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生贄の対価
生贄2 - ナデポ
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| 初芝 朋花
結局、愛香は学校に来なかった。SNSも沈黙していた。
下校途中に寄り道もせず帰宅する。ミーとマーヤとは駅で別れた。
元々は葛川達に万が一にでもバレないようにとイメチェンしただけで、根は真面目なのだった。
高校3年間かけて立派なギャルになるつもりだった。
…立派なギャルってなんなの。
そもそもギャルが本当はなんなのかすらわかってない。興味もない。これじゃあ見抜かれるからきちんとギャルをしないといけない。ギャルをするってなによ。
バカみたい。バカで良いのか。いや、偏見か。
「はぁ」
でも今日は無理だった。葛川達もイライラしていて、だれが言うでもなくバラバラに帰っていった。
ふー、落ち着け私。電車に揺られ、窓から風景を眺めながら心を整える。定期的に電柱がリズムよく現れては消えるを繰り返す。ドラムンベースが合いそう。
ボーっと眺めてしまう。
いけない。
優先順位を間違えてはいけない。決定的なシーンを撮るまでは、愛香には潰れられたら困る。仕切り直しだ。
とりあえず個別で連絡しておこう。私に依存してもらうのも有りだし。
そんな事を考えていたら愛香から連絡が来た。
「うちの近くの公園に居てる…?」
最初に思ったのは何故? だ。
家には何回か来たことがある。もちろん女子だけだ。
私は私の履歴を消す為に、中学を出てから1人暮らしだった。そもそも愛香は昨日の動画は知らないはず。幼馴染の藤堂も見てないはずだ。下出のそういうところは信じている。
では何故?
「行ってみっか」
ギャルに偽装し直し呟く。もし参っていたら予定通り傀儡にすれば良いしー。もし参ってなければ、動画の件で動揺させれば良いしー。
なんだ。びびって損した。
高圧的に、上から目線でいこう。
◆
家の近くの公園。閑散とした公園だが、奥まったところに、唯一目印になり得る大きな木があり、愛香はその木にもたれかかって待っていた。
「あ、朋花ちゃん」
「愛香、今日なんであんたサボったの?」
開幕一発目に主導権を握るために高圧的に喋る。…こいつはやっぱり一級品だ。さしずめ、今日は彼服コーデか。めちゃくちゃかわいいじゃない。
「……それ、朋花ちゃんが知ってるんじゃない?」
「っ、なんで私が、そんなことを」
知っている? なにを? 動画か? 何故愛香が知ってる? 下出のミス?
いつもニコニコとしていたが、今日はなんだ。ニコニコとはしているが、薄ら寒い笑い顔に見えるからか動揺してしまった。
本当にこいつはあの成瀬愛香か?
「動画」
「!」
「持ってるんでしょ?」
やっぱり、こいつは動画を知っていた。恐らく内容も。どう言えばいい。私が欲しいのは生贄。依存先は葛川か、わたし。これが優先順位。
しかも愛香は一級品だ。葛川に靡いていないこいつが、葛川にしか逃げ場がないとなれば、絶対に何かが起こる。こんなわかりやすい生贄、他にない。落ち着け私。
「何の話?」
「どう? 京ちゃん」
「代ろう」
木の裏から男が出てきた。
小洒落た服を着て、清潔感に溢れたえらく格好の良い男だった。黒髪を丁寧に流し、背は平均より高く、身体は細マッチョ。京ちゃん? 知らない男だ。
「誰よ、あんた?」
「はは。嫌だな、初芝さん。藤堂だよ」
……こいつがあの藤堂? ふざけんな。いつもと全然違うじゃない! そもそもこいつら繋がってた? 下出の話とも違うじゃない! こいつに愛香が依存すると目的が達成出来ない? どうする? いや、まだ大丈夫なはずだ。
「藤堂…何、あんた」
「初芝朋花、氷川小、紫原中出身、中学の時の部活は、ボランティア部」
返答もせずに藤堂は淡々と語り出した。
藤堂の目なんて初めて見た。目はまっすぐこちらを見ているが、なんだ? 見ていない?
こいつも昨日までの藤堂じゃない。
いや、そうか。調べたのか。私なんて誰も見向きもされなかった人間だ。なのに…いったい誰から…、いや、そもそもなんで私を調べる?
「…それが何? 昨日の仕返し? うざ」
「小学生の頃から、口数の少なく、いるかどうかも、わからなくなる、目立たない子だった」
それがどうした。なんだ? まだ続けるの…ぇ?……なんで知っている?
「そんな子に、唯一、笑い合う、友達が、一人いた」
まさか、まさか、まさか、こいつそこまで調べたのか!
「…や、めろ」
「その子の名は…」
「やめてって言ってるじゃない!!」
私以外があの子の名前を口にするなっ!
「うん。じゃあ、止めるよ」
「やめっ、え?」
「大事なんでしょ。その友人が」
「……うん」
それには、私は嘘をつけない。止めてくれるなら、それでいい。藤堂もなんとなくホッとしている。
「今日は別件だよ」
「……?」
「最初に愛香が言ったじゃないか。初芝さん、聞いてなかったの?」
「…動、画、」
「そうそう」
よく出来たね、なんて口にして頭を撫でてくる。
いつの間に近づいたのかわからない。
力が入らないから払えない。
気持ちいいから払えない。
なんで? 頭が痺れてるのはいろんな事があったからなの?
気持ちいい。
入学して三か月、どうやら相当追い込まれていたらしい。気づかなかった。
気持ちいい。
人の温もりも久しく忘れていた…
気持ちいい。
抗えない…
本当にこいつはあの藤堂なの? こんなに屈託なく笑う、のね…なんか毒気が抜けちゃった…ああ、私、一人で寂しかったんだ…
気づけば抱きしめられていた。
「そうだね、いろいろ含めて…お家にお邪魔しても良いかな?」
私を見て、ニコりとした藤堂に、私はコクコクと黙って頷くしか出来なかった。
「京ちゃんのナデポチート野郎」
その様子を見ていた愛香は不貞腐れながらそう呟いた。
結局、愛香は学校に来なかった。SNSも沈黙していた。
下校途中に寄り道もせず帰宅する。ミーとマーヤとは駅で別れた。
元々は葛川達に万が一にでもバレないようにとイメチェンしただけで、根は真面目なのだった。
高校3年間かけて立派なギャルになるつもりだった。
…立派なギャルってなんなの。
そもそもギャルが本当はなんなのかすらわかってない。興味もない。これじゃあ見抜かれるからきちんとギャルをしないといけない。ギャルをするってなによ。
バカみたい。バカで良いのか。いや、偏見か。
「はぁ」
でも今日は無理だった。葛川達もイライラしていて、だれが言うでもなくバラバラに帰っていった。
ふー、落ち着け私。電車に揺られ、窓から風景を眺めながら心を整える。定期的に電柱がリズムよく現れては消えるを繰り返す。ドラムンベースが合いそう。
ボーっと眺めてしまう。
いけない。
優先順位を間違えてはいけない。決定的なシーンを撮るまでは、愛香には潰れられたら困る。仕切り直しだ。
とりあえず個別で連絡しておこう。私に依存してもらうのも有りだし。
そんな事を考えていたら愛香から連絡が来た。
「うちの近くの公園に居てる…?」
最初に思ったのは何故? だ。
家には何回か来たことがある。もちろん女子だけだ。
私は私の履歴を消す為に、中学を出てから1人暮らしだった。そもそも愛香は昨日の動画は知らないはず。幼馴染の藤堂も見てないはずだ。下出のそういうところは信じている。
では何故?
「行ってみっか」
ギャルに偽装し直し呟く。もし参っていたら予定通り傀儡にすれば良いしー。もし参ってなければ、動画の件で動揺させれば良いしー。
なんだ。びびって損した。
高圧的に、上から目線でいこう。
◆
家の近くの公園。閑散とした公園だが、奥まったところに、唯一目印になり得る大きな木があり、愛香はその木にもたれかかって待っていた。
「あ、朋花ちゃん」
「愛香、今日なんであんたサボったの?」
開幕一発目に主導権を握るために高圧的に喋る。…こいつはやっぱり一級品だ。さしずめ、今日は彼服コーデか。めちゃくちゃかわいいじゃない。
「……それ、朋花ちゃんが知ってるんじゃない?」
「っ、なんで私が、そんなことを」
知っている? なにを? 動画か? 何故愛香が知ってる? 下出のミス?
いつもニコニコとしていたが、今日はなんだ。ニコニコとはしているが、薄ら寒い笑い顔に見えるからか動揺してしまった。
本当にこいつはあの成瀬愛香か?
「動画」
「!」
「持ってるんでしょ?」
やっぱり、こいつは動画を知っていた。恐らく内容も。どう言えばいい。私が欲しいのは生贄。依存先は葛川か、わたし。これが優先順位。
しかも愛香は一級品だ。葛川に靡いていないこいつが、葛川にしか逃げ場がないとなれば、絶対に何かが起こる。こんなわかりやすい生贄、他にない。落ち着け私。
「何の話?」
「どう? 京ちゃん」
「代ろう」
木の裏から男が出てきた。
小洒落た服を着て、清潔感に溢れたえらく格好の良い男だった。黒髪を丁寧に流し、背は平均より高く、身体は細マッチョ。京ちゃん? 知らない男だ。
「誰よ、あんた?」
「はは。嫌だな、初芝さん。藤堂だよ」
……こいつがあの藤堂? ふざけんな。いつもと全然違うじゃない! そもそもこいつら繋がってた? 下出の話とも違うじゃない! こいつに愛香が依存すると目的が達成出来ない? どうする? いや、まだ大丈夫なはずだ。
「藤堂…何、あんた」
「初芝朋花、氷川小、紫原中出身、中学の時の部活は、ボランティア部」
返答もせずに藤堂は淡々と語り出した。
藤堂の目なんて初めて見た。目はまっすぐこちらを見ているが、なんだ? 見ていない?
こいつも昨日までの藤堂じゃない。
いや、そうか。調べたのか。私なんて誰も見向きもされなかった人間だ。なのに…いったい誰から…、いや、そもそもなんで私を調べる?
「…それが何? 昨日の仕返し? うざ」
「小学生の頃から、口数の少なく、いるかどうかも、わからなくなる、目立たない子だった」
それがどうした。なんだ? まだ続けるの…ぇ?……なんで知っている?
「そんな子に、唯一、笑い合う、友達が、一人いた」
まさか、まさか、まさか、こいつそこまで調べたのか!
「…や、めろ」
「その子の名は…」
「やめてって言ってるじゃない!!」
私以外があの子の名前を口にするなっ!
「うん。じゃあ、止めるよ」
「やめっ、え?」
「大事なんでしょ。その友人が」
「……うん」
それには、私は嘘をつけない。止めてくれるなら、それでいい。藤堂もなんとなくホッとしている。
「今日は別件だよ」
「……?」
「最初に愛香が言ったじゃないか。初芝さん、聞いてなかったの?」
「…動、画、」
「そうそう」
よく出来たね、なんて口にして頭を撫でてくる。
いつの間に近づいたのかわからない。
力が入らないから払えない。
気持ちいいから払えない。
なんで? 頭が痺れてるのはいろんな事があったからなの?
気持ちいい。
入学して三か月、どうやら相当追い込まれていたらしい。気づかなかった。
気持ちいい。
人の温もりも久しく忘れていた…
気持ちいい。
抗えない…
本当にこいつはあの藤堂なの? こんなに屈託なく笑う、のね…なんか毒気が抜けちゃった…ああ、私、一人で寂しかったんだ…
気づけば抱きしめられていた。
「そうだね、いろいろ含めて…お家にお邪魔しても良いかな?」
私を見て、ニコりとした藤堂に、私はコクコクと黙って頷くしか出来なかった。
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その様子を見ていた愛香は不貞腐れながらそう呟いた。
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