、道中、生贄に選ばれた亜人族の姫や、魔族と人族との混血の少女、エルフの少女達や、悲恋に悲しむ姫、数々の悲しみを見捨てることは出来ず、救いの手を差し伸べ続けた結果、気づけば五年も経過していた。
遂に魔王と対峙し、心が折れそうになりながらも死力を尽くして戦った。
そして何より苦しい時に支えあい、心を通わせた召喚当時からのパーティメンバーである神託の姫巫女たちと共に最後の魔法を……
「違う…」
いや、違った。
最期の最期で裏切られた。
最期の瞬間、全員の魔法は僕に向いていた。
「そっか…」
そうだったのか。
まあ、魔王と対となる勇者なんて、魔王を倒せば要らないものなあ。
葬るなら同時に、一息で、確実に、か…
心が通っていただなんて、あの異世界と同じでただの幻想だったのだ。良いオチじゃないか。みんな達者でな。もう会う事もないから、エールくらいは。
なんて。
「どうでも良いか…」
何せ帰れたのだ。
確か…召喚された日は初めて幼馴染の前で暴行を受けた日だったっけ。スマホを開いて日付を見ながら思い出す。
「勝ち抜きゲーム、だったか」
いじめっ子たちの要求は一人一人とタイマンして一人でも勝ったら解放だったか。何ともまあ幼稚な遊びだ。
命を張ることばかりの異世界経験のせいか、酷くちゃちな茶番に感じる。
よくもまああんなことで死んだ方がマシだなんて考えたものだ。
その結果が異世界召喚とは。
でもそんな事で死にたいなんて普通思うだろうか?
召喚の際、人族の中でも傑出した才能と現世での諦め、この二つが必要だったと説明されていた。
あー、そうか。
幼馴染寝取られもあったか。義妹との確執も。そりゃ当時の僕じゃあ仕方ないか。
だんだん思い出してきた。
高校に入学してから三カ月。確かに心が折れそうだった。入学前に振られた幼馴染の前での暴行、だったっけか。情けなくって、情けなくって、それで心にトドメ、か…
とりあえずまあ、
「うちに帰ろう」
魔王戦のせいか、パーティメンバーの裏切りのせいか、転移疲れか、ついさっきあったであろう暴行のせいか。
何をするのも酷く億劫だ。あんなに帰りたかったのに。
「まてよ」
そういえば魔法はどうなったのか。魔法はレベルに依存しない。親和度、習熟度に依存していたはずだ。
洗浄の魔法と回復の魔法をかけてみる。
淡い青と緑の光に全身が包まれた。
「使えちゃうのか…」
使えるという事は異世界での体験が夢オチでは無くなった。
つまり、もともと魔法使いが居る世界ってことか?
向こうで僕が魔法の概念に触れたから使える?
いや待てよ、似て非なるパラレル地球とかいうオチは──
一応、検証がいるか。
いや、まあ、
「ま、いっか」
立ち上がり、薄暗い空を見上げ呟く。あっちと違って随分と微睡んだ夜空だった。月だって一つしかない。
そう、なんだっていいさ。どうせ、何度も捨てた命だ。ほんの数十分前までそれこそ死力を尽くして戦っていたのだ。
なんだったらフレンドリーファイヤまでくらって死んだんだ。
死ぬことに比べりゃなんとかなる。
鞄を手にし、歩き出す。
人生なんて死ぬまでのモラトリアムだと思えば、だいたい何だって出来るさ。
異世界を救うことに比べりゃ何だって出来る。
何はともあれ。
「帰ろう」
6
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる