はぐれ者達の英雄譚

ゆるらりら

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第一部 一章 転移編

新メンバーと初飲酒。

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「……あのさ、結衣。もし結衣が嫌じゃなければで良いんだけど……私達のパーティーに入らない?勿論、和真さんも」
「パーティーって……冒険者のかしら?…でも…私は魔術を使えないわ。和真なら前衛としていけるけれど、私は強いて荷物持ち位しか役に立たないわ」
「魔術だって、何か使えない理由がある筈だよ!ちゃんと精霊も居るし、何かが足りてないだけだって!」
「梨花さんの言う通りです。僕達と一緒に調べて行けば良いでしょう?」
結衣は少しの間俯いたけど、次に顔を上げた時にはもう決意の表情だった。
「梨花達が……受け入れてくれるなら、私は大歓迎よ!」
「私も、お嬢様に付き添います」
「ありがとう…2人共。そして、これからよろしく!」
「それでは、祝杯をあげましょう!」
奏斗の提案で一杯だけ飲酒をする事になった。飲みやすい奴がどれか、ここに居る全員が初酒と言う理由で分からなかったから、適当に柑橘系の果実酒を選んだ。
「それでは、結衣さんと和真さんのパーティー加入を祝って、乾杯!」
「乾杯!」
くいっ、とグラスを傾けて果実酒を飲む。
「想像してたより美味しい!」
「そうね、柑橘系の風味が聞いてて美味しいわ」
「ここの果実酒は飲みやすいって有名ですからね」
「これなら幾らでも飲めそう!」
本当にもっと飲みたくなる位に美味しい。悪酔いしない様に一杯って決めたけど、これならあんまり酔わなさそう!……まあ、一応酒だから酔うには酔うけど。
「もう一杯駄目かな?」
「ですが…梨花様方は明日も冒険者の仕事があるのでしょう?大丈夫なのですか?」
「んー……。まあ、お金に余裕はあるし、1日位休んでも大丈夫かな」
「二日酔いはかなり大変だと聞きます。これ以上、飲まない方が良いのでは…?」
と言ってもな……。美味しいものは美味しいし。半分位一気飲みしちゃったから中身少ないんだよね…。自業自得って言っちゃえば完結するけど、飲みたいし。やっぱ飲みたい…!
「ねー奏斗。駄目?」
「うっ……。…………………分かりました。二杯目で終わりですよ?」
上目遣いで見たら、悩んでたっぽいけど結局オッケーくれた!んじゃ、私のパートナーに許可貰った事だし、飲みますか!
……皆の呆れた様な視線が痛いけど気にしない。
「ぷはっ。やっぱり美味しい…」
初酒は美味しいのって……最高じゃん!3年後まで楽しみにって思ってたけど、こんな早くに、しかも美味しいのって幸せ…。
この二杯目で終わりだから、ちびちび飲む。そのまま暫くしてると、段々頭がぼーっとしてきてテンションが上がって来た。



梨花さんに果実酒のおかわりをせがまれて、渋々オッケーを出したものの、明らかに酔っている。少しづつ呂律ろれつが回らなくなって来ているし、顔が赤い。一杯目の時に半分程一気飲みをしていたし、酔いが回るのが早かった可能性が高い。
「ねーかにゃとー。もっといっぱいのみなよー」
ぴたっとくっ付いて絡んで来る。顔が赤いお陰でいつもより色っぽい。
……梨花さんってこんな酒に弱いんだ。新しい発見もあったけど、ずっとこのままなのは少々きつい。取り敢えず、少しでも酔いを覚まさなければ。
「…梨花さん、酔ってますよね?少しでも水を飲んで酔いを覚まして下さい」
「よってにゃいー。わたしはらいじょーぶー」
「大丈夫じゃないでしょう。充分酔ってますって」
「んー…わかんにゃい」
………駄目だ、聞く耳を持ってくれそうに無い。倒れられても困るし、宿を探して寝かせた方が良いだろう。
「結衣さん、和真さん。これ以上は梨花さんが心配なので、宿に行きます」
「了解しました」
「あ、和真。私達が泊まる宿って、もう決まってるのかしら」
「いえ、まだですよ」
そんな事聞いてどうするのだろう。少し首を傾げたけど、後に続く言葉で意味を理解した。
「なら、梨花達と一緒の宿に泊まりたいわ!もうパーティーメンバー何でしょう?」
「勿論、大歓迎ですよ!」
「では……梨花様の体調も考えて、この近くの宿にしましょうか」
そこから、会計を済まして、店主情報で近くの【ドルミール】と言う宿に向かった。梨花さんがやけに静かだな、と思ったら梨花さんは既に寝ていて、全員が少し笑ったのはまた別の話。
「それにしても、梨花ったら幸せそうに寝ちゃって…」
「美味しそうに飲んでましたからね…」
「私も、あそこまでお酒を美味しそうにお飲みになる方は初めて見ました」
やっぱり、梨花さんは凄い人だ。会ったばかりの人にも信用されて、自分の身の上をつい話してしまう。それ程に裏が無い、明るい人何だと思う。
それから少しして、宿に到着した。早めにチェックインを済まして部屋に移動する。
「それじゃあ、ここが私達の部屋ね。取り敢えず、梨花は窓側のベッドね」
「はい、っと」
梨花さんを背中からゆっくりと下ろす。酒のせいが大きいだろうが、まだ熟睡していた。
…結構、僕の背中の上は揺れただろうに。僕の体力の無さが原因なのだが、酒の影響でそれなりにふらふらしていたから、移動中に起きてしまわないかどうかが1番心配だったが、問題無さそうだ。
「それでは、私達は隣のお部屋に居ますので、何か御座いましたら、ノックをして下さい」
「分かったわ。それじゃあ、おやすみなさい」
「また明日!」
「お嬢様に良き夢が訪れる事を祈ります」
そうして、各々の部屋に戻って、それぞれの就寝準備をし、明日に備えた。



「ん……ふわぁ…」
目が覚めると、見覚えの無い木造の屋根が見えた。体調は……頭は痛いし、体も怠い。最悪だ。外は真っ暗だから、恐らく酔い潰れて奏斗辺りに宿まで運んで貰ったのだろう。
……すっごい恥ずかしい…。調子乗って酒飲んで潰れるって…。しかも、この症状って二日酔いだよね。この歳で経験する事になるとは……。
「目覚めちゃったし、魔法の練習でもするかな…」
なるべく、音を立てずに移動したつもりだったのだけど、結衣にはバレてしまったらしい。すっと起き上がって、話しかけて来る。
「あ、梨花。起きたのね」
「うん。気分最悪だけど…」
「そりゃあ、あんなに一気に飲んだらそうなるわ。文献に載ってたのだけれど、水分を取ったら治まるらしいわよ。試してみたら?」
へえ……知らなかった。二日酔いって水分取ったら治りやすいんだ。……てか、こっちにも二日酔いってあるんだね。
「ところで、どこに行くつもり?」
「魔法の練習に。まだまだ扱いきれて無いから」
「魔法?魔術では無くて?」
「あー……そっか。結衣には話してなかったっけ」
それから、今まであった事を完結に話していった。魔法の事、私の職業についても、結衣は時々頷きながら、真面目に話を聞いてくれた。
「……凄い、のね…。無詠唱で撃てる何て、魔術師の願望じゃない。…それに……勇者って…何か目的とか、あるんじゃない?」
「ううん、それが無いの。全く書いて無かったし、お告げとかも無いから」
「……なら、邪神討伐…じゃないかしら。巨悪の根源……魔族のおさ。」
邪神………ファンタジーとかのボスキャラに多いよね。あ、グロティアルが言ってたから聞き覚えがあったんだ。確か、邪神様って言ってなかったっけ。
「邪神って、何をしようとしてるの?世界征服?」
「それがね……分からないのよ。目的が」
「……分からない?」
どうしてだろ?巨悪の根源って言ってる位だし、人間の天敵!って感じだと思ってたんだけど。目的が分からないんだったら決めつけるのもどうかと思うな。
「目的が分からないんじゃ……巨悪の根源だとは限らないんじゃない?」
「いいえ、違うわ。目的の分からない大量殺人を繰り返しているの。軍事力を使ってね…。大国を滅ぼした事だってあったわ」
「そっか………。確かに、それが勇者の使命かも。何か、不謹慎だけど楽しみだな。世界の為に戦うって…」
急にここに来たのはびっくりしたけど、そう言う事なら納得。……サポートとか、お告げとかは欲しかったけど、強い能力はくれたからいっか。
「そうだ、昼間さ、結衣の事縛ったでしょ?水色の縄……みたいなので」
「そうね。魔術具マジックアイテムだと思ってたのだけれど…まさか、あれも魔法?」
「うん。名前を付けるとしたら……【魔力縄マジックロープ】とか?」
まあ、魔力を練り上げて作ってるから正確には【魔力縄マナロープ】だと思うけど……言いにくいし。マジックの方が言いやすいからね。
「かっこいいわ!…それに、縛られても痛く無かったし、凄いわ!」
「そんなに言われると照れる……」
そう言えば、魔法っていつもドン引きされるから、褒めちぎられたのって初めてだ。…日本でも全然褒められた事何て無かったし。
「あ、少し話は戻るけれど、魔法の練習をしに行くって言ってたわよね?それなら、魔力回路の強化をした方が良いわ。このままだと、貴女の体が持たないし」
「……………え、何それ」
「知らないの?魔力回路の強化をしないと、体内にある魔力マナが暴走して粉々に砕けるって」
……ええええええぇぇぇ!?知らなかったよ!?そんな事!怖すぎない!?て言うか結衣も良くそんな事を真顔で言えるね!結衣に言われなかったら気付かなかったよ。感謝………。
「し、知らなかった……ありがとう、結衣。……あ、強化ってどうやってするの?」
「ああ……それはね__」
結衣の話を纏めると、どうやら魔力回路って言うのは所謂いわゆる魔力マナの血管みたいな物で、どんどん魔力マナが育って行く過程で魔力回路も育てないと、中にある魔力マナの圧に耐えられなくなって、所有者の体が砕け散るらしい。それで、強化するにはただひたすら、魔力マナ同士をぶつけ続けるらしい。限界ぎりぎりの圧を掛ける事で鍛えて行くって事なんだって。
「じゃ、やってみるよ」
「ええ、頑張ってね」
いっつも魔法を使う時みたいに、魔力マナを動かして、圧を掛ける。地味な作業だけど、寝ながらでも出来るから結構楽。何か、ダイエットのキャッチコピーにあったよね。こう言うの。寝ながらでも、テレビを見ながらでも簡単!……みたいな。まあ、これはダイエットでは無いけど。でも、ああ言うのって、テレビを見ながらだと結局テレビに集中しちゃって、その作業を忘れちゃう気がする。……知らないけど。それから10分、ずーっと続けた。私だって、粉々に砕けるのは嫌だし。
「ふう……意外と精神削るなあ……」
「うん、これなら暫くは大丈夫ね。でも、定期的にやるのよ?」
「りょーかいですっ!」
「もう夜も遅いし……寝ましょうか」
「だね」
ベッドに入って、目を閉じると一瞬で眠りに落ちた。
明日からは、結衣達もパーティーメンバーか……。うん、楽しみ。
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