Strawberry Film

橋本健太

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第45話 リーマンショック

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 グラビアアイドルの卒業で、薫は心に空虚感を覚えた。「いちご☆みるく」と「シュークリーム」は売上げが低迷。グラビアを撮影する薫だが、どこか虚しさを感じている。4月になり、社長がカメラマン達を集めて、集会をした。
「皆さん、おはようございます。改めてお伝えします。我が社のグラビア雑誌の売れ行きが低迷し、赤字が続いています。建て直しは難しい状態にあります。今、景気も苦しいです。倒産だけは避けたい状態です。」
倒産と言う言葉で、重苦しい雰囲気に包まれる。社長としては、皆の受け皿を出来るだけ用意したい、ようである。芸能事務所Starでは、カメラマンやスタッフの個人的なアイデアを尊重し、自主的な活動を積極的に推し進めていた。もし、この会社が無くなってしまっても、1人でやっていけるだけの実績と経験を積ませるためだったんだ、と薫は痛感した。社長としても、皆を路頭に迷わせたくない。どうせ潰れるなら、皆を次のステージへ行かせた上で、手続きや申告を早めに済ませ、スッキリと身軽になった上で畳む、と言う形にしたいようである。

 畳むまで猶予はたっぷりある。就職活動をする時間もある。考える猶予を与えてくれた社長に感謝した。長年、編集長として皆を引っ張って来た菅野智弘も、病気がちになり、衰弱が著しくなっていた。
「どうせ潰れるなら、皆とはハッピーエンドで終わりたい。」
薫達は落ち着いていた。リーダー格になっていた薫のマイペースな落ち着いた性格もあるのと、いずれは会社は潰れるものだと、達観しているからだ。
「もし、会社無くなったとしても、ウチは福岡に帰るけん。」
福岡から移住していた喜美子。福岡には、芸能事務所 オーシャンブルーがあり、Starとも提携している。受け皿になれば、そこに移転出来る。 
「そうやな、喜美子ちゃんは福岡から来とるからな。」
「薫君はどうすると?京都に帰ると?」
「それやけどな、ジャーナリストという道も考えとるんよ。ただ、グラビアも撮りたいしな。」
久美は、薫に恋心を抱いていた。薫と運命を共にしたい、とさえも思っていた。
「薫君、今度一緒にデートしよ?」
「えっ、久美ちゃん?俺なんかでええの?」
「ちょっと、話したいこともあるから。」
思わぬ提案に、薫は赤面した。
「え、ええよ。」

 7月某日、薫と久美は阪急電鉄 大阪梅田駅前にいた。久美は運転免許を持っており、久美の車に乗る。行き先は神戸市。国道43号線を快走し、神戸の街へ向かう。海開きしていると言うことで、垂水のアジュール舞子へ行った。
「海とか、久しぶりや~。」
仕事が多忙で海に行けていない薫。グラビアの撮影で赴くことはあるが、自分が泳ぐのは久しぶりである。水着に着替えて泳ぐ。久美は黒いビキニを着ており、大人の色気が漂う。海に入ると、海水の冷たさに心地よさを感じた。
「ハァ~!海サイコー!」
明石海峡大橋がかかり、薄緑色の外観の孫文記念館がある。薫と久美は夏を楽しんでいた。久美と冒険した夏の日々が蘇る。
「日韓W杯の時、一緒に韓国も廻ったね!」
「あぁ、ほいで、去年は東南アジアも行ったな!」
冒険を通じて、久美は薫に恋心を抱き始めた。
「それで、私、薫君のことを好きになったの!」
「おぉ、ホンマに!?」
思わぬ告白に薫は驚いた。薫も年上の久美には、撮影で色々と助けられていた。いつしか、薫の中で喜美子は戦友、久美は恋人と言う認識が出て来た。そんな恋心を抱きながら海を楽しんだ。

 車で舞子を後にし、三宮へ移動。南京町で点心に舌鼓。
「老祥記知ってる!」
「豚まん発祥の店?」
中華にテンションが上がる薫。薫は過去の撮影で、中国・香港に赴いたが、日本の中華料理と本場は別物だと感じている。神戸でのデートを楽しみ、久美とラブラブな関係を築いた。

 夏が終わった頃、「いちご☆みるく」と「シュークリーム」に出ていたジュニアアイドル達は相次いで卒業し、売上は2年連続赤字続き。9月15日、アメリカで住宅市場悪化によるサブプライム住宅ローン危機が発生。それにより投資銀行のリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破綻。リーマン・ショックが起き、日本も株価暴落など不況に見舞われた。
「こんなん、バブル崩壊以来やで…。」
ニュースを知った編集長は、青ざめてうなだれた。不穏な空気に包まれる事務所、経営難による破産の危機は、すぐそこまで来ている。沈没しそうな船から、皆を避難させるという段階に来ている。社長は円満に会社を畳み、皆に次の居場所を与えたい、と考えているが果たして…。
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