3 / 169
勇者セイル編
第2話:女神様と王女様
しおりを挟む瀬田が作り上げた転送マシンは彼が体験した異世界転移(往路)を見事に再現していた。
つまり…
「ようこそ、アーシアへ。私は女神アイラ…」
…女神様が出てきちゃうのだ。
現地の下見の為1回行っていた渡辺は平然としていたが、初めてだった星琉と森田は呆然。
女神アイラ様は桜の花びらに似た色の衣が似合う優しい顔立ちの色白美少女だ。
「…CG…かな?」
星琉が呟くと…
「いえ、本物ですよ」
女神様ニッコリ。
「シロウを転移させたのは私ですから。以来彼とは交流が続いています」
シロウとは瀬田社長のアーシアでの呼び名らしい。
「社長すげぇ…」
新人社員の森田も思わず呟いた。
「剣術大会に出る子は貴方ね。ちょっと見せて」
アイラ様は星琉に手をかざした。
直後、何やら驚いた様子。
「…セイル、貴方が大怪我しないように加護を頼まれてたんだけど…」
じっと見つめてくる女神様。
キョトンとする星琉。
「こんなとんでもないステータスの子、加護いらないと思うの」
「へ?」
星琉はモチロン、聞いてた渡辺&森田も驚いた。
どんなステータスなのか見たいと言うと、企業秘密と言われ見せてはもらえなかった。
アイラ様は星琉に加護を与える代わりに、3人に回復系スキルをくれた。
それも星琉を護る目的ではなく…
「最上級回復魔法までつけておくから。もしもの時は対戦相手に使ってね」
「どんだけヤバイんですか俺のステータスw」
…星琉が相手を大怪我させちゃった時用だった。
女神様との御対面が済んだ後、3人はアーシアの空港に設置された転送陣に現れた。
地球側の転送マシンは機械らしく作られていたが、アーシア側は魔法陣風味になっている。
「向こう(地球)のは電気が動力だけど、こっち(アーシア)はソーラー電池と魔石が動力なんだよ」
興味津々で魔法陣を見ている星琉に渡辺が説明してくれた。
電力会社なんて無い世界だから、電池+魔石のハイブリッドタイプにしたらしい。
「?」
転送陣の外に出てすぐ、星琉は何かに気付いた。
確認するように軽く飛び跳ねてみたり腕を振ってみたりする。
「渡辺さん、ここの環境って…」
「社長が作ったVRマシンの中と同じだよ。理論上はゲームと同様の動きが可能な筈」
SETAのゲームをやり込んでるプレイヤーなら気付くよね、と渡辺は言った。
「え~、俺全然わかんないですよ~」
入社してそれほど経ってない森田はそこまで詳しくないようだ。
空港の日本人専用窓口は星琉たち以外お客はいなかった。
待たされる事無く手続きが済み、言語理解スキルを貰った3人。
そのスキルが何気に優秀で、人だけでなく人外の生物とも意思疎通が出来てしまうという。
「どうしよう…」
昼食をとりに入った店で、チキンを前に何か心配し始めるのは森田。
「もしも鶏と話す事があったら、俺もうフライドチキン食えませんよぉぉぉ」
…確かに食べづらいかもしれない。
そんな会話が聞こえたらしく、近くの席で思わず吹き出す人々がいた。
その中に何か他とは違う雰囲気の上品そうな少女がいる事に気付いた星琉、コソッと渡辺に聞いてみる。
「渡辺さん、あそこにいる子、アイドルか女優?すっごく可愛いんですけど」
「イリア様かな?この国のお姫様だよ」
「お…王族?!」
「…の割に護衛少なすぎません?」
さらっと答える渡辺に、驚きつつも小声で言う星琉と森田。
…が、席が近かったので聞こえた様子。
「この国は平和で、護衛は少なくても問題無いのです」
星琉たちに笑みを向けて、イリア王女が話しかけてきた。
「安心してお祭りを楽しんで下さいね」
優しそうな笑みを絶やさず、そう声をかけてティータイムを終えた王女は去って行った。
「…じ…人生初、高貴な方に声かけられちゃった」
じんわりと感動する星琉。
「多分SETA社の人間と分かったからかな」
冷静なままの渡辺。
「…ってわが社、王族に知られてるんですか?」
驚き追加の森田。
3人もランチを済ませて店を出た。
空港の日本人専用受付は空いていたが、祭りの影響で交通網は大混雑しているらしかった。
「え…2時間待ち…?」
ホテルに送迎を頼もうとして、待ち時間の長さに少し困惑気味の渡辺(40歳)。
3人が泊まる予定のホテルは、送迎用の馬車がどこぞのアトラクション並みの待ち時間になっていた。
「それ、歩いた方が早いってやつじゃないですか?」
「馬車乗ってみたかったけど、街の見学しながら徒歩でどうです?」
馬車が無いなら歩けばいいじゃないっていう考えの若者2人(17歳&22歳)の提案で、空港出口へ向かう。
…と、出口付近に人の輪が出来ていた。
「何でしょうね?あれ」
森田が呟き、渡辺も怪訝そうにそれを見る中、星琉は気付いた。
「ちょ、セイル君?!」
ダッシュで向かう星琉に驚く2人。
円状に集まった人々を内側から槍で脅している男たちが数人。
血を流して倒れているのが3人。
その更に中心には剣を持った男が1人。その剣は1人の少女を狙っていた。
少女は恐怖のあまり動けず座り込んだまま。
男が剣を振り上げ、少女に振り下ろそうとした時…
ドガッ!!!
駆け付けた星琉の跳び蹴りがクリーンヒット!
想定外の衝撃に剣を落とし、男は派手に転がった。
(奇襲は相手が動揺してる間が勝負!)
1人目が気絶するのをチラ見して、星琉は手近なところから順に蹴りや肘鉄を食らわす。
女神に「加護いらないステータス」とまで言われた星琉の攻撃に、武器を持っていた男たちは全員反撃する間も無く倒された。
「セイル君、…って、何この死屍累々?!」
置き去りにされた2人が駆け付けた頃には、星琉はイリアを助け起こしているところだった。
「どう見ても悪者だったから倒しちゃいました」
「倒しちゃいました…って…」
「気絶させただけだから早めに牢屋入れた方がいいです」
と提案しているところへ、警備兵たちが駆け付けた。
が…
「イリア様から離れろ!」
何故か怒鳴られ槍を向けられる星琉。
勘違いされてると察した直後…
「この方は敵ではありません!」
庇うようにイリアが抱きついてきた。
「ごめんなさい、せっかく助けに来てくれたのに敵と間違われるなんて」
キョトンとした顔の星琉に、謝るお姫様。
「敵はあっちだよ~ほれそこに全部倒れてる」
「気絶させただけって言ってたよ」
「早く牢屋にブチ込んじゃいなよ」
一部始終を見ていた人々が口々に言った。
「…し…失礼しました!」
警備兵たちは慌てて謝り、気絶している男たちを拘束すると引きずるようにして連れ去った。
重傷を負っていた護衛3人を治療したのは女神から最上級回復スキルを授かった渡辺&森田。
「まさか大会前に使う事になるとは…」
「…ってこっちに注目集まってますけどw」
通常は大神官か聖者か聖女しか持たないスキルをサラリーマンが使う姿は違和感しかない。
襲われた際に転んで挫いたイリアの足は、星琉が治療した。
「ありがとうございます。あの…お礼をしたいので一緒にお城へ来て頂けませんか?」
「そんな大した事してないですけど…」
遠慮する星琉だったが、お城と聞いて期待に満ちた目を向けてくる森田・冷静に見せながらも圧をかけてくる渡辺に負けた。
「…お城は見てみたいです。旅の思い出に」
「では、案内しますわ」
微笑む美少女に手を引かれるという役得。
外へ出るとおそらく王族用と思われる豪華な馬車が停まっていた。
完治した護衛たちは馬で付き添うらしい。
「礼儀作法も何も分からないので、先にお詫びしておきます」
などと言いつつそれなりに姫君が馬車に乗る際のエスコートが出来たのは、アーシアを舞台にしたアニメを見ていたから。
世の中何が役立つか分からない。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
