Strawberry Film

橋本健太

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第61話 鶴橋事変

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 ロンドンオリンピックを観戦・撮影し、次女が生まれるなど2012年は、色々とロマンチックな年だった。
「クリスマスに、妹を授かるなんてな。粋なプレゼントやったな。」
「うん。薫といつか私もまた冒険したいな。」
2歳の京香と新生児の桃香を抱き、八坂神社へお参りする。2人の娘が、無事に成長出来ることを祈った。

 来年のブラジルW杯に向けて、夢が膨らむこの頃。グラビア関係の仕事も来ている。
「薫、グラビア撮影してる時が1番生き生きしてる。」
「女の子の可愛い所を、しっかりと収めたいし、何より俺は女好きやからね。」
出版社との繋がりもあり、薫は再びある野望を抱いていた。
「久美と一緒に、グラビア撮ってた時に、「「Strawberry Film」」って言う写真集を2回出したやん。せやから、今回、「「Strawberry Film3」」を出したいと思ってる!!」
これまでStrawberry Filmは2回出版しており、その時の出版社とのご縁がある。あとはモデル・撮影場所・スケジュール。中国・香港で出会った事務所やグラビアアイドルのツテを辿っていく。

 1月下旬、グラビア撮影後に、かつてStrawberry Filmを出版した会社に、Strawberry Film3の草案を提出した。
「ほうほう、ええやないか。」
担当してもらった編集者は、薫が駆け出しの頃から見てくれており、期待してもらっている。快諾してくれ、親身になって提案に乗る。
「海外での撮影も考えてる?」
Strawberry Filmでは、香港・ベトナム・タイ、Strawberry Film2では、韓国・中国・シンガポールで撮影した。撮影予定の2014年には、ブラジルW杯の撮影がある。ブラジルは世界屈指の美女大国。現地のモデルとも共演が期待出来る。海外と聞かれ、昨年ロンドンオリンピックでイギリスに行ったので、イギリスも行く。
「イギリスとブラジルね。あと、どこに行きたい?」
アジアでは、東アジアと東南アジアは廻ったので、南アジアに行くことにする。
「インド。カオスな世界×グラビアアイドル、それを撮ってみたい。」
国内では、札幌・東京・長崎・沖縄で撮影。今回は関西。京都と神戸で撮影することにした。
「よし、決まり。」
撮影時期はこうなった。

Strawberry Film3
撮影期間 2014年3月~8月
撮影場所 3月@京都
     4月@神戸
     5月@インド
     6月&7月@ブラジル
       8月@イギリス

博信からのオファーで、ブラジルでの撮影はW杯を先に撮影する。後はモデルを決めることである。

 博信からのサッカー関係の仕事のオファーは、もう一つあった。それは、夏に行われるEAFF東アジアカップ2013であった。この大会は2003年から始まり、日本・韓国・中国の順で開催されている。
「あー、昔やってたダイナスティカップみたいなモンやね。」
1990年代に行われていたダイナスティカップを観たことがあるので、ある程度想像はついている。出場枠は、東アジア三国の日本・中国・韓国はシードとして本戦に出場。残り1枠を予選で決める。ここまで4回開催され、北朝鮮と香港が2回出場。北朝鮮は健闘したが、香港は日中韓に敵わず全敗している。今回の予選は、昨年12月に香港で開催され、オーストラリア・北朝鮮・香港・台湾・グアムが出場。オーストラリアが突破し、決勝大会に乗り込む。開催国は韓国。薫にとっては4年ぶりの渡韓となる。韓国関係のサブカルチャー・グルメ系の撮影もオファーが来た。
「コリアンタウンか。良さそうやな。」

 2月になり、寒さ厳しい中、大阪のコリアンタウンである鶴橋で撮影を行う。所狭しと並ぶ商店、キムチと焼き肉のニオイが漂う。かつて日本が朝鮮半島を植民地にしていた時に、移住してきた朝鮮人のコミュニティが形成され、コリアンタウンが出来たと考えられる。
「鶴橋と言ったら、焼き肉やね。」
鶴橋名物の焼き肉を食べながら、食文化を学ぶ。焼き肉の定番メニュー ホルモンだが、元は関西弁で「捨てるもの」という意味の「放るモン」が訛ってホルモンになったとか。
「それは薫さん、ご存知でしたか?」
「確か、捨てる筈やった内臓を試しに焼いたら美味かった、っていうのは知ってる。」
コリアンタウンの今を撮影していると、旭日旗を掲げた何人もの人達が、拡声器を使って叫びながら練り歩いている。
「またアイツらか…。」
「またって?旭日旗…。右翼?」
彼らは、昨今の嫌韓の風潮に便乗して出来た「在日特権を許さない市民の会」略して「在特会」である。ヘイトスピーチという憎悪表現で、在日コリアンへの差別的な言動を行なっている。薫は距離を取りながら、彼らを写真に収める。
「上辺は気取っても、1人で何も出来ひん臆病者の集まりや。」

 ジャーナリストとしてのオファーも来て、本格的に在特会について調べ始めた。彼らの言う在日特権などは、勝手にでっち上げたものである。在特会を立ち上げた桜井誠が目に留まった。
「土手っ腹メガネの豚野郎やん。」
鶴橋でも引き続き、在特会の動向を写真に撮る。2月24日、鶴橋駅前で1人の女子中学生がいた。薫は在特会に気づかれないよう、サングラスをかけている。女子中学生は、ヘイトスピーチを始めた。店で買ったキムチを、爪楊枝で刺してポリポリ食べながら、次第に怒りに満ちて来る。
「朝鮮人が調子に乗るなら、鶴橋大虐殺をやりますよ!!」
薫は、キムチのカップの蓋を閉め、助走をつけて、女子中学生に飛び蹴りをかました。
「井の中の蛙が!!!!!!」
薫の暴走に、一同呆気にとられる。
「何や何や?!」
女子中学生も立ち上がって、薫に罵声を浴びせる。
「アンタも不逞鮮人?!死ねばいいのに!!」
中指を立てる女子中学生に、薫はキムチのカップの蓋を開けて、頭から浴びせた。
「頭冷やせぇ!!!」
薫は急いで、大阪環状線の玉造駅までダッシュで逃走した。
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