異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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幕間 - 苛烈な魔女の森

苛烈な魔女

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音野おとの 宇御うみ


「はー…」

「うみうみ、溜息つくなよ。しかも聞いても答えないやつだろ、それ。やめろ」

「そだよ。ちょ~ウザい」


 昨日から憂鬱なんだよ、察しろ。って言ってもなあ。二人には当たれないし。やっぱり当たるのは、はるはるしかないか。


「ああ、ごめんなさいね」

「…休日なのに清楚モード? …いいわ。合わせてあげる」

「うーん? じゃあ、わたしも~…宇御さん、それ鬱陶しいです~」

「なんとなく馬鹿にされた感じがします。やめてください」


 土曜日のおやつの時間。

 今日は友達三人で出掛けていた。


 私達三人はそれぞれ魔女だなんて呼ばれている。気に入っているのはだいたい厨二な子だ。はるはるとか。れんれんとか。

 私は気に入ってない。

 どうやっても京介さんとラブロマンスになりにくい。


 王子と魔女なんて魔女が騙す以外ねーだろ!

 魔女呼びは中学生になった頃から呼ばれ出した。敵対したらバレないように相手を追い詰めて最後まで手を抜かず追い込むところからやり過ぎだと噂され始まった。

 長さやまとめ方は違うが、全員黒髪ストレートの部分を誇張され名づけられた。

 そもそもだいたい、いじめの標的や喧嘩を吹っかける方が悪いし、ましてや京介さんと逢えなくてむしゃくしゃしている時に限って嫌がらせしてくる方が悪い。


 誰が魔女だ。

 ただの美少女だっつーの。

 魔女同士はたまたまやられた相手が一緒だったり、たまたまやり返している最中に出会ったりとかで知り合った。そこに全員が京介さんに出会っていたことから互いの恋の思い出や愚痴を言い合ったりして知り合っていった。


 そして成瀬愛香と円卓。あいつらに漏れなく全員邪魔されていた。

 そこからは互いの結束が固まり、仲の良い友達になった。色違いのお揃いのリボンがその証になった。

 私は姫カットに孔雀青のリボンをサイドに付けている。ああ、昨日ふざけたことを抜かしやがったはるはるは、青緑のような青磁のリボンだ。

 今日は黒髪ロングを肩の下あたりで唐紅リボンでまとめた御堂杏樹みどう あんじゅと、黒髪サイドポニーに金糸雀リボンをあしらった五十嵐蘭華いがらし らんかと出掛けていた。


「ねえ」

「知ってますわ」

「つけられてますね~」


 はー、むしゃくしゃしてる時に面倒な。またナンパか…一見大人しそうだし背もそれなりにあるしな、うちら。

 スタイルいーし。

 中身は全然違うけど。


「みなさん持ってますか?」

「ええ、出力は最大です」

「ICもブザーもカメラもばっちりです~」


 なら大丈夫か。私は一度周りを見渡し状況を把握する。最悪な時の逃げ道も探しておく。

 こういう時は私が応対し、蘭華が俯瞰する。杏樹は喋るとまずい。ぶち殺すって絶対言う。


「ねえ、ねえ、君たち暇? 暇だよね? 良かったら俺らと一緒に遊ばない? いいよね」

「そーそー、一緒に楽しいとこ行こうぜ」

「人数もぴったりだし」


 はー。テンプレかよ。暇じゃないし、遊ばないし、楽しくないし、ぴったりとか関係ないし。


「いえ、私達、今から行くところがありますので、結構です」

「いーじゃん。ちょっとだけだからさ」 

「お金も出すしさ」

「そーそー何も気にしなくて良いし。ね。決まり」


 はー。猿かこいつら。人の話し聞けや。あ、じゅじゅが震えてる。こいつら死んだぞ。


「あの、本当に結構ですから」

「ちっ、いいから行くぞ」

「下手にでてりゃ良い気になりやがって」

「お前らも面倒いやだろ? ちっと来いって」


 はー。こいつら何回溜息つかす気だよ。ほんっと猿は救い難い。恫喝するまで早いっつーの。

 この早漏短小が。


「いい加減に…」


「あら、私達の後輩に何か御用ですの?」

「中学生相手にマジナンパですか?」

「なかなかだせえ事するな」


「ああ"?おー、お! 何々? 超可愛いじゃん。何々? 後輩なのこの子達」

「君たちでもいいぜ。後輩見逃すから相手してくれよ。見逃さないけど」

「そーそー連帯責任ってやつ。楽しくなってきた」


 はー。ここに円卓か…和光エリカ、東雲詩乃、秦野純。うちらの中学の先輩だ。

 あ、そうだ。成瀬愛香の件、こいつらは知ってんのか?


「久しぶりですわね。音野さん」

「ええ、和光先輩」

「今日はどちらまで?」

「こんにちは東雲先輩。特に決まってはいませんでしたが、三人でお茶でも、と」


 いや、この和光と東雲のこの落ち着きよう…多分知らないな。円卓には京介さんと同じ高校のやつが居たはず。

 掻き乱してみるか?


「なに無視してんの?俺らあれだよ?亀工だよ?」

「そーそー、悪いことは言わないから着いてきなよ。無理矢理とか萎えるし」

「六人か。へへ、楽しみじゃん」


 はー。今大事なとこなんだから猿は黙ってマスでも掻いてろや!計算狂うだろ!…よし。


「そうだ! 良ければご一緒しませんか、先輩」

「…森と…お茶ですか?」


「ええ、是非…ご相談したい事がありまして」

「宇御さん、私達は聞いてないのですが」

「そうですよ」
 

 そりゃ今決めたからな。

 はるはるの落ち込みようはいつもと違ってた。写真には写らない現場の空気をダイレクトに浴びたからだろう。

 ただ私には写真を見てもそこまで大事件に感じなかった。腹は立つが、京介さんも笑顔だし。くらいだ。

 笑顔が素敵すぎて、成瀬愛香はあまり気にならない。ただ、そのはるはるとの温度差で憂鬱なんだよ。

 でも円卓なら何かわかるんじゃねーか?


「今日の私の憂鬱の答えです」

「音野さんが、憂鬱になるくらい…ですの?」


「珍しいな。音野が憂鬱なんて」

「はー、和光先輩はともかく、秦野先輩ってやっぱりアレですね~」


「何、五十嵐、言うじゃん」

「蘭華さん。そこまで。杏樹さん、いいですか?」


「…わかりました。行きましょう」


 よし、この辺りならファミレスか。あ? まだ諦めてねーのかよ。仕方ねーな。


「お前ら!さっきから無視すん、に"ゃっ!」

「あ、てめぇ! 何してん、でゃわっ!」

「なんなんだこいつ、り"ゃっ!」


  すれ違い様に杏樹と蘭華と私がスタンガンをさらっと猿に当てる。


「では参りましょうか。先輩方」


 猿はそこで跪いて、見ざる聞かざる言わざるでもしてろや。マスでも掻いてろ。


「相変わらず苛烈ですわね」

「そうでもありません。……嗜み、です」


 無力だと京介さんにまた迷惑かけるからな。

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