異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第51話 修学旅行11

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 琉球ガラス体験を終え、ホテルに到着した俺たちは、次の日が最終日だという少しの寂しさを感じながらも、フロントに向かってチェックインを始めた。みんな疲れながらも楽しげな雰囲気で、それぞれのルームキーを受け取っていく。


 でも――。

 
 俺がフロントでルームキーを受け取った瞬間、異様な違和感が全身を駆け巡った。

 

「え……俺と麗華、同じ部屋?」



 スタッフがニコニコしながら渡してきたキーを見て、俺の脳内は瞬時にパニック。隣にいた麗華も、瞬間的に固まり、その後、俺以上に激しい反応を見せた。


 
「な、何で私と飯田君が同じ部屋なのよ!?絶対にあり得ないでしょ!」



 麗華の声がフロントロビーに響き渡り、他のクラスメイトたちが何事かとこちらを見始める。俺も焦りながら、スタッフの説明を待ったが、スタッフは微動だにせず、涼しい笑顔で言い放った。


 
「お部屋のご予約は静香様からの特別手配で、お二人が同じお部屋でのご宿泊でございます。」



 その瞬間、俺の脳内に「静香さん」というキーワードが閃光のように浮かんだ。


 
「え、静香さんの手配って……なんで?」

「そんなの私が聞きたいわよ!」



 麗華は顔を真っ赤にしながら叫ぶ。



「どう考えてもおかしいでしょ!普通、男女で同じ部屋なんて!」


 
 フロントスタッフはそんな彼女の抗議をものともせず、微笑を浮かべたまま淡々と説明を続ける。

 

「静香様からは『お二人は将来夫婦になる予定なので、今のうちに絆を深めてほしい。頑張ってね。」とのお言葉をいただいております。」


 
 ――夫婦。絆を深めてほしい。



 その言葉が俺と麗華の頭上に炸裂するように響いた。


 
「は、はああああ!?何言ってんだよ静香さん!!」



 俺が叫ぶと、麗華はさらに顔を真っ赤に染めて、拳を震わせながらフロントに猛抗議し始めた。


 
「ふざけないで!絶対、別の部屋にしてもらうわよ!こんなの常識的におかしいでしょ!?」



 麗華の剣幕に、一瞬フロントのスタッフもたじろぐかと思いきや――次の瞬間、満面の笑みを浮かべながら淡々と答えた。


 
「大変申し訳ございませんが、本日は満室でございますので、お部屋の変更はいたしかねます。」



 その一言で、麗華の動きが完全に止まった。

 

「ま、満室……?」



 麗華の顔が一瞬で青ざめたかと思うと、再び真っ赤になり、明らかにパニックに陥っている。俺も状況を理解しようと必死だが、どう考えても逃げ場がないことに気づいてしまった。

 

「ということは……俺たち、同じ部屋に泊まるしかねぇな………………。」



 俺がポツリと呟くと、麗華はガンッ!と俺の腕を掴み、信じられないとでも言いたげな目で睨みつけてきた。


 
「ど、どうするの……!?こんな状況……普通じゃないわよ!」

「いや、俺だって普通じゃないって思ってるよ!でも、これもうどうしようもなくねぇか?」



 麗華は明らかに困惑しながら、顔を真っ赤にしたまま足元を見つめている。その姿に、俺はなんとも言えない申し訳なさと、妙な緊張感を覚えた。

 
 俺たちの後ろではクラスメイトたちがニヤニヤしながら噂話を始める。

 

「おい、飯田と伊集院さん、同じ部屋らしいぞ?」

「え、マジで?あいつら何かあんのか?」



 ――うるせぇ!お前ら、後で絶対泣かせてやるからな!



 俺はそんな雑音を聞き流しながら、赤くなった麗華の横顔を盗み見た。この状況、どうなるか分からないけど……とりあえず、どうにかして麗華を落ち着かせる方法を考える。



「と、とりあえず部屋に行こう。周りの目もあるし、ここで騒いでも仕方ねぇだろ?」


 
 必死に頭を回転させたが、まともな案が浮かばない。とりあえず、この場を離れるしかない。

 

「ベッドは二つあるよな?それぞれ別々で寝る。ただ一夜を過ごすだけだ!俺、変なことなんて絶対しねぇから!だから安心してくれよ!」

 

 麗華は顔を伏せながら、小さく息をつき、ぽつりと言った。


 
「……絶対に、変なことしないでよ。」



 その言葉に、俺の心臓が一瞬止まりそうになる。


 
「お、おう!当然だろ!俺はそういうのは絶対しない男だからな!」

「ほんとに……信じていいのね?」



 麗華がじっと俺を見つめるその瞳は、ほんの少しだけ不安を含んでいた。俺はその視線に思わず力強く頷く。


 
「麗華が大事だからな!そんな麗華の信頼を裏切る真似はしない!」



 麗華はその言葉に少しだけ表情を和らげ、顔をそらしながら静かに言った。


 
「……なら、いいわ。でも、万が一変なことしたら……覚悟しておいてね。」

「わ、分かってる!絶対大丈夫だから!」



 そのまま二人でエレベーターに乗り込み、俺たちは指定された部屋へと向かった。エレベーター内の沈黙がなんとも言えない緊張感を醸し出しているが、俺はひたすら「静香さん、覚悟してろよ」と心の中で叫び続けていた。
 
 

 




 そして部屋に到着。
 ドアを開けた瞬間、俺たちは目の前の光景に固まった。そこにあったのは――


 
「……ベッドが……一つしかない……」



 麗華が信じられないものを見るような目で、呆然と呟いた。

 部屋の中央には大きなダブルベッドがドーンと構えている。それ以外のスペースは、ちょっとしたテーブルと椅子、そして窓際の観葉植物くらい。ベッドの存在感が部屋の大半を占めていて、どう見ても「二人で寝ること」を想定した配置だ。

 

「ちょっと!どうしてベッドが一つなのよ!?これ、絶対ふざけてるでしょ!」



 麗華は真っ赤な顔で振り返り、俺に詰め寄った。いやいや、俺に聞かれても困るんだけど!

 
 
「いや、俺に言われてもな!俺だって同じくらいびっくりしてんだよ!」



 俺は両手を上げて弁解したが、麗華の目線は鋭いままだ。


 
「お母さん……本当にどこまでふざけるのよ!」



 麗華は拳を握りしめながら、まるで静香さんが目の前にいたら直撃するんじゃないかって勢いだ。やべぇ、俺もとばっちりで殴られそうだぞ!

 

「ま、まあ落ち着けって。とりあえずさ、俺は床で寝るから、それでいいだろ?」



 俺は軽く手を振って言いながら、自分なりに平和的解決案を提示してみた。床で寝れば、これ以上麗華に怒られることもないだろう……たぶん。


 
「……本気で言ってるの?」



 麗華が腕を組んで俺をじっと睨みつける。その目は、「いや、まさか本気で床で寝るとか言わないよね?」と言っているようだ。


 
「本気だよ。本気中の本気だ!床くらい俺に任せとけって!」



 俺は胸を張り、まるで「床寝の達人」みたいな顔をして答えたが、麗華は呆れ顔を隠しきれていない。



「……でも、床に寝たら明日絶対に体が痛くなるわよ?」

 
 
 麗華の言葉は正論だ。いや、俺も覚悟の上で「床で寝る」なんて言ったけど、実際に考えてみたら、次の日が辛いのは間違いない。修学旅行の最終日にヨロヨロの状態で歩き回るのはさすがに恥ずかしい――いや、みっともないだろ。

 
 ――――――だけど。


 
「どうせ明日帰るしさ、俺が我慢すればいいだけだろ?だから大丈夫だよ!」



 俺は笑顔を作りながら、パンッと手を叩いてみせた。それは、まるで自分に言い聞かせるような動作だった。


 
「はい、これで解決!楽しく過ごそうぜ!最終日に喧嘩なんて勿体ねぇよ!」



 その言葉に、麗華は一瞬驚いたように目を見開いた。次の瞬間、呆れたように小さく息をつく。


 
「……ほんと、あなたって馬鹿ね。」



 麗華は腕を組みながら俺をじっと見つめてくる。その視線は怒りというよりも、どこか心配しているような、そんな感じだ。


 
「いや、馬鹿とか言うなって!俺だってちゃんと考えてるんだぞ?みんなで楽しい思い出を作るためにはさ、俺が床で寝るくらいどうってことないだろ?」



 俺がそう言うと、麗華は眉間にシワを寄せながら、さらにため息をついた。


 
「……その“どうってことない”が後で痛い目を見るのよ。全然学ばないんだから。」



 麗華の言葉に、一瞬だけ心が揺らぐけど、ここは俺の意地を通すしかない。


 
「大丈夫だって!俺力でなんとかなるだろ!」

「……だから、その“俺力”って言葉を便利に使わないでくれる?」



 麗華の冷静なツッコミに、一瞬だけ部屋の空気が和らぐ。


 
「ま、とにかくさ。俺が床で寝れば解決するんだから、もうこの話は終わり!今日の夜は楽しく過ごそうぜ!」


 
 俺は笑顔でそう言い切った。たとえ自分が痛い目を見るとしても、麗華に余計な気を遣わせたくない。それが、俺の“男のプライド”ってやつだ。

 
 麗華はしばらく俺を見つめていたが、やがて小さく肩をすくめた。そして、ほんの少しだけ口元に笑みを浮かべる。


 
「……本当に馬鹿ね。けど、まあ……ありがとう。」



 その言葉に、俺の胸がじんわりと熱くなる。


 
「おう!任せとけって!」



 俺は胸を張ってそう答えたが、内心では「やっぱ床、辛いだろうな……」と少しだけ不安になっていた。けど、まぁいいや。楽しい思い出を作るためには、それくらいの犠牲は全然問題ない!

 ――こうして、沖縄旅行最後の夜は、俺たちが同じ部屋で過ごすという、まさかの展開に……。静香さん、さすがにやり過ぎだぜ!


 


 
 

 ――――――――――――――


 


 ベッド問題でひとしきりもめた後、俺たちはようやく一息つくことができた。部屋に備え付けてあったインスタントコーヒーをそれぞれのカップに注ぎ、テーブルを挟んで向かい合って座る。向かいの麗華がふと目を上げ、俺と視線が合うたびに、俺は自然と柔らかく微笑む。


 
「……何よ?」



 麗華が不思議そうに眉を寄せる。その仕草が妙に愛らしくて、俺は一瞬言葉に詰まる。


 
「…………いや、別に?」
 
 

 こうして二人でいると、なんだか本当の夫婦みたいだな……なんて、勝手に思ってしまう自分がいた。部屋は静かで、窓の外には沖縄の夜景が広がっている。都会の喧騒とは違う穏やかさが心を癒してくれる感じだ。


 
「やっぱ俺、こういうリラックスタイムが似合うな。ハーレム王としてのオーラが、夜の海に映えてる気がするぜ……。」



 自分でもバカみたいなことを言いながら、窓の外に広がる海を眺めて悦に入る。椅子の硬さも程よいし、何より、麗華と二人きりでのんびり過ごす時間が悪くない。


 
「……本当に、貴方ってバカよね。」



 麗華は呆れたようにため息をつきながら、微かに笑ってコーヒーを口に運ぶ。その様子に、俺はどこか安心感を覚えながらまた窓の外を見つめる。何もない平和な時間――そんな風に思っていた、その時だった。


 
「――次のニュースです。」



 部屋に備え付けられているテレビから、突然聞こえてきたアナウンサーの緊張した声。それに反応して俺と麗華は同時に画面に目を向けた。

 
 
「本日午後9時ごろ、沖縄の首里城にて原因不明の事故が発生しました。現場では一部の施設が損壊し、地下エリアへのアクセスが遮断されているとの情報です――」

「え……首里城で事故?」



 麗華が驚いた声を漏らす。その言葉に俺も息を飲んだ。ニュース映像に映し出されたのは、夜の首里城周辺の混乱する様子だった。赤い瓦の屋根が崩れ、警察や消防が慌ただしく動き回っている。

 

「明日、修学旅行で行く予定だったのに、これじゃ無理そうだな……」

 

 俺は思わず呟くと、隣に座る麗華の顔を見た。彼女もまた、真剣な表情でテレビ画面を見つめている。その瞳には不安と疑念が浮かんでいて、普段の穏やかな彼女からは想像できないほど硬い表情だった。


 部屋の中には、さっきまで漂っていた穏やかな空気が跡形もなく消え去り、緊張感が押し寄せていた。俺たちは息を詰めて、ニュースの続報を待つ。


 ニュース映像が現場の様子を伝える中、画面の奥に妙な違和感が映り込んでいた。警察官たちが瓦礫を慎重に調査する後ろ、瓦礫の隙間から何か黒い影が揺れているのが見えた。


 
「現在、現場周辺ではさらに混乱が広がっており……え、な、何ですかあれは?」



 アナウンサーの声が明らかに動揺している。その瞬間、カメラが大きく揺れた。ピントが乱れ、操作するカメラマンの焦りが伝わってくる。


 次の瞬間、瓦礫の山から「それ」が現れた。


 それは人間ではなかった。無数の手足を這わせながら姿を現した異形の存在。どこかで見たような気もするが、同時に全く知らない、不安を煽る圧倒的な気配を放つ。
 

 画面に映るそれは一体ではなかった。次々と瓦礫の隙間や地下から、異形の妖怪たちが這い出してくる。巨大な蛇のような影、燃え上がるような目を持つ怪物、無数の手足で這い寄る奇怪な存在――。


 
「……嘘……」



 麗華が呟いたその声は、ほとんど聞き取れないほど小さかった。だが、その震える声に俺は背筋が凍った。


 
「な、なんだよ……あれ……」



 画面の中の異形たちは、カメラ越しにもわかるほどの威圧感と不気味さを放っていた。だが、その瞬間――異形の目が、カメラ越しにこちらを捉えたかのように動いた。


 
「――っ!」



 アナウンサーの声が途切れる。次に聞こえたのは、カメラマンの慌てた声と、アナウンサーの悲鳴。それを最後に画面が乱れ、放送が強制的に途切れた。


 部屋の中に静寂が訪れる。俺たちはただ、画面の消えたテレビを見つめながら言葉を失った。


 その時、麗華の携帯がけたたましく鳴り響いた。麗華が画面を確認すると、そこに表示されたのは「静香」の名前だった。

 

「静香さん……?」



 俺が小さく呟くと、麗華は深く息をついて電話に出た。受話器越しから、静香の落ち着いた声が響いてきた。


 
「麗華、最悪の事態になったわ。」



 その声は冷静だったが、明らかに緊迫感を帯びていた。


 
「――――――首里城の封印が解かれたの。」

「………………嘘でしょ…………?」



 麗華が青ざめた顔で呟く。隣で聞いていた俺はその言葉の意味が分からず、静香さんに向けて口を開いた。


 
「首里城の封印って、何のことだよ?」



 静香は一瞬黙った後、俺の声に応えるように話し始めた。

 

「雷丸君も隣にいるのね。ちょうどいいわ、説明するわ。」



 静香の声は静かだったが、その内容は衝撃的だった。


 
「首里城の地下深くには、沖縄の妖怪たちが封印されているの。それらは単なる昔話や伝説なんかじゃない。目覚めれば、この島だけでなく、世界規模の災厄を引き起こしかねない存在よ。」



 静香の言葉を聞いて、俺の背筋に冷たいものが走る。

 静香はさらに続ける。


 
「そして、その封印を守るのが、中立派の一人、南風見家の当主、南風見 悠翔。沖縄に古くから続く呪術師の一族の生まれで、その役目を一身に背負い、日々結界の維持と妖怪たちの封印管理を行っているわ。」

「でも、封印が解かれてるじゃねぇか……!」



 俺が言葉を挟むと、静香は短く答えた。

 

「その南風見 悠翔が何者かにやられたのよ。」



 その言葉は容赦なく重くのしかかる。麗華もその場で言葉を失い、静かに息を呑む。


 
「恐らく崇拝派の誰かの仕業でしょうね……。しかも、南風見 悠翔は武闘派の呪術師として名高い存在だったわ。そんな彼を倒すには、相当な実力者のはず。」



 静香の声は冷静だが、どこか緊張感が滲み出ていた。


 
「相当な実力者……」



 その言葉を俺が繰り返すと、静香が深く息を吐きながら答えた。


 
「そう、南風見 悠翔は中立派の中でも屈指の戦闘能力を持つ呪術師だった。だからこそ、彼に首里城の防衛を任せていたのよ。そんな彼がやられたということだけで、事態の深刻さが分かるでしょう。」

 

 麗華も静香の言葉に頷く。


 
「……まさか……こんなことが起きるなんて……」



 麗華の声は震えていなかった。しかし、その中には明らかに焦りと不安が混じり、いつもの冷静さを失っていることが伝わった。


 電話越しの静香は、その様子を敏感に感じ取ったのだろう。

 

「麗華、深呼吸して。」



 静香の柔らかく、それでいて芯のある声が、麗華の耳に静かに響く。麗華はその言葉に従い、深く息を吸い込んでからゆっくりと吐き出した。

 静香は優しく続けた。


 
「焦ってもいいのよ。でも、その焦りに飲み込まれてはダメ。今、あなたに必要なのは冷静な判断力よ。」



 麗華は静香の言葉をかみしめるように頷いた。そして、動揺を押し殺すようにもう一度大きく息を吐く。

 静香は一拍置き、少しだけ声の調子を変えて問いかけた。


 
「麗華、貴方がやらなければいけないこと、分かるわね?」



 その言葉には優しさと同時に、厳しさが込められていた。まるで、道を示しながらも決断を促すかのような響きだった。
 

 麗華はその問いかけに、少しだけ目を伏せてから、真剣な表情で顔を上げた。そして、力強く頷きながら答える。


 
「…………ええ。私は伊集院家の跡取りとして、この場を納める義務があるわ。」



 その言葉には確かな覚悟が込められていた。静香もそれを聞いて満足げに小さく頷く。

 

「そうよ、麗華。ただ――」



 静香は一瞬の間を置き、言葉を慎重に選ぶように続けた。



「無理だけは絶対にしないで。手に負えないと思ったら、迷わず引いて構わない。あなたが無事でいることが最優先よ。」


 
 麗華は静かに頷いたが、静香はさらに念を押すように声を低めた。
 
 

「首里城では既に伝説級の妖怪が目撃されているわ。琉球の古い言い伝えに登場する『マジムン』や『ピーシャヤムナン』、さらに『無鼻の怪』『龕の精』『アカマター』『大鯖』『ユーリー』……。その脅威は本物よ。…………充分に警戒してね。」



 麗華は静かに「わかったわ」と短く答える。
 
 電話を切った麗華はすぐに立ち上がり、俺に向かって真剣な表情で言った。


 
「というわけで、飯田君。私、行ってくるわ。」



 言葉だけではなく、その仕草からも迷いは感じられない。彼女はさっそく荷物をまとめ始めた。俺はその姿を見ながら、迷うことなく口を開いた。


 
「――――俺も行く。」



 麗華は一瞬手を止め、振り返って俺を見つめる。少しだけ眉をひそめ、冷静な声で言った。


 
「…………私はともかく、あなたが行かなきゃいけない理由なんてないのよ?」



 だが、俺はその問いに即座に返した。


 
「行くに決まってんだろ。麗華を一人にさせねぇよ。」



 その言葉を口にした瞬間、自分がどれだけ無茶を言っているかは理解していた。正直なところ――

 

 怖い。


 
 あのニュース映像に映っていた異形の姿は、もはやホラー映画そのものだった。瓦礫の中を動き回る不気味な化け物たち。理性では到底理解できないその存在を目にしただけで、体が固まったのを今でも覚えている。


 だけど、それでも――。


 俺は心の中で自分に言い聞かせた。



 俺はハーレム王を目指す男だ! 妖怪ごときでビビってる場合じゃない!



 胸の中で無理やり自分を奮い立たせるようにそう叫びながら、俺は拳を握りしめた。


 
「麗華、俺も一緒に行くぜ。怖いけど、行かなきゃいけねぇ。こんな状況、俺たちでどうにかするしかねぇだろ!」



 麗華は俺のその言葉に、一瞬驚いたような表情を浮かべた。けれど、すぐにその瞳に感謝と信頼の色が浮かび、静かに頷いた。


 
「……分かったわ。ありがとう、飯田君。」



 そうして、俺たちは動き始めた。
 首里城で何が起きているのかは分からない。しかし、このままでは終わらないことだけは確かだ。


 修学旅行が、ただの観光で終わる気はしない――戦いの幕が上がろうとしていた。


 
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