異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第159話 ワールドカップ54

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 スポットライトの下、静まり返るスタジアムの中央――
無数のフラッシュが星のように瞬き、世界中のメディアのレンズが一点を見つめていた。

 

 巨大スクリーンに映し出されたのは、輝く金の文字。


 
《日本代表 世界一達成》



 その下で、ゆっくりと歩みを進めたのは――長谷川キャプテンだった。

 

 青のユニフォームの袖をまくり、額にはまだ汗が残る。けれど、その歩みは堂々としていた。

 マイクの前に立つと、彼は静かに、深く一礼する。

 

「……本日は、ご声援ありがとうございました」

 

 その一言は、まるで何万通りの感情を圧縮したかのような重みを持っていた。

 普段なら冷静沈着な長谷川の声が、ほんの僅かに震えている。

 

 しかし、その震えの中には、確かな誇りがあった。

 

「……まずは、本当に、夢のようです」

 

 言葉を紡ぐ彼の目に浮かぶのは、この大会を共に駆け抜けた仲間たちの顔。勝利の瞬間、抱き合って涙したその時の記憶が蘇っている。

 

「僕たちは“世界一”を目指してきましたが……正直、その意味をずっと探していました」

 

 静かな会場に、言葉だけが凛と響く。

 

「でも、今日。この試合で、ようやくわかった気がします」

 

 一呼吸。会場全体がその続きを待っている。

 

「――“仲間と最後まで、信じて戦うこと”。それが僕たちの“世界一”でした」

 

 拍手が一斉に鳴り響く。

 祝福と称賛、そして深い共感を込めた音の波。

 

 その中で、記者から質問が飛ぶ。

 

「最後のゴール、雷丸選手の“マルチビジョン”についてのご感想は?」

 

 長谷川は――ぷっと、吹き出しそうになって、それを堪えたような顔で笑った。

 

「……あれはもう、なんと言えばいいんでしょうね。“雷丸にしかできない芸当”です」

 

 笑みを浮かべながら、肩をすくめる。

 

「実際に隣で見てても、理解は追いつきませんでしたよ。でも――不思議と、信じてたんです。“あいつなら、やってくれる”って」

 

 その言葉に、また拍手が湧いた。今度は笑いと感動の入り混じった、温かい拍手だった。

 

 長谷川は深く頭を下げ、その場をあとにする。

 

 スクリーンに映る彼の背中は、まさに“世界一のキャプテン”としての風格を纏っていた。



 ――続いて、会場の奥から重厚な足音が響く。

 

 ゆっくりと、だが一歩一歩が明確に刻まれるその足取りに、観客席も記者席も思わず息を飲んだ。

 

 登壇したのは、日本代表監督――藤堂剛(とうどう・ごう)。

 

 無駄な飾り気は一切ない、黒のジャージ姿。

 その背中には、戦場を共に駆け抜けた者にしか持ち得ない圧が宿っていた。

 

 マイクの前に立つと、彼は微動だにせず、静かに、全員を見渡す。

 

 ――ピリッと空気が引き締まる。


 
 観客の歓声すら自然と収まり、スタジアムが張り詰めたような沈黙に包まれた。

 

 その中で、藤堂監督は、静かに口を開いた。

 

「……今日ここに立てていることを、誇りに思う」

 

 低く、腹に響くような声。ひとつひとつの言葉に、芯が通っている。

 

「日本代表は、世界で戦える“力”を証明した。だが……それ以上に、今日の試合が証明したのは、“心”だ」

 

 観客席にいた子どもたち、遠く離れたサッカーファン、テレビの前のすべての人々――

 誰もが、その言葉に引き込まれていった。

 

「雷丸。長谷川。そして全ての選手たちが、最後まで走り抜いた。技術でも、戦術でもない。――“魂”で掴み取った勝利だ」

 

 拳を握る仕草も、声を荒げることもない。

 けれど、その言葉にはどんな叫びよりも熱がこもっていた。

 

「俺は、このチームを誇りに思う。そして、これから世界に問いたい。“日本のサッカーは、ここからが本番だ”と」

 

 その瞬間、スタジアム中から割れんばかりの拍手が沸き起こった。

 

 記者がマイクを向けて問いかける。

 

「最後に、雷丸選手への一言をいただけますか?」

 

 藤堂監督は、少し口元をゆるめ――ほんのわずかに、笑った。

 

「……あいつは、“サッカーの常識”ごとぶっ壊す。それが飯田雷丸だ」

 

 ひと言。重く、そして痛快な一言。

 

 観客は沸き立ち、記者たちが一斉にペンを走らせる。



 そして無言で立ち上がり、一礼をして去っていく。


 
  ――スタジアムがざわめき、やがて、静寂に包まれる。

 

 無数のフラッシュが一瞬だけ止まり、全員の視線がステージに集中する。

 

 司会者が、一呼吸。

 

 そして――マイクを通して、力強くアナウンスする。

 

「それでは、最後に……本日のMVP、日本代表背番号10――飯田雷丸選手、登壇です!!」

 

〈ワアアアアアアアアアアッッ!!!!!〉

 

 その瞬間、爆発のような歓声がスタジアムを揺らす。

 割れんばかりの拍手、観客の絶叫、ペンライトの波、紙吹雪の嵐。

 

 その中、ピッチ脇の階段を、堂々と、肩で風を切って登場するのは――

 

 背番号10、“ハーレム王”飯田雷丸。

 

 Tシャツの首元には「俺がMVPに決まってんだろ」と書かれた紙が無理やりセロテープで貼ってあるという、最高に雷丸らしいふざけたスタイル。

 

 なのに、なぜか――バカみたいに絵になる。

 

 その姿に、司会者も思わず吹き出しかけたが、堪えてマイクを向ける。

 

「雷丸選手、今の気持ちを一言お願いします!」

 

 観客全員が息を飲む。

 

 雷丸は、ゆっくりとマイクを受け取り、数秒――ピッチを、空を、そしてスタンドを見渡す。

 

 そして――

 

「今日の俺、かっこよすぎたな!!」

 

 叫んだその一言に、大爆笑と大歓声が同時に巻き起こる。

 

「おいおい!MVPなんて俺にとっては通過点だぜ!?俺が目指してんのは、“世界一楽しいサッカー”なんだよ!!」

 

 ニカッと笑って、マイクを掲げる。

 

「そして――世界中のみんなに伝えたい!“サッカーって、めっちゃ楽しいぞーっ!!!”」

 

 ワアアアアアアアアアッッ!!!!!

 

 観客席からは「雷丸ー!!」「結婚してくれー!!」「ハーレム王バンザーイ!!」と混沌とした叫びが飛び交う。

 

 最後に雷丸は、胸に手を当てて、少しだけ真剣な顔になる。

 

「支えてくれたみんなに、ありがとう。そして――俺を笑顔にしてくれた、お前たち全員が、俺のMVPだ!」

 

 言い終えたその瞬間、スタジアム中が再び揺れるような拍手に包まれた。

 

 雷丸、世界一。

 でも――それ以上に、世界一楽しんだ男だった。





 

 ――――――――――

 



 試合後の夜――

 日本代表チームは、勝利の熱気をそのままに意気揚々とブラジルのステーキハウスに突撃していた。

 重厚な木製の扉を開けた瞬間、肉とソースと炭火の香りが鼻をつきぬけ、全員の目がギラリと輝く。

 

「おいおい、焼肉にステーキ、さらには寿司まで!?何でもあるじゃねぇかココ!!」

 

 テンションが天井を突き破る勢いで盛り上がる中――

 

 監督・藤堂剛が、ズシリと重みのある声で宣言する。

 

「――今日は、俺の奢りだ。好きなだけ食え!」

 

 その一言に、全員の動きが一瞬止まり、そして――

 

「「うおおおおおおおおお!!!!!」」

 

 拳が一斉に天へ突き上がる!

 誰よりも先に動いたのは、もちろんこの男――

 

「特大ステーキと!山盛りポテトと!唐揚げ!あとデザートにプリンパフェも追加でな!!」

 

 “ハーレム王”飯田雷丸、全力オーダー。

 

 隣の席で、キーパー・大久保が眉をひそめながら苦笑する。

 

「お前どんだけ油もんブチ込む気だよ……胃が爆発するぞ。俺もう、おっさんだからムリムリ」

 
「大久保さん、まだ若いっすよ!試合であんな反応見せといて“おっさん”はないっすよ!!」

 
「いやいや、30越えると急に来るからな。ポテト一口で翌朝むくむぞ。唐揚げは罪だぞ」

 
「でも大久保さんも今日は食うでしょ?唐揚げ」


 
 そう言うと、大久保さんはちょっとだけ視線を泳がせて――

 

「……まぁな」


 
 ぼそっと答えた。


 
「食べるんじゃん!」


 
 すかさずツッコミが入り、そのタイミングで村岡が勢いよく両手を広げて言い放つ。

 

「罪の味は最高って、それ一番言われてるからな!!」

 

 その一言に、テーブル全体が爆笑。

「わかるー!!」「やっぱ唐揚げは裏切らねぇ!」「じゃあ罪人代表として5皿注文していいっすか!?」と、もはや“罪”が今日のパーティーテーマになりそうな勢いで盛り上がっていく。


 笑い声とともに、肉の焼ける音と香ばしい匂いが漂ってくる。

 次々と運ばれてくる特大ステーキ、ジューシーな唐揚げ、山盛りのポテト、そして色鮮やかな寿司の盛り合わせ。

 

「うおおおお!きたきたきたぁぁぁ!!!」と、誰かが叫び、早くも箸やフォークが動き始める中――

 

 ビールジョッキが各席に配られ、冷えた泡が美しく立ち上る。

 

 そして、長谷川キャプテンがジョッキを片手に立ち上がり、ピンッと指を鳴らすようにして言った。

 

「監督、音頭お願いします!」

 

 その声に全員の動きがピタッと止まり、藤堂監督の方へ一斉に視線が集まる。

 

 無言でジョッキを持ち上げた監督は、しばし静かに皆を見渡し――

 

「……よく戦った。お前達を誇りに思う」

 

 その短い言葉に、皆の顔に自然と笑みがこぼれる。

 

 そして、力強く声を上げた。

 

「世界一、おめでとう!!かんぱーいッ!!!」

「「かんぱーいッ!!!」」

 

 カシーンッ!と何十個ものジョッキが一斉にぶつかり合う、豪快な乾杯の音が響き渡る。

 店内は肉の香りとビールの泡、そして歓声と笑顔で満たされ――その真っ只中で、ひときわ目立つグラスがあった。

 

「……雷丸、お前だけコーラかよ!!」

 

 テーブルのあちこちから突っ込みが飛び、瞬時に爆笑の嵐が巻き起こる。

 

「だって俺、未成年だし!!」

 

 俺はコーラの泡立ちまくるグラスを誇らしげに掲げながら、悪びれずに胸を張る。

 

 その様子に、また一段と笑いが広がる。


 
「コーラで世界王者とか、逆に伝説すぎる!」

「ハーレム王、炭酸で祝杯!!」



 仲間たちの愉快なツッコミが飛び交い、テーブル全体がまたしても笑いの渦に包まれた。

 

 その傍らで、すでに金色の泡をたたえたビールジョッキを手にした連中が、揃ってグビグビグビッ――!

 

「ぷはぁあああああああッッ!!」

 

 まるで打ち上げの見本のような豪快な声とともに、テーブルのあちこちでビールが飲み干されていく。

 

「やばい、うまっ……!控えてた分、一口がマジで神の一撃!」

「もうね、身体がビール求めてた。肝臓がスタンディングオベーションしてる!」

「優勝の味、これだわ……涙出そう……!」

 

 普段はクールなキャプテンまで「これやばい……麦の奇跡……」と呟いていて、どんだけ飲みたかったんだよと笑ってしまう。
 
 
 

 そんな笑いの中、店員が大きな皿を運んできた。

 

「オーラ!スシ・コン・エストゥーピド・エスピナッソ!」(※ブラジル訛りの妙なテンション)

 

 なんか陽気な声とともにテーブルに置かれたのは――“ブラジル風寿司盛り合わせ”。

 

 その瞬間、俺たちは言葉を失った。

 

 サーモンにパイナップル、アボカドにベーコン。挙げ句の果てにはウニの上に唐辛子。

 

「……ブラジルで寿司って、どうよ?」

 

 副キャプテンの藤井が眉をひそめつつも、恐る恐る一貫を箸でつまみ上げる。

 

「ウニ、行ってみるか……いや、ウニっていうかこれ、赤くね?」

 

 まさかの“ウニ・インフェルノ”。ウニの上にドカンと乗ってるのは、まるで爆弾のような唐辛子。

 

 俺たちは顔を見合わせ、「せーの!」で一斉に口へ放り込んだ――

 

 ドガアァァァァン!!!

 

 鼻から火が出るほどの辛さが脳天を直撃!

 

「かっ、辛ァァァァ!!!!!」

「おいこれ!ウニが燃えてるぞ!!」

「寿司にしては攻撃力高すぎだろ!!」

 

 次々と水を求めて席を立つ連中、口を押さえてテーブルを転げ回る奴まで現れて、場内はまるで激辛フェスのカオス会場。

 

 「日本の寿司じゃねぇ!」「ブラジル、攻めすぎィィ!!」と絶叫する声に、厨房からも陽気な笑い声が返ってきた。

 

 副キャプテンの藤井が涙目で呟く。


 
「……寿司って、こんなに命懸けだったっけ?」

 

 でも、不思議と誰も箸を止めようとしなかった。

 

 だって今夜は――世界一になった打ち上げなんだから。どんな料理も、どんな辛さも、笑って飲み込んでやるって決めてる。

 

 辛い!痛い!でも……最高に、楽しい。




 気づけば夜はすっかり更けて、ステーキも唐揚げも寿司も空になり、テーブルの上には皿とグラスと笑い声の残骸だけが残っていた。

 

 みんな腹を抱え、「もう一口も入らん!」と呻きながらも、顔は満ち足りた笑顔。

 

 あちこちで酔っ払ったヤツらが、肩を組んで合唱したり、謎のダンスを始めたり、全力で机の下で腕立て伏せしてる奴もいて――カオスの極み。

 

 いつもは鬼軍曹みたいに厳しい藤堂監督まで、グラス片手にソファにもたれ、ふっと柔らかい笑みを浮かべていた。

 

「やれやれ……ガキどもが世界一になって浮かれる夜も、悪くないな」

 

 その姿に、誰もが心の中で(いや、ちょっと酔ってるな)と察したが、誰も突っ込まなかった。

 

 そして俺は、笑いと熱気に満ちたその光景を見渡しながら――思わず声を上げた。

 

「――なぁ、またさ!このメンバーみんなで飯食おうな!!」

 

 その言葉に、場の空気が一瞬ぴたりと止まり――

 

「……おう!!」

「決まりだな!」

 

 口々に笑いながら返ってくる声に、胸が熱くなる。

 

 そんな中、村岡がグラス片手にニヤリと笑って言ってきた。

 

「早く雷丸もビール飲める年齢になれよな~!コーラばっかりじゃ乾杯になんねぇだろ!」

 

 その瞬間、ドッと笑いが起きる。

 

「ハーレム王のくせに、飲み物だけ童貞かよ!」

「次の打ち上げまでに成人しとけよ~!」

 

 俺はコーラの泡ぶく立つグラスを高々と掲げて、ふてくされたように笑いながら叫んだ。

 

「うっせーな!コーラだって気合い入ってんだよ!!」

 

 また一斉に爆笑が起きる。

 

 世界の頂点を取った夜――
 俺たちは、ただのサッカー仲間で、最高のバカ騒ぎ仲間だった。





 ――――――――――――




 
 酔っ払ってフラフラになった連中をなんとかまとめて、俺たちはホテルへの帰路についていた。

 

 俺は村岡の肩を支えながら歩いていたんだが――

 

「おい雷丸ぁ……腹が……ポテトが……重力に勝てない……」

「勝て!重力に勝て村岡!まだ帰り道の半分だぞ!!」

 

 ぐにゃりと崩れかける村岡を引きずりながら歩いていると、その前方で、藤堂監督が腕を組んで立っていた。

 

 その無表情の中に、ほんのりと疲労と慈愛(たぶん)が混ざっている。

 

「お前ら、明日の夜も忘れるなよ。ワールドカップのパーティーがある」

「……ワールドカップの、パーティー?」

 

 俺が思わず聞き返すと、監督がチラとこっちを見て、軽く顎で合図する。

 

「あぁ。出場国の選手たちが一堂に会する、公式のパーティーだ。大会前にも一回やっただろうが」

 

 ……そうだ、思い出した。あの地獄のような(いや、豪華な)前夜祭。

 

 エンリケの「口撃(オリーブ)」
 トーレスの「筋肉ステージ」
 アントニオが「美少女ファンに囲まれて王子スマイル全開」だったこと、
 ヴォルカーノが「『日本代表?ふーん』みたいな舐めた態度」だったあの夜――
 
 

 村岡が俺の肩に凭れながらボソッと呟いた。

 

「……俺、ああいう豪華なパーティーよりさ……今日みたいにバカ言って肉かっ喰らって、みんなで笑ってる飲み会の方が……好きだわ」

 

 その言葉に、他のメンバーが一斉に頷く。

 

「わかる!」「今日は最高だった!」「なんか青春って感じ!」
「雷丸、お前のせいで笑いすぎて腹筋痛いんだけど!」

 

 みんなの声が、まるで夜空を突き抜けていくかのように広がっていった。

 

 でもな――

 

 俺は、心の中で一つの熱を抑えきれずにいた。

 

 また、会える。
 あの、世界の頂点を争った“やつら”に。

 

 トーレスも、エンリケも、アントニオも、ヴォルカーノも――
 あのバカみたいに強くて、バカみたいに格好よくて、でも、どこまでも本気だった“猛者”たちに。


 
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