異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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ゴブリンハーレム

マコト-L-ヤマト

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| 斉藤 博之


「すっかり遅くなっちまった」


 放課後。クラスメイト達が全員教室から出るまで動けなかった。時間が経つにつれ、ヒソヒソや視線が増していったからだ。

 中学の時以来の寝たフリ聞き耳野郎になるしか無かった。そして起きるタイミングを逃した。

 いよいよ帰ったかな、と思って顔をあげたらA組の阿部がいた。

 なんでだよ…

 こいつがねっとり絡んで来やがった。このイケメン地雷、お仲間を見つけた目をしながら嬉しそうに話かけてきやがる。

 正直、男前のお前とは共感できねえ。

 そもそもお前と同じ立ち位置になったら顔面偏差値の差でものすごく卑屈になりそうだ。

 しかもお前他校に女いるだろ。まあまあ可愛いやつが。

 でもこれ以上騒ぎを大きくしたくない。だからハイハイ聞いていた。地雷が救済ボーイズとか笑えねーよ。

 そのせいで遅くなっちまった。御手洗えのるを探したかったのに…くそっ。

 今からでも鎌田行くか…? いや、何の策もねえ…くそっ、良い案が浮かばねぇ。


「あれは…藤堂? また女か…」


 打開策を考えながらトボトボと歩き、校門に差し掛かった。

 そしたら、あの藤堂が他校生に囲まれていた。良い気なもんだ。

 ケッ、ラブコメ主人公め。

 藤堂は決定的な事を仕出かしてないからか裏掲示板にもまだあがらねぇ。食堂の時の派手さなら噂でも書き込まれたっておかしくねえのに。

 まあ、あんな気持ち良いこと経験したらお前もこっち側に来るだろうけどな。


 昔っからラブコメ主人公ってやつが嫌いだった。お前そのヒロイン早くいけよ! 誘ってんじゃん! 見え見えじゃん! 4話まででだいたいわかるじゃん! 7話でだいたい水着会じゃん!ってな。

 でもいきやしねえ。正ヒロインも準ヒロインもお前を狙ってんじゃん! いかないとか馬鹿なのか、こいつ、ってな。

 まあ、それしたら18禁だしわかるけどよ…あと男と女が結ばれる為のただの試練だとは思うけどよ…舞台装置扱いの準ヒロイン可哀想だろ! せめて思い出やれよ! もしくは俺にくれよ! なんて思ってた。

 藤堂の件で言えばあのヤンデレ達が正ヒロインを争ってんだろう。

 一人しかハメられなれないのにな。

 だから他校生なんてもっと遠い。そんな可哀想な哀れな準ヒロインがどんなもんか気になってつい覗いた。


 それがいけなかった。


 藤堂にぼかされたのか、小物センサーが反応しなかった。


「あ~みっけた!マコト!」
「あ、ヤマト!」
「いた、ライト~」


 ……まじか。

 アステリアの女が言ったメスゴブばっかじゃねーか! やり逃げした奴ばっかじゃねーか!


「あれ? みんな名前違うね? …嘘じゃないし…」

「ちょっと、ヤマトでしょ」
「はあ? マコトだってば」
「え~ライトだよ~?」


 ヤベぇ。何がヤバいって、こんな顔の俺とメスゴブ達の修羅場なんて、イロモノ過ぎて俺の心が耐えられねぇ! ゴブリンとメスゴブのハーレムとか誰徳だよ! 

 しかもまだ下校中の生徒も居るんだ! 空気を読む力を身に付けた俺の客観的視点が自分に牙を剥きやがる!

 あー死にてぇ。


「他国の人、かな…? まあ、珍しくないか…。ならマコト-L-ヤマトくんじゃないかな? だからマコトくんで良いんじゃないかな? 会えて良かったね」


 ちげーよ! 珍しいだろ! なんだそのザ主人公名! お前の目は節穴か! 勘違い系か! 俺の顔見て言え! んな名前な訳あるか! むしろそれお前の名前だろ! 

 ああ、俺と完全に遠い名前にしたのが不味かったか。そんなの信じるわけ…


「「「ああ~そっか~」」」


 信じるのかよ! んなわけねーだろ! みんな昔やったレトロゲーのとめ女みたいな顔しやがって! バカなのか!

 なんとか回避しないと…そうだ! ここに顔面偏差値強キャラ主人公様がいるじゃねーか! こいつに惚れてもらえりゃ引き剥がせる! おれはこれからは後天的美少女と出会いたいんだよ!

 どうやってこいつを生贄に差し出すか…


「じゃあ、僕はこれでね。後は仲良くね。良かった良かった」

「「「はーい」」」


 待て待て待て待て! ヤベぇ! とりあえず声を掛けないと!


「あ、藤堂くん!ちょっとちょっと!」

「? マコト-ライト-ヤマトくん、何かな?」


 ちげーよ! それお前! お前みたいなやつの名前! しかも恥ずかしいから声に出して俺を呼ぶな! 現実が遠過ぎて居た堪れないだろ!


「あ、はは、ちょっとこっちに来てくれないか?」

「? 良いけど、君たちは良いの?」

「あ、待てるよ、良い女だし」
「はあ? あたしの方が良い女だし」
「五十歩百歩だよ~待ってるからどうぞ~」


「……コレ、つれぇ…」


 メスゴブどもが何良い女ぶってやがる!

 こうなりゃ、男同士、腹を割って話すしかねえ。そうだ! あんなにヤンデレに囲まれてんだ。逃げ出したい時もあるだろ。だから少しは気持ちもわかってくれるだろ。


「…実はさ、俺の名前、斉藤博之って言うんだ。実は彼女達にさ、ちょっと迷惑してて。良かったら逃がしてくれないかな?」

「あれ? 名前…違うんだ…? なぜに彼女たちは… うん? 迷惑?」


 んな名前、違うに決まってんだろ! 何考えこんでんだ! 秒で気付くだろ! ピュアッピュアか! わかるだろ! 少しは疑えや! 鈍感系主人公はこれだから…


「そ、そうそう。あいつらまあまあキツいだろ? 付き合ったふりはしたけどさ。まさか本当に付き合うわけないだろ? 藤堂くんならわかるでしょ? だから…」

「………つまり、偽名のままハメて…ドロンしたと? ………何も告げずに…?」


 なんだ、純情超絶鈍感野郎ってわけじゃなかったのか。なら話はえーじゃねーか。よし! しかもこれなら裏掲示板も藤堂で埋め尽くされるのも時間の問題だな! 大きな光は俺の小さな光くらい覆い隠してくれる! よし!


「あー、そうね。そうだね。なんだ藤堂くんもそういうのわかるんだ。てっきりそういうのに疎いと思ってたよ。だからちょっと困ってて逃げたいんだよ。頼む、協力してくれ!」

「………」


 黙り込んだ藤堂は無表情のままスマホを取り出し、どこかに電話を…掛けた。

 …どこに掛けたんだ? 

 ああ、ヤンデレ達に誤解されないようにか。流石勇者。こういう細かい事ができる奴がモテるんだよ。さすゆーだな。鈍感系なんて決めつけて悪かったよ。


「…おかしら、うん。そう、そこいて」

「………おかしら? 」


 変わった女の…名前だな? んな訳ねーか。はは。つか、なんだその不穏な単語は…鯛か賊ぐらいした思いつかねーぞ…鯛は電話なんかしねぇ。山賊も海賊も街にはいねぇ。

 なら渾名か…

 まあ俺の渾名もゴブリンだったしな。

 おかしらくらいいるか。でも何のおかしらかしら? なぁーんてな。少し余裕出てきたな。


「………うそはよくないね」

「…そりゃ…そう、だな? 次から気をつけるよ」


 あん? 今時、熱血正義感主人公か? ワンパンで沈めんぞ…つーか……藤堂の目……なんか黒目でっかくなってない? 瞬きしてなくない? なんだこいつは……あん? なんだ…? 小物センサーが急速に反応し始めた…だと…?…


「…ドロンしたらピロートーク、出来ないからね。つまりマコト-ライト-ヤマトくん、君にはピロートークが足りなかったんだよ。でも大丈夫。安心して」


 ……何言ってるか全然わかんないんですけどぉ。

 小物センサー、急にクッソビンビンなんですけどぉ。


「いいとこあるから。大丈夫。安心して」


 ……超怖すぎて全然安心出来ないんですけどぉ。


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