211 / 390
2022 甘いハロウィン!
しおりを挟む
「カズくーん、お菓子ちょーだーイ!もしくは子作りしよウ!」
ある日の朝、朝食を何にしようかと考えているとフウリが突然押し掛けて来て、そんな爆弾発言を投下したので早速彼女の頭にアイアンクローを食らわせた。
「あだだだだだ⁉ 待って待って、頭割れちゃうカラ!」
「しょうもないことしか言えないそんな頭なんてもう砕いてもいいだろ。なんなんだ、朝から……」
えへへと悪びれもなく笑う。
「レトナちゃんたちから聞いたヨ、君の故郷では今日みたいな日をハロウィンっていうのだろウ?だからそれに乗っ取って『お菓子か悪戯か』って言ってみたんダ♪合ってたデショ?」
「うんまぁ、間違った方向に合ってたよ。せめて言葉をオブラートに包めよ」
「オブラー……ト?」
「オブラート」という単語がこの世界に存在しないのか、単に彼女が知らないだけなのは知らないが、フウリは「何それ?」と言いたげに首を傾げる。
「それで今作ってるのはお菓子かイ?」
「作ってるっていうかこれから作ろうとしてたっていうか……そもそも作ろうとしてたのはただの朝食なんだけどな。朝からお菓子なんて作るわけないだろ」
「そっか……あ、なら僕の分もお願いしてもいいかナ?」
図々しいフウリのお願いに「仕方ねえな」と言って多めに作ることにした。
俺が朝食を作り始めてもフウリは調理場
「にしても面白い行事があるんだネ?自分の種族とは別の何かの格好になって人を脅すなんてサ」
言い方よ。
「子供が大人に強請ってるだけなんだから、そんな重く捉えんな」
「でもその場にお菓子が無かったら悪戯されるんだよネ?カズ君がお菓子を用意できてないと知ったらルルアちゃんたちはどんな悪戯を考えるのカ……」
不穏なことを言うフウリ。いや、たしかにルルアならレトナを巻き込んで変なことを考えるに違いない。
もちろん俺がNOと答えれば強硬手段には出ないだろうけれど……
「……そうなる前にお菓子を作っておけばいいだけの話か」
そういう結論になり、朝食のついでにハロウィン用のお菓子を作ることにした。
そして先に朝食を作り終えたので、ついでにフウリに手伝ってもらいながら食卓へと運んだ。
「お菓子はもう作ったのかイ?」
「ああ、あとは冷やすだけだからな。粗熱も取ったし、お昼前頃には出来上がって渡せるだろうし、『アレ』ならルルアたちもきっと喜ぶだろうよ」
そう言うと「それは楽しみだナー」と貰う気満々のフウリ。一応知り合い全員分作ったから別にいいんだけどな。
――――
「ハロウィン……?それでこれを俺らに?」
「それでこの……なんです、これは……?」
朝食を終えてユースティックとミミィに作ったものを渡したのだが、聞き慣れない文化に困惑させてしまったようだった。
「まぁ、名前を言っても知らないだろうから、それは食べてからのお楽しみってことで帰ってから食べてくれ」
二人に渡した後にはギルドに行き……
「え、カズさんから贈り物ですか!? 彼女がいるのに!?」
「いや、そういうのじゃねえから」
イルから変な驚き方をされつつ、オーナーにも渡す。
「これは甘い物なのかしらぁ?」
「ああ、甘過ぎないくらいのちょうどいい甘味になってるはずだ」
「それは嬉しいわねぇ、私って甘い物には目がなくてぇ……本当に美味しかったら私もあなたのお嫁さんに立候補しようかしらぁ?……冗談よぉ♪」
なんて微妙にリアクションをし難いことを言いながらオーナーは満足そうな笑みを浮かべながら奥に消え、ついでにその場にいたラグたち六人にも渡した。
「俺らにもか?」
「ああ、一応知り合った縁、てことでな」
「「あ……兄貴!!」」
「誰がお前らの兄貴だよ」
餌付けされて懐かれてしまいそうになったのでさっさとその場から逃げた。
その後もお世話になった鍛冶屋のレンジ、アクセサリー屋のダート、奴隷商人のフォストなどにも直接会ってお菓子を渡した。
「いつもお世話になってる商店の人たちにも渡したし、あとは帰ってルルアたちに渡すので最後か」
どうせハロウィンという文化がここにはないのだから、今までにお世話になった者たちの分も作って渡したのだ。
ルルアが聞いたら「なんでルルアに最初から渡してくれないの」と文句を言っていじけそうだが、俺が作った「アレ」を食べてもらえれば機嫌も直るだろう。
そう信じて帰ると……
「おう、ほ帰り、カフ!」
屋敷に帰るとヤトが何かを頬張りながら出迎えてくれる。
その腕にはバケツのような大きさの容器が抱えられていた。
「あー……ヤト、まさかそれは?」
「ん?ああ、これか?小腹が減ったんで飯を探していたんだが、冷たくなる箱の中にコレがあったから気になって食べてみたら……」
そう言いながらバケツからまた一口分をすくって口に入れると、その姿と相まってまるで少女のような蕩けるような表情になるヤト。冷たくなる箱とはきっと冷蔵庫のことだろう。
「食べると舌の上で一瞬で溶けてしまう。だが口の中に残るこの甘さ……長年生きてきた私が今まで食べたことのない美味さだ!なんという食い物なんだ、これは?」
驚きつつも満足そうにしながら食べ続けるヤト。そんな彼の姿を見た俺は頭を抱えていた。
そしてさらにはタイミング悪くルルアとレトナがやってきて、美味そうに何かを食べている彼の姿を目撃してしまう。
「あー、ヤトが何か食べてる!」
「昼飯……じゃないよな?時間的にもまだ早いし……というかその食べてるものから何か甘い匂いしないか?」
何かを食べてるヤトにルルアたちが駆け寄り、その中身を確認する。
「……何これ?」
「全部同じ色……美味いのか?」
「おう、滅茶苦茶美味いぞ!」
一見美味そうには見えないらしく眉間にシワを寄せるルルアとレトナだが、ヤトが続けて「ソレ」を口に入れて美味しそうに食べる。
そんな彼の姿が相当なものだったのか、ルルアたちも羨ましそうに涎を垂らしてしまう。
「……ね?もしかしてヤトが食べてるものってお兄ちゃんが作った甘い食べ物?」
「……ああ、そうだ。そろそろ去年と同じハロウィンの時期になったから『プリン』っていうのを作ったんだが、どうやら渡す前に見つけて食われちまったみたいだ」
「それって俺たちの分はもうないってことか?」
大きな容器に入ったプリン、いわゆるバケツプリンを美味そうに食べてるヤトの姿を見ながら落胆するレトナ。まぁ、こうなるよな。
「ないってわけじゃない。ただその大きさのプリンは三つしか作ってないんだ。ヴェルネとお前ら二人の分でな……一応ヤトの分は別で用意してたんだが……そっちは小さいコップ程度の量しかないんだよ」
「おいおい、こんな美味いものをそんな少量で済ませろだなんて酷なことを言ってくれるじゃないか?」
ヤトはそう言いながら遠慮無くバケツプリンを無慈悲に食べ続けた。きっとルルアは悔しがってるだろう……と思っていたのだが、残念そうにして首を傾げているがそこまででもなさそうだった。
「んー……じゃあ、しょうがないからレトナと分けて食べようかな。レトナもそれでいい?」
「うん、いいぞ!ちょうど俺もそう思ってたところだ!ヴェル姉ちゃんの分を取るわけにもいかないしな。それにあんだけの量があるなら分けても十分だろ」
意外にも大人な対応をする二人についつい感心してしまう。たしかに一人で食べる分には多い量だが、それでも納得しないのが子供という印象だったが……誰かを気遣って遠慮できるとはな。
まぁ、だからってヤトが子供っぽいとか責めることはしないけれど。
そんなことを考えていると、前方の廊下からヴェルネがヤトと同じように食べ歩きながらやって来る。
「あら、そんなところで何してるの?」
「いや……っていうかヴェルネの食べてるそれって……?」
「これ?ちょっと甘い物が欲しくて冷蔵庫見たらコレがあったから貰ったわ。あんたが作ったやつ?結構美味しいのね♪」
そう言ってヤト以上に美味しそうな表情をするヴェルネ。
彼女を見たルルアが複雑そうな顔をする。
「一応ヴェルネの分はコイツが今食ってるくらいの大きなやつがあったんだけど……」
俺がヤトの頭に手を乗せて言うと、ヴェルネがヤトが持つバケツプリンに視線を向ける。
「ん~?……いや、たしかに美味しいけどそんな量食べられるわけないでしょ。あたしはコレで十分よ」
ヴェルネは嫌な顔をして本心からそう言っているようで、そのまま去ってしまった。
……これはつまり?
「バケツプリンが一つ余ったってことか。んじゃ、振り出しに戻ってルルアとレトナで一つずつ食べられるな」
「「…………」」
二人とも喜ぶかと思ったのだけれども、ルルアたちは互いに顔を合わせて何かが通じあったように頷く。
「ううん、やっぱりルルアたちは二人で一つでいいよ。でもその代わりしたいことがあるけど、いい?」
ルルアがそう言い、俺が答える前にレトナと二人で近寄って来て手招きする。そして俺が中腰になるとルルアたちはさらに近付き、それぞれが両耳に耳打ちしてきた。
「「……トリックオアトリート」」
――チュッ
ハロウィン特有の言葉を囁くと二人が同時に頬へキスされる。
ルルアは「えへへ」と無邪気に笑ってレトナは顔を真っ赤にして離れ、逃げるように廊下の向こうへと走って行ってしまった。
俺は固まって彼女たちの背中を見送り、少しして溜め息を零して立ち上がる。彼女たちの予想斜め上の行動になんだかやられた感を感じるのだった。
「ん?一つ余ったのか?だったらそれも私が貰っていいか?」
「ダメだ。お前が大食いの竜だって言っても流石に食い過ぎだ。まだ渡す相手がいるからそいつにやることにするよ」
今のバケツプリンを食べ切ってもいない癖に食い意地の張ったことを言い始めるヤトにそう言ってやると、若干不服そうにはしつつも渋々了解して食べ歩きを始めてどこかへと行く。
……行儀が悪いからせめて座って食ってほしいんだけどな。
それはそれとして問題が解決し、結果として余ったバケツプリンを残りもう一人に差し上げることにした。
ということで椅子に座ったフウリの目の前に彼女の頭と同じぐらいの量をドンッと置いた。
「…………エ?」
しばらく固まった後、俺の顔色を窺うように見てくる。
「えっと……トリックオアトリート?」
「ある意味悪戯」という意味でそう言うと、俺が全部を説明せずとも心を読んで悟ってくれたらしいフウリが次に一緒に机を囲んでプリンを分け合って食べてるルルアたちに視線を向ける。
互いに「あーん♪」と恋人のように食べさせ合ってるルルアたちを羨ましそうに見ながらも再び俺に視線を向けてくる。
「……アウタルも呼んでイイ?」
彼女もまた自分一人では多過ぎると感じたらしい彼女の言葉に頷く。
……今度またお菓子作る機会があったらヤト以外は少なめにするか。
ある日の朝、朝食を何にしようかと考えているとフウリが突然押し掛けて来て、そんな爆弾発言を投下したので早速彼女の頭にアイアンクローを食らわせた。
「あだだだだだ⁉ 待って待って、頭割れちゃうカラ!」
「しょうもないことしか言えないそんな頭なんてもう砕いてもいいだろ。なんなんだ、朝から……」
えへへと悪びれもなく笑う。
「レトナちゃんたちから聞いたヨ、君の故郷では今日みたいな日をハロウィンっていうのだろウ?だからそれに乗っ取って『お菓子か悪戯か』って言ってみたんダ♪合ってたデショ?」
「うんまぁ、間違った方向に合ってたよ。せめて言葉をオブラートに包めよ」
「オブラー……ト?」
「オブラート」という単語がこの世界に存在しないのか、単に彼女が知らないだけなのは知らないが、フウリは「何それ?」と言いたげに首を傾げる。
「それで今作ってるのはお菓子かイ?」
「作ってるっていうかこれから作ろうとしてたっていうか……そもそも作ろうとしてたのはただの朝食なんだけどな。朝からお菓子なんて作るわけないだろ」
「そっか……あ、なら僕の分もお願いしてもいいかナ?」
図々しいフウリのお願いに「仕方ねえな」と言って多めに作ることにした。
俺が朝食を作り始めてもフウリは調理場
「にしても面白い行事があるんだネ?自分の種族とは別の何かの格好になって人を脅すなんてサ」
言い方よ。
「子供が大人に強請ってるだけなんだから、そんな重く捉えんな」
「でもその場にお菓子が無かったら悪戯されるんだよネ?カズ君がお菓子を用意できてないと知ったらルルアちゃんたちはどんな悪戯を考えるのカ……」
不穏なことを言うフウリ。いや、たしかにルルアならレトナを巻き込んで変なことを考えるに違いない。
もちろん俺がNOと答えれば強硬手段には出ないだろうけれど……
「……そうなる前にお菓子を作っておけばいいだけの話か」
そういう結論になり、朝食のついでにハロウィン用のお菓子を作ることにした。
そして先に朝食を作り終えたので、ついでにフウリに手伝ってもらいながら食卓へと運んだ。
「お菓子はもう作ったのかイ?」
「ああ、あとは冷やすだけだからな。粗熱も取ったし、お昼前頃には出来上がって渡せるだろうし、『アレ』ならルルアたちもきっと喜ぶだろうよ」
そう言うと「それは楽しみだナー」と貰う気満々のフウリ。一応知り合い全員分作ったから別にいいんだけどな。
――――
「ハロウィン……?それでこれを俺らに?」
「それでこの……なんです、これは……?」
朝食を終えてユースティックとミミィに作ったものを渡したのだが、聞き慣れない文化に困惑させてしまったようだった。
「まぁ、名前を言っても知らないだろうから、それは食べてからのお楽しみってことで帰ってから食べてくれ」
二人に渡した後にはギルドに行き……
「え、カズさんから贈り物ですか!? 彼女がいるのに!?」
「いや、そういうのじゃねえから」
イルから変な驚き方をされつつ、オーナーにも渡す。
「これは甘い物なのかしらぁ?」
「ああ、甘過ぎないくらいのちょうどいい甘味になってるはずだ」
「それは嬉しいわねぇ、私って甘い物には目がなくてぇ……本当に美味しかったら私もあなたのお嫁さんに立候補しようかしらぁ?……冗談よぉ♪」
なんて微妙にリアクションをし難いことを言いながらオーナーは満足そうな笑みを浮かべながら奥に消え、ついでにその場にいたラグたち六人にも渡した。
「俺らにもか?」
「ああ、一応知り合った縁、てことでな」
「「あ……兄貴!!」」
「誰がお前らの兄貴だよ」
餌付けされて懐かれてしまいそうになったのでさっさとその場から逃げた。
その後もお世話になった鍛冶屋のレンジ、アクセサリー屋のダート、奴隷商人のフォストなどにも直接会ってお菓子を渡した。
「いつもお世話になってる商店の人たちにも渡したし、あとは帰ってルルアたちに渡すので最後か」
どうせハロウィンという文化がここにはないのだから、今までにお世話になった者たちの分も作って渡したのだ。
ルルアが聞いたら「なんでルルアに最初から渡してくれないの」と文句を言っていじけそうだが、俺が作った「アレ」を食べてもらえれば機嫌も直るだろう。
そう信じて帰ると……
「おう、ほ帰り、カフ!」
屋敷に帰るとヤトが何かを頬張りながら出迎えてくれる。
その腕にはバケツのような大きさの容器が抱えられていた。
「あー……ヤト、まさかそれは?」
「ん?ああ、これか?小腹が減ったんで飯を探していたんだが、冷たくなる箱の中にコレがあったから気になって食べてみたら……」
そう言いながらバケツからまた一口分をすくって口に入れると、その姿と相まってまるで少女のような蕩けるような表情になるヤト。冷たくなる箱とはきっと冷蔵庫のことだろう。
「食べると舌の上で一瞬で溶けてしまう。だが口の中に残るこの甘さ……長年生きてきた私が今まで食べたことのない美味さだ!なんという食い物なんだ、これは?」
驚きつつも満足そうにしながら食べ続けるヤト。そんな彼の姿を見た俺は頭を抱えていた。
そしてさらにはタイミング悪くルルアとレトナがやってきて、美味そうに何かを食べている彼の姿を目撃してしまう。
「あー、ヤトが何か食べてる!」
「昼飯……じゃないよな?時間的にもまだ早いし……というかその食べてるものから何か甘い匂いしないか?」
何かを食べてるヤトにルルアたちが駆け寄り、その中身を確認する。
「……何これ?」
「全部同じ色……美味いのか?」
「おう、滅茶苦茶美味いぞ!」
一見美味そうには見えないらしく眉間にシワを寄せるルルアとレトナだが、ヤトが続けて「ソレ」を口に入れて美味しそうに食べる。
そんな彼の姿が相当なものだったのか、ルルアたちも羨ましそうに涎を垂らしてしまう。
「……ね?もしかしてヤトが食べてるものってお兄ちゃんが作った甘い食べ物?」
「……ああ、そうだ。そろそろ去年と同じハロウィンの時期になったから『プリン』っていうのを作ったんだが、どうやら渡す前に見つけて食われちまったみたいだ」
「それって俺たちの分はもうないってことか?」
大きな容器に入ったプリン、いわゆるバケツプリンを美味そうに食べてるヤトの姿を見ながら落胆するレトナ。まぁ、こうなるよな。
「ないってわけじゃない。ただその大きさのプリンは三つしか作ってないんだ。ヴェルネとお前ら二人の分でな……一応ヤトの分は別で用意してたんだが……そっちは小さいコップ程度の量しかないんだよ」
「おいおい、こんな美味いものをそんな少量で済ませろだなんて酷なことを言ってくれるじゃないか?」
ヤトはそう言いながら遠慮無くバケツプリンを無慈悲に食べ続けた。きっとルルアは悔しがってるだろう……と思っていたのだが、残念そうにして首を傾げているがそこまででもなさそうだった。
「んー……じゃあ、しょうがないからレトナと分けて食べようかな。レトナもそれでいい?」
「うん、いいぞ!ちょうど俺もそう思ってたところだ!ヴェル姉ちゃんの分を取るわけにもいかないしな。それにあんだけの量があるなら分けても十分だろ」
意外にも大人な対応をする二人についつい感心してしまう。たしかに一人で食べる分には多い量だが、それでも納得しないのが子供という印象だったが……誰かを気遣って遠慮できるとはな。
まぁ、だからってヤトが子供っぽいとか責めることはしないけれど。
そんなことを考えていると、前方の廊下からヴェルネがヤトと同じように食べ歩きながらやって来る。
「あら、そんなところで何してるの?」
「いや……っていうかヴェルネの食べてるそれって……?」
「これ?ちょっと甘い物が欲しくて冷蔵庫見たらコレがあったから貰ったわ。あんたが作ったやつ?結構美味しいのね♪」
そう言ってヤト以上に美味しそうな表情をするヴェルネ。
彼女を見たルルアが複雑そうな顔をする。
「一応ヴェルネの分はコイツが今食ってるくらいの大きなやつがあったんだけど……」
俺がヤトの頭に手を乗せて言うと、ヴェルネがヤトが持つバケツプリンに視線を向ける。
「ん~?……いや、たしかに美味しいけどそんな量食べられるわけないでしょ。あたしはコレで十分よ」
ヴェルネは嫌な顔をして本心からそう言っているようで、そのまま去ってしまった。
……これはつまり?
「バケツプリンが一つ余ったってことか。んじゃ、振り出しに戻ってルルアとレトナで一つずつ食べられるな」
「「…………」」
二人とも喜ぶかと思ったのだけれども、ルルアたちは互いに顔を合わせて何かが通じあったように頷く。
「ううん、やっぱりルルアたちは二人で一つでいいよ。でもその代わりしたいことがあるけど、いい?」
ルルアがそう言い、俺が答える前にレトナと二人で近寄って来て手招きする。そして俺が中腰になるとルルアたちはさらに近付き、それぞれが両耳に耳打ちしてきた。
「「……トリックオアトリート」」
――チュッ
ハロウィン特有の言葉を囁くと二人が同時に頬へキスされる。
ルルアは「えへへ」と無邪気に笑ってレトナは顔を真っ赤にして離れ、逃げるように廊下の向こうへと走って行ってしまった。
俺は固まって彼女たちの背中を見送り、少しして溜め息を零して立ち上がる。彼女たちの予想斜め上の行動になんだかやられた感を感じるのだった。
「ん?一つ余ったのか?だったらそれも私が貰っていいか?」
「ダメだ。お前が大食いの竜だって言っても流石に食い過ぎだ。まだ渡す相手がいるからそいつにやることにするよ」
今のバケツプリンを食べ切ってもいない癖に食い意地の張ったことを言い始めるヤトにそう言ってやると、若干不服そうにはしつつも渋々了解して食べ歩きを始めてどこかへと行く。
……行儀が悪いからせめて座って食ってほしいんだけどな。
それはそれとして問題が解決し、結果として余ったバケツプリンを残りもう一人に差し上げることにした。
ということで椅子に座ったフウリの目の前に彼女の頭と同じぐらいの量をドンッと置いた。
「…………エ?」
しばらく固まった後、俺の顔色を窺うように見てくる。
「えっと……トリックオアトリート?」
「ある意味悪戯」という意味でそう言うと、俺が全部を説明せずとも心を読んで悟ってくれたらしいフウリが次に一緒に机を囲んでプリンを分け合って食べてるルルアたちに視線を向ける。
互いに「あーん♪」と恋人のように食べさせ合ってるルルアたちを羨ましそうに見ながらも再び俺に視線を向けてくる。
「……アウタルも呼んでイイ?」
彼女もまた自分一人では多過ぎると感じたらしい彼女の言葉に頷く。
……今度またお菓子作る機会があったらヤト以外は少なめにするか。
1
あなたにおすすめの小説
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
異世界配信中。幼馴染みに捨てられた俺に、神々(視聴者)がコメントしてくるんだが。
葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。
だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。
突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。
これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
勘違いで召喚して来たこの駄女神が強引すぎる 〜ふざけたチートスキルで女神をボコしながら冒険します〜
エレン
ファンタジー
私は水無月依蓮《みなづきえれん》、どこにでもいる普通の女子高生だ。
平穏な生活を送っていた私は、ある日アルテナと名乗る女神に召喚されてしまう。
厨二臭いその女神が言うには、有給休暇で異世界冒険したいから、従者としてついて来なさいとの事。
うん、なんだその理由は。
異世界なんて興味ない、とっとと私を元の場所に返せ。
女神を殴ったり踏みつけたりしてやっと返してもらえるかと思いきや。
え? 勝手に人間を異世界に呼ぶのは天界の掟で禁止? バレたら私も消される?
ふざけるなー!!!!
そんなこんなで始まる私とポンコツ女神アルテナのドタバタ異世界冒険。
女神が貴族をハゲさせたり、「器用貧乏・改」と言うふざけたスキルを習得したり、ゴブリンの棲家に突撃する羽目になったり、手に入れた家が即崩壊したり、色々起きるけど全てを乗り切って見せる。
全ては元の世界に帰るために!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる