上 下
26 / 31

異世界

しおりを挟む

 ユーリが帰ってきて渡された服は、ユーリと同じように胸元がVの形のもので、下は柔らかく軽くて動きやすいものだった。なかなか楽でいいな。もし元の世界に戻ったら、こういうものが仕事着で欲しいと思った。

「あの、アリオス様」
「ん? なんだ」
「この国では、様ってつけると変な目で見られてしまうのと、言葉遣いが丁寧すぎるので、少し崩してしまう事もあります。よろしいでしょうか?」

 言いにくそうに提案する。俺は何だそんな事かと笑ってしまう。

「問題ない。任せる」
「アリオス様はこの国ではどう見ても外国人なので、多分普通で大丈夫です」

 くすっとユーリがいたずらに笑った。
 


 ユーリは服を買ったついでに見たこともない食材を買ってきた。白いツルツルした袋に入っていたものを覗くと、緑色のものや赤いもの、オレンジ色のものなど不思議な食べ物ばかりだった。

「とりあえず夕ご飯食べましょう、カレー作りますね」

 服の上にまた簡素な服を着て、ユーリは手慣れたように作り始める。もう何年も俺の世界で生活していたのに、そんなことは微塵も感じない程上手く作っている。

「シェフなんかいらんな」

 ユーリの手際を見て、俺はつぶやく。

「ありがとうございます。簡単なものしか作れませんけど……」

 恥ずかしそうに笑っている。ドレスが違うだけで、また不思議な感覚だ。

「なぁユーリ、なんだか落ち着かないんだが」
「そうですか? でしたらテレビでもご覧になってください。そこのリモコン……黒い棒みたいなものの赤いところを押してみてください」

 ユーリの言う通り押してみる。すると、目の前の四角い板のような物から、ガォー!! と獣が飛びかかってくる。

「ユーリ! 危ない!!」

 俺はユーリの元へ行くと、背中を抱きしめるように守った。ユーリは驚いて、手に持っていたナイフを台に取り落とすーーーーが、一向に獣は飛びかかって来ない。

「?」
「あの、アリオス様、これはテレビと言って、映像が流れるだけで何も出てこないんですよ」

 クスクスっとユーリが笑う。俺は知らなかったとはいえ、何だか恥ずかしくなってしまった。
 この世界は不思議だ。

「これ切ったら後は煮るだけですので、もう少しお待ちくださいね」

 テレビを見ていると夢中になってしまい、何だか腑抜けてしまいそうだ。
 時々剣を持った騎士達が争っていたり、なかなか物騒なものでソワソワしてしまう。

「さて、出来ましたよ!」

 そう言うと、緑の葉と茶色の不気味な食べ物を目の前のテーブルに出される。飲み物はどうやらミルクのようだ。

「それでは、いただきます」

 ユーリはそう言うと、葉の方から食べ始める。俺も恐る恐る食べてみるのだが……うまい!
 ただの葉っぱに何か調味料がかけてあるようだがいったい何なのか。
 茶色の方も食べてみると、味は濃いがこれまた独特な味で、どんどん食が進む。

「これはカレーといって、うちはニンニクとトマトが入れてあるんですよ。野菜は人参、玉葱、ジャガイモと定番です。ちなみに白いのはお米、ご飯です」

 ユーリが得意げに言う。
 俺はすぐに食べ終わり、足りなかったのでさらに追加してもらった。
 うん、この世界の食べ物はうまい。
 まだカレーとやらしか食べてはいないが。

 俺達は食事のあと、以前ユーリが言っていた写真とやらを撮り、テレビを見ながらダラダラと過ごしたのだった。
しおりを挟む

処理中です...