異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第158話 ワールドカップ53

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 ピッチに戻った俺は、息を整えながら、仲間たちに向かって叫ぶ。

 

「――と言うわけで、悪いみんな!さっきミーティングルームで話した通り、俺はこれから……わがままなサッカーをやる!!」

 

 仲間たちが一斉にこっちを振り向く。

 その中心で、俺は堂々と胸を張って続ける。

 

「もう俺のプレー、戦術もフォーメーションも関係ねぇ!! 本能に赴くまま突っ込む!! だから、俺だけは無視してくれ!!」

 

 最初に吹き出したのは村岡だった。

 

「ぷっ……ははっ! 雷丸、最高だな!」

 

 キャプテン・長谷川もニヤリと笑って、「そうこなくっちゃな」とうなずく。

 

「いいさ。お前の暴走が、結局一番点につながるんだからよ!」

「フォーメーション無視、了解~!」

「お前らしさ、取り戻したな、雷丸!」

 

 次々と飛び交う肯定の声。みんな、笑ってた。

 

 俺の“無茶”が、いつの間にか“チームの笑顔”を呼んでいた。

 
 
 ――よし、見せてやろうじゃねぇか。


 
 サッカーの神様が驚くほどの――最高に楽しい、俺のサッカーを!


 

〈ピィィィィィィィッ!!〉

 

 ――後半戦、キックオフ!!

 

 ボールが転がった瞬間、俺の中の“なにか”が完全に吹き飛んだ。

 

 計算も、理屈も、構造も、全部――クソくらえだ!!

 

「行くぞおおおおおおおッッッ!!」

 

 叫びと同時に、前へとボールを蹴り出す!

 もうパスルートなんて探してない。

 敵が何人いようが、ラインが詰まってようが――知らん!!!

 

 突っ込めばなんか起きる!!

 走ればなんか見える!!!

 サッカーってのは、本来そういうもんだろ!?

 

「おらああああああ!!!!!」

 

 ドリブル!からの強引なまた抜き!!

 地面が滑って転げそうになりながらも、ボールをスライディングで押し出してキープ!!!

 

 解説席が困惑してるのが、遠くで聞こえた気がする。

 

「えー……これは、いったい……どんな狙いが……?」


 

 でも俺の頭の中はもっと大変だ。

 

 ずっと、想像してたことがあるんだ。

 

 ――“もし、ハーレムメンバーがサッカーをやったら”。

 

 それぞれの個性、そのまんまをサッカーに変換して、全部“俺流”で再現してみたかった。

 

「いっちょ、試してみっか――!」

 

◆焔華モード:
 爆発的なスピードと一点突破の炎スタイル!!
 狭い隙間でも構わず突っ込む、衝突上等の特攻サッカー!!!


 
「熱くいくぜえええええええ!!」

 

 地を焦がすようなドリブルで強引突破!

 

◆雪華モード:
 冷静沈着なトリックスタイル。相手の動きを見切ってのクールなかわし方。
 フェイントとステップだけで“氷”のように滑って抜けてく。


 
「ここは静かに……すってんと抜ける!!」


 DFの重心をズラして、無音のカットイン!

 

◆静香モード:
 優雅で品のあるボールタッチ、華麗なトラップとターン!
 見とれてる間に、気づけば“背後”を抜いてる大人のサッカー!


 
「ふふ……視線が甘いぜ?」



 ターン一発で二人抜き、そしてパス……出さない!!俺が行く!!!

 

◆麗華モード:
 精密で知的、ミリ単位のコースを狙うシュート職人!!
 冷徹に、しかし確実にゴールを射抜く美学の化身!


 
「この角度……入る。やってみなけりゃわからないなんて、言わせない!!」


 
 20メートル先、ゴール左上の天井へ――カーブをかけて狙い撃ち!

 

◆貴音モード:

 天真爛漫で予測不能!
 フェイントに見えないフェイント、ドリブルに見えないドリブル!



 
「ドリブルしながらくるくるしちゃうぜ~!」


 
 ボールの上にジャンプしながら回ってる!???? なにしてんの俺!!?

 

 でも――楽しい!!!

 

 まるで、自分の中にいる彼女たちと一緒にサッカーしてるみたいだった。

 重い空気はどこにもない。

 見ている人が笑ってる。
 味方も笑ってる。
 そして――俺も、笑ってる。

 

 もう“攻略される前提”なんか、気にしねぇ。

 全部、読めるもんなら読んでみろよ、アントニオ!!!

 

「これが俺の、“ハーレムサッカー”だぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

観客席がどよめき、実況席が悲鳴を上げ、ピッチ全体が“笑い”と“熱狂”に包まれていく。

 

 まるで誰かの誕生日会のような派手な混沌――そこに、俺のサッカーがある!

 

 そして。

 

「雷丸君、真剣にやってるのかい?」

 

 どこか呆れたように、けれど楽しげに――アントニオが尋ねてきた。

 

 俺は、ニカッと笑って言い返す。

 

「おう、超本気だぜ!」

 

 そして、次の瞬間――“焔華のドリブル”!!

 

 がむしゃらに前へ突っ込む!スピード?制御?そんなもん知ったことか!

 

 俺のプレーは直線的、そして爆発的!!ボールを置き去りにしかけながらも突き進む姿に、ディフェンス陣がパニックに陥る!!

 

 ボールがどこへ行くかよりも、俺がどこへ突っ込んでくるかに混乱してる!!

 

 スタジアムが揺れる。

 観客席はまるでカーニバル。

 

 そして――

 

「楽しそうだね、雷丸君。でも、遊んでばかりじゃ僕には勝てないよ?」

 

 言うや否や。

 

 アントニオが華麗にボールをかっさらう。

 

 それは、まるで“踊るような奪取”。

 

 「え?今の何!?」ってくらい自然に、そして軽やかに。

 

 ボールを足元に収めながら、くるくると回すアントニオの姿には、まるで王子様がダンスしているかのような余裕すら漂う。

 

「さぁ、次の動きももう見えてるよ?」

 

 ――くっそ、また言いやがった!!

 

「くっそ、俺の『ハーレム王全開モード』が簡単に破られるなんて…!」

 

 気合を入れ直して再びアタック!!

 ……が、まるで俺のステップすら“スローモーション”にされてるかのように、先回りされて止められる!!

 

 俺はつんのめり、前のめりに――

 

 ドゴッ!

 

 顔面からダイブ!

 
 

「面白かったよ、雷丸君。でも、僕には勝てない。」

 

 ――そう言いながら、彼は優しく笑う。

 

 でもな、アントニオ――

 

 お前、わかっちゃいねぇんだよ。

 

 俺のサッカーはな、合理性なんてクソ喰らえだ!!

 未来予知?俯瞰?感情共鳴?

 

 悪いが俺の“情熱と遊び心”は、お前の「神の眼」にも読めねぇ領域なんだよ!!

 

 笑って走って、バカみたいに突っ込んで、倒れて、それでも立ち上がって――

 俺はその“全部”をサッカーにしてきた。


 感情のジェットコースターを、全開でサッカーにぶつけてんだ!!

 

 この“ハーレム王全開モード”は――

 笑いと愛と情熱で出来てる!!!

 

「アントニオ。お前の未来予知じゃ、俺のこの気まぐれと衝動は読めねぇよ!」

 

 俺はニヤリと笑う。

 

 ここからだ。

 

 俺は、未来なんか知らねぇ。

 

 でも――“俺だけの今”を、全力でぶつける。
 


 アントニオが完璧主義の「太陽の王子」なら、俺は自由奔放な「ハーレム王」。

 

 お前に見えない「楽しさの頂点」ってやつを、俺は知ってるんだ。


 そしてこの笑いと情熱を極限まで引き出したら――そこからとんでもないサッカーが生まれるって確信がある!


 

 ――――――――ドクン。

 

 胸の奥で、何かが脈打つ。

 

 ただの興奮じゃない。何かが確かに――覚醒した。

 

 視界が、世界が、一瞬だけまばゆく開けた。

 

 次の瞬間。

 

 俺の意識が、“三つ”に分かれた――そう、まるで自分自身が三人になったかのように。

 

 《マルチビジョン・ハーレム・シミュレーション》。

 

 意識を三方向に展開し、三つの“可能性”を同時に実行する。どれが本体か、見極めることは不可能。

 

 俺の身体が、同時に三つのルートへと動いた。

 

 右へ――左へ――中央へ――

 

「…………え?」

 

 アントニオの瞳が、一瞬だけ泳ぐ。

 

 そうだ、今の俺は一本道なんかじゃない。

 

 “三つの未来”を、同時に進行してるんだよ!!

 

 その瞬間、アントニオの動きがほんのわずかに遅れた。

 

 完璧なタイミングを誇った“神視の未来”が、三つの可能性に惑わされ、ズレを生じさせる!

 

「な、なんだあの動きは!?」
「え、えぇぇぇ!!?? 身体が三つに分裂してる……!?」

 

 解説席が混乱の声を上げ、実況席が叫ぶ。

 

 スタジアム中の観客が立ち上がり、息を呑む――

 

 そして俺は叫んだ。

 

「見えねぇだろ、アントニオ!!これが俺の覚醒したサッカー――“マルチビジョン・ハーレム・シミュレーション”だぁぁぁぁ!!!!」

 

 そしてそのまま、アントニオの足元からボールをひったくる!!

 

「なーーー!?!?!?!?!?!?」

 

 太陽の王子が、目を見開いた!

 

 でも、まだ終わらねぇ!!

 

 すぐさまブラジルのDF陣が立ち塞がる!アレシャンドレ!マテウス!サミュエル!――ハイレベルな守備網が構築される!!

 

 だが――もう遅い。

 

 俺の“マルチビジョン”は、すでに最大展開状態!!

 

 三方向の幻影が、再びフィールドを裂く!!!

 

「右か!?」「いや、左か!?」「真ん中だッ!!」

 

 叫ぶ実況、焦るディフェンス――だが、全員がわずかにズレたその一瞬!

 

 俺は中央の幻影の“裏”を突いて――一気に突破する!!!

 

 観客が爆発するように立ち上がる!!

 

 ゴール前、最後の砦――ブラジルのキーパーが両腕を広げて立ちはだかる!!

 

 だが――

 

 俺は、全身全霊で――撃った!!!

 

 ズバァァァァァァァァァァンッ!!!!

 

 ボールが、まるで閃光のごとくゴールネットに突き刺さった!!

 

〈ピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!〉

 

 ゴォォォォォォォォォォォル!!!!!!

 

 スタジアムが爆発した!!

 

 叫び声、悲鳴、歓声、すべてが混ざり合い――フィールドが揺れるほどの熱気に包まれる!!

 

 俺は両手を突き上げ、全身で叫んだ。

 

「これが俺の、サッカーだァァァァァァァ!!!!」

 

 “笑い”と“情熱”、そして“全力”が融合した――ハーレム王にしかできない、極限のゴール!!

 

 飯田雷丸、ここに完全復活!!

 

 伝説の幕が、今――本当に、上がった!!!






 ――――――――――――



 


 ゴールが決まった瞬間、視界の端で見えたのは――両手を振り上げ、全力で駆け寄ってくる日本代表の仲間たちだった。

 

 「うぉぉぉーーーっ!!!」 

 

 まるで戦場の勝利を祝うかのような勢いで、全員が俺目がけて突っ込んでくる!

 

 キャプテン・長谷川が先頭で叫ぶ。

 

 「雷丸、やりやがったな!!」

 

 他のメンバーも口々に、

 

 「サイコーだぜ!!」
 「信じてたぞ、お前ならやれるって!!」
 「マジでお前、何者だよもう!!」

 

 歓声とともに肩や背中をこれでもかと叩いてくる!!

 

 ――いや、ちょ、待て痛ぇって!!

 

「いたたたっ、いてぇってマジで!!全員ちょっと落ち着け!!俺、骨折れるって!!」

 

 苦笑いで叫んでも、みんなは「ハーレム王はこれくらいされてナンボだろ!」と爆笑しながら、さらにどついてくる始末。

 

 でも……たまらなく嬉しい。

 チームとして、全力で喜んでくれてるのが伝わる。

 

 観客席もスタジアム全体が沸騰したように大歓声を上げていて、まるで雷鳴のような声の渦が巻き起こっていた。

 

 そして――そんな祝福の中心から、俺はふと一人に目をやる。

 

 アントニオ・ソルダード。

 

 ピッチ中央に立ち尽くしたまま、呆然と俺を見つめている。あの“太陽の王子”の仮面が、今だけ完全に外れていた。

 

 俺はにやりと笑って、ゆっくりと彼の元へ歩いていく。

 

「なぁ、アントニオ。今の、どうして“見えなかった”のか……気になるだろ?」

 

 アントニオは無言で頷いた。目を見開いたまま、まるで魔法でも見たような顔。

 

 その反応に、俺は胸を張って――ドヤ顔で宣言する。

 

「今のはな、名付けて――“マルチビジョン・ハーレム・シミュレーション”!!」

 

 アントニオの眉がピクリと動く。

 

「ハーレム……なに?」

 

 ちょっと怪訝そうな顔。でも、その表情もまた面白い。

 

 俺は構わず、ぐいっと説明を続ける。

 

「簡単に言えばだな――意識を三つに分けて、三つの動きの“可能性”を同時に見せるってワケよ!」

 
「つまり、俺がどこに行くか、どこにパスを出すか、それが一つじゃなくて、三つ同時に“動いてるように見える”んだよ!」

 

 アントニオは小さく息を飲み、ぽつりとこぼす。

 

「だから……僕の未来視でも、“読めなかった”のか……」

 

 しばらく俺をじっと見つめていた彼は、言葉を探すように何度か口を開きかけ――結局、何も言わなかった。

 

 その表情は、これまでの彼からは考えられないほど純粋で、まっすぐだった。

 まるで、初めて“わけのわからない才能”に出会った少年のような顔。

 

「どうしたよ、太陽の王子。言葉、出ねぇのか?」

 

 俺は思わず笑いながら肩を軽く叩く。



「……くやしい、ね。正直……すごく、くやしいよ。」

 

 その言葉は、苦悶でも憎悪でもなかった。

 むしろ、ずっと探していた“何か”にやっと出会えたときの、あたたかい悔しさ。

 

「僕の“神視の未来”が届かない領域があるなんて……思ってなかったんだ。」

 

 彼はそう言って、ゆっくりと視線をピッチに戻す。

 その横顔に、これまでにはなかった色――“高揚”が浮かんでいた。

 

「雷丸君。君といると、思い知らされるよ。サッカーって……理屈だけじゃないんだな、って」

 

 静かなその声は、風に溶けて、俺の胸の奥にまっすぐ届いた。

 俺はニッと笑って、拳を突き出す。

 

「だろ? お前が未来を読むなら――俺は、今この瞬間を全力で楽しんで生きてやる。たとえ“予定外”でもな!」

 

 アントニオは、その拳を見て、またひとつ息を吐いた。
 
 そして――拳を、そっと合わせてきた。


 
「じゃあ……続きを、楽しませてもらうよ。“ハーレム王”」

 

 ニッと笑ったアントニオの顔には、もはや“太陽の王子”と呼ばれたあの完璧な仮面はなかった。

 
 戦略も威厳も、王子然とした風格も――すべて脱ぎ捨てたような、ただの“ひとりのサッカー少年”がそこに立っていた。

 
 目が輝いている。

 まるで、心から楽しみにしていた“冒険の続きを見つけた”みたいに。

 

 俺は思わず、声を張り上げて笑った。

 

「おう!もっともっと楽しもうぜ!!」

 

 拳を押し返すように、言葉を叩き込む。

 

「俺だけ楽しんでもつまらねぇ! お前も楽しむんだよ!!そんで、最後まで笑って走りきった奴が――“世界一”だッ!!」
 




 ――――――――――


 

 

 ピッチの上。

 熱狂する観客、鳴り響く実況――そんなの全部、遠くの世界のことみたいだった。

 

 そこにあるのはただ、ボールと、俺と、アントニオ。

 

「合理性?効率性?……知るかよ!!」

 

 俺は思いついたプレーを、片っ端から試してやった。

 背面ヒールパス、無意味なルーレット、宙返りからの空振りフェイント。

 意味なんてなくてもいい。成功しなくたっていい。

 ただ――楽しいからやる。それだけだ!!

 

「なにそれ!意味わかんない!!」

 

 爆笑するアントニオの声が聞こえる。

 だけどその顔は、間違いなく“本気”だった。

 

 こっちが無茶な動きをすれば、アントニオは即座に応じてくる。

 超精密トリックターンに、あえて失敗するシュートフェイント。意味のないリフティング、だけど正確すぎて笑えてくる。

 

 肩がぶつかる。足が絡む。

 お互い息を切らしながら、笑い合いながら――でも、誰よりも激しくぶつかり合っていた。

 

 もはや決勝の空気なんて忘れてた。

 W杯?優勝?そんな肩書き、今の俺たちにはどうでもよかった。

 

 そこにあったのはただ、“サッカー”だった。

 

 汗と土と歓声の中で、二人のサッカー少年が全力で“遊んでる”だけの時間。

 

 観客席は最初こそ戸惑っていたが、すぐに異様な盛り上がりを見せ始めた。

 実況も解説も、「な、なんというプレーでしょうか!」「意味不明です!でも目が離せません!」と叫んでる。

 

 ピッチの中の俺たちは、ただ笑っていた。

 

 お互いに読み合い、ぶつかり合い、遊び合い。

 

「そっちが来るなら、俺はこっち!」

「だったら僕はこうするよ!」

 

 俺とアントニオは、ただ夢中で走っていた。

 まるで、サッカーを始めたばかりのガキに戻ったかのように――

 

「はははっ!!楽しいな、アントニオ!!」

 

 俺の叫びに、アントニオは満面の笑みで返す。

 

「楽しいね、雷丸君!!」

 

 その声は歓声にかき消されることなく、まっすぐに届いてくる。

 

 フェイントも、ドリブルも、タックルすらも――すべてが“遊び”であり“勝負”。

 勝ち負けなんてどうでもよくなっていた。ただ、自分の「楽しい」を全力でぶつけ合っていた。

 

 右へ。左へ。ステップが交差し、ボールが地を跳ね、観客の悲鳴混じりの歓声が渦を巻く。

 

「うおおおおおっ!!」

 

 俺が無茶なステップで切り返せば、

 

「ふふっ、それは予想外だ!」

 

 アントニオが思わず吹き出しながら華麗に受け流す。

 

 抜かれても、笑い合う。

 止められても、悔しがりながら「ナイス!」と声をかける。

 

 サッカーって、こんなにも自由で、こんなにも笑えるスポーツだったっけか――。

 

 そう思わせてくれる時間が、確かにそこにはあった。

 

 観客席は、最初のうちこそ唖然としていたが、今では総立ちで拍手と歓声を送り続けている。

 もはや決勝戦という意識は吹き飛び、ただの“お祭り”と化したその空間。

 

「これが本当のサッカーの楽しさなのかもしれないね!」

 

 アントニオが、汗と笑顔にまみれた顔で、息を切らせながら叫んだ。

 

 その言葉に、俺は思わず笑って――叫び返す。

 

「だろ!? 未来が見えても、これは予測できねぇだろ!!」

 

 ボールが再びピッチを跳ねる。

 誰もが忘れかけていた、“原点”。

 

 俺とアントニオは、その原点を――世界のど真ん中で、証明していた。

 

 これはもう、戦いじゃない。

 祝祭だ。

 

 技術も戦術も超えて。

 国境もルールすら超えて――

 ただ、サッカーという名の“遊び”を、全力で走り続ける俺たちがいた。




 ――――――――その時。

 


 試合終了のホイッスルが、まるで遠くの世界から聞こえてきたかのように、静かに――けれど確かに、ピッチに響き渡った。

 

〈ピィィィィィ――――――〉

 

「……え?」

 

「……え?」

 

 俺とアントニオ、同時に声を漏らして、その場にピタリと立ち止まる。

 

 互いの顔を見合わせて、思わず目を瞬かせた。

 

 周囲はすでに歓喜の嵐に包まれていた。

 観客は総立ちで絶叫し、紙吹雪のように舞う小旗と、空へ突き上げられる拳。

 実況席ではマイクを握りしめたアナウンサーが、声を振り絞って叫んでいる。

 

「勝ったぁぁぁぁぁぁぁ!!日本!世界の頂点だぁぁぁ!!!」

「なんという展開だ!!まさかの大逆転劇!!飯田雷丸、そして日本代表!ついに世界一ィィィィィィ!!!!」

 

 その声を聞いて、俺は慌ててスコアボードを見上げる。

 

 【日本 6 - 5 ブラジル】

 

 ……勝ってる。

 勝ってる、俺たち。

 

 でも――

 

「なぁ、アントニオ……これ、マジで試合だったんだよな?」

 

 俺がぽつりとつぶやくと、アントニオも頭をかきながら苦笑して返してきた。

 

「うん……うん、そうみたいだね……僕も、完全に“遊んでた”つもりだったけど」

 

 その顔は、どこか子供みたいな、無邪気な表情だった。

 それが妙におかしくて、俺も思わず吹き出してしまう。

 

「お前もかよ!!俺もさ!!マジで途中から“試合”ってこと完全に忘れてたわ!」

 

 互いに笑いながら、しばらく言葉もなく立ち尽くしていた。

 

 ゴールした記憶はある。何点か取ったことも、アシストした仲間の顔も。

 でも、勝ち負けの数字なんて、もうどうでもよくなってた。

 

 あの時、ピッチの上にいた俺たちは――ただ夢中で、サッカーを“して”いた。

 いや、“遊んで”いた。

 子供みたいに、心から。

 

「これが……サッカーなんだな」

 

 アントニオが呟くように言った。

 

「うん。これが、僕たちのサッカーだよ」

 

 ピッチの端で、日本代表の仲間たちが歓喜の輪を作っている。

 それを見ながら、俺とアントニオは、少しだけ遅れて歩き出した。

 

 勝ったとか、負けたとか、そんなものを超えて――

 ただ、この最高の試合を一緒に作れたことが、何よりの宝物だった。



 
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