異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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アレフガルド - ビンカレア王国 王宮

いっつも身代わり姫

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| アムラルリ-ジル-ビンカレア


「ふふふ」

「今日はまた一段と機嫌がよろしいですな」


 日に日に成長する愛しい我が子を思うと、それはそれは機嫌も良くなる。


「だってお腹蹴ってくるんだもーん」

「それは良い。足の速い子になりそうだ」


 今日はまた一段と元気だ。早く出たいんだね。私も会いたいよ。


「そうなの! まだかなー、早く会いたいなー」

「まあまあ、余り急かしますと昔の姉君みたいな子になりますぞ」


 老獪な騎士、オーウェンが酷い言い草で茶化してくる。私と姉様が仲の良い姉妹なのをいいことに言いたい放題だ。


「姉様に失礼でしょ!…いや、まあ確かにそうよね…。昔の姉様みたいなのは絶対嫌。絶対振り回される。慌てずしっかりと待つか~。それがいいね」


 そうだった。姉様は今はお淑やかだが昔は酷かった。何度危ない目に遭わされたか、すっかり平和になった毎日のせいで忘れていた。

 姉様は昔から頭の回転が早く、すぐにイタズラを思いついていた。それによく巻き込まれていた。

 主にイタズラの犯人役で。


「そうでしょう、そうでしょう」


 ニコニコとした騎士オーウェン。我が王家に古くから仕えている家柄で、私達姉妹が小さな頃からの守り役だった。

 勇者様が我が国の悲劇を根本から打ち払ってくださってからは常に笑顔で溢れていた。

 騎士がいつもそれで良いのかと思わなくはないけど、無力感でいっぱいだったあの頃を知っていると嬉しくなる。


「ところで、アムラルリ様」


 ふと、先程の表情を残したまま、姿勢を正し聞いてきた。相変わらずの糸目だ。


「なにー?」 

「昨日、宝物殿を整理をしていたのです。もう生贄は必要ありませんからな」


 そうだ。もう我が王家に連綿と続いてきた負の連鎖。それは無くなったのだ。あ、また蹴った。このこのー


「そだねー」

「勇者様によって齎された平和と、過去の悲劇。そのどちらもビンカレア平原に住まう民にとって、重要な出来事であり、知っておかなければならない歴史です」


 そうだ。

 ここビンカレア草原にある縦穴式ダンジョン、奈落の最奥を根城にし、我が王家の血を偏愛していた人語を解す猿の大魔、ビスマニデル。

 代々、我が王家の長女が舞姫と称して生贄になる事で、奈落の決壊、スタンピードを抑えていた。

 姉様が大好きな私は、今代の舞姫である姉様の身代わりに生贄になろうとしていた。

 そんな私を傷だらけになりながらも助け出し、かの大魔を打ち払い、ダンジョンを沈黙させ、我が王家に続く負の連鎖を根本から断ち切ってくださった、勇者様。

 私の愛しい旦那様。

 まるで自分が勇者物語の中にあった、氷の姫巫女様になったかのような気になった。

 姉様は悔しがっていたな。あの話、一推しだったし。ふふっ、いい気味だ。

 でも先に仲良くなったの私だったのに抜け駆けしてさー…まあ、もういいけど。

 あ、また。蹴った。もーしょうがない子だなーこのこのー


「そだねー」

「それが過去を未来に繋げる中間に居る我々の役割なのです」


 そうだ。先代の悲劇はもう終わってしまった事。騎士オーウェンの愛した先代の舞姫、私の叔母は助からなかった。


「…そうだね」

「ですが、必要ないとは言え、討伐や儀式に必要だったものは、全て過去の勇者様縁の品々。我々草原部族にとっての秘宝であり、王族の証。おいそれと外に持ち出すわけにもいかず、かと言って放置も良くない」


 そうだ…ん? それはわかるけど…この説明的言い回し…何か都合の悪い方向になってきたような…


「そだねー…?」

「なので、これを機に特別展示室でも作り、国民に広く見てもらうためにも飾ろうかと…提案が為されておりましてな」


 これはもう姉様に言いくるめられた後だ、絶対そうだ! またか!


「そ、そうなんだー、いい考えだねー?」

「そうでしょう、そうでしょう。で、ですな。……いくら探しても見つからない秘宝が……数点ありましてな」


 やっぱり! これ犯人探しじゃなくて犯人確定済みの追い込みだ! ニコニコしてるけど笑ってない!


「ぜ、ぜ、ぜ、んぜんしらないわ!」

「まだ…何も言っておりませんが」


 しまった! 先走った! オーウェンの目が細い! 笑顔が怖い! 昔のトラウマが蘇る!

 昔から姉様にイタズラの犯人にさせられてきた。

 姉様は叔母に似ていたからか、姉様がネタばらしするまでオーウェンはすぐ騙されて私を犯人だと思っていた。

 そして何もしてないのに、私も変にキョどるからなかなか信じてくれなかった! オーウェンのバカー! あほー!


「そ、そうね。まったく、き、きちんと管理しないとダメね」

「そう、ですな。管理の責任者にはきっつーぃ罰を与えませんとな」

「ダ、ダメよっ!、それはダメ」


 姉のやらかしを民に擦りつけることはできないよ。

 だいたい、姉様が最初に言い出したことだし! 宝物庫から出さないから絶対バレないって言ってたのに!

 ハッ! なんだったらオーウェンに展示室の提案したのも姉様だ、絶対そうだ!

 京介様がトゥダイモトクラシィーって言ってたやつだ!


「しかし、甘い処分は秘宝の価値を下げますし、ひいては王の権威も蔑められますぞ」

「なっ」

「な?」

「んとか……出来ません! ごめんなさい!知ってます! 姫巫女様にあげました!」


 もー結局私が謝るんじゃない…

 こういう時は素直が一番。過去の経験からわかってるんだから。たまには姉様にも素直に謝って欲しいのに……これが習慣、か。


「…まあ、この国を救っていただきましたし、秘宝と言っても元は過去の勇者様からのお悔やみの気持ちがほとんどでしたからなあ。今度からはきちんと報告してください。お願いしますよ」

「う、うん」

「もう一人の親になるのですから」

「はい」


 そうだ! もう姉様に振り回されてなるものか! 腹違いの子でも確実に姉様の血を引いている子が同い年になるんだ! 

 気をつけないと…


「しかし、言ってはなんですが、姫巫女様は何故あんな物を? 他に強力な魔道具もあったでしょうに。あれは今はもう作れないそうですが、魔力依存型でしかも設置型の量産品。しかも速すぎるビスマニデルの弱点を探るにしても、まったく姿を捉えられず意味がありませんでしたし」


「し、知らないよ! は、恥ずかしいなあ、もう」


 本当に知らなかったの!

 姉様に騙されて記録が始まったのッ!

 そもそも誰が秘宝で睦みごとを記録するなんて思いつくのよ!

 だいたいあの[事象のモノリス]は大魔の弱点探しのための記録用魔道具じゃない!

 それをそんな風に使うなんて事、姉様しか思いつかないよ! そして私の弱点は丸わかりだったよ!

 あー…今思い出しても恥ずかしい。しかも姉妹一緒のところも、だなんてさー。

 姫巫女様も薬を盾にしてさー。

 一度撮ったから一回も二回も一緒、とか、姉妹の絆の強さを勇者様に、とか、一生の記念を勇者様と、とかなんとか言って煽ってきてさー。

 そもそもどうせ撮るならもっと、こう、勇者様の訓練してる格好いいとことか! 普段の様子とか! 紅茶を飲むとことか! あるじゃない!

 こんなの生まれた子供に見せられないじゃない! ………ま、まあ、夜の京介様も素敵だったけど…

「……恥ずかしい? まあ良いです。今度からはお気をつけください。重ねて! お願い申し上げます。いいですね!」

「う、うん」


 ……………また夜見よ。
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