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第81話 魔性の女4
しおりを挟む朝。カーテン越しに差し込む柔らかな光が、俺の瞼を優しく揺らした。ゆっくりと目を開けると、視界に飛び込んできたのは豪華なベッドルーム。そして――俺の隣に布団にくるまったまま背を向けている静香さんの姿。
「……静香さん?」
俺は軽く名前を呼んだが、彼女は動かない。ただ、肩がほんの少し震えているように見えた。俺の心に小さなざわつきが生まれる。
「……雷丸君、昨夜のことだけど……嫌じゃなかった?」
彼女の小さな声が、ふと耳に届いた。その声には、不安とためらいが混じっていて、まるで俺の答えを恐れているように感じた。
――嫌じゃなかった?いやいや、むしろ最高だったに決まってんだろ!静香さんの優しさ、可愛さ、そして大人の魅力……俺、途中から完全に虜になってたわ!
俺は頭の中で猛烈な勢いで考えながら、言葉を選んだ。
「あ、いや……そんなことないですよ!むしろ、嬉しかったっていうか……。」
ぎこちないながらも正直な気持ちを伝えると、静香さんはまだ不安そうな表情でゆっくりと振り向いた。カーテン越しの光が彼女の顔を淡く照らし、その美しさが俺の胸をさらに高鳴らせる。
「でも……無理させたんじゃないかって思って……。」
その言葉に、俺はすぐさま首を横に振った。
「いやいや、そんなことないですって!むしろ俺が全力で……!」
途中で危うく「俺が全力で甘えてた」と言いかけて慌てて飲み込む。
朝日が優しく部屋を照らし、静かな空気が流れる中、俺は静香さんの不安げな瞳をまっすぐに見つめていた。彼女の目の奥には、どこか自分を責めるような色が浮かんでいる。
昨夜のことを思い返す。静香さんが疲れと感情に押されて俺に甘えてきたあの瞬間――それはむしろ、俺にとって特別な時間だった。だけど、彼女はそれを後悔しているのかもしれない。不安に思っているのかもしれない。
そんな彼女を見ていると、俺の胸に湧き上がるのは、ただ一つの想いだった。
「静香さん、心配しないでください。」
そう言いながら、俺は静香さんに優しく微笑みかける。
「俺、本当に嬉しかったんです。昨夜のことも、こうして隣で目覚めるのも……全部が特別です。」
静香さんの目が微かに潤むのを見て、俺はさらに言葉を続ける。
「それに、静香さんは俺にとって特別な人ですから。だから、何も無理してるなんて思わないでください。」
その俺の言葉に、彼女の目に宿っていた不安がほんの少し和らぐのを感じた。でも、それだけじゃ足りない。まだ完全には安心していないのが分かる。
静香さんは目を伏せながら、小さな声で呟く。
「雷丸君は優しいからそう言ってくれるでしょうけど……」
その声には、彼女自身を責めるようなニュアンスが混じっていた。まるで、俺に嫌われるのを恐れる子供のような弱々しさが感じられる。大人で、優雅で、完璧に見える静香さんの裏側に、こんな繊細な一面があったなんて
だからこそ、ここでしっかりと伝えるべきだ――彼女の不安を拭い去るために。
俺は深呼吸を一つして、静香さんに向き直った。そして、いつもの敬語を一旦捨てる決意をした。
「静香さん――いや、静香。」
彼女が少し驚いたように目を見開くのを感じながら、俺は真剣な声で続けた。
「俺は貴方のことを尊敬してるから、普段は敬語を使ってる。でも、今は敬語が邪魔なんだ。だから、ここはあえてタメ語で話させてくれ。」
静香さんは目を見開いたまま、じっと俺を見つめている。その表情には驚きと期待が入り混じっているように見えた。
俺はさらに言葉を重ねる。
「俺さ、貴方のことが好きなんだよ。」
その一言が、まるで部屋全体の空気を震わせたような気がした。カーテン越しに差し込む光が、静香さんの表情を淡く照らし出している。彼女の目が驚きと戸惑いを含んで俺を見つめているのが分かる。でも、俺は止まらない。
「だから、昨夜のことが嬉しかったんだ。」
言葉を紡ぐたびに、俺の声が彼女に届くことを願った。静香さんがこんなにも不安そうな顔をしているのを見て、俺は何としてでも彼女を安心させたかった。
「少しびっくりしたけどさ、みんなが知らない静香を俺だけが見れたんだぜ?これ以上に嬉しいことはないよ。」
俺の言葉に、静香さんの瞳がかすかに揺れる。彼女が抱えている不安がどれほど深いものか、その一瞬で伝わってきた。
俺はさらに踏み込む。ここで伝えなきゃいけない。本当に大事なことを。
「もっと見せて欲しいよ。情けないところも、恥ずかしいところも……その……エロいところも、全部。」
最後の言葉を口にした瞬間、静香さんの顔が一瞬にして赤く染まった。だけど、その目には驚きだけじゃなく、どこか笑いを堪えているような気配も見えた。
静香さんは少しうつむき、薄い声で問いかけてきた。
「……いいの?私に幻滅しない?」
その声には、長年背負ってきた責任や苦労、そして自分の弱さを他人に見せることへの恐れが滲んでいた。伊集院家の当主夫人として、誰よりも立派であろうとした彼女。その裏に隠れていた弱さを見せることが、彼女にとってどれだけ大きな勇気を必要とすることか――俺には痛いほど分かる。
静香さんがこんなにも不安を抱えていることを知り、俺の胸がぎゅっと締め付けられた。
俺は深呼吸を一つし、彼女をまっすぐ見つめた。その目に映る彼女の不安を、すべて包み込むつもりで。
「もちろんだよ。」
一呼吸置いて、さらに言葉を重ねる。
「だって、家族ってそういうもんだろ?」
俺の声には、ただの恋愛感情じゃない。彼女を俺の人生において大切な「家族」として迎え入れたいという、心の底からの想いを込めた。その気持ちは一切の迷いなく、静香さんに向かって放たれた。
彼女はしばらく何も言わなかった。ただ、驚いたように目を見開いて俺を見つめていた。でも、その瞳の中に少しずつ光が戻ってきたのを、俺は見逃さなかった。
静香さんは、ゆっくりと布団から体を起こし、俺の方へ顔を向けた。そして――
「……ありがとう、雷丸君。」
彼女の声は小さかったけれど、その響きには確かな温もりがあった。
「私……本当に幸せね。」
その言葉に、俺の胸が一気に熱くなる。静香さんの笑顔――それだけで、俺はどんな困難でも乗り越えられる気がした。
俺たちはそのまま見つめ合い、静かな朝の空気の中で、互いの想いを確かめ合った。今、この瞬間が永遠に続けばいいと思えるくらい、温かい時間だった。
そこで俺はふと、昨夜の会話を思い出した。静香さんが疲れている様子で話していたこと――「案件が山積み」だと。
「それよりさ、昨日の話だけど……案件が山積みって言ってたよな?」
俺は急に真面目モードに切り替え、静香さんに向き直った。すると彼女は少し驚いた表情を浮かべた。
「俺も手伝うよ。」
「え……?」
静香さんは目を見開き、しばらく俺を見つめていた。俺はニヤリと笑いながら言葉を続ける。
「サッカーももちろん大事だけど、一番大事なのはハーレムメンバーの静香なんだ。だから、練習はしばらくオフにして、静香のことを手伝うよ!」
その言葉に、静香さんは一瞬驚いたようだったが、次第に表情が柔らかくなり、微笑みがこぼれた。
「いいの……?私のために、そんな……。」
彼女の声には、まだ少し戸惑いが混じっていたが、俺は迷わず頷いた。
「当たり前だろ?俺のハーレムは、全員が幸せじゃなきゃ成立しないんだよ!だから、静香のためならなんでもする!」
自信満々にそう言い切ると、静香さんは驚いたような顔をしながら、やがてクスッと笑った。
「ふふ……ありがとう、雷丸君。本当に……嬉しいわ。」
彼女の笑顔に、俺の心がさらに温かくなる。俺は静香さんのために何でもできる――そう思った瞬間だった。
「じゃあ、まず何から始める?」
意気揚々と訊く俺に、静香さんは少し考えた後、そっと手を俺の手に重ねながら微笑んだ。
「まずは……お茶でも淹れて、のんびりしましょうか?」
その言葉に、俺は一瞬肩の力が抜けたが、すぐに笑顔で応じた。
「よっしゃ!お茶からだな!任せとけ、俺に!」
そうして俺たちは、静香さんの部屋で甘い時間を過ごすことになった。
湯気の立つお茶を片手に、静香さんと穏やかに言葉を交わしながら、俺はふと心の中で誓った。
「静香の笑顔を守るために、俺は何だってやる――それがハーレム王の務めだ!」
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