異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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再会の始まり

誕生

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| 藤堂 京介


 愛香から今朝あった葛川動画と未羽の主張のあらましを聞いた。


 なんだ。

 という事はあの未羽ウロウロは心配しての未羽ウロウロだったのか。

 良かった。

 もし万が一、刺されたらどうしようかと思っていた。そんなことされたら例外なく躱してカウンターで沈めてしまう。

 義妹をカウンターで仕留めたら突発的に警察に駆け込みそうだ。

 お巡りさん、僕がやりました、と。

 あ、でも回復魔法があった。良かった。いや、義妹仕留めちゃダメだろう。

 それと、どうにも動画は葛川と手下たちが寄って集って僕を殴り、それを愛香が笑って見ている、みたいな編集がされていたようだった。

 愛香曰く、そんな事をした愛香を僕に近づけさせない! と未羽に宣言されたらしい。


「…あの、未羽ちゃんとは…その」

「さっきみたいに事故だよ。すぐに出ていったよ」


 そのあと顔射写真を見せつけてきたらしい。

 なんでだよ。

 なんで自撮りしてるんだよ。

 近づけさせないことと、顔射写真が全然繋がらないよ。どんな牽制の仕方なんだよ。

 異世界すぎる。


 …僕、勇者だったからなあ。

 女の子同士の確執みたいなものとは無縁だった。何せ異世界からわざわざ招いた英雄だからか、そういった人間関係の煩わしさは極力隠されていたようにされていた、と思う。

 だいたいは娼館のプロの方々ばかりだったし。無理やりというか、酷いことはしてこなかったと思うけど…ちゃんと瞳の色も確認してたし。

 まあ冤罪は何件かあったけど。

 強者が幅を利かす異世界だったけど、いくら僕が人族最強とはいえ、自ら望んでことを起こすことはなかった。まあ懇願されたら断れなかった。

 仕方ないね。

 避妊魔法に頼り切りだったね。


「…未羽ちゃんには気をつけ…ううん、なんでもない」

「未羽? ああ、ちゃんと話してみるから大丈夫だよ」


「いや、そういうんじゃなくって…」


 まあ、いくら近づけさせないためとはいえ、そんな写真を撮って見せつけてくるくらいだからなあ。

 仲が悪いとは言え心配なのだろう。

 アタマの中が。

 愛香も何か、こう、庇うような態度だし、僕も義妹のそんな思考回路にはかなりの不安を感じるし、一度話し合った方が良いだろう。

 未羽の心境も今は確認出来ないのだからまずは置いておこう。

 動画で葛川のやりたい事はわかった。

 そんな事考えてたのか。五年前は分からなかったな。まあ、わかったところで…特に問題ないか。


「愛香が欲しいから僕を使って、愛香の心を弱めて、自分に向けさせる。けど、ネタがわかれば単純だ。無視すれば良い」

「うん。でも…私の態度が変わらないと京ちゃんがまた傷付いちゃう…。傷つけてきたわたしが言うのは変だけど…」


 シュンとした愛香の肩をそっと抱き寄せる。愛香の頭を僕の肩と頬で挟む。愛香はこれが好きだったなと思い出した。


「僕は大丈夫だよ」

「……」


「だから自分が犠牲になるなんて思わないでね。僕としては愛香が嬲られる方が辛いし」

「京ちゃん」


 魔王戦のあと、裏切りと燃え尽き症候群とで、落ち込んでたけど、愛香の可愛いところを見て吹っ飛んだよ。

 ありがとうね。


「ね、愛香。ずっと僕の気持ちを疑ってなかったよね。今回も、信じてくれないかな」

「でも…京ちゃん、ただの暴力とか嫌いだろうし」


「いやぁ、あはは、はは…」

「京ちゃん?」


 あんなの暴力なんかに入らないよ。まあ、昔からそういう野蛮なとこは愛香には見せたくなかったからなあ。

 昔から何故かよく絡まれるんだよね、僕。でも愛香が引越してきた時、そういうの嫌いってはっきり言ってたし。

 それからは極力見せないようにしてきた。


「いや、そうだよ。好んで暴力なんて使わないよ。ただ、そうだね。情けをかけると取り返しがつかないのは知ってるから…うん。なんとかするね」

「…?」


 そう、野盗に慈悲など無意味だ。躊躇していたら無辜の民が傷ついてしまう。

 僕は人族の英雄だったけど、必ずしも敵は魔王の眷属というわけではなかった。

 世界が、平和が、魔王に脅かされているのにも拘らず、どうしようもない人がどうしてもいる事実はあった。そして躊躇すれば守りたいものが守れない事も、知ってしまった。

 これは僕の後悔だ。

 最初は苦しんだんだっけ。ああ、アートリリィが寄り添ってくれたんだったな。それからは救いを求める声には応えずにはいられなくなってしまった。
 まあ、ある種の強迫観念だと思う。今も多分そうだ。

 救えなかったあの娘達を重ねてしまう。

 瞳の色を見ながら言葉に魔法を乗せる。ティアクロィエに聞いた商人のやり方だった。ごめんね。


「"一度だけ/信じてみて"」

「……わかった。信じる」


 なんとか納得してくれたかな。

 錯乱したときはどうしようかと思ったけど、良かった。良かった。


 ホッとしていたら愛香が何やら懺悔し始めた。


「……そう、…京…ちゃんは、昔のままの温かさだった。酷いのはずっとわたしだった。信じてたのに、信じていたからこそ、信じられないことをわたしはしてきた…。京ちゃんの気持ちは知っていた。知っていて、弄んで、気持ちよくなっていた…。自分が気持ちよくなるために京ちゃんをずっと利用してきた…

京ちゃん。さっきも言ったけど、好きです。でも、今更付き合ってなんてことは言えない。返事はまだしないで欲しい。今からわたしが苦しめた分、ううん、それ以上に精一杯尽くすから見ていて欲しい。わたしが出来ることならなんだってする……そして最後には京ちゃんに選んで欲しいからわたし、うん、そうだ! 頑張るね!」

「愛香…」


 憑き物が落ちたかのようなスッキリとした笑顔を僕に向けてくれた。

 そうだ。

 なんとなく昔の、そう、義妹ができる前の。

 あの頃の愛香と重なって見えた。


「あ、でもでもなんであんなにえっちがうまいかはしりたいかな? かな?」


 違った。
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