はぐれ者達の英雄譚

ゆるらりら

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第一部 一章 転移編

執事の和真と令嬢の結衣。

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「では…入りましょうか」
「勿論!入ろう!」
「お嬢様、段差にお気を付け下さい」
「ありがとう、和真」
それぞれ、店内に入って行く。店名は、レストラン・アネシスというらしい。木造建築で奏斗が言ってた通り雰囲気がある。西部劇って感じの店。時間帯的に空いていた。
「いらっしゃい!どの席に座っても良いよ!」
「ありがとうございます!」
「それにしても、きのこの良い匂いがするわね。さっき奏斗が言ってた3種のきのこかしら」
「ええ、恐らく。お嬢様、お座り下さい」
和真さんがさっと椅子を引いて結衣を座らせる。
…ほんとに紳士って感じがするなあ。結衣が羨ましいよ。取り敢えず何頼むかを決めようと思ってメニューを手に持とうとしたら、和真さんに取られた。気が利く…。
「皆様、どれに致しますか?」
「そうね…。きのこパンときのこのクリームスープのセットにするわ」
「僕は3種のヤイタダケで」
「えっと…。じゃあ私は3種のきのことクマンベールチーズのアヒージョ…ってやつときのこパスタで」
この世界で初めての麺類。楽しみ…。……てかクマンベールって何。カマンベールの事書き間違えたのかな。てか奏斗の注文可笑しくない?ヤイタダケって…。オヤジギャグか。
「私はきのこのクリームパイでお願いします」
暫くして、注文した品が運ばれて来た。結衣が頼んだきのこパンは日本で見る形とは全く違って、きのこを練り込んだパンだった。クリームスープも出汁が染み込んでて美味しそう。奏斗が頼んだヤイタダケは…。ほんとに焼いただけだった。名前の通り過ぎる。…塩胡椒は掛かってるっぽい。松茸レベルで大きいきのこだった。和真さんが頼んだきのこのクリームパイはアップルパイのきのこバージョンって感じだった。めっちゃ美味しそう。私が頼んだやつは…。うん、パスタは普通に美味しそう。でもさ……アヒージョの見た目えぐい。1つがしめじ位の大きさのきのこに目を付けたような見た目。もう1つがしめじ位の大きさのきのこの笠が口?みたいな形になっている。最後が…。触れたく無かったんだけど、全部耳。最早これきのこ?笠とか柄が無い。マジで全部耳で出来てる。はっきり言って気持ち悪い。これ…。耳食べるの?…唯一の救いなのはクマンベールって奴が普通にカマンベールっぽいって所だけ…。て言うか何できのこ切らないの?とまあ、空腹もあって、もやもやしながら食べてみた。
「痛い痛い!止めて!」
「んむう!?」
「あれ?食べてくれないの?」
きのこから声!?食べてたのは口の形した奴で、あれだから喋ったのかも?………って、何できのこが喋るの?
「梨花さん、どうしたんですか?」
「え、今このきのこが喋って…」
「普通じゃないの?イウダケだし」
「そう言えば、梨花さんは3種のきのこシリーズにしたんですね」
「そう言えばそれ何?」
それ、地味に気になってた。至る所に《3種のきのこあります。》って書いてあったから。
「3種のきのことは、イウダケ、ミルダケ、キクダケの3種類のきのこの総称です。それぞれに特徴があって、イウダケは目の前を通った際、何かを伝えます。ミルダケは目の前を通る際にじっと見つめて来ます。キクダケは目の前を通った人達の会話をそのまま反復します。…あ、これがイウダケ、これがミルダケでこれがキクダケですね」
最初に食べた口の奴がイウダケで、ミルダケは目が付いた奴、キクダケが耳の形をした奴らしい。てかこれほんとに食べれるの?すっごい禍々しく見えるんだけど。特にキクダケ。て言うか名前オヤジギャグか。この世界の食材の名前、可笑しい気がする…。
「…イウダケって食べても平気なの?」
「はい!ちょっと声が気になるだけですから!」
「うーん…」
はっきり言ってめっちゃ驚いたし、この世界ヴェール・ソルの人達が普通に受け入れているのを見ると、世界の違いを改めて思い知らされる。それでも、奏斗達が普通に食べれるんなら大丈夫だよね!毒は無いって事だし。最初噛んだ時も驚いただけで美味しかったからね。……うん、覚悟を決めよう。息を吸って…吐いて…。
「頂きます」
決心して噛む。きのこの出汁が口の中に広がって…。
「痛い痛い!…でもこの痛み気持ち良い…」
やっぱり気になる。…変態なのかな。このきのこ。
「やっぱり、美味しいのが憎いなあ」
味も微妙なら納得出来るけど、もしかしたら松茸よりも美味しいかも知れないってレベルだから癪に障る。……いや、マジで美味しいな。
楽しく談笑しながら食べてたら、あっという間に全員食べ終わった。
「やっぱり美味し…。……そうだ、何で結衣は盗賊何てやってたの?」
「それは……」
一度、瞳を揺らしてから和真さんの方に目配せをして、小さく和真さんが頷くと、和真さんが口を開いた。
「…お嬢様は適性検査で最高得点の1位を出しました。ですが…何度やっても魔術が使えなかったのです。精霊の方も正体が不明のまま…。最初の方は奥様方も根気良く魔術の練習を手配していましたが…」
「……無駄、だったのよ。全てが…」
「お嬢様…」
「やっぱり、自分で言うわね。……その後、痺れを切らした母様達の私に対する扱いは酷くなって行ったわ。世間体を守る為にしっかり食事は出されたし、お風呂にも入れたけど…」
結衣の目元に影が落ちて、少しかすれた声で話し始めた。
「それから、次女が産まれたわ。私の妹…結希ゆきは適性検査で2位を取ったわ。精霊も…高位精霊ハイランクスピリットだったから凄く甘やかされて…愛されて…いたわ…っ。当時は和真だけが心の拠り所で…っ和真だけは私の味方だったわ…っ」
途中、嗚咽が混じりながらゆっくりと話して行った。この話を聞いていると心が締め付けられる感覚に襲われて、こっちまで泣きそうになった。きっと、辛い思いをしたんだろう。期待されていたのに応えられなかった悔しさ…。私の場合、既に期待何てされて無かったからまだ気持ちが軽かった。だけど結衣は……期待の塊だった。そうなのだろう。悲しい思いを何度しただろう。私の同い年位なのにそんな負担を背負う何て…。
「……それから暫くして、家を追い出されたわ…っ。あんた何て諷乃家の恥って言われて…っ、最後は追い出されたわ…っ。そんなに死んで欲しかったのか分からないけれど、和真と一緒に行くのも禁止されて…生き方も分からないから盗賊に騙されて借金をして…っ」
「お嬢様、もう良いです。お泣きにならないで下さい」
和真さんが結衣の背中を撫でながら、ハンカチで結衣の涙を拭き取る。
「……そんな事が…あったんだね…」
「ええ……。でも…梨花達に会えて良かったわ。他の人に話せて、少しすっきりしたかも」
「結衣さんのお役に立てて良かったです」
「何か、吹っ切れたわ。ありがと__」
結衣の言葉は途切れて、代わりに酔っ払った男達の声が聞こえた。
「なーなーねーちゃんたちぃー」
「おれたちとあそばねえー?」
「ごめんなさい。私、お酒はあまり得意では無いの」
まあ、得意不得意の前に未成年だし飲めないけどね。てかこいつら奏斗達男性陣は見えてないのかな?普通、男女2人ずつで居たらダブルデートかなって思わないのかな?酔っ払ってるから正常な判断が出来ないのかも。
「つぶれてもおれたちが送ってってやるよー」
「ねーちゃんもう飲めるとしだろー?」
「そうですけれど、この後約束がありますので」
「……お嬢様、どうしますか?この手の輩は執拗しつこいですが」
「今はまだ保留よ。タイミングを見て判断して頂戴」
「了解しました」
……ん?結衣って16歳って言って無かったっけ?16歳ってまだ未成年だよね?和真さんが誘われるなら分かるけど…。
「ねえ、奏斗。成人って20歳からだったよね?結衣って16歳だった筈だけど…」
「え、成人って15歳からじゃありませんでしたっけ?」
「え?………………そ、そうだったね…。ちょっとぼんやりしてた…」
だよね…。常識何て違う筈だし。そしたら、私でも酒飲めるんだ。ちょっと気になる…。
私達がこそこそ話をしている内に結構話が進んでたみたいで、険悪ムードになっていた。何か凄い静かな言い争いになってたから口出し出来無かったんだけど、男の放った言葉で状況が変わった。
「そこの茶髪のねーちゃんはおれたちとのみたいだろー?」
そう言いながら私の肩をがしっと掴んできた。周りの客は見て見ぬふり。
……うわっ、酒臭い。初めて嗅いだきつい臭いに顔をしかめながら愛想笑いをする。
「ご、ごめんね…。私もこの後用事で…」
「ようじってそこの男どもとあそびに行くんだろ?」
「それならおれたちとあそんだ方がたのしいってー」
本格的に気持ち悪くなって来た。ガードが堅い結衣を諦めて、ガードが弱そうな私を狙って来たみたい。
「あ、あの!あんまり……その…僕の、パーティーメンバーにちょっかいを出さないで貰えますか!」
少ししどろもどろだったけど、初めてこんな剣幕の奏斗を見た気がする。普段からおっとりしてるからね。
「ああ!?一回ぶちのめされねーとわかんねぇみたいだな!」
奏斗の胸倉を掴む。奏斗はすっかり怯えてしまったみたいで、少し震えていた。
「ちょ……!」
「…和真」
「了解しました」
その短い会話で内容を理解したのか、和真さんが席を立って、腰のレイピアらしき細い剣に手を掛けたと思ったら、いつの間にか男達の1人の首に、刃が宛てがわれていた。
「ひ、ひぃぃ…」
「お嬢様のご友人に手を出す事の罪の重さ……理解していますよね?」
「わ、分かった、分かったからあぁぁぁぁぁぁ」
と、男の1人は逃げて行って、もう片方も和真さんに睨まれて逃げた。情けないな…。男連れの女の子ナンパするなら度胸位持って欲しいよ。
…すっきりしたけど。
「王都ともなると、こう言う方は結構いらっしゃるのですよ」
「お陰様で助かりました…」
3人でわいわい話していたけど、私は凄く気になった事があって、ぷるぷるしていた。
「………和真さん!さっき使ってた剣ってレイピア!?」
「はい、その通りでございます」
「やっぱり!?わあ…!かっこいい!」
今まで全く気付かなかった!初めて会った時もレイピアがあった何て知らなかった!
私がはしゃいでレイピアの柄とか鞘を触ってるから和真さんは口ぽかーん状態。結衣は笑いを堪えてる感じだった。
「和真のそんな顔…っ初めて見た…。…ふふっ」
「確かに…。和真さんって冷静沈着でどんな事でも対応出来るイメージでしたから…」
「お嬢様…奏斗様まで……。酷いですよ…」
和真さんは少しだけ顔を赤くして、俯いている。その仕草を見て、結衣が更に笑い出す。
「ふふっ…。あははっ…」
私達もつられて笑って、更に和真さんが恥ずかしそうにしたけど転換する話題を見つけたみたいで、顔を上げる。
「…そうだ、お嬢様。そんなにお笑いになったのは久しぶりでは無いですか?」
「んー……確かにそうね。いっつも緊張の糸が張り詰めてたから、こんなに笑ったのは久しぶりだったわ」
笑い過ぎて少し涙が浮かんだ目で話す。やっぱり、最初の印象とは大違いだな…。ちょっと怖い盗賊ってイメージだったけど、全然女の子っぽいし、可愛い。…………………あ、折角だし、パーティーに誘って見ようかな。
「ね、奏斗」
「どうかしましたか?」
「結衣の事、パーティーに誘ってみない?」
「勿論、賛成です!」
よし、奏斗の承諾も得たし、誘おう。
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