異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

墨色

文字の大きさ
67 / 156
アレフガルド - ハヌマット大森林

咲守の姫

しおりを挟む
| エレンカレン


「あー!!もうっ!また上手くいかない…」

「はー。姫って、ほんっと不器用だよな…」

 
 ゆったりとした椅子に腰掛けながら、わたしは小さな頃から苦手だった弓を自作していた。また上手くいかない……

 いつものように幼馴染のメルロスに揶揄われる。こいつの溜息もいつも通りだ。だから昔から嫌だったのに…


「るっさい!」

「エレンの性格じゃないかしら?」

「昔からだよな」


 もう一人の幼馴染、ララノアもチクリと刺してくる。

 だいたい君ら二人が! いつもいつも出来なかったら絡んでくるからでしょ!私はこういうチマチマした事が苦手なの! だいたい早く終わったら終わったでいっつも邪魔してぇ。ぐぁあああ。


「寄って集ってなんだよ。ララノアもメルロスも二人してさあ……あ、わかった。妬いてるんだ! 妬いてるんだねえ。そっかそっか。妬いてるんだってー格好悪いよねー聖木の咲守なのにねーこうなっちゃダメだから、ねータウロー?」


 わたしはお腹を撫でながら語りかける。あ、蹴ってきた。荒んだ心がじんわり癒される。

 えへへへへ。


「違うわよ!あなたがちゃんとしないからでしょう!」

「ガサツで、大雑把で、無計画で、不器用なのは事実だろ!はー。なんで勇者様の子はこいつにしか…」


 やっぱりそれじゃん。なんか妊娠がわかってから圧がすごいんだよ。ただでさえ妊娠期間が長いってのに! 二人してネチネチネチネチネチネチ…でも負けないよ! なんてったって、お母さんだからね!


「あーはいはい。嫉妬おつでーす。いいじゃない。わたしはあの一夜だけでしょ? あなた達は好きな時に好きな奴と好きなだけぎったんばっこんして作れば良いじゃん」

「もうしないわよ! しても忘れられないことを自覚させらせて終わってから後悔しか残らないからもうできないのよ!」

「え? ヤッたのか?」


 あーララノア試したんだ…誰だろフィアロスかな? 仲良かったし。ふふ。薄そう。


「るっさいわねー。胎教に良くないからちょっとは静かにしてよねっ! もし流れたら勇者様に申し訳ないじゃないっ!」

「ごめん」

「ごめんなさい」


 そうだよ! 流れたらどうしてくるんだ! ほんとにもうっ! 実は結構不安なんだからね!

 まあ、二人はそんな心配を和らげるようにいつも通りにしてるんだろうけど。

 まったく素直じゃない。いい友人達だ。


「でも、本当なんでなんだろうね?」

「ちゃんと計算しましたのに」

「ちゃんと逆算したのに」


「…そんなことしてたの?」

「あなたみたいな考え無しとは違うんです! きっちり確実に狙いましたのに…」

「一番アホな姫が当たるってどんな罰なんだよ」


 やっぱりこいつら許さーん!


「ぐぬぬぬ……一番アホって何よ! 咲守の姫たるわたくしに対してなんと不敬ことを!」

「急に姫ムーブすな! 弓が出来る気配すらしないからだろ! 三ツ頭なんて子供がするもんだぞ、これ!」

「姫なのをいいことに昔から人にやらせてましたわね」


 こいつら~また馬鹿にしてぇ! でもまあいいわ。ふっふーん。せいぜい悔しがるといいわ。


「あー多分あれだよ、あれ。妊娠してるからだよ。経験ない? あ、ない? ないかー。あ、ごめんね? えっとねー。なんか集中出来ないっていうかー。お腹ゴロゴロ蹴ってくるからほっこりするっていうかー」

「くっ、腹立つ! あなたが弓作りを教えてほしいって頼んできたのでしょう! 子供に自ら教えたいからって!」

「うぜぇ、こいつ……出産したあと覚えとけよ。…つーか本当に何したんだ? どう考えてもおかしいだろ」


 しつこいなぁ。ララノアもメルロスもわたしみたいに素直で良い子じゃないからじゃない?そうだよ! 意地悪だからだよ絶対!


「んー? みんなと一緒だよ? いつかの宴会のあとにー。抜け出してー。勇者様の寝所にー。入り込んでー。起きてた勇者様にー。お願いしただけー」

「詳細を」

「大雑把なんだよ」

「え───」


 あの夜のことは昨日のことのように思いだせる。人生の一番勝負だった。

 月明かりの下、聖木の葉で身体を清め、森に慣らし。

 薄く透き通るアラクネの絹のヴェール、婚姻の証だけを装備し。

 心臓が口から飛び出すくらいドキドキしながら勇者様にお情けをお願いした。

 もう京介様ったら。あんなに激しく…うえへへへへ。


「詳細ー? んー…仕方ないなあ。ぅほん! ………ハヌマット大森林の中央、聖木の咲守たる我々アグラリアンの住まう聖なる森。そのウロのひとつに、今まさに契り合おうとする一組の男女がいた。透き通る夜の森の香りの漂う中、シムルグの柔らかい羽毛の上、裸で抱き合い、見つめ合う二人。清涼なる月明かりが青白い膜で肌を包みこむようにして、まるで……」

「おい、なんか始まったぞ」

「ま、気持ちはわかりますわ。腹立ちますけど」


「……あぁ! その時、勇者様はおっしゃった! 君の姿はまるで彼の地にて伝説とされるゴーホーローリーの化身……」

「これ、ずっと聞くのか?」

「一応詳細ではありますし…」


「……勇者様の濡れた黒曜の瞳に映る紅潮した、わたくしの頬。恥じらいを誤魔化すかのように食べさせ………あっ」

「おい、今何食った」

「エレン、…何食べましたの」


「……いや、何も? ちょっと…だけ? アラグデァアの実っていうか? 景気付けに? みたいな? あははは…」

「こいつ……勇者様に盛りやがった」

「最っ低ですわ」


「だってぇ! 一番ちんちくりんな私なんか抱いてくれるか心配だったんだもん!」

「もん、じゃねーよ! 世を救う勇者様に媚薬盛るとか何考えてんだ! 里でも禁止されてたヤツだろ!」

「アラグデァアの実を……?」


「そこは大丈夫っ! 私も食べたから!」

「アホか! 罪重ねんじゃねーよ! 余計悪いわ!」

「…待って。あれ、たしか乱魔の効果もあるから儀式以外禁止されてて…魔力を乱した? 勇者様は私達より魔力の操作に長けていたけど大森林の植生耐性はそこまででもな…あー! 絶対それですわ!!」


「でも勇者様、平気みたいだったよ?」

「あなたも服用してたからでしょ!」

「二人してあっぱーになってるからじゃねぇか! あの時そうすればよかったのか…」


「あ、それは無理だったよ」

「なぜですの」

「まだいっぱいあっただろ」


「だって、お土産に姫巫女様に在庫全部あげちゃったし」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...