異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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肉断つと泣き面と挟み取りと

霞一殺

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| 秦野 純


 高校からの帰宅を終え、さくっとシャワーを浴び、さっと着替え、颯爽と俺は家を出る…寸前で捕まっちまった。


「お嬢、お嬢、お嬢ってば! 待ってくださいってば!」


 引き止めたのは海子ネリア、俺の昔っからの付き人だ。肩口より少し長い銀髪をハーフアップツインにし、フニャっとしたカワイイ顔にボンキュボンの身体……ちっ! とりあえず取り繕うか。


「あん?」

「ランペイジのお嬢ちゃんに今日は止められてたでしょう?」


 今一番聞かれたくない事を…


「ちげーよ。ちっと出てくるだけだ」

「嘘ですね。なんか足取りがソワソワして乱れてます。何するんですか?」


 確かに。俺とした事が気が急いていたのか。いや、普通は誰も気付かないが、ネリア姉には見抜かれるか。


「あー、そのなんだ、俺の勘だ」

「でた。お嬢の俺の勘。当たった試しないじゃないですか。きっと大ハズレしますから大人しくしておきましょ?」


「…胸騒ぎがするんだよ」

「ふはっ、胸騒ぐほど無いじゃな…あだ!」


 あるわ! 絹子よりあるわ! だからひとまず安心している。でもこいつの胸デケーからな、とりあえずグーだ。


「ふん。だから…円卓行くだけだって」

「…もう、すぐ手が出る…ならなんで一回帰ってきたんですか」


 そこはお前、突っ込むなよ。こいつはいっつも先手を取る。だから試合で俺に勝てないんだよ。


「そりゃお前……」

「しかもワンピなんて着て……まさかっ!」


「はっ、気づかれちまったか………そう…」

「ソロ美人局?! お嬢が? うはははははって、そんなのまず誰も釣れない釣れな痛い痛い痛い痛い────」


「あ"あ"ん? ちげーよ! 京介に会えるかもしれないだろ! ふん!」

「はー、はー、はー、もう! すぐアイアンクローはやめてください! ゴリラ並みなんですから…でも今日はやめてください。ランペイジのお嬢ちゃんが設えてくれるんでしょ? あの子、自分の策を潰されたら怒りますよ」


そうじゃねーんだ。あいつの策に乗ることが危険なんだ。願いは叶うだろう、けど、な。


「……今日のエリカ見ただろ! くそっ」

「あー、なんかお花畑でしたね。詩乃嬢、口の端から血、流してましたし。エリカ嬢、気付かずまだまだ踏み抜くし。普段一番冴えてる人が周りの見えないポンコツになると、まあ、悪夢ですね」


 ネリアはうちの高校の三年生だ。学校帰りには俺の教室に来ることが多い。今日のエリカは酷かった。詩乃…かなりキレてたな。あいつの今日の京介日記はドス黒くて直視できないだろうな。

 明日がこえーよ。


「そうだろ! 何が、黒子の数、教えて差し上げますの、だ! 何が、ソプラニーノくらいの長さだったかしら、だ!」


そんな長いわけねーだろ! 24センチだぞ! 武器か! 戦えちまうだろ!


「浮かれてますね~ そんな事学校でバレたら問題でしょうに。派閥も食い破られますよ」


 まあお嬢学校だしな。

 それに、エリカの和光、一つ上の先輩の雨宮、二つ上の先輩の火威。大きくわけて学年をきれいに跨いだ三つの派閥がある。

 まあ、家の力だからと、本人達は気にしていないやつばかりだ。ただ、蔑ろにも出来ないのが厄介だ。うちの秦野もなあ…


「まあ、そんな事はいい。…すっかり忘れてたよ。俺たちはかつて、敵同士だったってことを…」

「お嬢…」


「よし! 京介んち、やっぱり乗り込む!」

「やっぱり円卓じゃないじゃないですか。でも行って何するんです?」


「ふっふー。聞いて驚け、プレゼントを渡すんだ! 丸めて開いてドン、だ」


 魔女が良い事を教えてくれた。ふっ、敵に塩を送るとはな。ほんと馬鹿ばっかりだな、魔女。


「丸めて? 開いて? …ドン? ……おなら?」

「ちげーよ! パンツだ! パンツ! 何言ってんだお前は! 下品か!」


「お嬢の方が何言ってんですか! 下品なのはお嬢でしょ! パンツ渡してどーするんです! バカだ! バカがここにいる! ね…お嬢? その、ランペイジのお嬢ちゃんに任せましょ? ね? お嬢が動くと碌なことにならないですって、ね?」


 なんでだよ! 世界に刻むんだぞ! パンツが! 俺と京介を!


「…そのかわいそうなやつを見る目はやめろ。……いや、だめだ。これは……陣取りだ。このままだと最終的には絹子にやられる」

「…俺の勘ですか?」


 違う。死合いと一緒だ。俺の本能が告げている。


「いや、俺の……本能だ。…愛香が現れた時に似てる。愛香は内に、絹子は外に広げている、ただその違いなだけだ。昔はその本能を無視したから愛香にやられた」

「むむ…。本能なら仕方ないですね。はー。わかりましたよ。私も藤堂くんに、ここ継いでほしいですし。それに………おこぼれ…欲しいですし」


「てめっ、はー…まあいい。なら付き合え」

「喜んで! あー、あの子いまどうなってるのっかなっ? 可愛く成長したのっかなっ? あ、かっこかわいい系かなっ? お姉さんにはっ! たっまりませんっ! ………じゅるっ」


 あー、そうだ。こいつ年下好きだった。ネリアもおかしいが、こいつの三つ子の姉妹もそうだったな。血か。


「…やっぱ一人で行く」

「お嬢、お嬢、お嬢ってば! 嘘です! 二番でも三番でもご一緒でも大丈夫ですって! 待って待って~ あ、縄、縄。縄要りますよね!」


「要らねーよ! どこの世界に好きな男のところに縄持ってくやつがいんだよ!」

「ラブコメ漫画には以外と出てきますよ~縄。それに…策は多くないとランペイジのお嬢ちゃんに負けますよ~!」


「…そうなのか? 負けるのは嫌だ…」

「そうですよ~ それに…お忘れですか? 昔々、円卓のメンバーが悉く渡せなかったチョコを渡せたのはいったい誰のおかげでしたか~? はい、この私、ネリアお姉さんのお陰です! もう大人なんですから、まずは縄。そして縛って既成事実です! ラブはその後でしっぽり育めばいいじゃないですか~!」

「それは…そうか、そうだな! 待ってろよ! 京介!」


「ぬふふふ。お嬢はおバカカワイイですね~そのチョコのせいで、多分まだ誤解解けてないと思いますけど。待っててくださいね、美味しく実った藤堂きゅん。お嬢を困らせるワァるい男の子は青いうちに綺麗に刈り刈りしましょうね~」


「ネリア姉……何をブツブツ言ってやがる。ほら、行くぞ」


「あ、でもやっぱりまずは着替えましょう」

「なんでだよ」


 気分が盛り上がった時にまた萎えさせやがる。いっつもストレートに行かせない。なんなんだこの海子の次女は! それは試合でいいだろ! 長女を見習え! つか、試合でやれ!


「いいですか、藤堂きゅんはまずお嬢のことを…」

「俺のことを…?」


「女の子だとは思っていませ痛い痛い」

「なんでだよ」


 ついハーフアップツインテを両手で掴み持ち上げてしまう。純なんて女の名前だろ?純情、純粋、純愛、その他諸々、女に決まってんじゃねーか。


「酷い…髪が…もう! いいですか、昔のお嬢、そうですね、チョコをあげた日にしましょう。その時のこと、覚えてますか?」

「そりゃあ、お前…へへ…覚えてるに決まってんだろ…だっはー! 言わせんな!」


 お前、やめろよ、照れるじゃねーか! 急にそんなこと言うなよな! つい殴っちまったじゃねーか!


「痛い! 照れ殴りはやめて! 昔の暴力系ヒロインですか! もう! お嬢はどんな格好でしたかっ?!」

「悪かったよ。怒んなって。…どんなって…短パンで」


「デニムのですね。あとTシャツと野球帽」

「…そうだな。へへ、懐かしいな」

「髪は?」
「黒くて短かったな」

「肌は?」
「黒く焼けてたな」

「胸は?」
「…無かったな」

「膝は?」
「……擦りむいてたな」

「絆創膏は?」
「………いっぱいだったな」

「鼻は垂れてました」
「垂れてたな…いや、ねーよ! あれ? 垂れてなかったよな?」

「そんな子を見かけたら、男の子と女の子、どちらに見えますか?」

「……………女の子」

「はい嘘はっけーん。足、四半歩分下がりましたよ。そうです。紛うことなく少年に見えます」


 そういえば、肩組んでたの俺と未知瑠だけだった…あとは、愛香くらいか。あれ? でも愛香は……


「俺、男と思われてたのか…ならそれこそワンピで良いだろ!」

「はー…。良いですか? これはアドバンテージで溜め技です」


 またわからない話を斜め上から持ってきやがる。だから試合でやれ! そういうのは! まあ、技とつくなら聞くけどさ。


「溜め技だと?」

「そんな何の策もなくワンピ着ていったら、あ、女の子だったんだ、へー、で終わるでしょ? ドッキンコしますか?」


「…しない、かも、しれない」

「かも、じゃなく、しません。全然しません。しかもそこからスタートしてエリカ嬢や聖嬢に勝てますか? だから逆を取るのです。長年男だと思われていたことをアドバンテージにして。つまりなんの気概もなく近寄れます。そして女を匂わすのは、幻が晴れるように少しずつ、肉を断つのはわかった瞬間。──秦野の極意は?」


霞一殺かすみいっさつ…」

「そう、まるで幻惑のように誘い込み一撃で仕留めるのです。あなたの得意技です。幸い藤堂きゅんとは学校が違う、エリカ嬢は他の方の話は藤堂きゅんに漏らさない。つまりなんと!! 『え? 男だとずっと思っていた幼馴染が成長したら実は女の子だった?!』 が使えるので──あだっ! 何するんですかっ!」


「なんなんだそれは! 長すぎなんだよ! だからワンピ着ていったらい…その可哀想なやつを見る目はやめろ!」


お前の話もそのタイトルと同じで長いんだよ! もっとシンプルに言え! 手が出るだろ! そしてそんな目すんな!


「おバカ! いいですか! 最終的にバレる瞬間に策は打ち込むんですよ! 試合でもそうでしょ! 初手から手の内を明かして良いのは強者だけです! ……さて、お嬢。あなたは恋愛というフィールドでの死合いにおいて、強者足り得ますか?」


 ぐぬぬね…はー、こいつの言う通りだ。試合に例えりゃそうだ。つーか最初からそう言えよ! 説明ヘタか! でも恋愛試合か…


「…ねえ。…どうしようもなく、弱者だ…」

「良い子です。なんで試合に例えたらすぐ素直になるのかは置いておきますがっ! ですから打ち明けるのは最後です。向こうにじわじわと気付かせながらレッドゾーンで! カリカリする! だから溜め技。わかりましたか? ふふん、これが弱者の戦い方です」


「……お前、よえーもんな」


こいつ、なんでこんなに考えられるのに、試合になったら堪えられないんだよ。すぐ特攻かましてきて美味しい餌になりやがる。


「あ、あ、あ、あ、あ、言ってしまいましたね! 言ってしまいましたね!! 言ってしまいましたね!!! 純ちゃん!」


 あ、しまった。腹立つからつい言っちまった。ネリア姉、こっから長かったんだ。しゃーねー。精一杯謝っとくか。


「めんごめんご」

「それ絶対謝ってないやつぅ! もう! せっかくネリアが策をネリネリしてあげたのに! それにネリアは決して弱くないしー! ツールがあれば純ちゃんに負けないしー! 海子一族舐めんなよなーああーん?! 刈り刈りすんぞごらー! ていうか、純ちゃんが素早いゴリラなだけ! アタマん中筋肉ダルマなだけ! 身体が男女なだけ! お尻のあ痛い痛い痛い痛い痛い痛い───────!」


「おい…ケツの話はやめろ。…肉、断ちたくなるだろ?」

「しゅみ、ましぇ、ん───けど、私は、カワイイと思います────っ、ぶはーっ、はーっ、はーっ、はーっ、もう! お嬢! こめかみとっ! 喉をっ! 同時に締めるのやめてくださ、い……お嬢?」


「…かわいい、か? お尻のやつ」

「? はい、もちろんですけど…?」


 嘘は…言ってなさそうだな。 かわいかったのか、お尻の痣。昔から気にしていた。京介には一度見られた事が……あったような…


「よし。お前の策でいこう」


 しゃーなしで乗ってやるとするか。ネリア姉の策。しゃーなしだぞ!


「………急になんなんですかっ! ネリアの説明の時間、返して! ほんっと刈りますよ!」

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