【完結】猫の惑星〜この星の人類は滅亡しました～

第６章：秘められたもの

第５７話：人類滅亡後のアフリカ

　二千年前の俺は、海外旅行なんて一度も行ったことがない庶民だった。
　進学も就職も沖縄本島内で済ませたから、県外にも出たことがない。
　ルネたちの治療のために訪問した北海道が、人生初の県外行きだ。
　あのときは気温差を知らなくて、ウッカリ半袖で凍えそうになったな。
　未だ日本から出たことがなかった俺は、人類滅亡後に初めてアフリカ大陸を訪れた。

「え？！　まだ夜？！」

　まず驚いたのは「時差」というやつ。
　日本と東アフリカでは、約６時間の違いがあるそうだ。
　朝９時頃に日本を出たのに、ケニアに着いたら深夜だった。
　北海道へ遊びに行くようになって、日の出時刻の違いは経験していたけど。
　古代文明研究所がある沖縄と、王都がある北海道東部では、日の出時刻が３０分ほど違う。
　３０分差でも驚いたのに、６時間の差は困惑するレベルだよ。

　満天の星の下、二千年前は世界遺産に指定されていたナクル湖の畔に、ライオンの王が住まう城がある。
　フォースを使って切り出された岩が組まれた壁の薄茶色は、湖畔の木々の緑に合う。
　造りは頑丈そうで、要塞のようにも見える城だ。
　俺が転送されたワープゲートは、その城の門前にあった。

「ようこそ。タマ様」

　門番のライオンたちから声をかけられた。
　たてがみが無いからメスかな？
　突然現れた俺を見ても、門番たちは特に驚きもせず落ち着いている。

「すいません、夜明けの時刻が違うのを分かってなくて、夜遅くに来ちゃいました」
「大丈夫ですよ、ちょうど狩りの時刻で、みんな起きています」

　謝る俺に、門番たちは微笑むように目を細めて言った。
　そういえば、ライオンは夜行性だったっけ。

「タマ様に御馳走したくて、姫様も張り切って出かけていますよ」
「もしかして城内には誰もいなかったりしますか？」
「陛下がいらっしゃいます」
「どうぞ中へ……」

　門番がフォースで開けてくれた門をくぐろうとしたとき、誰かが瞬間移動テレポートしてくるフォースを感じた。
　誰だろう？　と思って振り返ると、現れたのは１頭のメスライオンだ。

「誰か！　誰か助けて下さい！」
「どうしたの？　その怪我は……」

　彼女は、あちこちに切り裂かれたような傷を負っている。
　慌てて駆け寄る門番たちと共に、俺も駆け寄った。

「誰か……」
「俺、治せます。ちょっと身体に触れますよ」

　息を乱して伏せるライオンは、すぐには言葉が出てこない様子。
　その背中を、俺は傷に触れないように撫でた。
　秒で傷は全て癒え、呼吸が整い、伏せていたライオンは急いで立ち上がった。

「タマ様ですね？！」
「は、はい」
「一緒に来て下さい！」
「えっ？！」

　立ち上がったと思ったらズイッと顔を近付けてくるライオン。
　勢いに圧され気味の俺は、状況説明無しで連れ去られた。
　慌てている様子のライオンが瞬間移動で向かう先に、何があるんだろうか？