【完結】冒険者学園の落ちこぼれ、異世界人に憑依されて無双する

BIRD

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第3章:追放から始まる翌月

第26話:娼館の女主人ユノ

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 スバルが生きた世界の記憶には「噂をすれば影がさす」という諺がある。
 噂話をしていると偶然に本人が現れたりするから気を付けろよ、みたいな意味らしい。
 モントル時計店でユピテルさんの話をした後、街で買い物を済ませて孤児院へ行ったらユピテルさん本人がいた。
 他にも5人、うち1人はミィファさんだ。
 孤児院の門前に立つミィファさんは、困り顔でユピテルさんたちの話を聞いている。

「うちの子に怪我をさせるなんて、一体どういう教育をしているの?」
「アルは理由もなく他人を傷つけるような子じゃありません。何かの間違いではないですか?」
「あんたがそんな風に擁護するからつけあがるんじゃないの?」
 
 ユピテルさんの隣には、不機嫌そうに声を荒らげる知らない女の人がいた。
 露出の多い真紅のドレスを着て、真っ赤な口紅をした女の人は、ミィファさんをキッと睨みつけている。

「息子たちに話を聞いたら、素行が悪くてパーティを追放されたのに、逆恨みして熱いお茶が入ったティーカップを投げつけたそうじゃないか」

 と言うユピテルさんは怒っているというよりは、呆れているという感じ。
 2人と一緒に、トレミー、スーフィー、ハインドもいた。

「そういう子はしっかり躾けないとロクな大人にならないわ。あんたが躾けられないなら私によこしなさい! しっかり躾けてやるから!」
「ユノさんの言う通りだよ。いっそ彼女に預けたらどうだい? アルキオネは綺麗な容姿をもつ子供だから、娼館の男娼として教育を受けたらいいんじゃないか?」

 ユピテルさんの言葉で、ドレスの女の人の名前が分かった。
 「娼館」って何かは、今まで知らなかったけど。
 スバルの知識が入ったおかげで、今は僕にも分かる。
 6歳の子供が教育を受けていい場所じゃないと思うよ。

(躾けるなら自分の子供からやれよ)

 ユノさんが言うことに、スバルは心の中でツッコミを入れた。
 ユノさんの子供は多分ハインドだろう。
 怪我をしたといっても鼻筋に少し痣ができただけだし。
 お茶は熱いといっても熱湯じゃないから水ぶくれはできていない。

「それにあの子は能力値が低すぎて、冒険者には向かないそうだよ。上級生の優しさに甘えて寄生するより、奴隷として生きた方が安全じゃないか?」

 親切なフリをして言うユピテルさん。
 彼は、トレミーたちに見られた基礎ステータスチェック表の内容を知っているみたいだ。
 スバルが入って上昇した能力値は知らないだろうけどね。

(こっちが黙ってるからって、嘘ばっかり言いやがって)

 心の中で、スバルが怒り始める。
 もう黙っていられなくなったらしい。
 スバルは早足で歩いていって、ユピテルさんたちとミィファさんの間に割り込んだ。

「片方の言うことだけ聞いて、真実を知ろうとしないのはどうかと思いますよ」
「アル?!」

 普段の僕とは違う、大人みたいな口調。
 ミィファさんがビックリしている。

「ミィファさん、これを持ってチビッコたちのところへ行って下さい」
「えっ? でも……」
「大丈夫、クレーマー対応はお任せ下さい」

スバルは買ってきた串焼きが入った紙袋をミィファさんに手渡し、建物の中へ入るように促す。
ミィファさんは困惑しつつもそれに従い、紙袋を持って子供たちのところへ向かった。

「なによ、生意気な子ね」

 ユノさんがこちらに視線を向けて睨んでくる。
 でも、スバルは怯まない。

「ハインドの怪我は、俺に投げつけたカップがスキルで反射されたからです。つまり正当防衛ってことですね。本当かどうか試してもいいですよ。石でも投げつければ分かるでしょう」

 スバルは静かに怒っている。
 怒り過ぎて一人称が「僕」から「俺」に変わっちゃったよ。

「そう。なら試してあげるわ!」

 ユノさんは目の端を吊り上げて怒鳴り、足元の小石を拾うとスバルめがけて力いっぱい投げつけた。
 スバルは予測しているから、既にスライムガードを展開している。
 小石は弾力のある防壁に反射され、ユノさんの鼻筋に激突した。

「か、母さん?!」

 鼻血を垂らしながら顔を片手で覆うユノさんを見て、ハインドがギョッとして叫ぶ。
 ユノさんはこちらを睨みながら、ポケットからハンカチを出して鼻を押さえた。

「能力値が低すぎて冒険者には向かない? ならそれも試したらどうですか?」
「だったら俺たちが試してやるよ!」
「よくも母さんを傷つけたな!」

 ユノさんの睨みを静かな威圧で返し、スバルは言う。
 挑発に乗って、トレミーがゲンコツを振り上げてダッシュした。
 ハインドもユノさんの敵討ちみたいに殴り掛かってくる。

「顔には傷をつけるなよ。価値が下がるからな」

 ユピテルさんはこんな場面でも、商品を見るような目でこちらを見ながら言う。
 かけだしダンジョンでスバルが風魔法を使ったのを見ているスーフィーだけは、警戒したのか襲ってこなかった。
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