最強超人は異世界にてスマホを使う

萩場ぬし

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見覚えのある少年

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 ヴェルネたちが見た黒い塊は確実にリンドヴルグへと向かっており、ピンポイントで門番たちがいる目の前に落下した。

「な、なんだ⁉」

「気持ち悪いドロドロだが魔物か⁉」

 警戒心を高めて武器を構える門番。
 すると彼らの背後からヴェルネたちが急いで駆け寄ってきた。

「ヴェルネ様⁉」

「全く、一日に二回もこんな気持ちで門のとこに来ることになるとは思わなかったわ!」

 若干自棄な言い方をしながら戦う気でいたヴェルネたち。
 しかし地面で揺れるスライムのような黒い塊は徐々に消えていき、その中からは――

「「「え?」」」

 その場にいた全員が驚きの声を漏らす。
 それもそうだろう、スライムのような黒い塊から出てきたのは幼い人間の少年だったのだから。

「あのドロドロの中から子供が……?」

「しかもソイツ、人間じゃないか?」

 突然現れた黒髪の少年に困惑する魔族たち。
 その中でヴェルネが呆然とした様子で彼を見つめ、そして彼にゆっくり歩み寄る。

「ヴェルネ様、例え相手が幼子でも用心を――」

「……カズ?」

「――へ?」

 ヴェルネが少年のことを「カズ」と呼んだことにジークが間の抜けた声を出し、門番やマヤルも唖然とした表情で彼女たちを見る。

「その幼い少年がカズ様……?」

「ヴェルネ様、疲労でついに頭が……」

「違うわよ!……ただ雰囲気が似てると思っただけ」

 ヴェルネがそう言って佇む彼に視線を送ると、ジークたちも「たしかに」と納得する。

「ただの少年にしては同じ年代と比べてずいぶん落ち着いて見えますね。それに強者としての風格も幼いながらに見せている……カズ様を幼くしたら『こうなる』の代表みたいな少年ですね」

「ねぇねぇ、君はなんて名前なの?」

 ジークや他の魔族たちが観察していると、マヤルが無遠慮に少年へ近寄って質問する。しかし少年は特別な反応を示すわけでもなく、ジト目でマヤルを睨み続けた。

「え、えっと……?」

「名前……僕が言わなくてもさっきそっちの人が言ったじゃん」

 反応の薄さに戸惑うマヤルだったが、少年がそう言ってヴェルネに視線を向けた。

「……え?」

「和だよ、僕は。柏木 和。お姉さんたちこそ何なの、その姿?『こすぷれ』してるオタクってやつ?」

 自らをカズ……「柏木 和」なのだと名乗る少年にその場にいた全員が声を上げて驚くのだった。

――――
―――
――


「……え、お兄ちゃんが子供になった?」

 猫族の里で待機していたルルアがスマホでヴェルネと通話し、簡単な経緯を知った。
 ルルアもまた感情の暴走が落ち着いたばかりで、今すぐ飛んでいきたいという気持ちを抑えて電話相手のヴェルネと話をする。

「――わかった。こっちにはヤトもいるし、いざとなった時でも大丈夫だと思う……うん、じゃあね」

 会話を終えて慣れた手付きで電話を切るルルア。

「なんだって?さっき変な言葉が聞こえた気がするんだけど……」

「……お兄ちゃんが子供になってヴェルネお姉様がいるリンドヴルグにいるんだって」

「は?なんで――」

「そんなのわかるわけないよ!」

 現状がわからない苛立ちを声に出して表すルルアに、言葉を遮られたジルも困った様子で目を逸らす。
 その直後にルルアはハッとする。

「……まだ感情が不安定っぽい」

「お前の場合はアニキに対してはいつも暴走してるだろ……」

「いや、ルルアが不安定なのはそれだけじゃないだろう?」

 二人の会話にヤトが肩をゴキゴキと鳴らして割り込む。

「それだけじゃない?」

「私の中でカズとのパスが切れた。恐らくルルアとの繋がりも切れたから不安なのだろう」

「……それもある。でもヴェルネお姉様の話を聞いた限りだとお兄ちゃん、ルルアたちのこと何も覚えてないみたいなの」

 電話で話した内容の一部を伝えるとジルが「マジか」と驚く。

「容姿と記憶の退化か。どうやら向こうも厄介なことになってるらしいな」

「あの……」

 ヤトも不安に感じていると魔狼族の女性が一人話しかけてきた。

「今の話を聞いてしまったのですけれど……もしかして今話していた人間って……」

「あぁ……すまない、恐らくあんたの予想は当たってる。どうやらそっちの問題を解決できる状態じゃないらしい」

「そう、ですか……」

 あからさまに落ち込む魔狼族の女性。そんな彼女の肩をミウが掴む

「大丈夫ですよ。彼はもう私たちを救ってくださいました。原因を取り除くことができないのならあの場所に戻らず他の場所で過ごせばいいだけのことですから」

 そう言って優しく微笑んだ後、その笑みをジルへ向ける。

「またその人の元へ戻るんでしょう?」

「うん、まだ強くなりたいから」

「そう……それと一つ聞いていいかしら?」

 ミウがジルに歩み寄り、彼の肩を強く掴んだ。

「え……」

「あなたがさっき使った『獣化』、あの人間の人から教えてもらったわけじゃないわよね?どこで習ったの?」

 ――圧。
 声色や笑みは優しいが、彼女からは有無を言わさない圧を発する彼女にジルはたじろいだ。

「じゅ、獣化……?それは……」

 ジルはその圧に耐え切れず視線をヤトに向ける。
 するとミウもその視線に気付いて彼の方を向き、彼に歩み寄る。

「なぜ、私の子にそんな危ないことを教えたの……?」

「『なぜ』?強さを求める獣人がそれをわざわざ問うか?」

 母親としてのミウの圧は相当なものだったが、ヤトは軽く汗を掻きながらもそう返す。

「獣化は危険な技なので獣人全体で成人を超えるまでは教えない決まりになっているんですよ⁉ それをまだ幼いこんな子に教えるなんて……」

「私が大丈夫だと判断したから教えただけだ。コイツには体と精神を鍛える優秀な師がいることだしな。それにさっきもその目で見ただろう、ジルが獣化を使って動いていたのを」

「そんなの……結果的に問題なかっただけで……」

「結果論?それで結構。理論ってのは『事前に安心して行うための保険』というだけで絶対じゃない。わかってるだろう?たとえ年齢が成人に達していたとしても無事では済んでいない連中だっていることを」

 ミウとの問答の最中にヤトは逃げるようにその場から離れる。
 しかし室内から外に出たところでヤトは全身を竜の姿になり、その頭を下げて室内にいるミウを見た。
 彼の竜化した姿に目撃者全員が驚き、ジルとルルア以外の室内にいる猫族と魔狼族が泣き叫んだり過呼吸になってしまっていた。
 ただそこにいるだけで圧力のある竜が目の前にいる光景に、母親として強気に出ていたミウも流石に全身を震わせる。

「何か根拠が欲しいというのなら『竜である私が認めた』というのでは弱いか?」

「い、いいえ……」

 ミウの弱々しい返答に満足するとヤトはニッコリと笑い、元の人の姿に戻る。

「うむ、人の姿になったせいか竜の姿でも共通言語を話せるようになったのは楽でいいな!」

 気を良くしたヤトはガッハッハと笑い、彼の本当の姿が竜だと知った者たちは物珍しそうに遠目で眺める。
 その後、猫族と魔狼族の中でヤトを神として拝み始めるのはまた別の話である。
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