異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第23話 ハーレムを捨ててでも

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【異世界ネイヴェルス】


 

 異世界の王城――その高いバルコニーに、澄み切った青空が広がっていた。
 遠くの森まで見渡せる絶景。優しい風が頬を撫でるたび、どこか胸の奥がざわつく。

 しかし、その穏やかな景色とは裏腹に、俺の心は落ち着かなかった。

 

「……魔王を倒したら、本当に元の世界へ帰ってしまうのですか?」

 

 隣に立つ姫が、かすかに震える声で問いかけてきた。
 揺れる睫毛の奥から、潤んだ瞳がまっすぐ俺を見つめている。

 

「ああ……帰るつもりだ。」

 

 俺はバルコニーの手すりにもたれ、視線を空へ向けながら静かに答えた。

 

「この世界では、勇者様は皆の英雄なのですよ?」

 

 姫の言葉は、そっと胸に刺さる。
 確かに――この世界の俺は英雄だ。

 街を歩けば、誰もが頭を下げてくる。
 子どもたちは憧れの眼差しを向け、兵士たちは敬礼し、名を呼ばれるたびに誇らしさがこみ上げた。

 

 ――悪くない。
 いや、本音を言えば、最高だ。

 

 だが。

 

 胸の奥に残る、消えないひっかかりがある。


 

 そして姫は、さらに一歩踏み込んだ問いを口にした。

 

「しかも、貴方が望んでいたハーレムだって、すでに作ったじゃないですか?」

 

 その言葉に、俺は思わず背後を振り返る。

 そこには――
 俺のハーレムメンバーたちが、ずらりと勢揃いしていた。

 エルフの狙撃手。
 頭脳明晰な魔法使い。
 ツンデレだけど頼れる剣士。
 猫耳娘の盗賊。
 魚人族の、甘やかしてくれるお姉さん。

 皆が、どこか寂しそうな目で俺を見ていた。

 

 ……いや、これってさ。

 英雄で、ハーレムも完璧。
 理想通りの人生――まさに勝ち組じゃねぇか?

 でも。

 

 それでも、俺は帰らなきゃならねぇ理由がある。


 姫が、不思議そうに首をかしげる。

 

「何故、帰ってしまうのですか?」

 

 姫の問いに、俺は視線を遠くへ向け、しばらく沈黙したあと答えた。

 

「……妹が、心配なんだよ。」

 

 その瞬間、姫だけじゃない。背後で控えていたハーレムメンバー全員が、そろって目をまん丸にした。

 

「あいつ、なんだかんだで……俺のこと必要としててさ。」

 

 しんと空気が張りつめる中、エルフの狙撃手・リリィがおずおずと手を挙げる。

 

「あ、あの……妹さんって……その、恋人のこと、じゃ……ないですよねぇ?」

 

「ちげぇよ!!」

 

 即答だ。

 

「恋人じゃねぇ!ただの妹だ!勝手に俺がヤバい方向に走ってるみたいに言うな!!」

 

「で、でも勇者様だし……可能性としては……」

 

「ねーーーよ!!」

 

 思わず全力ツッコミを入れつつも、ふと空を見上げる。

 

 ――俺にとって、貴音は特別なんだ。

 母さんが死ぬ前に言った言葉。

 

『貴音を……頼むわね』

 

 その一言が、今も胸に重く残っている。

 

 だから、俺は帰ると決めた。

 だけど――俺だって聖人じゃない。

 この異世界の最高すぎるハーレム生活を、簡単に手放せるわけがない。

 

 だって見ろよ。

 エルフ、魔法使い、ツンデレ剣士、猫耳盗賊、魚人のお姉さん。

 全員、俺のこと大好きな顔してるんだぞ?

 こんな夢みたいな世界、普通なら永住確定だろ。

 

 ……それでも、俺は手放すんだ。

 

「あーーーー!!帰りたくねぇぇぇぇぇ!!」

 

 思わずバルコニーに向かって叫んでしまった。

 背後の空気が一斉に重くなる。そりゃそうだ。彼女たちにとって、俺がいなくなるなんて考えたくもないだろう。

 

 だけど、俺は決めたんだ。

 

 ゆっくりと振り返り、言葉を絞り出す。

 

「そういうわけだ。……すまねぇな。」

 

 背中で感じる視線は静かで、寂しくて、それでも俺を責めない優しさに満ちていた。

 振り返ったら泣きそうになる。

 だから、俺は前だけを見て歩き出す。

 

 ――でも、たぶん一生忘れねぇ。

 ずっとエルフの耳を眺めていたかった。

 ずっとツンデレ剣士のツンを見ていたかった。

 ずっと猫耳娘の尻尾を触り続けていたかった。

 

 それでも。

 

「貴音、待ってろよ。……お前がいないと、やっぱり寂しいんだよ。」

 

 小さく呟き、俺は異世界を後にする決意を、強く胸に刻んだ。

 
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