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第91話 職場体験5
しおりを挟む演説が終わり、広場全体が歓声と拍手に包まれる中、俺と貴音も思わず手を叩いていた。気づけば、俺たちもその流れに乗せられていたんだ。
「いや、あんた……すげぇな……」
俺は本音をポロッとこぼし、黒瀬に向かってそう言った。すると黒瀬はスーツのボタンを直しながら、ちらっとこちらに目を向けて、軽く肩をすくめる。
「まぁ、慣れてるからな」
――いやいや、そんな軽いノリで片付けられる話じゃねぇだろ!俺は心の中でツッコミを入れた。だって、観客の反応とか、あの瞬間の空気の支配っぷり、誰が見ても普通じゃねぇ。慣れてるだけであんなことできるわけないだろ!
俺は素直に驚いているんだけど、黒瀬はなんか冷静なんだよな。まるで、あれが日常茶飯事かのように淡々としている。でも、俺は確信していた――これは、慣れとかそんなレベルじゃない。こいつには、普通の人間じゃ持ってない何かがある。
「いや、慣れってレベル超えてるだろ。あんたの演説、まじで才能だぞ。普通の人が一生かけても、あのレベルには到達できねぇよ」
黒瀬は俺の言葉に、ほんの少し口角を上げただけだった。それがかすかに「分かっているさ」とでも言ってるようで、妙に腹立つけど……やっぱこいつ、なんかすげぇ奴なんだよな。
「才能なんて、使い方を知らなければ意味がない。だが、俺はそれを理解している」
その一言に、俺は「こいつ、本気で自分のことを分かってやがる」と思わざるを得なかった。普通の奴なら、こんな自信満々に自分の才能を口にすることなんてできねぇもんだ。
貴音も目をまんまるくして、「お兄ちゃん、この人、本当にすごいんだね……」って、驚き半分、尊敬半分の視線を黒瀬に送ってた。俺だって、こいつのことは全然好きじゃねぇけど、認めざるを得ない。
黒瀬禍月――ただの政治家じゃねぇ。こいつは、本物のカリスマだ。
「飯田雷丸、お前も政治家向きだ」
と黒瀬が静かに言った。
「え、俺?」――突然の言葉に、俺は思わず口をポカンと開けた。俺が政治家向き?まさかそんなことがあるわけねぇだろ!だって俺はハーレム王だぞ!?なんでいきなり政治の話になるんだよ?
黒瀬は、俺が驚いた顔をしているのを見て、軽くため息をつきながら続けた。
「あぁ、お前には謎の根拠のない自信がある。そして、周囲の人間を惹きつけるカリスマ性。何よりも、何も考えずに突き進む無鉄砲さがある。政治家には、そういった無鉄砲さも時に必要だ」
――え、俺の無鉄砲さって、そんなに評価されんの!?いやいや、無鉄砲なんてただの勢いだろ!?と思ったけど、なんか言われるとちょっと納得しちゃうんだよな。しかも、黒瀬みたいな一流政治家に言われると、変に説得力あるっていうかさ。
「まぁ、確かに俺ってハーレム王としてもかなりカリスマあるよな!政治家もいけんのか!?俺、もしかしてマルチプレイヤー?」
俺はニヤリと笑い、自分の肩を軽く叩いてみせた。
黒瀬は、そんな俺を冷静に見つめ、軽く首を傾げながらゆっくりと頷いた。
「だが、政治はハーレム王のように甘くはない。お前が立ち向かうべきものは、時に世間の批判、時に大衆の期待。すべてを背負い、なお突き進む覚悟があるなら、道は開けるだろう」
「お、おう……」
黒瀬の突然の熱血アドバイスに、俺はちょっと引いた。なんか急に真面目な話になってんじゃん!ハーレムと政治って、そんな簡単に繋がるもんか?
――でも、そうか、俺って本当に多才だな!なんか政治家ってのも悪くねぇ気がしてきたぜ!俺は自分がどこまででもいける気がして、心の中に変な自信がムクムク湧き上がってきた。
その時、隣にいた貴音が、心配そうな目で俺を見上げていた。目が「お兄ちゃん、本当に大丈夫なの?」って言ってる。
いやいや、貴音、心配するな!兄ちゃんはなんでもできる男だから!ハーレム王に、サッカー選手、そして政治家!次はどこまで行っちまうか、俺にも分かんねぇな!
黒瀬が、まるで契約を迫るビジネスマンみたいにじっと俺を見つめてきた。そして、無駄なく簡潔な言葉で勧誘を続ける。
「で、どうだ?殲滅派に入るか?お前が殲滅派に入るのなら、俺が直々にお前を政治家として育ててやる。」
――え、何それ!?黒瀬ってそんな面倒見いいやつなの!?俺、勝手に冷酷無比な「切るか斬られるか」みたいな奴だと思ってたけど、まさかの師匠ポジション?
「え、マジで?お前が俺を育てんの?」
黒瀬は少しだけ目を細めて、俺を見下ろしてきた。その視線が、妙に鋭い。まるで「お前の甘さを叩き直してやる」って感じの雰囲気だ。
「当然だ。お前にはその『甘さ』を克服する潜在力がある。だからこそ、俺が手取り足取り、叩き直してやる価値があるんだ。政治も、妖怪殲滅もな」
――いや、待て待て!「手取り足取り」って、お前の指導メニュー怖そうなんだけど!?叩き直されるってどんな感じ!?
俺のイメージだと、黒瀬のトレーニングは修行僧並みのスパルタっぽいぞ!なんか、滝行とか断食とかさせられそうなイメージしかねぇんだけど。
「ちょ、ちょっと待てよ……俺はどっちかというと、優しく教えて貰う方が伸びるタイプだぞ……?」
俺は慌てて手を振りながら、黒瀬に向かって必死に言い返した。だって、この人の指導、絶対スパルタだろ!俺の繊細なハート、そんな過酷な環境に耐えられるわけがねぇって!
黒瀬は、俺の言葉に一瞬だけ眉を動かし、冷ややかな目で俺を見下ろした。だが、その目にはどこか含みのある光が宿っている。
「甘いことを言うな。お前の無謀な自信、そしてカリスマ。それが政治にどう活きるか、俺が教えてやる。俺の下で徹底的に鍛えれば、いつか大衆を率いる存在になれるだろう」
「……俺、大成する前にお前に潰されそうなんだけど。」
俺は弱気になりながらも、少しだけ反論を試みた。だが、黒瀬は俺の言葉を全く意に介さない。むしろ、さらに自信満々な顔で言い放った。
「いや、この俺が開く黒瀬塾で潰れるということはありえない。俺はメンタルケアの重要性はしっかりと理解している」
――え、急にメンタルケアとか言い出した!?意外と気遣いできるタイプなのか!?あと黒瀬塾って何!?俺は驚いて黒瀬を見つめた。
黒瀬は少しだけ口角を上げ、淡々と続ける。
「休みの日は俺がカウンセリングしつつ、甘いものでもご馳走してやる」
「え、あんたがカウンセリングしてくれるのかよ?」
俺が半信半疑で聞くと、黒瀬は堂々と答えた。
「あぁ、俺の経験と知識を活かし、お前の精神を支えるのも指導の一環だ。甘いものを食べながら話せば、悩みも解消されやすい」
どんな理論だよ!?でも、なんか言われると妙に納得しそうになる自分が怖い。
「お前、以外と面倒見いいんだな……」
黒瀬は真剣な顔で頷いたが、俺はそのギャップに戸惑っていた。冷酷キャラで、スパルタだけど、実は「教えるのが好きな先生」みたいな面倒見の良さって何だよ!?
俺は一瞬黙り込んだ。でも殲滅派っていきなり言われてもなぁ。妖怪を根絶やしにするって言われても、俺はハーレム王として妖怪メンバーもいるし……これは、すぐに決められる問題じゃねぇな。
「うーん……ちょっと持ち帰って、考えさせてもらいます。」
そう言うと、黒瀬は微かに頷いてきた。
「いいだろう。だが、時間は無限じゃないぞ。」
「そりゃわかってるよ!」
俺は苦笑いしながら、次の言葉を考えた。あ、そうだ!一応連絡手段を確保しておいた方がいいかもな。
「あ、そうだ、黒瀬!電話番号交換しとくか?」
黒瀬はその言葉に一瞬だけ表情を変えたが、すぐに冷静な声で答えた。
「電話は好かん。LINEでいいか?」
「え、逆にLINEでいいの!?!?!?」
俺は思わず叫んだ。えぇ!?こんな冷徹な政治家タイプの黒瀬がLINE!?あのアイコンとかスタンプとか使ってんのか!?想像がつかねぇ!
「LINEは情報のやり取りに便利だからな。画像も送れるし、連絡が簡単だ」
と、黒瀬は平然とした顔で続けた。
「ま、マジかよ……」
俺は思わずスマホを取り出し、黒瀬にLINEのIDを渡した。黒瀬もあっさりとスマホを取り出して俺にIDを教える。その姿が、何ともシュールだった。
「じゃあ、これでいつでも連絡できるな」と黒瀬はクールに言うが、俺の頭の中には、黒瀬がLINEでスタンプを送ってくる光景が浮かんで、思わず笑いを堪えるのに必死だった。
「……了解。じゃあ、連絡するわ……LINEで」
こうして、俺はまさかのLINEで黒瀬と繋がることになった。
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