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勇者セイル編
第27話:花まつりとシエム王都
しおりを挟む豊穣祈願を終えた後、イリア・星琉・奏真の3人はシエムの王都を見学していた。
シエム王都では、聖女の祈りで満開となった花々と続く豊穣に感謝する花まつりが開催されている。
フルーツと花蜜が名産のシエム、屋台には美味しそうな果物や蜜を使った菓子が並んでいた。
人々は活気に満ちて明るく、店の前を通れば威勢よく呼びかけられる。
プルミエの国営魔道通信はこちらには流れていないらしく、私服に着替えた星琉に対する反応は普通だった。
イリアも年に1回来るだけで街の人々にそれほど顔を覚えられてはいないようで、3人は一般人のフリをして散策していた。
「セイル、ソーマ、これオススメよ」
イリアが推す屋台には、様々な果実を使った砂糖菓子があった。
買い物慣れした王女はその中から3つ選んで購入した。
「はい2人とも、口を開けて」
「えっ…」
言われて察した少年たちだが、赤面しつつも大人しく口を開けた。
そこに、ポイッと放り込まれる砂糖菓子。
「どお?美味しい?」
聞かれて、また赤面しつつモグモグしながらウンウンと頷く2人。
「…我が人生に悔い無し」
惚けた奏真が訳の分からない事を言い、星琉がおいおい大丈夫か~?と苦笑する。
クスッと笑うイリアはそうなる事を分かっててやった模様。
放り込まれた砂糖菓子は、飴状の甘い糖衣の中に酸味のある果実が入っていた。
日本の夜店でよくある、りんご飴やいちご飴などと似た系統の菓子だ。
「うん、美味い。これチビたち好きそうだな」
星琉は日本にいる弟妹たちや他の家族の土産に砂糖菓子を買ってストレージに収めた。
「お前ほんと家族思いだよなぁ」
惚けた状態から復活した奏真が言う。
「こっち来てから土産買うのがクセになっちゃって…」
あはは、と笑って星琉は答えた。
「観光地のジジババかよ」
奏真がツッコんだ。
別の屋台へ行くと、以前プルミエ王妃に御馳走になったフルーツタルトが並んでいた。
「このタルトは母様お気に入りなの。花まつり限定のものがオススメよ」
言いながら、今度はイリアが家族土産を買い始める。
木苺に似た赤い木の実が乗ったタルトで、春らしくピンクの花が添えられていた。
「そういや取り寄せてたね」
同じく限定品のタルトを家族に買いながら星琉が言った。
「奏真は土産買わなくていいのか?」
「いや~俺ん家ドケチでさ、買ってくと無駄遣いすんなって怒られんだよ」
ぼーっと見ていたところ星琉に聞かれた奏真は苦笑して答える。
(…っていうかもうあの家に帰る気無いしな)
心の中で彼は呟く。
食材や菓子などを差し入れに週1ペースで実家へ行く星琉とは対照的に、奏真はこちらに来てから1度も実家に顔を出していない。
出来の悪い息子に何も期待しない、厄介者扱いしていた両親や兄と今後交流する気は無かった。
…同じ頃…
シエム農地での襲撃者たちは、瀬田が作った異空間の牢獄に閉じ込められていた。
転移魔法を反転されて飛ばされた魔法使いの若者はすっかり怯え切っている。
「隷属紋か。古い手を使ってるな」
瀬田が呟くと、パチンと指を鳴らした。
ビクッとする魔法使いだが、すぐに何が起きたか悟った。
「………」
「隷属は解除した」
恐る恐るローブの襟元から衣服に隠れた肌を確認する若者に、瀬田が告げる。
「奴はもうお前を殺せない。安心して尋問に答えろ」
「…わ…分かりました…」
若者は観念して話し始めた。
「お前の名は?」
「バレルといいます」
瀬田に問われ、魔法使いの若者は名乗る。
隷属紋は人や動物を強制的に使役する魔法の一種で、命じられた事に反するとダメージを食らう。
バレルの胸元、心臓がある辺りに描き込まれたそれは、命令に逆らったり敵に情報を漏らしたりすれば心臓を停止させる仕掛けになっていた。
14年前に敵国がよく使うものだったので、瀬田はそれを解除する魔法を作っていた。
「バレル、お前に転移魔法を与えたのはフォンセという魔道士か?」
「はい」
問いに即答するバレル。
命を握られ強要されての事、転移魔法を使っていただけで攻撃には加わっていない若者に対して、瀬田は怒る気が失せていた。
「あの魔法は隷属紋に書き込まれたものなので、今はもう使えません」
バレルは言う。
「特定の命令実行型の紋か」
「はい。森にいた他の魔法使いも同じで、隷属紋に刻まれた極大魔法を使っていました」
聞くと、瀬田は牢の中で眠らせてある襲撃者たちに片手を向けた。
解除魔法が範囲発動し、全員の隷属紋が消滅した。
「つまりこうすれば戦力を落とすと同時に攻撃の意思も減るわけだな?」
「はい。弓矢を使っていた者も身体強化が使えなくなり、物理攻撃力も下がります」
「プルミエの空港やコロシアムで襲ってきた連中は?」
「あれは金で雇われただけのならず者たちです」
「そうか」
「あと、数人ほどですが、自ら従っている側近たちは戦力が高いようです」
賢者シロウは、捕虜から得た情報を参考に今後の策を練り始める。
「とりあえず、隷属紋に従わされただけで敵対心が無いなら、お前も他の者もフォンセを捕らえるまで匿っておいてやる」
「御慈悲に感謝します」
バレルが頭を下げた。
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