異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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幕間 - 骨折り

たまたま弾除けだよ

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| 永瀬 永遠



 放課後。

 後藤くんと学校から駅まで一緒に帰る。途中、男子生徒たちに冷やかされながら。

 それもそのはず。わたしがニコニコなのだ。そのせいで、後藤くんが照れる照れる。

 地雷系メイクのわたしが気分良くしてたら、それは周りも本人も勘違いもするか。


 京くんがわたしの地雷を遠隔で爆破したのだ。そのせいで、わたしの心の箱の蓋が勢いよく吹っ飛んだ。

 そこから永く眠らせていた永遠ニャンコが出てきてしまった。

 円卓のみんなは生涯眠らせておいて。なんて言ってたけど、失礼な話だ。

 ひーちゃんのウマ娘化よりマシだと思う。あれもいつパドックから走り出すか。

 ウマ娘が京くんの背に跨ってんじゃねーよ。
 跨っていいのはおヘソの下の永遠専用……

 にゃ。


 瑠璃ちゃんの嬉ションよりマシだと思う。あれもいつジョジョバーするか。

 京くんに汚ねーの掛けてんじゃねーよ。
 掛けられていいのは顔か口かおヘソの下の永遠専用……

 にゃ。


 後藤くんは完全なるとばっちりを受け、テレテレだ。

 ……可哀想に。





「確かに居ないね」

「ぁあ、こんなに居ないなんて不気味だぜ」


 いつも亀工生が屯している駅前。

 コンビニ、駐輪場、茶店、駅中の端っこ。亀が全然いない。

 昼休憩に聞いた話では不良チームはボランティアクルーとして再出発したらしい。どうやったらそうなるかわかんないけど、多分京くんだ。

 というか後藤くん。ぜ、じゃない。ぜ、じゃ。

 あ~京くんもこういう言葉使わないかな。oO

 ─永遠

 ──なに…京くん…

 ────不気味だぜ

 …………………。


「痛っ! …なんだ?」

「…また神経痛? ピリっとするよね~アレ」


 後藤くん、あんまりソワソワしないで。背中針で刺されたくらいでキョロキョロとか恥ずかしいし。だから最期、間違えたんじゃん。

 はー…。明日から量産型メイクに変えようかな……だめか。

 後藤くんがもっと勘違いしちゃうか。ごめんね、推しはいつだって京くんなんだよ。

 また再確信しちゃったなぁ。

 京くん。逢いたいなぁ。


「京くん…」


 わたしの漏らした儚い呟きに、弾除け後藤くんはなぜかテレていた。なんだこいつ。





 駅の改札に着くと、そこには亀工生はやっぱりおらず、代わりに円卓の忍、首藤絹子。絹ちんが居た。……絹ちんがお洒落して人前に?


「永遠ちゃん」

「……絹ちん」


 ただならぬ様子のわたしを見て、後藤くんはわたしを背に庇いながら心配そうに聞いてくる。


「…友達か?」

「う、うん…そう友達」

「…あんまり嬉しそうじゃねーな。あんた、永遠に何の用だ?」


 こいつ…ドサクサ紛れに名前呼びしやがった。あー…ヤバ。これはキレそう。


「誰?この人」

「……後藤恭児くん。学校のクラスメイトだよ」


「……キョウ……自傷?」


 絶対言うと思った。違うよ。たまたまだよ。たまたま弾除けだよ。たまに弾除けの舎弟の流れ弾がわたしにたまたま当たるだけだよ。


「自称?いや、本当に永遠のクラスメイトだぜ。永遠に用があるなら俺が聞くぜ」

「そうなの? …意外」


 ちげぇーよ。

 それに、後藤くん。ぜ、じゃない。ぜ、じゃ。

 そしてこの彼氏ヅラ…これがエリちんの言っていた前方彼氏面か。なるほど…。

 いや、それよりも…なに? この絹ちんの自信ありげなツラ。堂々としていて、駅中で一際輝いている。周りの学生もチラチラ見ているし、この忍びの風上にも置けない感じ…背もピンとして…

 …あ! ヒール履いてる! 絹ちんのくせに色気づきやがって…どこへでも足元にはあの日から大切な白いラバーソールだったじゃん!

 ………なんだろう。

 なんか……なんか刺したい。

 うん?絹ちんはリストに入ってないのになぜ?

 ふー…。

 仕方ない。事情聴取といきますか。

 へんしーん。


「ふふっ、大丈夫。幼馴染だし。後藤くん、ありがとう。ここまでで良いよ。絹ちんと話してくるね。あと……名前呼びされるの、わたしキライなんだ。次からやめてね」

「え?」






 久しぶりに会った絹ちんは、なんか大人になっていた。いつものアウトドアMIX姿ではなく、女子。ガーリーな姿。LEDに映えていた。

 薄暗闇が似合い過ぎるこの根暗女にいったい何があったらこうなるの?

 わたしは円卓の悪口や文句は気にしない。言われても構わない。だいたい元々敵なんだし。

 不必要に不和を招かないよう毒は吐かなかったけど、内心は自由じゃん?

 絹ちんはー、無表情ー、口数少ないー、二つあるこいつの部屋の一室はー、びっしり京くんの写真貼ってるー、そのこと誰にも言ってないー、間違えて見つけたわたしー、いちおー本人にも黙ってるー、そんな女がー、

 チークとか使ってんじゃん!

 頬に泥つけて至高の一枚を狙ってた絹ちんが、チィークッ!!

 ……なんだろう。今更女だと意識して欲しくなったとか?

 しかも、この大きなトートバッグに後方彼女ヅラ&ガーリー風コーデの絹ちん。

 ………ん?

 彼女ヅラ?

 こいつの艶………え? 脱童貞してない?

 ……いや…ないか。絹ちんだし。

 ファインダー越しに会話するのが楽しいってアタマおかしいこと言ってたし。

 そもそもそんな女抱く特殊なやつ居ないだろうし。体型もお子ちゃまだし。顔は可愛いけど。


「永遠ちゃん、いやさ、永遠ちん」

「…好きに呼んでも良いけどさ……なんか久しぶりに会って、絹ちんイキってない?」


「イキがってない。…ほんとは昔から呼びたかった」


 だからその動機、源を知りたいんだよね…なんか刺したくなる衝動はそこから?

 うーん。






 絹ちんに連れられて、やって来たのは天養駅。それからファミレスに入り、ゴトのあらましを聞いた。

 京くんを暴行した四匹。そのうちの一匹。

「あいつ」


「あれが、中田大也か。ふーん。なかなか強そうじゃん。純は?」

「純ちゃんは温存」


「…言うじゃない」


 円卓は、一匹ずつプロファイルをすでに済ませていた。エリちんと詩ちんだろうな。
 絹ちんのターゲットはこいつ。わたしは実行班。協力とか興味ないんだけど、京くんをボコったんなら別。

 殺るっしょ。普通に。

 けど絹ちんの策はなんというか、外連味というか…


「そもそもそんなこと出来るの、絹ちんに」

「問題ない」


「そういうんじゃないと思うんだけど…」


そもそも普通にボコったらダメなの? あいつ、後藤くんより弱いよ?


「大丈夫。合法ローリーに、私はなる」

「…いや、だから、そういう亜流じゃなくって…」


「ちょっと待ってて」


 そう言って、絹ちんは化粧室に行ってしまった。

 もう、なんなの…





 あの絹ちんの強気な自信の源はいったい…
 カッカッカッカッカッカッカッカカカカ…

 それに京くんが沈む? ザラタン無双して…
 カッカカカカカカッカ カッカッカカカカ…

 無抵抗…? その後どうか絹ちんは触れない…
 カカカッカ カッカッカカッカッカッカッカ…

 なんか臭うな…
 カッカカカッ…


「あ、あの、お、ぉ、お客様?…そ、そのテーブルで、その高速ハンド・ナイフ・トリックはちょっと…」

「あ、ごめんなさい…ボーっとして…つい」


「ボーっとしてたら余計危ないんじゃ…。怪我しますよ! や、やめてくださいね! お、お願いしますね!」


 こくりと頷く。

 それは、そうか。地雷系メイクのヤツがテーブルでアイスピック、カッカッ、カッカッしてたら怖いか。可愛い店員さん、ごめんなさい。


 …ふむ。なら何が。
 …ヒュ ヒュンヒュ

 動画は京くんが無抵抗で愛ちんが薄モザ。
 ヒュンヒュヒュヒュンヒュヒュヒュンヒュ

 まあ愛ちんがそんなことしないだろうから
 ヒュンヒュヒュンヒュンヒュヒュンヒュン

 嵌められたのは間違いないけど…
 ヒュヒュヒュンヒュヒュヒュン…

 うーん。
 ヒュヒュッ

 結論。絹ちんは何か隠している。
 ヒュ ヒュンヒュンヒュンヒュ


「あ、あの、お客様? あ、あのア、アイスピックでフレアバーティング? ジャグリング? はちょっと…」

「あ、ごめんなさい。考え事してたら、つい…」


「考え事してたら余計危ないんじゃ…も、もういろいろやっちゃダメですからね! ほんとに怪我しちゃいますよ!」


 こくりと頷く。

 優しいなこの子。

 地雷系メイクのヤツがフレアしたら似合うじゃん? 遠目ピエロみたいだし。あまり目立たないと思ってチョイスしたのに……しかもなんと控えめ三本使い。

 見つかっても、なーんだジャグリングか~はいはい、みたいに流してくれるかなーと思ったけど…まあ、ごめんなさい。


「お姉ちゃん」


 お姉ちゃん? ふと顔を上げると、絹ちんが小学校の制服を着て立っていた。


「…………」


 小学校の制服が似合う…だと…? …。


 わたし達の通っていた小学校は、普段は私服だけどイベント時のみ制服着用だった。流石に背の高かったエリちんか、ひーちゃんに借りたんだろうけど、それを着て…少し濃いめのチークはそういう事か………くっ、似合う。

 じゃなくてっ!

 …あんなに大きな胸に憧れていた絹ちんが? パッドの数いつも数えて悲しい顔してた絹ちんが? 口に出さずともみんなが知ってて優しさで触れなかった激コンプレックスを………

 武器化し釣り餌にする……だと…?…。


「…絹子、今日は給食ちゃんと食べれた?」

「食べた。お姉ちゃんは?」



「……針……………ぶっ刺してた」


 動揺して、つい設定に乗ってしまった。

 絹ちんも返すんじゃねーよ。

 わたしも答えんじゃねーよ。


 ほんとにいったい何があったの、絹ちん……
 ジャッジャジャッジャジャッジャジャッ……


 わたしはとりあえず心を落ち着かせるために、アイスピックをダイヤモンドヤスリで研ぐことにした。


「お、お、お客様~!」


 ジャジャジャジャジャジャジャ…

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