【本編完結】株式会社SETA異世界派遣部~ゲーム大会で優勝したら異世界に招待された~

BIRD

文字の大きさ
67 / 169
勇者セイル編

第66話:変身解除

しおりを挟む


「おかえり、セイル、ソーマ!」
プルミエ王城地下、瀬田の研究室に移動した途端、2人まとめてイリアに抱き締められた。
「た…ただいま」
「お…おぅ」
圧倒されつつ応える彼らは、まだ5~6歳児イル&レンの姿だ。
「見て母様、私の弟みたい」
2人のうち金髪の子供をヒョイッと抱き上げて、嬉しそうなイリアが振り返る。
その先には王妃アリアまで来ていた。
「ふふっ、髪と目の色が私と同じね」
イリアから子供を受け取り、アリアがニッコリ笑う。
「…お…王妃様、俺、セイルですよ…?」
「勿論知ってますよ」
困惑気味の彼を、我が子を可愛がるように抱き締めるアリア。
「子供の姿になった君たちを見たいと言って待ってたんだよ」
苦笑しながら瀬田が事情を説明した。
金髪の相方に金髪母娘が夢中になっている間に、ソロ~リと逃げようとする赤毛の子供。
「あ、ソーマが逃げる!」
「お~っと、逃がさないよ」
しかし相方の報告でアッサリ捕まる。
捕まえたのは星琉の影武者をしているシトリだ。
「セイルてめぇ…」
「1人で逃げようとするからだよ」
結局その後、子供の姿のまま王妃と王女に愛でられる2人。
ようやく解放してもらい、変身用の魔道カプセルに入った時には疲れ果てていた。

変身用魔道具・transform capsule

演劇用に開発された魔道具で、中に入った者の外見を変化させる。
肉体だけでなく、衣装まで設定出来て一緒に変化する。
ステータスは変わらないので、イル&レンは見た目は子供だが能力値は元の姿のままである。

「じゃ、お先」
まだ量産していない魔道具なので1台しかなく、とりあえず最初に入ったのはレン。
ようやく元の姿に戻れる、と安堵しつつカプセルに身体を横たえた。
身体が変化する間は一時的に眠らされ、意識が途切れる。
10秒もかからず、レンは奏真の姿に戻った。
衣装の設定は騎士団の制服なのだが、着崩して特攻服みたいになるのは奏真の仕様だ。

「その姿、久しぶりに見たなぁ」
奏真と入れ替わってカプセルに入ったのはイル。
同じように横たわり、一時的に意識を失う。
変化が終われば意識が戻るのだが………

………異変が、起きた。

カプセルの傍に、金髪の青年の幻影が現れる。
「誰だ?!」
カプセルの操作を担当していた瀬田が、驚いて声を上げた。
イリア、アリア、シトリも驚いて固まっている。
「な?! お、お前は…」
青年の姿に見覚えのある奏真も驚き、戸惑う。
幻影の青年は一同に謝るように頭を下げた後、スウッとカプセルの中に入り込んだ。
青白い燐光がカプセルを包み、中に入っている子供が変化してゆく。
そして、カバーが開いたカプセルの中で起き上がるのは、幻影の青年と同じ姿になった星琉。
「………?」
周囲が呆然としている様子に、キョトンとする。
「…セイル…よね…?」
イリアが確認してみた。
「うん」
自分の異変に気付いていないのか、普通に頷く星琉。
「お前、今どんな姿になってるか気付いてるか?」
「え?」
奏真に聞かれても何のことやら?という感じの星琉に、瀬田が壁際にあった姿見を持って来て見せた。
「………?!」
星琉、鏡を二度見。
そこに映っているのはイルと同じ金色の髪に、睫毛長めの青い瞳、白い肌の美青年。
着ている衣装、プルミエのものとは違う青い騎士服もあの幻影と同じだ。
「えぇぇっ?! なにこれ???」
本人も驚愕の変化だった。



3番目にカプセルに入るのは星琉の影武者シトリの予定だったが、その本物が想定外の事態で元の姿に戻れていないので、引き続き影武者をする事となった。
星琉と奏真は聖王国での出来事を話し、星琉のこの姿はどうやら前世であるらしいトワの初代勇者のものだと告げた。
魔道具の作者である瀬田の推測では、前世の姿が生体情報マトリクスに組み込まれていて、それが活性化したのだろう、との事だった。

「セイル、転生者+転移者だったのね」
イリアが興味深そうに星琉の頬を指でつつく。
帰ったら2人で庭園を散歩する予定だったが、今の姿では出来ないのでイリアが気休めに花を持って来てくれた。
「この花、彷徨う霊を癒やす力があるから。…早く元に戻れますように」
壁際の壺に切り花を生けて、イリアは祈った。
「…頼む成仏(?)してくれ…。これじゃプルミエで普通に生活出来ない…」
星琉も必死で祈る。
「お願い、星琉を元に戻して。僕が獣人の姿を忘れる前に…」
他人事ではないシトリも必死で祈る。
「頼む成仏してくれ。そんなキラキラな容姿を晒してたら女性のハートによろしくないぞ」
ちょっとズレたお祈りをする奏真もいた。
その背後では瀬田が魔道具のマナの状態を調べるのを、王妃アリアが眺めていた。

「役目を終えれば元の姿に戻れると思うよ?」
聞き覚えのある声がして、もしやと懐を見ると、青い子竜がヒョッコリ顔を出した。
「シアン!なんでこっちに?!」
「言ったでしょ?聖剣と繋がってるから辿って来れるって」
驚いて聞く星琉に、シアンは飄々とした様子で答える。
「そういやそうだっけ…ってか、役目って何?」
「まずはセイラに会ってよ。お兄ちゃんでしょ?」
シアンに言われ、星琉の脳裏に聖王国を出る前に見たセイラが浮かぶ。
微笑んで見送るその表情は、6歳児とは思えない大人びた憂いを含んでいた。
聖剣を抜いた時に現れた幻影に駆け寄って、触れられないと分かった時の悲しそうな顔も。
「………」
考えていると、イリアが壺に差した花を1つ抜き取り手渡してくる。
「はいこれ。トワの聖女にあげて」
「ありがとう。ちょっと行ってくる」
そして金色の髪の青年は、青い子竜と共に聖王国へ帰還した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

処理中です...