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23 自覚
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エマの父が向かった場所が分かると、クロード宰相は直ぐに志願を申し出た三人の騎士を娼館へと向かわせた。騎士達が廊下を足早に去ってゆく後ろ姿を、エマは高い位置からぼうっとしたまま見送っていた。
「これで数刻もしないうちにマクレーン男爵を連れてくるでしょう。男爵の到着を待って、レナート室長とエマさんの話を進める、ということで宜しいか?レナート室長」
「はい、勿論」
レナート様は幾分嬉しそうな笑みを浮かべながら、クロード宰相へと返事をした。
エマはその笑みを見下ろす形で見つめながら、レナート様に出会ったきっかけから思い返していた。
何度も転びそうになった所を助けられた事、父に舞踏会場から連れ出されて、エマの結婚相手だと紹介された時の衝撃。そのまま部屋へと連れ込まれそうになった時の、言葉では言い表せない強い嫌悪感と、絶望感。
次々と想像もしていなかった窮地からエマを救ってくれたのは、今日会ったばかりのホノカさんやレナート様を含めたシルヴィオ家の人々。彼らと会えていなかったらどうなっていたのかなんて、火を見るより明らか。
初対面にも拘わらず親切にしてもらったことに、喜びを感じていたが、まさかレナート様からプロポーズしてもらえるなんて。
エマは世の中の不思議を身をもって感じながら、神に感謝を捧げた。
「エマさんも、それでいいね?」
宰相様から視線の先を変えたレナート様は、甘さを含ませた琥珀の瞳を私へと向けていた。
「いいのですか?その、相手が私な・・・私で」
私なんかと言いそうになったのを、すんでのところで言い直した。レナート様は多分気づいたみたいだったけど、気が付かなかった素振りで、尚甘い笑みを浮かべた。その笑顔にエマはまた見惚れた。
「エマさんが、いいんだ。エマさんこそ、俺でいいの?」
「レナート様が望んでくださるのでしたら、私は喜んで・・・」
ぽっと熱が上がり始めた頬を冷ます為に、両掌を頬に当てた。照れくささも隠すために。
子爵家の令息という事と、マギ課の室長という肩書に、正直気後れがない訳ではないが、レナート様が私を望んでくれると言うなら、心が怯むことを理由に断りたくはなかった。
短時間のうちに惹かれていることには、もう自覚があったから。
レナート様が好き。
まだ淡く仄かな小さなものだったが、確かにエマの心の中には恋心が育ち始めていた。
その頬を隠す仕草にまたもやレナートが心の内で、ヤバい、すげー、可愛いんですけど。どうしたらいい?等と思われているなんて、全く想像もしていないエマだった。
その照れるエマの後ろでは、ホノカとアンナが手を取り合って狂喜していた。そのことにも気づかない程にエマにはレナート様の事しか目に入らなかった。
「ところで陛下。レイエス男爵の処遇は陛下がお決めになったとおりで宜しいのですが、男爵をこのまま帰すのはお待ちいただいて、一晩ここの予約を入れていた部屋に監視付きで泊まらせても宜しいですか?明日にならないと聖獣保管管理課のブラウナー・クレメンスに聖獣の保管を頼めませんので」
クロード宰相は事後の段取りをフルメヴィーラ王に進言した。再び二人の世界を繰り広げ始めたのを横目に、これ以上心配はいらないだろうとの判断を下し、事務的な話を進めることに決めた。
レイエス男爵の処遇を決めたとはいえ、このまま男爵を自宅へと帰すわけにはいかない。
「ああ、そうだな。その仕事もあったな。その辺りの判断は宰相に委ねる」
主の命令しか聞かない聖獣を使用停止にするためには、その名の通り聖獣の保管と管理を仕事とする聖獣保管管理課に仕事を依頼するしかない。特に親しくもない家族や恋人でもない限り、自分の聖獣以外は触らないのが基本だ。他人が聖獣に触れるとそれだけで噛み付かれてしまうからだ。
正しく使用停止にするためにも聖獣保管管理課の者に頼まなくてはならない。今日はもうとっくに終業している時間だし、年末でもある。室長であるブラウナー・クレメンスが休日でも、誰か一人は出勤してきている筈だ。彼が居なくても出勤してきている者に頼めば問題は無い。
「承知いたしました。では、明日のレイエス男爵の聖獣の保管と、家族に対する説明はこちらの方で対処いたします。では、そろそろ我々もこんな廊下ではなく、もっと話しやすい場所へと移動しませんか?」
「ああ、そうだな。ここは冷えるしな。応接室に暖かい飲み物でも用意させよう」
フルメヴィーラ王の言葉に従い、大人しくなったレイエス男爵は二名の騎士の監視付きで宿泊する部屋へと押し込まれ、残ったエマたちはクロード宰相の先導の下、舞踏会場からは離れた棟の応接室へと移動を始めた。
「これで数刻もしないうちにマクレーン男爵を連れてくるでしょう。男爵の到着を待って、レナート室長とエマさんの話を進める、ということで宜しいか?レナート室長」
「はい、勿論」
レナート様は幾分嬉しそうな笑みを浮かべながら、クロード宰相へと返事をした。
エマはその笑みを見下ろす形で見つめながら、レナート様に出会ったきっかけから思い返していた。
何度も転びそうになった所を助けられた事、父に舞踏会場から連れ出されて、エマの結婚相手だと紹介された時の衝撃。そのまま部屋へと連れ込まれそうになった時の、言葉では言い表せない強い嫌悪感と、絶望感。
次々と想像もしていなかった窮地からエマを救ってくれたのは、今日会ったばかりのホノカさんやレナート様を含めたシルヴィオ家の人々。彼らと会えていなかったらどうなっていたのかなんて、火を見るより明らか。
初対面にも拘わらず親切にしてもらったことに、喜びを感じていたが、まさかレナート様からプロポーズしてもらえるなんて。
エマは世の中の不思議を身をもって感じながら、神に感謝を捧げた。
「エマさんも、それでいいね?」
宰相様から視線の先を変えたレナート様は、甘さを含ませた琥珀の瞳を私へと向けていた。
「いいのですか?その、相手が私な・・・私で」
私なんかと言いそうになったのを、すんでのところで言い直した。レナート様は多分気づいたみたいだったけど、気が付かなかった素振りで、尚甘い笑みを浮かべた。その笑顔にエマはまた見惚れた。
「エマさんが、いいんだ。エマさんこそ、俺でいいの?」
「レナート様が望んでくださるのでしたら、私は喜んで・・・」
ぽっと熱が上がり始めた頬を冷ます為に、両掌を頬に当てた。照れくささも隠すために。
子爵家の令息という事と、マギ課の室長という肩書に、正直気後れがない訳ではないが、レナート様が私を望んでくれると言うなら、心が怯むことを理由に断りたくはなかった。
短時間のうちに惹かれていることには、もう自覚があったから。
レナート様が好き。
まだ淡く仄かな小さなものだったが、確かにエマの心の中には恋心が育ち始めていた。
その頬を隠す仕草にまたもやレナートが心の内で、ヤバい、すげー、可愛いんですけど。どうしたらいい?等と思われているなんて、全く想像もしていないエマだった。
その照れるエマの後ろでは、ホノカとアンナが手を取り合って狂喜していた。そのことにも気づかない程にエマにはレナート様の事しか目に入らなかった。
「ところで陛下。レイエス男爵の処遇は陛下がお決めになったとおりで宜しいのですが、男爵をこのまま帰すのはお待ちいただいて、一晩ここの予約を入れていた部屋に監視付きで泊まらせても宜しいですか?明日にならないと聖獣保管管理課のブラウナー・クレメンスに聖獣の保管を頼めませんので」
クロード宰相は事後の段取りをフルメヴィーラ王に進言した。再び二人の世界を繰り広げ始めたのを横目に、これ以上心配はいらないだろうとの判断を下し、事務的な話を進めることに決めた。
レイエス男爵の処遇を決めたとはいえ、このまま男爵を自宅へと帰すわけにはいかない。
「ああ、そうだな。その仕事もあったな。その辺りの判断は宰相に委ねる」
主の命令しか聞かない聖獣を使用停止にするためには、その名の通り聖獣の保管と管理を仕事とする聖獣保管管理課に仕事を依頼するしかない。特に親しくもない家族や恋人でもない限り、自分の聖獣以外は触らないのが基本だ。他人が聖獣に触れるとそれだけで噛み付かれてしまうからだ。
正しく使用停止にするためにも聖獣保管管理課の者に頼まなくてはならない。今日はもうとっくに終業している時間だし、年末でもある。室長であるブラウナー・クレメンスが休日でも、誰か一人は出勤してきている筈だ。彼が居なくても出勤してきている者に頼めば問題は無い。
「承知いたしました。では、明日のレイエス男爵の聖獣の保管と、家族に対する説明はこちらの方で対処いたします。では、そろそろ我々もこんな廊下ではなく、もっと話しやすい場所へと移動しませんか?」
「ああ、そうだな。ここは冷えるしな。応接室に暖かい飲み物でも用意させよう」
フルメヴィーラ王の言葉に従い、大人しくなったレイエス男爵は二名の騎士の監視付きで宿泊する部屋へと押し込まれ、残ったエマたちはクロード宰相の先導の下、舞踏会場からは離れた棟の応接室へと移動を始めた。
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