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第1章:プルミエ剣術大会

第1話:異世界を再現したVRと発明家

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円形闘技場コロシアムの中央で、2人の若者が向かい合う。
1人は茶色のツンツンヘアーに赤いピアス、やや目つきの悪い青年、短めの曲刀を左右の手に持つ双剣使い。
1人はクセの無い黒髪にほっそりした顔立ちの美少年、日本刀を鞘に納めた状態。

開始の合図、空砲が鳴り響いた。

双剣使いの青年が先に動き、一気に間合いを詰める。
放たれる連撃。
しかしそこに少年はいない。
高速の太刀筋を全て躱し、少年が瞬時に抜刀。
爆発的な一撃に青年は飛ばされ、地面に倒れて動けなくなった。

「勝負あり!優勝はセイル!」
アナウンスが響いた。

VRマシンのハッチを開けて外へ出たのはセイルこと青野星琉(17歳)。
司会スタッフが、ステージに設置されたスクリーンを見ながら今回の対戦の様子を説明している。
「決め手はここでしたね~、ソーマ選手が仕掛けた10連撃を全部回避からの強烈な一閃!」
するとソーマこと白井奏真(20歳)が対戦相手側のマシンから出てきて
「あれを完全回避って何だよぉ~」
とボヤいた。

並んで立つと2人とも細身で身長も同じくらい、勝負は体力的なものでなく技術力が決した。
決勝戦を終えた2人にはそれぞれ賞状と賞品が手渡され、スタッフや観客たちから拍手が送られた。

ゲーム会社SETAの定番イベント「剣術大会・鉄人戦」を勝利したセイルに、イベントチームリーダーの渡辺が話しかけてくる。
「事前告知通り優勝した人には異世界アーシアに招待するけど、セイル君はパスポート持ってる?」
「…パスポート…」
ちょっと考えるセイル。
「…ってどこで手に入れるんスか?」
「知らんのかーいっ!w」
ツッコミを入れたのは横で聞いてたソーマ。


翌日、パスポート申請窓口にセイルと渡辺が来ていた。
データ登録と画像の撮影を済ませたら、パスポートはすぐに発行された。

「セイル君、パスポートを持ってなかったって事は国外に出るのは初めてかな?」
渡辺が聞くと
「海外どころか国内も修学旅行しか行った事ないっスよ」
アハハと笑ってセイルは答えた。
「俺ん家、家族多いから。旅行とか行けないんです。経済的な意味で」

出発日、同行する渡辺とその部下の森田が青野家まで迎えに来た。
野次馬のように庭に出てくる兄弟の数、8人。祖父母と父親まで出て来る。
祖父母・両親・兄・姉・弟3人・妹3人、星琉は次男坊、13人家族である。
玄関で母親からメモ紙らしき物を渡され、何やら言い聞かされるセイル。
凄い念を押されながら送り出された様子。

「滅多にない旅行だから心配されたかな?」
「そうですね~俺じゃなくて土産の心配をw」
12人分の土産を、それぞれ好みを考慮して買うのはなかなか大変そうだ。

タクシーで3人が向かったのは、ゲーム会社SETAの社屋。
その建物の中に、異世界アーシアと繋がる転送マシンがある。
マシンの傍らで待っていたのは社長であり開発者でもある瀬田氏。
「3人とも楽しんでおいで。向こうでどんな対戦相手が出たかレポート頼んだよ」
ニコニコしながら瀬田社長が言う。
「面白い相手なら新作のAIに採用するからね」

学生時代、瀬田は異世界転移を経験した。
転移先のアーシアは地球の中世ヨーロッパくらいの文明だったそうで、生活に便利な道具を作って感謝されたのだとか。
異世界転移効果で発明技術にチート能力がかかった瀬田は自分で転移装置を開発して帰って来た。
帰ってきたら今度はVRでアーシアの世界を再現する事に成功したという。
そしてゲーム会社SETAを創業、異世界体験が出来るVRで様々なジャンルのゲームを開発している。

セイルが優勝したゲーム大会はその1つ、アーシアの剣術大会を再現したもの。
そして今回、本場アーシアの剣術大会に特別参加する事になっている。

「転移先はアーシアの空港、日本人専用の入国受付が近くにあるからそこで言語理解スキル貰ってね」
「翻訳機じゃなくてスキルですか?」
国内旅行しか経験の無いセイルは、一昔前の翻訳技術しか知らない。
異世界アーシアは機械技術が無かった代わりに魔法技術があるそうな。
「スキルの方が便利だからね。機械と違って壊れないから一生使えるよ」
瀬田は機械の便利さも魔法の便利さも熟知しているらしい。

「じゃ、行っておいで」
「行ってきま~す!」
こうして、海外旅行経験スッ飛ばして異世界旅行する事になった星琉はアーシアに向かった。
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