【完結】猫の惑星〜この星の人類は滅亡しました~

BIRD

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第4章:残されたモノ

第38話:二千年ぶりの里帰り

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 俺の実家は、首里の古い住宅地の中にあった。
 元は昔ながらの瓦家かーらやーだったけど、老朽化で雨漏りし始めたことから、俺が中学生の頃に建て替えをして鉄筋コンクリート建築の家に変わったんだ。
 俺が最後のコールドスリープに入った時点では築数年程度だった新しい家屋は、二千年を経て見たらすっかり古びてしまっていた。

「なんだかタイムスリップしたような気分だなぁ」

 朽ち果てたコンクリート家屋を見て、俺は呟いた。
 外壁は煤けて、あちこちヒビ割れている。
 玄関の鍵を持って来たけど、使わなくても入れるぞ。
 というか、鍵が使えない。
 鍵穴は白っぽい結晶みたいなものが詰まっている。
 海に囲まれた沖縄ではよくある塩害だ。
 窓ガラスがあちこち割れているのは台風のせいだな。
 家主が健在であれば暴風対策をした筈だけど、空き家になっていればそれも無かったろう。
 窓枠ごと落下してガラスが粉々になっているものもあった。

 記憶の中の建物は、築4~5年くらいだったのに。
 今では立派な廃墟だよ。

「崩れる危険があるから、防壁バリアを張って身を守りつつ中に入ろう」
「「「は~い!」」」

 モリオン博士の指示で、猫たちも俺もフォースで防壁を作って身体を覆う。
 これで身体に害のあるものを全て防げる。
 万が一建物が崩れても怪我をすることはないし、埃を吸い込んでむせることもない。


「ここは俺が18歳まで住んでいた部屋だよ」
「随分シンプルな部屋だね」
「片付いてる~」
「スッキリしてる~」
「ベッドに布団が無いよ」
「本棚に本が無いよ」
「というか、むしろ何も無いね」

 割れて落ちているガラスを全て庭の片隅へ転送すると、俺は猫たちを連れて久々に自分の部屋に入った。
 実家は平屋なので、どの部屋からも屋外へ出入りできる。
 持って来た鍵は役に立たないから、ガラス戸を開けて中に入ったよ。
 猫たちはガランとした部屋を見て、それぞれ感想を述べた。
 部屋の中には布団が片付けられたベッドと、何も置いていない本棚や勉強机だけが残っている。

「引っ越した後だったのかい?」
「うん。コールドスリープの被験者に採用された後、すぐに転居したからね」

 モリオン博士に問われて、俺は答えた。
 必要な物は全てクリストファの部屋に預けていたから、ここにはほとんど何も無い。
 穴の開いたガラス戸から吹き込んだ落ち葉や砂が増えている程度だ。

「こっちは居間。家族の共有スペースで、一緒にテレビを見たりする部屋だよ」
「立派なソファがあるね。布はちょっと色あせているけど」
「これが人間が作ったテレビか。興味深いな」

 生活用品が残る居間は、俺の部屋よりも過去を思い出させる物が多い。
 ソファにかけられた布は、色がくすんでいるけど生地はまだしっかりしていた。
 この布は母の趣味の機織りで作られた、首里ミンサーと呼ばれるもの。
 変化平織の一種で、緯糸を引き揃えて太く織る畝織と両面浮花織を組み合わせた織物だ。

 沖縄の織物の原材料は、絹糸を中心に木綿糸、麻糸、芭蕉糸など。
 主な染料は青色が琉球藍、黄色が福木、若草色が月橘という植物。
 ミンサー柄は、琉球王朝の時代から沖縄に伝わるもので、五つと四つの四角い模様が入る。
 この模様は「いつの世も末永く幸せに…」という意味が込められていて、大切な人への贈り物に使われたもの。
 母は家族の健康と幸せを願い、このソファカバーを織り上げたと言っていたよ。
 その願いのおかげか、俺は今も健康に過ごせている。

「この布は持って帰ろうかな」
「それがいいね。この布からタマに向けられた優しい気持ちが感じられるよ」

 俺が呟くと、隣にいたハチロウが答えた。
 普通の猫よりも感知能力に優れたハチロウには、布から何かが視えたのかもしれない。


 
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