はぐれ者達の英雄譚

ゆるらりら

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第一部 一章 転移編

盗賊の結衣とレストラン。

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冒険者ギルドに無事到着。奏斗ともお別れか……。まあ、気付いたら色々教えて貰ってたから、とっても有難かった。お別れは悲しいな…。
「奏斗、今までありがと。それじゃ」
すたすたと立ち去ろうとした私を奏斗が呼び止める。
「待って下さい!……梨花さん、僕とパーティーを組みませんか?」
「え……っと…。つまり、お別れしないって事…?」
「完結に言えば、ですがね。パーティーを組んで、一緒に依頼を受けに行くんです。誰ともパーティーを組んでいない方はフリーと呼ばれるんです。フリーは結構大変だと聞きましたし…。」
「私と……パーティーを組む…?」
涙が静かに零れていく。さっきまではガヤガヤとしていたギルド内の音も途端に聞こえなくなって、奏斗の声と私の声だけが聞こえてくる。
「ど、どうしたんですか!?そんなに嫌だったなら__」
「ううん、違うの。私…今まで厄介者としか扱われなかったから…嬉しくて…」
「そう…だったんですか」
「だから、喜んで受けさせて貰うね。宜しく、奏斗」
「はい、宜しくお願いします!」
2人で他愛も無い会話をしながら掲示板に向かう。
「あ、そう言えばカイトさんのテントの所って復興作業終わったの?」
「えっと…看護師の方に聞いた話では着々と進んでいる様ですよ」
「へえ…。王様とかは何もして無いの?」
「陛下がどうしたのかは知りませんが…騎士団長殿が魔族討伐を決行しようと計画している、と言う噂は診療所内で耳にしました」
不穏な感じ。
「人が多いですね…」
「確かに。紙取るのしんどそう…」
奏斗曰く、依頼を受けるには掲示板に貼ってある依頼書を取らなきゃいけないらしい。揉まれまくってやっと掲示板に辿り着いた時には、明らかに難易度が高すぎる奴と低すぎる奴だけだった。
「うわ…ドラゴンとか絶対無理じゃん」
「かなり高位とされている魔物ですからね…。低いのだとファイアラビット討伐ですか…」
「それって弱いの?」
「はい、冒険者じゃない方でも苦労すれば倒せるレベルですね」
「そっか…」
困ったな…。まあ、初陣だしこれ位で良いかな。
「初陣だし、良いよ。これで」
ペりっと取って紅華さんの元に持って行く。
「紅華さん、これお願いします」
「畏まりました。……ああ、それと例の魔物の鑑定が終わったので売却金をお渡ししますね」
そう言って、どさっと金貨が詰まった袋を手渡された。
「え、こんなにですか?」
「あの魔物は見た事が無かった、と言う事で…。発見代と質の良さ、大きさでこの金額になりました」
「へぇ……」
発見代とかあるんだ。新種の魔物を研究するって感じかな。品質で値段が変わるなら質も意識しなきゃ。
「それでは依頼開始です。この依頼は達成期間は無いのでゆっくりやって下さい」
「はい」
このって事は物によっては期間が決まってるのがあるのかな。依頼書に書かれてるみたいだし、しっかり確認しておかないと。
「それでは、頑張って下さい!パルティール!」
「はい!」
「パルティール?」
「安全を祈って、頑張ってと言う、掛け声らしいですよ」
「へえー…」
そんなのあるんだ…。まあ、弱い魔物退治で負ける気はしないけど。一応って事なんだろうな。
「じゃ、行きますか!」



夕日の中、溜息を着くしか無かった。何でって?そりゃ…
「……弱かった」
「そりゃあ、最弱クラスの魔物ですから」
「肩慣らしにもならなかったよ」
「あはは…」
結局、初陣は難無くクリアしてしまった。もう少し歯応えが欲しかった…!
「そう言えば、素材って何円で売れるの?」
「確か…。皮1つで150ゴルドですね」
「うーん、多分安いんだろうな」
「ですね……。ハシウロコの鱗チップス一袋分、と言った所でしょうか」
「まあ、取り敢えず依頼達成の報告をしに行こっか」
「ですね」
ふわあ、と欠伸をしながら草原を歩く。すると、近くの茂みからガサガサっと言う音がして、何かが出て来た。
「……女の子?」
出て来たのは、薄いベージュの髪色にダークブラウンの瞳を持った女の子だった。
「あんた達!命が惜しければ荷物全部置いてさっさと逃げなさい!」
「盗賊……ですか。女性だと戦いにくいですね」
「確かに。……残念だけど、荷物を置いてく訳には行かないんだ」
思った事を率直に話す。するとその娘も話し合いが無駄だと悟ったのか、腰に刺している短剣を抜いた。
「それなら死ねぇぇぇ!」
凄い勢い……でも無い普通より遅い位のスピードで突進して来る。当然、体をよじって避ける。……楽勝かも。
2回位突っ込んで来て、私は無理だと諦めたのか、次は奏斗に向かう。でも早口で【バリア】の詠唱をしていたお陰で、女の子はバシッと良い音を鳴らしてぶつかった。……一応、縛っておいた。
「いったあ…。ちょっと!何で避けたり守ったりするのよ!」
「そりゃ……刺されたら痛いし」
「荷物も手離したくないですからね…」
「うぅ…。あんた達の装備なら借金の半分返せると思ったのに…」
あれ?この子とあった事無いけど……。何で知ってるの?
「何で僕達の装備の事を知っているんですか?」
「オオパン食べながら歩いてたじゃない…。その時よ」
「ああ……。何か気配感じたけどそう言う事か…」
「そうよ!…ねえ、詰所に連れてくの?私の事」
詰所……多分、交番みたいなのかな。本当だったら連れてった方が良いんだろうけど、さっき借金返せるって言ってたから、それが全部水の泡って言うのも可哀想だよね。
「ううん、連れてかないよ。君の手際を見てると、初めてかなって。まだ未遂なら良いでしょ?」
「はい。もう盗ってるなら連れて行くしか無いでしょうが…」
「ありがとう…。ねえ、あんた達。名前は何て言うの?」
「澪乃梨花だよ」
「夢月奏斗です」
「うん、梨花と奏斗ね」
頷いてからもう一度復唱して、口を開く。
諷乃そらの結衣ゆいよ」
「諷乃家!?あの諷乃家ですか?家は次女が継ぐ、と言う話は聞きましたが…。」
「勘当されちゃった訳だけどね。才能無しって」
「でも…。才能が無くても努力で何とかなるんじゃ__」
「駄目だったのよ。……精霊が居るのに魔術の発動が出来なかったから」
精霊が居るのに魔術が発動出来ない?そんな事あるの?
「…それは、才能等の問題では無さそうです」
「え?」
「それは、同調シンクロに何か問題が生じているのでは無いのでしょうか」
「……確かに、その面は考えた事無かったわ。調べようともしなかったし…」
同調シンクロ?何だろう、それ。
その場に居る全員でうーん、と悩んでいると、誰かの腹が鳴った。
「私じゃ無いよ?」
「僕でもありません」
「……………………………私よ。あんまり食べ物貰えなかったから…」
「じゃあ、取り敢えずご飯を食べに行きましょうか」
「結衣も一緒に行こ?」
「一緒に行って良いの!?」
「勿論」
断る理由何か無いしね。悪い子では無いっぽいし。ついでに拘束を解いた。
「では…。王都のレストランに行きましょうか」
「え、どんなとこ?」
「とても雰囲気がある所です」
「わあ…楽しみ!」
「あ、和真かずまも一緒で良いかしら」
「和真?」
「私の専属の執事。今日、王都で落ち合う予定だったから」
取り敢えず今日の夕方、中央広場の噴水前で落ち合う予定らしい和真さんに会いに行く事にした。何でも、色々出来る完璧執事何だとか。疲れている様子を見る事がそうそう無いらしい。しかもイケメンだとか。楽しそうに語る姿を見て、本当に大好き何だな、と感じた。
「和真さんの事、大好き何だね」
「勿論。私が5歳の時から一緒に育って来たもの。まあ、和真とは4歳離れてるんだけれどね」
「え、結衣何歳?」
「16歳よ。和真が20歳」
つまり当時、和真さんは9歳か…。多分、その時から和真さんは執事だったんだろうけど、自分より年下の人に仕えるって嫌じゃ無かったのかな。私だったら嫌だったかも。
「和真さんって、元々結衣の家に居たの?」
「いいえ、私の家に『執事になりたい』って乗り込んで来たんだそうよ」
「中々に勇気がありますね…」
「私だったら絶対に無理」
だって貴族の家でしょ?執事居るし、奏斗が苗字に反応していた事を見ると。
「そうよね…。その出来事が切っ掛けで和真を執事にしようと思ったのかもしれないわね」
「確かに。面白いもんね」
3人で話をしているとあっという間に中央広場に着いてしまった。すると、燕尾えんび服を着たダークグレーの髪で、ダークブラウンの目を持つ青年が立っていた。結衣を見て顔を綻ばせた後、一瞬、隣に居る私達に怪訝そうな目を向けて、一礼して話しかけて来た。
「お嬢様、お久しぶりでございます」
「ええ、久しぶり。…この人達は私を助けてくれた人よ」
和真さんの怪訝そうな視線に気付いたのか、私達の事を紹介する。
「初めまして、私は澪乃梨花。よろしく」
「夢月奏斗です。よろしくお願いします」
「私は水瀬みなせ和真です。結衣お嬢様の専属執事をしております」
自己紹介を一通り終わらせてから少しして、和真さんが口を開く。
「梨花様、奏斗様。この度はお嬢様を救って頂き、有難う御座います。謝礼を__」
「もう!そんな話は良いからご飯よ、ご飯!お腹空いたのよ!」
「あはは…。今の空気でそれ言えるって凄い…」
「それでは案内しますね。和真さんもご一緒にどうですか?」
「では、お言葉に甘えさせて頂きます」
「じゃあ、決まりね!行きましょう!」
そうして私達は奏斗が知っていたと言うレストランに向かった。着くと、どっちかと言えば酒場っぽい雰囲気で入りやすかった。……滅茶苦茶お洒落な店だったら遠慮しちゃうからね。
「こう言うレストランって初めて来たわ…」
「確かにそうですね。御屋敷で暮らしていた頃だと、こう言う酒場の様な所は訪れてませんから」
「何か新鮮ね…。私だったら絶対入らないもの」
そっか…。結衣は良いとこのお嬢様だからセレブって感じの所しか行かないよね。普通に出される料理もすっごく豪華何だろうな。……やばい。よだれ出て来た。
「奏斗、ここの料理ってどんなのがあるの?」
「主にきのこ料理ですね。3種のきのこが大半です」
3種のきのこ?何だろう。
「それじゃあ入りましょうよ!」
入ると、きのこの匂いが漂って来た。……この世界ここにもきのこあるんだ。
…美味しそう。
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