15 / 21
15話
しおりを挟む
15
巧が課題を教えるようになって一週間。
同じく菜々がアルバイトを始めて一週間でもある。
彼女が作る様になった八月いっぱいまでの期間限定、数量限定のスイーツの方も、値段がかなりお手頃というのも有って順調だ。
毎日のそのスイーツは日替わりで、ランチメニューを食べた人にはさらに値段がお手頃にしていて、巧が店のツイッターやブログで紹介したりもしているが、お客さん自身のリアルタイムコミュニケーションにも少しずつ増えているようだ。
その内容には、日替わりスイーツの他にも、少しだが焼き菓子のクッキーも紹介され始めたようだ。
そのクッキーは菜々がアルバイトに来るまでは浩介が作っていたが、今は菜々が作る事になっている。
以前は普通の丸い形だったものを菜々の提案から猫形に変更し、ラッピングにはくろの似顔絵とハートが描かれていて、お試し用のドリップパックと一緒に販売を開始したのだ。
そのクッキーの変更販売する時に、幾つかランチの時間帯にサービスとして配ったのだが、どうもそれが元で付き合い始めたというカップルがツイッターのつぶやきに載せた所、じわじわと広まりつつあるらしい。
これが数ヵ月後には恋が叶うアイテムとしてかなり売り上げが伸びることになるとは、正直この時思ってもみなかった。
苦手な課題の数学は、予想していたよりも早い一週間で終った。
初日の様子を思い出すと、もう一週間程かかると巧は思っていたのだが。
本人の努力はもちろんだが、一度少し難しい応用問題が解けた時には自然な感じで菜々の頭を撫でたことがあったが、その日以降、どうも彼女のやる気スイッチが入ったらしい。
その時にこの一冊が終わったらスイーツで行きたい店が有れば連れていってあげると約束したのも大いに効果があった。感情が表に出やすい彼女を見てるだけで、それが分かった。
浩介からは、彩華さん経由で菜々には彼氏が居ない事は確認済みだ。
頭を撫でた時もそうだが、スイーツを食べに行くのを約束した時も、菜々が頬を染めて俯く仕草が何とも云われない幸せの感情を巧の胸に運んだ。
毎日彼女に会える事がこんなにも大事に思えるなんて、以前は考えられなかった。
他人に触れるのは、今も平気では無い。視たくないモノが視えたらと恐怖が先立つ。なるべく接触が無いようにしているけれど、彼女には自分から触れたいと思えるように今ではなってしまっている。そんな自分に戸惑いがあるものの止められなくて、つい頭を撫でてしまった。
はっとして巧は直ぐに手を元に戻した。髪を触ったからと言って特に何も視えなかったことに安心した。そんなしょっちゅう視るものではないと今迄の経験から分かっているけれど、ほっとした。
巧が頭を撫でた時に嬉しそうにしていた事から菜々に嫌われてはいないと断言できるが、まだ自分の事をはっきりとどう思っているのかは核心が持てない。
憧れられているのか、観賞対象と思われているのか、ただ年の離れた兄の様に思われているのか・・・。
どうすれば好きになってもらえるのか。
時間がかかってもいい。
こんな歪んだ俺の事を。
異能を持っている他人とは違う異質な俺でも。
全部を知っても好きになってもらえるにはどうすればいい?
他人との関わりを今迄極力避けていた自分に内心でため息を付く。
もうそろそろ勉強を見る時間は終わりが近い。
まだ巧の目の前には菜々が居ると言うのに、明日が既に待ち遠しく思える自分の気持ちを持て余していた。
次の日の菜々のアルバイトの時間がそろそろ終わろうとしている時刻、巧はいつものように自宅からクレマチスへと行った。
今日もテーブル席が空いていたので、先に座って場所を押さえていると、店に遼一がやってきた。
いつもなら騒がしく店へと入ってくる遼一は、何だか様子がおかしい。しきりに今入ってきたドアの後ろを気にしている。
「どうした?遼一。何か落し物でもしたのか?」
普段なら巧が居る事に気が付くと、よう!と声をかけて来るのに、今日は一体どうしたのかと思った。
「あー・・・、気の所為かもしれないんだけど、なんか変な奴がうろうろしてるみたいなんだけど」
「変な奴?」
「ああ、店の前に桜の木が有るじゃん。その陰から割と背の低い俺らとあんまし年が変わらなさそうな男が店の中を窺っているみたいなんだけど」
それを聞いて眉間に皺を寄せた巧は、体を少し横へずらし遼一が言う桜の木を見た。
樹齢がそこそこあるらしい桜の木は、隠れている男の体を完全には隠す程には太くない。
木からは半分程はみ出ている人の体が見えた。
体格は、やや太めといったところか。黒のTシャツにジーンズを履いているようだ。性別は、遼一が言ったように男で間違いはなさそうだ。
暫く目を離さずにじっと見ていると、相手の顔がちらりと見えた。
巧は眼鏡をかけているし、気の陰にいる男までかなりの距離があるからはっきりとは言えないが、見た事がない顔だと思った。
「誰だ、あれは?」
遼一も同じ事を思ったらしく、訝しげな声で呟いていた。
巧が課題を教えるようになって一週間。
同じく菜々がアルバイトを始めて一週間でもある。
彼女が作る様になった八月いっぱいまでの期間限定、数量限定のスイーツの方も、値段がかなりお手頃というのも有って順調だ。
毎日のそのスイーツは日替わりで、ランチメニューを食べた人にはさらに値段がお手頃にしていて、巧が店のツイッターやブログで紹介したりもしているが、お客さん自身のリアルタイムコミュニケーションにも少しずつ増えているようだ。
その内容には、日替わりスイーツの他にも、少しだが焼き菓子のクッキーも紹介され始めたようだ。
そのクッキーは菜々がアルバイトに来るまでは浩介が作っていたが、今は菜々が作る事になっている。
以前は普通の丸い形だったものを菜々の提案から猫形に変更し、ラッピングにはくろの似顔絵とハートが描かれていて、お試し用のドリップパックと一緒に販売を開始したのだ。
そのクッキーの変更販売する時に、幾つかランチの時間帯にサービスとして配ったのだが、どうもそれが元で付き合い始めたというカップルがツイッターのつぶやきに載せた所、じわじわと広まりつつあるらしい。
これが数ヵ月後には恋が叶うアイテムとしてかなり売り上げが伸びることになるとは、正直この時思ってもみなかった。
苦手な課題の数学は、予想していたよりも早い一週間で終った。
初日の様子を思い出すと、もう一週間程かかると巧は思っていたのだが。
本人の努力はもちろんだが、一度少し難しい応用問題が解けた時には自然な感じで菜々の頭を撫でたことがあったが、その日以降、どうも彼女のやる気スイッチが入ったらしい。
その時にこの一冊が終わったらスイーツで行きたい店が有れば連れていってあげると約束したのも大いに効果があった。感情が表に出やすい彼女を見てるだけで、それが分かった。
浩介からは、彩華さん経由で菜々には彼氏が居ない事は確認済みだ。
頭を撫でた時もそうだが、スイーツを食べに行くのを約束した時も、菜々が頬を染めて俯く仕草が何とも云われない幸せの感情を巧の胸に運んだ。
毎日彼女に会える事がこんなにも大事に思えるなんて、以前は考えられなかった。
他人に触れるのは、今も平気では無い。視たくないモノが視えたらと恐怖が先立つ。なるべく接触が無いようにしているけれど、彼女には自分から触れたいと思えるように今ではなってしまっている。そんな自分に戸惑いがあるものの止められなくて、つい頭を撫でてしまった。
はっとして巧は直ぐに手を元に戻した。髪を触ったからと言って特に何も視えなかったことに安心した。そんなしょっちゅう視るものではないと今迄の経験から分かっているけれど、ほっとした。
巧が頭を撫でた時に嬉しそうにしていた事から菜々に嫌われてはいないと断言できるが、まだ自分の事をはっきりとどう思っているのかは核心が持てない。
憧れられているのか、観賞対象と思われているのか、ただ年の離れた兄の様に思われているのか・・・。
どうすれば好きになってもらえるのか。
時間がかかってもいい。
こんな歪んだ俺の事を。
異能を持っている他人とは違う異質な俺でも。
全部を知っても好きになってもらえるにはどうすればいい?
他人との関わりを今迄極力避けていた自分に内心でため息を付く。
もうそろそろ勉強を見る時間は終わりが近い。
まだ巧の目の前には菜々が居ると言うのに、明日が既に待ち遠しく思える自分の気持ちを持て余していた。
次の日の菜々のアルバイトの時間がそろそろ終わろうとしている時刻、巧はいつものように自宅からクレマチスへと行った。
今日もテーブル席が空いていたので、先に座って場所を押さえていると、店に遼一がやってきた。
いつもなら騒がしく店へと入ってくる遼一は、何だか様子がおかしい。しきりに今入ってきたドアの後ろを気にしている。
「どうした?遼一。何か落し物でもしたのか?」
普段なら巧が居る事に気が付くと、よう!と声をかけて来るのに、今日は一体どうしたのかと思った。
「あー・・・、気の所為かもしれないんだけど、なんか変な奴がうろうろしてるみたいなんだけど」
「変な奴?」
「ああ、店の前に桜の木が有るじゃん。その陰から割と背の低い俺らとあんまし年が変わらなさそうな男が店の中を窺っているみたいなんだけど」
それを聞いて眉間に皺を寄せた巧は、体を少し横へずらし遼一が言う桜の木を見た。
樹齢がそこそこあるらしい桜の木は、隠れている男の体を完全には隠す程には太くない。
木からは半分程はみ出ている人の体が見えた。
体格は、やや太めといったところか。黒のTシャツにジーンズを履いているようだ。性別は、遼一が言ったように男で間違いはなさそうだ。
暫く目を離さずにじっと見ていると、相手の顔がちらりと見えた。
巧は眼鏡をかけているし、気の陰にいる男までかなりの距離があるからはっきりとは言えないが、見た事がない顔だと思った。
「誰だ、あれは?」
遼一も同じ事を思ったらしく、訝しげな声で呟いていた。
0
あなたにおすすめの小説
定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました
藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。
そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。
ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。
その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。
仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。
会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。
これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜
葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」
そう言ってグッと肩を抱いてくる
「人肌が心地良くてよく眠れた」
いやいや、私は抱き枕ですか!?
近い、とにかく近いんですって!
グイグイ迫ってくる副社長と
仕事一筋の秘書の
恋の攻防戦、スタート!
✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼
里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書
神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長
社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい
ドレスにワインをかけられる。
それに気づいた副社長の翔は
芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。
海外から帰国したばかりの翔は
何をするにもとにかく近い!
仕事一筋の芹奈は
そんな翔に戸惑うばかりで……
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる