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22 提案
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「ふうん?・・・信じがたいがレナートはその子に本気みたいだな」
フルメヴィーラ王は、レナート様と私を面白そうに見つめながら、微かに首を傾げると前髪が一筋さらりと流れた。
「そう言う事なら、この事件は私に一任させてもらおう。いいかな、クロード宰相?」
宰相は軽く驚きに目を見張った。王の言葉の意を酌んだ宰相は胸の前に片腕を当てると、恭しく頭を下げた。
「御意」
宰相の言葉を受けたフルメヴィーラ王は、小さな笑みを浮かべ軽く頷いた。
「詳しい店の名前を知っているのは、そこに倒れている男爵だけということか。悪いがホノカさん、魔法を直ぐ解除してもらえないだろうか?」
「あ、はーい。すぐ解除します」
エマは周りからの温かな目に必死に恥ずかしさに耐えていると、ホノカさんが王様から名を呼ばれた。自分とは違い、ホノカさんは国王に名を呼ばれることにも、頼まれごとをされても全く気負った感じがなさそうで、とても慣れている感じがした。そんな気軽に返事が出来るほど普段からよく会ったり、頼まれ事をされたりしているのだろうか?
ホノカさんからはここへ来てまだ二ヶ月と聞いたが、レナート様より魔法が強いと言われるだけあって、王様にも頼りにされているんだろう。エマはようやく今頃になって特別な人なんだと気づいた。
ホノカさんはレイエス男爵に近づいて行きながら、肩にいる聖獣に声を掛けた。
「スノーベリー、1つ頂戴」
主の言葉に猫の聖獣の口から魔力が零れた。それと共に傍にいた騎士はもう一度束縛するために動き、魔法が解除される前に腕を掴んだ。
小さな魔力を指で掬い取ったホノカさんは、迷いなく魔法を解いた。
「全解除」
掌に現れた魔法陣が光を放つと、重力と石化の魔法は解除された。解けると同時にレイエス男爵のうめき声が聞こえてきた。
「ううっ、体が・・・、体が・・・」
エマは魔法を直接体に掛けられたことなどないから分からないが、痛がっている男爵の声にきっと相当な重みや痛みを感じていたんだろうと思った。
男爵は騎士に再度束縛され体を起こされた。やっと顔を上げることが出来た男爵だが、いきなり現れた現王の登場に流石に言葉が出無いようで、表情は青ざめているが、床に接していたらしい広い額と、鼻先は赤くなっていた。
王様から頼まれ魔法を解除したホノカさんは、夫のセオドールさんに腕を掴まれ、その背に庇うようにして下がらされた。念のためにレイエス男爵から危害を加えられない様にだろう。
ホノカさんがいとも簡単そうに魔法を使う様子を、エマは瞬きすることも忘れ見入っていた。先程の二つの魔法を同時に掛けたことも含め、あんなにスムーズに魔法が使える人を初めて見たからだ。
重力は空の魔法。
石化は地の魔法。
魔法の属性は全部で七種類。空、風、水、火、地、光、闇がある。ホノカさんが使える五種類の魔法には、空と地があるらしい。
エマは土の属性を持っているが、残念ながら素質がないのと、聖獣のグロリオサの魔力が低すぎる為に魔法を使うことが出来ない。けれど、魔法を使える人は全体の二割程度だから、使えないことを余り気にしたことはなかったが、こうして直接目の前で魔法を見ると格別な思いがした。
もし自分が魔法を使えたら、今とは全然違う「今」があったんだろうか。父との他人よりも遠く感じる関係ももっと違っていたんだろうか、と。エマはホノカさんを見ながら、ぼんやりと埒もないことを考えていた。
エマは気づいていなかったが、切ない様な、寂しそうな目をしながら魔法を使ったホノカの事を見つめるエマの横顔を、レナートは何も言わずただじいっと見つめていた。
「さて、レイエス男爵。ここにいる娘、エマ・マクレーンの父と、そなたとの間で娘との婚約が交わされていたそうだが、マクレーン家の事業支援協力の見返りという約束で間違いはないか?」
「・・・はい」
少しずつ歩みを進めながらの王からの質問に、レイエスは体をびくつかせながら神妙な面持ちで答えた。どう処罰を言い渡されるのか気が気でないのだろう。
「両家の間では一応正式な婚約を交わしたことになるのだが、ここでそなたがしようとしたことは婚約しているとはいえ、女性に一方的に乱暴をしようとした、言わば犯罪未遂になる。未遂に終わったが女性側から訴えられれば、婚約は解消、双方ともに家名に傷もつく。そこで、だ」
フルメヴィーラ王は、口角こそあげたが真顔のまま、男爵を見下ろしながら発言を続けた。
「そなたがマクレーン家と結んだ支援を自分から解消したいと申し出て、娘との婚約も解消し、レナート・シルヴィオにその権利を譲っては貰えないか?もしこの提案を受け入れるなら、未遂であったことを考慮しても、通常であれば一~二ヶ月程度の禁錮は免れないところを、聖獣の使用停止、二週間というのではどうだろう?」
破格な提示案に、レイエスは考慮することなくその案を受け入れると、マクレーン男爵の行き先をその場で告げた。
フルメヴィーラ王は、レナート様と私を面白そうに見つめながら、微かに首を傾げると前髪が一筋さらりと流れた。
「そう言う事なら、この事件は私に一任させてもらおう。いいかな、クロード宰相?」
宰相は軽く驚きに目を見張った。王の言葉の意を酌んだ宰相は胸の前に片腕を当てると、恭しく頭を下げた。
「御意」
宰相の言葉を受けたフルメヴィーラ王は、小さな笑みを浮かべ軽く頷いた。
「詳しい店の名前を知っているのは、そこに倒れている男爵だけということか。悪いがホノカさん、魔法を直ぐ解除してもらえないだろうか?」
「あ、はーい。すぐ解除します」
エマは周りからの温かな目に必死に恥ずかしさに耐えていると、ホノカさんが王様から名を呼ばれた。自分とは違い、ホノカさんは国王に名を呼ばれることにも、頼まれごとをされても全く気負った感じがなさそうで、とても慣れている感じがした。そんな気軽に返事が出来るほど普段からよく会ったり、頼まれ事をされたりしているのだろうか?
ホノカさんからはここへ来てまだ二ヶ月と聞いたが、レナート様より魔法が強いと言われるだけあって、王様にも頼りにされているんだろう。エマはようやく今頃になって特別な人なんだと気づいた。
ホノカさんはレイエス男爵に近づいて行きながら、肩にいる聖獣に声を掛けた。
「スノーベリー、1つ頂戴」
主の言葉に猫の聖獣の口から魔力が零れた。それと共に傍にいた騎士はもう一度束縛するために動き、魔法が解除される前に腕を掴んだ。
小さな魔力を指で掬い取ったホノカさんは、迷いなく魔法を解いた。
「全解除」
掌に現れた魔法陣が光を放つと、重力と石化の魔法は解除された。解けると同時にレイエス男爵のうめき声が聞こえてきた。
「ううっ、体が・・・、体が・・・」
エマは魔法を直接体に掛けられたことなどないから分からないが、痛がっている男爵の声にきっと相当な重みや痛みを感じていたんだろうと思った。
男爵は騎士に再度束縛され体を起こされた。やっと顔を上げることが出来た男爵だが、いきなり現れた現王の登場に流石に言葉が出無いようで、表情は青ざめているが、床に接していたらしい広い額と、鼻先は赤くなっていた。
王様から頼まれ魔法を解除したホノカさんは、夫のセオドールさんに腕を掴まれ、その背に庇うようにして下がらされた。念のためにレイエス男爵から危害を加えられない様にだろう。
ホノカさんがいとも簡単そうに魔法を使う様子を、エマは瞬きすることも忘れ見入っていた。先程の二つの魔法を同時に掛けたことも含め、あんなにスムーズに魔法が使える人を初めて見たからだ。
重力は空の魔法。
石化は地の魔法。
魔法の属性は全部で七種類。空、風、水、火、地、光、闇がある。ホノカさんが使える五種類の魔法には、空と地があるらしい。
エマは土の属性を持っているが、残念ながら素質がないのと、聖獣のグロリオサの魔力が低すぎる為に魔法を使うことが出来ない。けれど、魔法を使える人は全体の二割程度だから、使えないことを余り気にしたことはなかったが、こうして直接目の前で魔法を見ると格別な思いがした。
もし自分が魔法を使えたら、今とは全然違う「今」があったんだろうか。父との他人よりも遠く感じる関係ももっと違っていたんだろうか、と。エマはホノカさんを見ながら、ぼんやりと埒もないことを考えていた。
エマは気づいていなかったが、切ない様な、寂しそうな目をしながら魔法を使ったホノカの事を見つめるエマの横顔を、レナートは何も言わずただじいっと見つめていた。
「さて、レイエス男爵。ここにいる娘、エマ・マクレーンの父と、そなたとの間で娘との婚約が交わされていたそうだが、マクレーン家の事業支援協力の見返りという約束で間違いはないか?」
「・・・はい」
少しずつ歩みを進めながらの王からの質問に、レイエスは体をびくつかせながら神妙な面持ちで答えた。どう処罰を言い渡されるのか気が気でないのだろう。
「両家の間では一応正式な婚約を交わしたことになるのだが、ここでそなたがしようとしたことは婚約しているとはいえ、女性に一方的に乱暴をしようとした、言わば犯罪未遂になる。未遂に終わったが女性側から訴えられれば、婚約は解消、双方ともに家名に傷もつく。そこで、だ」
フルメヴィーラ王は、口角こそあげたが真顔のまま、男爵を見下ろしながら発言を続けた。
「そなたがマクレーン家と結んだ支援を自分から解消したいと申し出て、娘との婚約も解消し、レナート・シルヴィオにその権利を譲っては貰えないか?もしこの提案を受け入れるなら、未遂であったことを考慮しても、通常であれば一~二ヶ月程度の禁錮は免れないところを、聖獣の使用停止、二週間というのではどうだろう?」
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