はぐれ者達の英雄譚

ゆるらりら

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第一部 一章 転移編

完全復活と魔法の使い方。

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すずめの鳴き声で目が覚める。ゆっくりと目を開けると真っ白い病室が見えた。脳が覚醒していくと同時に段々思い出して来た。
「そうだ、私あのまま奏斗の上に……!」
思い出すととても恥ずかしい。重くなかったかな…?
そして、左手の温かい感触に気付く。見覚えのある綺麗な金髪の少年__奏斗が私の手を握り締め、そのまま寝ているのだ。何だか、起こすのも可哀想なので起きるまで待つ事にした。
「奏斗…ずっと看病してくれたんだね……」
思わず、頭を撫でる。金髪が少し揺れたかと思うと、奏斗がゆっくり顔を上げる。私も、撫でていた手を直ぐに引いて、奏斗に声を掛ける。
「おはよう、奏斗」
「梨花さん……?起きたんですね!」
顔をぱあっと明るくして、笑いかける姿はとても可愛い。そして、やっと手を握りっぱなしの事に気付いた様で、顔を恥ずかしそうに赤くしてから両手を引っ込んだ。
「体調の方はどうですか?」
「まだ完全とは行かなさそうだけど…だいぶ治ってきた」
「倒れた原因は魔力マナ切れだった様ですし、もう少しで治りますよ!」
魔力マナ切れ……。だからぶっ倒れたんだ。
「ね、奏斗。お、重くなかった……?」
「大丈夫です!これでも鍛えてますから!」
「そか。」
良かった……。重いって言われたら私の心ズタボロだもん。……あの時よりはマシだけどね。
「はあ、早く退院したいな」
「そうですね……魔力マナ切れの場合だと治療術師では対応出来ませんし」
「そっか……。時間で治るんだね」
私的にはもう治ってる気がするんだけどなー。
「ねえ、奏斗。魔力マナ測定器とか無いのー?今どんな感じか見たいんだけどー」
「確かに、どんな感じか知れた方が良いですよね。聞いてきます!」
奏斗は座っている椅子から立ち上がってすたすたと早歩きで向かってしまった。………………暇。話し相手が居ないとこんなに退屈するんだ…。
「…そう言えば、魔法名言わないと魔法って使えないのかな?」
最初がファイアって言えって言われたからずっと言ってたけど、言わなくても良いんじゃ?イメージ固めて撃つって感じで行けないかな?……まあ、今はやらないけど。魔力マナ切れならダメだと思うし…。………ほんっとに軽いのなら良いよね?手から水を出すーって言う位なら。よーし、じゃあイメージを固めて……
「梨花さん、ありましたよ!」
思わずビクッっとなる。イメージを直ぐに止めて、奏斗へと向き直って話し掛ける。
「測定器あったの?」
「はい、この通り!確認の為って言ったら貸してくれました!」
そして奏斗は、懐中時計の真ん中に大きな黒の宝石が付いた物を手渡して来た。普通に手に持つと、宝石がどんどん白に染まっていく。
「お?」
「え……」
私は白い宝石に釘付けになって眺めていたけど、奏斗の一言で意識が現実に帰ってきた。
魔力マナが全回復している……?しかも白…?」
「えっ?どういう事?」
「まず、魔力マナが全回復しているんです。通常、回復するには1週間位は掛かるんです……。それに、得意属性によって色は変化しますが白と言う例は聞いた事がありません。全属性の方でもどれかの色には属しているんです。」
……つまり、私って可笑おかしい?まさか……危険分子と判断されて処刑…何て事は無いと信じたいけど…。一応勇者って判定されたんだし。
「梨花さん、平たく言うと、貴女はもう退院出来るんですが…」
「えっ、ほんと!?」
やっと念願の冒険者活動が出来るんだ…!色々あって全然出来なかったけど……。やっと、依頼を受ける事が出来るんだ!このルミナスと、新しく買った杖も全然使えてなかったから楽しみだな。
「まあ、魔力マナの問題だけなら退院は出来るんですが……肋骨がくっついて無いのでまだ…」
あ…。折れたまんまだったの忘れてた。奏斗の治癒魔術凄いな。肋骨折れたのすっかり忘れさせてたよ。……2回強打してるけど大丈夫?
「危うく粉砕骨折になる所だったらしいですし…。あんな無茶な使い方しないで下さいよ?」
「えっと…。威力を落とす方法が分からないって言うか……ね?」
「…………え?イメージで威力を少し落とせば良いだけでは?」
………そんな考え全く無かった。イメージ次第だもんね。
「今やってみても良い?ちょっとしたやつ」
「駄目です!建造物内での魔術の使用は禁止されてるんですから!使いたいなら中庭を使いましょう!」
「中庭?そこなら良いの?」
「はい、魔術使用可能区域なので大丈夫です」
「んじゃ、行こっかー。試してみたいし」
扉を開けて、外に出るまで気付かなかったけど、どうやらこの診療所は想像していたより広かったみたいで、迷いそうだった。奏斗はもう構造を理解していたみたいで、迷わず進んで行く。
………え、奏斗初めてじゃなかったのかな?流石に昨日の今日で覚えられる訳無いし……。
「奏斗、ここ来た事あるの?」
「いえ、昨日が初めてです」
「じゃあどうして内装覚えてるの?」
「記憶力の賜物たまものです」
……はぐらかされたな。絶対に。まあ、本人が嫌がっているんなら無理強いして聞くつもりは無いけど。私の矜恃きょうじに反するし。
「あ、見えてきましたよ。中庭」
「おお……きれー!」
中庭には色んな所に花壇があって、様々な花が綺麗に咲いている。日当たりもとても良い。日向ぼっこに丁度良さそうな場所だ。
「上空にやろっと」
「頑張って下さいね!」
杖の先から出て、ブーメランの様に戻って来る小さい火の玉。威力も軽減して……。
「守れ、精霊達よ【バリア】」
あれ、奏斗魔術使ったの?バリアって……信用されてないな……。
「行け!」
上空に火の玉を飛ばす。杖を初めて思いっ切り使ってみたけど、軽くて使いやすいし、不評の理由が分からない。少しして、火の玉が帰って来たから杖を構える。イメージ通り吸い込まれていって、最後には消えて無くなった。
「ふぅ……。念の為バリアを張っていましたが大丈夫だったみたいですね」
「もー…信用してくれてないな……」
私の攻撃魔法はそんなにコントロール性悪いかな?最初はオカマ…吹っ飛んだ。次はグロティアルに使ったの…吹っ飛んだ。うん、コントロールだめだめじゃん。まあ、これで確定したね。本当に、イメージで全てが決まるんだ。
「一応、大丈夫かな……」
「あ、そう言えば、今回魔法名言ってませんでしたよね?それでも行けるんですか?」
「まあ、イメージ次第って奴よ!て言うかさっさと退院したい」
「じゃあ行きますか」
そのまま中庭を出てエントランスに直行した。荷物は後で取りに来れば良いし。受付に看護師のお姉さんが居た。そしてもう1人。
「カイトさん!」
「お、その声……梨花か?」
「そう言えば今日だったよね、退院するの!」
「だからここに居るんだが。……と言うか、何でお前が病衣びょういを着てるんだ?」
「あはは……かなり深刻な魔力マナ切れになってね……」
「馬鹿なのか…普通気付くだろ…。」
しょうがないじゃん……。日本暮しだと魔力マナを使う機会無いし。日本でも使えれば便利何だけど。
「凡ミスって奴だよ」
「そっか。お前はもうちょっとで退院出来んのか?」
「多分ね。全回復したし」
「ふーん。ま、看護師に診てもらうまでは分からないがな。また来いよ!お前らなら歓迎するぜ」
「分かった!じゃーね!」
「おう、またな!」
手を振りながらカイトさんはすたすたと出て行った。完全に復活したみたい。取り敢えず早く退院したいから受付の人に声を掛ける事に。
「すいません、診察をお願いしたいんですけど」
「ええっと……澪乃様ですね。畏まりました。こちらです」
受付の人の誘導で来たのは質素な椅子と簡易ベッドがある空間だった。
「では澪乃様。まずは魔力マナの残りを調べますよ」
取り出されたのは例の測定器だった。さっきと同じように持つと、やっぱり白色に濁っていく。全部が白になった所で声を掛けられる。
「これはこれは。もう全回復しているとは、驚きです。」
「ですよね。一瞬嘘かと思いましたもん。僕も」
「なら退院出来ますか?」
「後は…粉砕した肋骨が問題ですね。そこの方が痛みを感じない様に魔術を掛けた様ですが、痛みがあったら気絶で済むか分からないですね。ちょっと見ますよ」
「はい」
「光よ、彼の身の異常を示せ【サーチ】」
魔術の詠唱らしき物を唱えてからおおよそ5秒後。
「な……っ!?」
「ど、どうしたんですか?」
やばい。嫌な予感がする。すっごくこの先の内容が分かるんだけど。
「肋骨が回復している…!?」
「ですよね……。まあ、多分診断表にもあった【先代勇者の加護】が原因だとは思いますけど」
「そんな物が…。恐らく、治癒能力を上げる物何でしょうけど」
「便利ですねえ」
しみじみ。ちょっとずつチートじゃないかって思って来た。
「ですが、魔力マナを消費して回復している様ですね。これのせいで魔力マナ切れになりましたが、肋骨の治りが早くなった様です」
「そう言う事ですか……。」
ある意味使い勝手悪いかも。これで魔力マナ切れ起こしちゃうんじゃ…。オフにしておく方法とか考えとかないと不味いかも。
「まあ、退院確定ですね。服は病室にありますよ」
「ありがとうございまーす」
立ち上がって病室に向かう。あの複雑な道も段々慣れて来た。病室に着いて、カーテンの中で着替える。勿論奏斗は外に居る。
「うん、やっぱりこの服が落ち着くね」
着替え終わって、カーテンから出る。奏斗もこっちの方が落ち着くみたいで小さく頷いている。ニーソのパツパツ感がちょっと懐かしい感じがする…
「それじゃ、行こっか!」
「はい!」
受付で退院手続きを済ませて外に出る。王都の空気を目いっぱい吸い込んで歩き出す。
やっと、冒険者らしい事が出来るんだ!
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