辺境騎士団のまかない料理~領地は食材の宝庫です~

BIRD

文字の大きさ
10 / 186
異世界でパスタを作る

ep07:朝ごはんの仕込み

 お城の厨房を出て宿舎に帰る直前、僕はベルさんにもうひとつパスタメニューを教えた。

「ベルさん、この余ったスープにトマトを入れて煮込んで、麺にかければもう一種類スープパスタが作れますよ」
「良いわね。明日の朝食のメニューにするわ」

 トマトはこの世界でも「トマト」という。
 日本のトマトよりも果肉が厚く、種や水分は少なく、皮を湯むきして煮込むと、短時間でとろけて美味しくなる。
 トマトは人気の食材で、栽培農家から仕入れたものが市場に出回っていた。
 【僕】の村でも栽培が盛んで、身近な野菜の一つだ。
 この世界のトマトは春~秋まで繰り返し花が咲いて結実し、一ヶ月ほどで収穫できる。
 リシュ領では、森の中に野生種のトマトが生えていて、採集で手に入れることができた。

(生でも美味い。野生種は、栽培種よりも糖度が高いな)

 宿舎の食糧庫でトマトを味見してみたら、村で採れる栽培種よりも味が濃くて甘かった。
 これは良いスープになりそうだ。
 僕は食糧庫からトマトを50~60個ほど取り出して、明日の朝食用のトマトスープ作りにかかった。

 トマトのヘタをくり抜き、鍋に沸かした湯に放り込む。
 皮がめくれてきたら鍋から取り出して、ボウルに入れた冷水に漬けて冷まし、皮をむく。
 皮をむいたトマトを乱切りにして、夕食のスープの残りに入れて数分煮込めば、トマトがトロリととろけてミネストローネ風のスープに変わる。
 スープには既に良い出汁がでてるので、塩と胡椒を少々追加する程度で美味しく仕上がった。

(スープはこれでよし。あとは麺だな)

 できあがったトマトスープを冷ましつつ、麺作りにかかる。
 生麺ができる頃には、スープの粗熱もとれていた。
 あとはチルドルームのようにヒンヤリした食糧庫の片隅に置いて、明日の朝まで保管しよう。
 こうして前夜から仕込んでおけば、翌朝はスープを温めながら麺を茹でるだけで済む。


 ◇◆◇◆◇


「ウォル、お前は朝食作りをしてくれるから、朝稽古は休んでもいいぞ」
「いえ、参加させて下さい」

 団長は朝稽古を免除してくれると言うけれど、僕は参加を希望した。

 この両手が何故マメだらけなのか、そのわけを【僕】は知っている。
 ウォルクリスは、見習い騎士になる以前から一人で剣を振っていたんだ。
 雨の日も雪の日も、黙々と剣を振り続けたのは何故か、その記憶は脳にしっかり残っている。

(騎士になりたい)

 それが、【僕】の夢。
 騎士団は村の子供たちの憧れで、ウォルクリスも騎士に憧れる一人だった。
 この国での騎士団は、主に街の警備を担う。
 災害時には現場に赴いて、救助や炊き出しも行う。
 人々を守ったり助けたりできるという誇らしさにプラスして、公務員なので給料が良いという経済的な魅力もあった。

 徴兵義務で見習い騎士として活動するのは1年間。
【僕】は、その後も騎士として働きたいと思っている。
 そのために、稽古は休んじゃダメだ。
 この身体の本来の持ち主が望むことを、転生者の僕が妨げちゃいけない。

「朝食は短時間で作れますから」
「そうか。お前が無理しない範囲ならいいが」

 団長はちょっと心配そうにしたけれど、朝稽古参加を受け入れてくれた。
感想 9

あなたにおすすめの小説

無能令嬢として隣国に売られましたが、私の料理を食べたら“限界突破”します。婚約者の執着が重すぎて困っています

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「魔法が使えない無能令嬢」――そう言われて、私は隣国に売られた。 だけど本当は違う。私の力は、“使う”ものじゃない。“引き出す”もの。 料理として完成した瞬間、その一皿はただの食事じゃなくなる。 食べた人間の限界を――強制的に、超えさせる。 最初は小さな変化だった。けれど一口で、兵士は別人のように強くなり、騎士は常識を超え、そして冷酷な婚約者は――私の料理なしではいられなくなった。 「……お前の料理がないと、俺は“足りない”」 でもその力には、代償がある。 使いすぎれば壊れるのは、食べた側か――それとも、作る私か。 やがて明かされる、封じられた“禁忌の料理”。 国家すら崩壊させるその力を巡り、私は選ばなければならない。 これは、“限界を超えさせる少女”が、自分の限界と向き合う物語。 ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

グラサン幼女の異世界とらべるっ! ~最強の【魔眼】を宿す転生幼女は、もふかわ神獣を連れてスローライフな旅路を楽しみます~

空戯ケイ
ファンタジー
社畜OL、水城愛璃(みずきあいり)は、女神のうっかりミスにより25歳の若さで死んだ。 お詫びとして女神が提案したのは、オッドアイの幼女ボディへの転生。 そうして幼女の姿で異世界転生を果たしたアイリだったが、 特異体質により『感情が高ぶると暴発する魔眼』が宿っていることが発覚! しかも両目!? それを封じるため、女神から与えられたユニークスキルは、『神のサングラス』。 このサングラスをかければ、魔眼の暴発を抑えられるらしいけど……常にグラサンかけてる幼女とか怪しすぎじゃない!? だけど、とある"激レア魔道具"があれば 、なんと魔眼を完治できるらしい。 ならばその魔道具を手に入れるため、異世界を巡るしかないっ! さらに旅の道すがら、もふもふフェンリルや忍者少女、特異スライムを仲間にし、珍道中はさらに加速していって――!! まったりのんびりをモットーに、たまに魔物や刺客に襲われちゃう。 【グラサン幼女】の破天荒な異世界旅が始まる! ※更新は不定期です。