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11 恋愛相談
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突然、携帯の呼び出し音が静かな部屋の中に響いた。
「うわっ!」
携帯の音が鳴り響くまで、今自分が何処にして、何を考えていたのか分からない程ぼうっとしていたらしい。
周りを見回せば、毎日生活している自分の狭いアパートで、自分はラグの上にぺたりと着替えもせずに座り込んでいた。
いつ帰ってきたのか全く覚えてないが、無意識に明かりも付けて、エアコンも自分でつけたらしい。部屋は十分暖かい。長年の習慣って恐ろしい。
っと、いけない。携帯、携帯。
まだ鳴り続ている携帯をバッグの中から慌てて取り出し、画面を見ると相手は雫だった。
「はい、もしもしっ」
『桃子、遅―い。電話するって言ってあったでしょー?』
「ごめん、ごめん。ちょっとぼーっとしてて」
『まあ、いいけど。それより大丈夫?泣いてない?』
「え?泣いてないよ?」
なんでいきなり電話に出た途端、泣いてるのか心配されるんだろうと不思議に思った。
寝起きな訳じゃないのに、頭の回転が鈍っている。
『そう、それならいいんだけど。今日の災難で会社なんてもう行きたくないっ、とか言うのかと思ったわ』
災難?会社に行きたくない程の災難ってなんだっけ?
けど会社という言葉に、ある人の姿がポンッと頭に浮かんだ。
どうして電話が鳴ってから思い出さずにいたのか。
忘年会からの帰り道、上司の寺井課長補佐からの突然の恋人候補を言い出され、駅の改札口まで見送ってくれた。くれぐれも気を付けて帰ってくださいねとの言葉と一緒に、頭を優しく撫でられた。
そんな恋人同士でしかやらないようなワンシーン、実際に自分がされるなんて。
「うわっ」
どうしようっ、私、寺井さんに告白されたんだよね?
そうだよっ、あんまりに衝撃的すぎる出来事だったから、駅で別れてからもずーっとぼうっとしたまま帰宅したんだ。汚れたスーツも着たままで、マフラーも巻いたままだ。
電話が掛かってきて一瞬忘れることが出来ただけで、きっと電話が鳴らなければ寺井さんの事ばかりまるっと頭を占拠され、朝まで呆け続けていたことだろう。
『ちょっと。いきなりうわって、何?桃子なんだか変よ?どうしたの?』
「ねえっ、雫聞いて~!こんな時、私どうすればいいのーっっっ!」
恋愛未経験には荷が重すぎて、どうしたらいいのか全然分からない。的確なアドバイスを教えて欲しい。雫は私に彼氏がいた試しがない事は知られている。
首元から微かに香る相手のフレグランスに気づき、体温が上昇した。手早くマフラーを外し、目の前のテーブルの上へと置いた。
突然泣きを入れ始めた私に慌てたみたいだが、送別会の店から出た後の事を事細かに説明し始めるともの凄く驚かれたものの、一通り話終えるまでただ聞いてくれた。
「―――ということがあったんだけど、どうしたらいいと思う?」
うーん、と電話の向こうで悩む声が聞こえた。
「こういうのは自分で出さなきゃいけない問題なのは分かってるんだけど。誰かに聞いて欲しくて」
だからと言って誰でもいいわけじゃない。言いふらされるのは困るし、職場の居心地が悪くなるのも困る。
雫なら口も堅いし、恋愛経験もある(らしい)し、信用できる。何より私と同じ職場で、問題にしている相手も雫の上司でもあることだし、相談しやすい。
『はーっ、寺井課長補佐って桃子狙いだったんだ。全然気が付かなかったわ。もー、あのヘタレ、だから早く言えって言ったのに』
電話の向こうからは何やらぶちぶちと意味不明な呟きが聞こえてきた。
「何、ヘタレって?」
『あー、何でもない。こっちの事だから気にしないで。それより桃子が悩んでいるのって、守備範囲以外の人から突然付き合おうって言われたから?それとも、デートをするのにどこへ行けばいいっていうこと?それとも、デート服を悩んでる?』
あげられる幾つかの例に、そのどれもが当てはまる気がした。
『それとも、お泊りの心配?』
最後の声にだけ、妙に色気が込められていた。
「なっ!?おとっ、お泊りっ!?誰が誰の所によっ!」
お試しのデートでお泊りなんて無いよっ。ある訳ないっ。絶対に無いっ!
そんなこと考えても見なかった。って、付き合ってないのにお泊りなんて普通するの!?いや、絶対にないって!
『あらー、今話しているのは寺井課長補佐と桃子の事でしょ?他に誰がいるの?』
「もー、私で揶揄って遊ばないでっ」
雫は時々こんな風に私で遊ぶ。
『えー?別に揶揄ってないよー?だって、桃子の彼氏にしたい条件全部知った上でデートして欲しいって言われたんでしょ?寺井さん、仕事は超が付くほど真面目だし、恋愛に対しても真面目そうじゃない?なら、お試しだって言ってるだけで、相当桃子には本気なんだと思うけど。それに、桃子の足が好きだなんて、寺井さん、案外結構むっつりかもよ?』
声が完全に面白がってる。確信犯だ。絶対に面白いから揶揄ってるよね?
「しーずーくー?私、真面目に質問しているんですけど」
『ごめん、ごめん。分かったから、そんなに怒らないで。真面目に話すから』
「うわっ!」
携帯の音が鳴り響くまで、今自分が何処にして、何を考えていたのか分からない程ぼうっとしていたらしい。
周りを見回せば、毎日生活している自分の狭いアパートで、自分はラグの上にぺたりと着替えもせずに座り込んでいた。
いつ帰ってきたのか全く覚えてないが、無意識に明かりも付けて、エアコンも自分でつけたらしい。部屋は十分暖かい。長年の習慣って恐ろしい。
っと、いけない。携帯、携帯。
まだ鳴り続ている携帯をバッグの中から慌てて取り出し、画面を見ると相手は雫だった。
「はい、もしもしっ」
『桃子、遅―い。電話するって言ってあったでしょー?』
「ごめん、ごめん。ちょっとぼーっとしてて」
『まあ、いいけど。それより大丈夫?泣いてない?』
「え?泣いてないよ?」
なんでいきなり電話に出た途端、泣いてるのか心配されるんだろうと不思議に思った。
寝起きな訳じゃないのに、頭の回転が鈍っている。
『そう、それならいいんだけど。今日の災難で会社なんてもう行きたくないっ、とか言うのかと思ったわ』
災難?会社に行きたくない程の災難ってなんだっけ?
けど会社という言葉に、ある人の姿がポンッと頭に浮かんだ。
どうして電話が鳴ってから思い出さずにいたのか。
忘年会からの帰り道、上司の寺井課長補佐からの突然の恋人候補を言い出され、駅の改札口まで見送ってくれた。くれぐれも気を付けて帰ってくださいねとの言葉と一緒に、頭を優しく撫でられた。
そんな恋人同士でしかやらないようなワンシーン、実際に自分がされるなんて。
「うわっ」
どうしようっ、私、寺井さんに告白されたんだよね?
そうだよっ、あんまりに衝撃的すぎる出来事だったから、駅で別れてからもずーっとぼうっとしたまま帰宅したんだ。汚れたスーツも着たままで、マフラーも巻いたままだ。
電話が掛かってきて一瞬忘れることが出来ただけで、きっと電話が鳴らなければ寺井さんの事ばかりまるっと頭を占拠され、朝まで呆け続けていたことだろう。
『ちょっと。いきなりうわって、何?桃子なんだか変よ?どうしたの?』
「ねえっ、雫聞いて~!こんな時、私どうすればいいのーっっっ!」
恋愛未経験には荷が重すぎて、どうしたらいいのか全然分からない。的確なアドバイスを教えて欲しい。雫は私に彼氏がいた試しがない事は知られている。
首元から微かに香る相手のフレグランスに気づき、体温が上昇した。手早くマフラーを外し、目の前のテーブルの上へと置いた。
突然泣きを入れ始めた私に慌てたみたいだが、送別会の店から出た後の事を事細かに説明し始めるともの凄く驚かれたものの、一通り話終えるまでただ聞いてくれた。
「―――ということがあったんだけど、どうしたらいいと思う?」
うーん、と電話の向こうで悩む声が聞こえた。
「こういうのは自分で出さなきゃいけない問題なのは分かってるんだけど。誰かに聞いて欲しくて」
だからと言って誰でもいいわけじゃない。言いふらされるのは困るし、職場の居心地が悪くなるのも困る。
雫なら口も堅いし、恋愛経験もある(らしい)し、信用できる。何より私と同じ職場で、問題にしている相手も雫の上司でもあることだし、相談しやすい。
『はーっ、寺井課長補佐って桃子狙いだったんだ。全然気が付かなかったわ。もー、あのヘタレ、だから早く言えって言ったのに』
電話の向こうからは何やらぶちぶちと意味不明な呟きが聞こえてきた。
「何、ヘタレって?」
『あー、何でもない。こっちの事だから気にしないで。それより桃子が悩んでいるのって、守備範囲以外の人から突然付き合おうって言われたから?それとも、デートをするのにどこへ行けばいいっていうこと?それとも、デート服を悩んでる?』
あげられる幾つかの例に、そのどれもが当てはまる気がした。
『それとも、お泊りの心配?』
最後の声にだけ、妙に色気が込められていた。
「なっ!?おとっ、お泊りっ!?誰が誰の所によっ!」
お試しのデートでお泊りなんて無いよっ。ある訳ないっ。絶対に無いっ!
そんなこと考えても見なかった。って、付き合ってないのにお泊りなんて普通するの!?いや、絶対にないって!
『あらー、今話しているのは寺井課長補佐と桃子の事でしょ?他に誰がいるの?』
「もー、私で揶揄って遊ばないでっ」
雫は時々こんな風に私で遊ぶ。
『えー?別に揶揄ってないよー?だって、桃子の彼氏にしたい条件全部知った上でデートして欲しいって言われたんでしょ?寺井さん、仕事は超が付くほど真面目だし、恋愛に対しても真面目そうじゃない?なら、お試しだって言ってるだけで、相当桃子には本気なんだと思うけど。それに、桃子の足が好きだなんて、寺井さん、案外結構むっつりかもよ?』
声が完全に面白がってる。確信犯だ。絶対に面白いから揶揄ってるよね?
「しーずーくー?私、真面目に質問しているんですけど」
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