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風と現世と
しおりを挟む風が2人を吹き飛ばすように強くなっていき、俺はユーリを強く抱きしめ、離さない。
「ク……ッ、目が……」
一体、なんだ?
目を開けた瞬間。
空は灰色した暗雲に包まれ、頭上には深い藍色した渦を巻き、そこに俺たちは吸い込まれそうになっていく。
「ユーリ! 離すなッ」
「は……い」
ゴオオオオォという激しい音と共に俺たちは浮かび上がり、渦に吸い込まれていく。
「キャアァァァァ!!」
「ウワァァァァー!」
†††
2人とも失神していたようで、目を覚ますと見たことのない場所に飛ばされていた。
「なんだ……ここは」
うっ……と、ユーリがうなる。
辺りを見渡すと屋敷のようなものが所狭しと並んでおり、時折見慣れない姿をした人間が俺たちの近くを歩いていく。
道は土ではなくガチガチに硬い鼠色で、夜だというのにやたらと明るい。
「ユーリ」
「ん……はっ、アリオス様」
ユーリは目を覚ますと、キョロキョロと周辺を見て青ざめる。
「アリオス様! ここは……私の生まれた世界の、日本です」
呆然とした。ここがユーリの生まれた世界?
緑の少ない土地、金属のようなものがものすごいスピードで道を走る。馬なんかと比べ物にならない。
「私……戻ってきたんだ」
ユーリはポツリと言った。
「この格好は、日本では少し目立ちます。私の住んでいた家に行ってみましょう。すぐそこです」
「あ、ああ。しかし、この世界ではユーリは死んだのでは……」
「はい、だから一応です」
俺はユーリの言う場所について行った。
「ここが、ユーリの生家か?」
何というかこじんまりとした建物で、狭いという言葉が合っている。とにかく、狭い。俺が部屋に上がろうとすると、ユーリに止められる。
「ごめんなさい、ここで靴を脱いで上がってください」
「靴を脱ぐ? ここではそんな作法があるのか!」
俺はなんだかとんでもない所に来てしまった様だ。これが、異世界ーーーー
「私、死んでるはずなんですが、この世界の私はこうして生きてるみたいですね」
ユーリは四角い箱から透明の入れ物に入った液体をグラスに注ぐと、私についでくれた。
「アリオス様、お茶です。冷たいですけどよければ……」
「あ、あぁ」
一口飲んでみると、紅茶とは違い渋い味のするものだった。恐らくこの世界の有名な飲み物なのだろう。
「私の着替えはあるんですが、アリオス様の着れそうな服がないんですよ……後で買ってきますね」
そういうと、狭い出入り口に入っていってしまった。ユーリはこんな訳の分からない状況から、俺の世界で生きてきたのかと思うと、今までのユーリと違い頼もしく感じた。
「お待たせいたしました」
ユーリはどうやら着替えてきたらしい。薄手の胸元がVの形の長袖に、膝までのスカート。ドレスとはだいぶ違うデザインだ。
「じゃあ、服買ってきます」
そう言うと、俺をこの部屋に置いて出て行ってしまった。
「あんな格好で大丈夫なのか……?」
しかしこの世界の服装は、少し露出がすごいな。
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