異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第189話 富士の樹海27

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 貴音がやった。大金星を上げた。


 水月は正直、物凄く厄介な相手だった。それを貴音が封殺してくれたのは大きい。


 
「………………!!!!」



 戦場のあちこちで戦いを繰り広げていた者たちも、一瞬だけ水月の敗北――いや、寝返り(おにぎりによる)を目の当たりにし、衝撃を受けていた。




「はははははっ!!貴音、まさか戦場で武器ではなく、おにぎりを使って敵を無力化するとはな!!まるで武神のような策じゃ!!」


 

 焔華は腹を抱えて笑い、貴音に親指を立てて称賛する。その横で貴音は「えへへ」と得意げに笑っていたが、当の水月は未だおにぎりを手にしたまま呆然としていた。


 
「さて、わしも貴音に負けんくらいの活躍を見せんとな!」



 焔華はニヤリと笑いながら、目の前の翠嶺に向き直った。

 翠嶺は水月の敗北を目の当たりにし、深く息を吐いた後、静かに立ち上がった。彼の顔には動揺の色はなく、ただ僅かに目を伏せ、口元を引き結ぶ。


 
「水月さん……残念です。」



 彼はかすかに首を振りながら呟く。その声には怒りはなく、むしろ落胆と諦念が混じっていた。


 
「彼女の若いながらの実力には期待していたのですが……仕方ありませんな。」



 そう言うと、翠嶺は焔華をまっすぐに見つめ、その目には狂信的なまでの信念が宿っていた。


 
「ですが――私は違いますよ。」



 焔華は口角を上げながら、拳を握る。


 
「ふむ、歳寄りをいたぶるのは心苦しいが、許せ!」



 彼女の全身に熱が集まり、炎がうねるように纏い始める。その光景を前にしても、翠嶺はまったく動じることなく、ただ静かに右手をかざした。


 
「では、始めるとしましょうか――霊印投射機構(れいいんとうしゃきこう)。」



 翠嶺の周囲に浮かんでいた霊印が一斉に輝きを増し、彼の手の動きに呼応するように広がっていく。


 
「霊印砲台――展開。」



 瞬間、空中に漂う無数の霊印が砲台のように変形し、焔華へ向けてエネルギー弾を一斉に撃ち放つ。


 
「ほほう!!面白い!!」



 焔華は身を翻しながら、燃え盛る炎をその身に纏った。


 
「では、わしも応えてやろう――」



 彼女は両手を広げ、大気中の熱を一気に引き寄せる。


 
「緋炎旋華(ひえんせんか)!!」



 彼女が勢いよく回転すると、全身を取り巻く炎が旋風となり、まるで巨大な紅蓮の花が咲いたかのように周囲に広がっていく。その灼熱の旋風は霊印砲台から放たれたエネルギー弾を次々と飲み込み、弾道を歪めながら消し去っていった。
 

 翠嶺は目を細め、静かに呟く。


 
「ほう……炎で砲撃を受け流すとは、なかなかの戦法ですね。」


 
 しかし、焔華はすでに次の動きに移っていた。旋風の中で一瞬体を沈めるように姿勢を変え、手元から爆発的な火柱を噴き上げる。


 
「炎駆(えんく)!!」


 
 瞬間、焔華の体がまるで弾丸のように前方へと弾け飛ぶ。彼女の両腕から勢いよく炎が噴射され、まるで爆風に乗るかのような急加速――その速さはまさに閃光の如し。


 
 「――速い!!」


 
 翠嶺の霊印砲台が焔華を捉えようとするが、彼女は急速なフェイントを織り交ぜながらジグザグに駆け抜け、エネルギー弾をことごとく回避していく。炎を纏った疾風のような動きに、砲台の攻撃は完全に追いつかない。


 
「ちょこまかと……ですが、範囲攻撃ならどうでしょうか?」


 
 翠嶺が手をかざすと、霊印がさらに拡散し、より広範囲に呪力を放ち始める。


 しかし――。


 
「甘いわ!」



 焔華がニヤリと笑い、その場から消えた。



「――――狐陽炎(こようえん)」



 焔華の身体がゆらりと揺らぎ、次の瞬間には複数の影が生まれ、熱気によって視界が歪められる。まるで炎の中に幻を見せられているかのように、翠嶺の目の前には焔華の残像が何体も踊る。


 
「……!?」


 
 翠嶺の目が鋭くなる。


 
「ほぅ、なるほど……熱気を利用した視覚撹乱ですか。」



 一見すると単なる陽炎のようだが、その実態は精密に制御された高速移動と残像による錯乱。どれが本物か判別する前に、彼女の気配が消えた。


 
「こっちじゃ、間抜けめ!」



 翠嶺の背後から、焔華の声が弾ける。


 彼女の目の前には、霊印砲台の展開を指揮する翠嶺の姿。その距離、あと一瞬。


 焔華の拳が炎を纏い、翠嶺の背を捉えようとした瞬間――突如として彼女の体がガクンと硬直した。


 
「なっ……!?」



 驚愕の表情を浮かべる焔華。しかし目の前の翠嶺は、相変わらず落ち着いた表情のままだ。


 そして彼の周囲に漂っていた霊印の一つが、いつの間にか焔華の腕に貼り付いていた。


 
「自動結界――停止印」



 翠嶺が静かに呟く。



 
「あなたは、私の結界の中に入りましたね。」

「結界じゃと……?いつ張った?」



 焔華が歯を食いしばりながら問いかけるが、体はまるで見えない縄で縛られたかのように、微動だにしない。


 翠嶺はゆっくりと手を掲げ、冷静に続けた。


 
「最初からですよ。地面や木に印を刻む《印刻世界》とは異なり、私の《自動結界》は、私の周囲2メートル以内に常時展開されています。」



 焔華の瞳が僅かに揺れる。


 
「……つまり、わしがこの範囲に踏み込んだ時点で……?」

「ええ、あなたはすでに“狩場”に入っていたのです。」



 翠嶺は淡々と微笑みながら、手を軽く握る。


 
「……そして、この自動結界の中では、私の霊印たちが即座に敵に対応するよう、あらかじめインプットしてあります。」



 その言葉と同時に、焔華の燃え盛る拳がシュウウウ……と音を立て、まるで見えない手で掴まれたように火が鎮火していった。


 
「――――無意味ですよ。」



 翠嶺の冷たい声が響く。


 
「くっ……!」



 焔華はギリッと歯を食いしばりながら、かろうじて視線を動かした。


 
「……なかなかやるのぅ……」



 その目には、まだ闘志が宿っている。だが、このままでは完全に身動きが取れない。



 その時――


 
「……しっかりしなさい、焔華。」



 低く静かな声とともに、闇の呪術が焔華を包み込んだ。


 
「麗華……?」



 焔華の身体が黒い霧のような呪力に絡め取られ、そのままふわりと後方へと引き寄せられていく。


 
「活躍、見せてくれるんでしょう?だったらこんなところで拘束されてる場合じゃないわよ。」



 麗華は冷静に言いながら、手元の焔華に貼られた停止印の札を一気に剥がした。



 ――バリッ



 その瞬間、焔華の身体が再び自由を取り戻す。


 
「……助かったわい!」



 焔華はすぐさま身を翻し、体勢を立て直すと、ニヤリと笑った。


 
「さて……今のは良い勉強になったのぅ!次はわしが一手打つ番じゃ!」



 彼女の周囲に再び熱が高まり、空気が揺らぐ――。



 焔華はニヤリと笑い、勢いよく地面を蹴った。再び翠嶺へと接近するが、先ほどとは違う。彼女の周囲には、無数の小さな炎――まるで狐火のような灯りが、次々と生まれていた。


 
「さて、さっきは止められたが……今度はどうかのぅ?」



 彼女の足元から、炎が幾重にも弾けるように広がり、瞬く間に戦場全体に狐火が散らばっていく。



「――――狐炎千灯(こえんせんとう)!」



 翠嶺はそれを見て、微かに眉をひそめた。


 
「……こ、この数は…………!!ありえない……!!これだけの火球を完璧に制御できるはずが……!!」


 
 霊印が自動で敵に反応する以上、その数を上回る攻撃を仕掛ければ、処理が追いつかない――焔華はそう考えた。

 
 翠嶺の周囲に浮かぶ霊印が次々と光を放ち、襲い来る狐火を迎撃し始める。

 
 
〈ボンッ!ボンッ!ボンッ!〉



 火花が弾け、衝撃波が戦場に広がる。


 ――だが、その中には明らかに威力の低いもの、不発に終わり、プスプスと煙を出すだけのものも混じっていた。

 

 「制御できとらんよ!!」

 

 焔華の声が高らかに響く。狐火の猛攻の中、彼女はまるで炎の舞を踊るように軽やかに動きながら叫んだ。

 

「実際、狐炎千灯(こえんせんとう)は威力にばらつきがある!!
 100個以上、すべての狐火を制御して強力なものにするなんて無理じゃからのぅ!
 本命のもの、威力の弱いもの、適当に作ったもの、様々な火球が入り混じっとる!!」

 

 翠嶺の霊印は忠実に動いている。目の前の”敵”となる狐火すべてに対して、確実に迎撃を試みる。


 
 「――じゃがな」


 
 焔華は唇の端を持ち上げ、不敵な笑みを浮かべた。

 

「適当に作っても”ある”ということが大事じゃ!
 どんなにしょぼい狐火でも、お主の霊印は反応してしまうようじゃからのぅ!!
 自動で反応するのが仇になったな、翠嶺!!」

 

 翠嶺の顔が微かに歪む。

 
 狐火は一つ一つの威力こそまばらだが、数こそが力。


 
 “迎撃する対象が多すぎる”――この単純な事実が、翠嶺の緻密な防御機構を狂わせていた。

 

 「人生と一緒じゃ!力を入れるところと抜くところ、そこを見極めんと!!」

 

 焔華の瞳が燃え盛る炎のように輝く。

 

 「全てに全力で反応してしまうお主の霊印の負けじゃー!!人生、ちょっとズルするくらいがいいのじゃと!!」
 

 
 彼の結界内で自動制御されていた霊印たちは、絶え間なく襲いくる狐火の迎撃に回らざるを得ない。


 その結果、翠嶺が自身を守るために展開していた自動結界の防衛機能は、完全に狐火への対処に集中することになった。

 

「……なるほど、これは……参りましたな……」

 

 翠嶺は微かに唇を震わせながら、悔しそうに呟いた。

 
 自動結界の中の霊印が、狐火への対応に手を取られ、ついに空っぽになった。



 その瞬間、焔華は一気に間合いを詰める。

 彼女の拳に宿る炎が、一際強く燃え上がった。

 

「これで終いじゃ!!」
 
 
〈ドゴォッ!!!〉


 
 拳が翠嶺の腹部を捉えた瞬間、爆風のような炎が弾ける。翠嶺の体が浮き、地面に叩きつけられる。



 焔華は拳を振りぬいた余韻を感じながら、ニヤリと笑った。


 
「ほれ、こういうのは力任せじゃなくて、遊び心も大事なんじゃよ!」





 
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