上 下
25 / 31

風と現世と

しおりを挟む

 風が2人を吹き飛ばすように強くなっていき、俺はユーリを強く抱きしめ、離さない。

「ク……ッ、目が……」

 一体、なんだ?


 目を開けた瞬間。

 空は灰色した暗雲に包まれ、頭上には深い藍色した渦を巻き、そこに俺たちは吸い込まれそうになっていく。

「ユーリ! 離すなッ」
「は……い」

 ゴオオオオォという激しい音と共に俺たちは浮かび上がり、渦に吸い込まれていく。

「キャアァァァァ!!」
「ウワァァァァー!」



     †††



 2人とも失神していたようで、目を覚ますと見たことのない場所に飛ばされていた。

「なんだ……ここは」

 うっ……と、ユーリがうなる。
 辺りを見渡すと屋敷のようなものが所狭しと並んでおり、時折見慣れない姿をした人間が俺たちの近くを歩いていく。
 道は土ではなくガチガチに硬い鼠色で、夜だというのにやたらと明るい。

「ユーリ」
「ん……はっ、アリオス様」

 ユーリは目を覚ますと、キョロキョロと周辺を見て青ざめる。

「アリオス様! ここは……私の生まれた世界の、日本です」

 呆然とした。ここがユーリの生まれた世界?
 緑の少ない土地、金属のようなものがものすごいスピードで道を走る。馬なんかと比べ物にならない。

「私……戻ってきたんだ」

 ユーリはポツリと言った。

「この格好は、日本では少し目立ちます。私の住んでいた家に行ってみましょう。すぐそこです」
「あ、ああ。しかし、この世界ではユーリは死んだのでは……」
「はい、だから一応です」

 俺はユーリの言う場所について行った。

「ここが、ユーリの生家か?」

 何というかこじんまりとした建物で、狭いという言葉が合っている。とにかく、狭い。俺が部屋に上がろうとすると、ユーリに止められる。

「ごめんなさい、ここで靴を脱いで上がってください」
「靴を脱ぐ? ここではそんな作法があるのか!」

 俺はなんだかとんでもない所に来てしまった様だ。これが、異世界ーーーー

「私、死んでるはずなんですが、この世界の私はこうして生きてるみたいですね」

 ユーリは四角い箱から透明の入れ物に入った液体をグラスに注ぐと、私についでくれた。

「アリオス様、お茶です。冷たいですけどよければ……」
「あ、あぁ」

 一口飲んでみると、紅茶とは違い渋い味のするものだった。恐らくこの世界の有名な飲み物なのだろう。

「私の着替えはあるんですが、アリオス様の着れそうな服がないんですよ……後で買ってきますね」

 そういうと、狭い出入り口に入っていってしまった。ユーリはこんな訳の分からない状況から、俺の世界で生きてきたのかと思うと、今までのユーリと違い頼もしく感じた。

「お待たせいたしました」

 ユーリはどうやら着替えてきたらしい。薄手の胸元がVの形の長袖に、膝までのスカート。ドレスとはだいぶ違うデザインだ。

「じゃあ、服買ってきます」

 そう言うと、俺をこの部屋に置いて出て行ってしまった。

「あんな格好で大丈夫なのか……?」

 しかしこの世界の服装は、少し露出がすごいな。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ブルームーンに涙を添えて

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

華麗なる子爵令嬢マチルダの密約

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,243pt お気に入り:20

飼い主と猫の淫らな遊び

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:135

BUBBLE WORLD -シャボンシティ編-

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:781pt お気に入り:76

処理中です...