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第4話・一行、立案する
しおりを挟む「おお~、すっげぇ~!」
俺は目の前に広がる壮大な景色に感嘆の声を上げた。
俺たちは今、ジュリィたちが用意してくれたドラゴンの背中に乗って人間界に向けて移動中である。後ろには沢山のモンスターたちが付いてきていて、武装こそしているが事情は説明してあるので戦意は無い、あくまでもジュリィたちの護衛役として俺たちの背を守ってくれている。
「なあユウ、そういえばシタはどこだ?」
頬を撫でる風の感覚を堪能していると、クロがいつの間にかいなくなった根暗弓士の行方を訪ねてきた。
「ああ、シタなら魔王城だ。メルミが言ってた」
「おお……あいつ、ストレスで死ななければいいが」
「……有り得るから怖いわそれ」
ちなみに、今このドラゴンに乗っているメンバーは4人。俺、ジュリィ、クロ、ギースさんだ。
和平協定のためとはいえ、魔王城を蛻けの殻にするのはさすがにマズいということでリーマさんがお留守番役になったのだが、メルミも「もっとリーマとお喋りした~い」とか言い出して付いてくる気配がなかったから置いてきた。よくよく考えれば気絶したシタもいるしちょうどいいと思ったんだ。
「さーてと、王様何て言うかな……」
一応、出発直前に王様たちと話し合いをしたいと鳥を飛ばしたが認可されているかは分からない。そこに関しては俺が粘らなきゃな。
せっかく大きな一歩を踏み出そうとしてくれたジュリィたちの意志を紡ぐためにも、和平協定は何としても結ばなければ。
「大丈夫だ、王は色仕掛けに弱い。私達もよくやっていた」
「マジかよ……」
「騎士団の物資が足りない時などはよくユカタとかいう服を着て奉仕したものだ」
「……一応聞くがどんな奉仕だ」
「耳かきやマッサージ、それと添い寝などだ。王は疲れとストレスが貯まるのだそうだ」
淡々と語るクロ。
うん、それ普通に賄賂的なヤツだからね。
「ユウ様、人間界の王とはどのような人物か聞いてもよろしいですか?」
「ああ、もちろんいいですよ」
俺たち人間界の王様。名前をヴィルス・ルレイ・アッカート。今年で49歳で民からの信望も厚い、理想の王様だそうだ。
当たり前だが、実際に会ったことがないから何とも言えない。けどまあ、クロから聞く限り悪い人ではなさそうだ。
「人間界の王様、ヴィルス王は国想いな王として有名です。俺の故郷の老人達もみんないい人だって言ってました。戦争にも反対派だったんですが、軍に押し切られて戦争の火蓋が切られたと、そう聞いています」
ここで言う戦争というのは、何度か起こっている人間と魔族の大きな戦争のことだ。一番最後は4年前のメルニア荒野戦になる。
「軍に関しては私から説明しよう」
ここからは俺よりも内部事情に詳しいクロに説明を交代する。
「人間界の武装勢力は大きく分けて3種類ある。1つは私が以前所属していた『ヴィルス騎士団』だ。文字通り王直属の騎士団で、王の命令で動く」
メルニア荒野戦では王直属の騎士団のクロたちまで戦線に駆り出されたというのだから、どれだけ激しい戦いだったか想像に難くない。
クロは騎士団の中でもかなり強い方だったらしく、抜ける時にはすごく揉めたらしい。だがまあ、思い立ったが吉日というやつだ。
「もう1つは『国防軍』。その名の通り人間界を守るために組織された軍だが、実際には高位の連中が好き放題やっている無法者集団だ。兵士による民への暴行などもよく問題になっている」
村長に聞いた話によれば、魔族たちとの戦争が激化したのも軍の行動が原因らしい。
整域が隣接しているとは言え、人間界と魔界の間には正式な境界線があったそうだ。だが、軍のヤツらがそれをうやむやにして略奪行為を始めたせいで常に戦闘状態になってしまったのだと。
「最後の1つは『冒険者ギルド』だ。これに関しては私たちの旅に関係するかは未知数だから何とも言えないな」
冒険者ギルド。
文字通り、魔獣の討伐やアイテムの採集など様々な依頼を引き受けて働く者たち。詳しくは知らないが、ギルドマスターレベルになれば軍の総隊長と同等の戦闘力を持っているらしい。
ギルドに所属している冒険者は、おそらく大半は良い人間だろう。魔獣と魔族は違うし、採集するアイテムも生態系に影響が出ないように依頼量は細かく調整されていると聞く。
ちなみに、魔族っていうのがジュリィたちのような理性を持つ主に人型のモンスターで、魔獣っていうのが文字通りの獣、畑を荒らしたりするような害獣的な存在だ。だが一言に獣と言っても何メートルもある種類もいるから、冒険者ギルドに依頼が届いたりする。
「結局のところ、和平協定を結んでも軍のヤツらをどうにかしないと根底は変えられないな……」
渋い顔をして言う俺に、クロも「うむ」と続く。
「和平協定を結んだ後にこちらの軍が侵略行為を始めたりでもすれば、今度こそ人間と魔族の間には取り返しのつかない溝が出来てしまうだろう。そうなったら、もう打つ手はなくなる」
「なるほど……それだけは何としても避けねばなりませんね」
「ですね。話し合いの時にも軍の幹部は口を突っ込んでくると思います」
国防軍は無法者集団として知られているが、その力が主に魔族に対する抑止力になっている事実は否定出来ない。だからこそ、王様もあまり高圧的なことは言えないし幹部のヤツらも調子に乗ってしまう。
「それでも、和平協定を結べばヤツらも変わらざるを得まい。魔族との対立が無くなれば、軍の存在意義は薄れてヤツらの愚行は陽の当たるものとなる」
「そうすれば、また人間と魔族の共存に近付ける」
「そういうことだ」
「それでは、目標を整理していきましょう。まず、最優先事項は和平協定の締結。そして2つ目に、国防軍の改革。3つ目に物流や仕事の整備といったところでしょうか」
「そうだな。それだけやれば、民衆の見方も変わってくるだろう」
3人で顔を見合わせ、コクンと頷く。
目標は立てた。後はそれを実現するだけだ。
とても簡単とは言えないが、それでもやらなければならない。それが俺のやるべき事だから。
「ユウ、お話は終わったのか?」
ようやく長ったらしい会話が終わったかと、ジュリィが頬をふくらませながら座っている俺の背中にのしかかってきた。
「おう、終わったぞ」
「ワタシたちは結婚できそう?」
「ん~……まあ簡単じゃないだろうが、道筋は見えてるって感じだな」
「そっか……」
「どうした?」
何故か暗い顔をするジュリィ。
「ユウ……ワタシは、ユウのことが大好きだ……」
「お、おう」
「けど、だからってユウに無理はして欲しくない……」
「ジュリィ……」
「ワタシはユウがいればそれでいい。周りに嫌われても、友達も家族もいなくても、ユウがいれば……」
「やれやれ……」
今にも泣き出しそうなジュリィを俺は貧弱な腕でどうにか抱き上げ、前側に持ってきて優しく抱き締めた。
それを見ていたクロが再び卒倒するが、今はちょっと放置プレイさせてくれ。
「なあ、ジュリィ」
「ん……」
「俺はさ、やっぱり嫌だよ」
「何が……?」
「自分の嫁さんが皆に嫌われてるなんて」
「……!!」
俺がそう言うと、ジュリィは驚いたような嬉しそうな顔をして俺の顔を見つめた。
恥ずかしいのでジュリィの目線には気づいていないフリをして、俺は続ける。
「もう、俺たちは戦う必要はないんだ。ジュリィたちが歩み寄ってきてくれたんなら、それを無駄にしないように頑張るのが俺の役目」
「うん……」
「心配すんな。俺は大丈夫だ」
触り心地の良い金髪を撫で回しながら、ニカッと笑う。
するとジュリィは、
「うぅ~! ユウ大好き~!」
と言いながら俺にヒシッと抱き着いた。
それを見てクロが吐血する。
吐血だけならまだセーフ。まだ。
「よしよし」
半泣きしながら俺に縋り付くジュリィと、その頭を撫でくり回す俺。そして俺たちを見て死にかけているクロと、軽く笑っているギースさん。
いつか、人間と魔族のみんながこんな風に笑い合えたらと思う。
そのために、俺はこれから頑張るのだ。
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